ワートリの世界で天翼種   作:ふわりと漂う猫の香り

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1話目

〇月〇日

 

 脳の中にメモ機能ってのがあるのに気が付いて、暇なので日記として有効活用してみようと思う。

 

 まず俺の名前だが、名前はまだない。本当は前の…別の名前があったはずなんだけど、諸事情あって今はそれを失っている。なので俺のことを語るにはまず今に至るまでの過程を説明しなければならないだろう。

 

 第一に、俺は転生者だ。普通の日本で生まれて普通の会社員として生きていたら、脳卒中で死んだ。頭痛からのばったりでかなり急だった。多分ブラック企業勤めで働きづくめだったのが大きかったんだろうが…俺はもう二度と働きたくない。本当に切実に。

 

 で、死んだ後、なんと俺は目を覚ました。すわ地獄かなにかかと思っていると、別にそんなことは一つもなかった。そう、俺は転生したのだ。このトリガーとトリオンで全てが回る訳の分からない世界に。

 

 そして転生先はとある研究施設で作られようとしていた、人造人間擬き…ここではトリオン兵というらしいが…だったのだ。名前は『フリューゲルN1』。なんでも人間がトリオンと呼ばれるエネルギーを生成する時に使うトリオン器官を、引き抜いて集めてコネコネして合成して生み出されたらしい。なにそれこわい。

 

 さて、俺の機能だが、まず人型であり意思疎通ができるということ。そして疑似トリオン器官で人間と同じくトリオンの生成が可能で、加えて肉体が老いないトリオン体なので理論上は半永久的な存在だ。さらに、疑似トリオン回路でトリオンを放出、背中から飛び出す一対の羽と頭にある幾何学模様的な光輪により直接操作が可能。戦闘能力において、通常ノーマルトリガー…まあ、この世界の兵器の一つ…を大きく上回る。

 

 加えてちょっとやそっとの傷は即座に回復したり、その気になれば辺り一帯を消し飛ばすような奥の手もあったりと兵器としてはかなりの完成度を持っているものと思われる。

 

 問題は人格プログラムをダウンロードする際俺という人格が物凄く邪魔だったことと、セーフティー機能が掛けられていて一切身動きが取れないこと、つい数か月前に俺を製造していた研究機関が国もろとも消し飛んだ事くらいだろうか。

 

 幸い俺がいた場所は被害を免れたが、地下のはずだったこの場所から、崩れ去り廃墟と化した大都市を一望できる時点で割とヤバいと思う。詰みって奴だ。

 

 

 どんどんと崩れて消え去っていく星。マザートリガーとか言う星の核を失ったこの世界はそろそろ滅びる。それは、ここにいる俺も同じことだ。

 

 まさか転生してすぐ、転生先の異世界が滅びるところを見ることになるとは予想だにできなかった。二度目の死とはいえ壮大すぎだ。折角転生したのにこれじゃあんまりすぎるだろ神様…なんて文句たれても、何がどう変わる訳もない。

 

 せめてこの終わる世界を最後まで見届けて、日記を書き連ねていくことにする。それがせめてもの俺の生きる意味なのだと思うのだ。

 

 

 

 

〇月d日

 

 なんか出れたわ。

 

 崩れてきた天井がセーフティー機能にぶち当たって破壊して、俺は晴れて自由の身になれた。初めて地面を歩いたり宙に浮いたりしてテンション爆上がりなう。

 

 ってそんな事してる暇あるなら何とかこの世界から脱出する算段を付けなければ。昨日はこの終わる世界を最後まで云々とか殊勝な事書いてしまってたけど、もし脱出できるなら遠慮なく脱出するつもりである。俺は研究所で使えそうなものがないか探しに出ることにした。

 

 基地の内部は本当に酷い有様だ。道がふさがっていたりそもそも原形をとどめていなかったり。これでは脱出の手掛かりどころか何も得るものがなさそうだと半ば諦観に沈もうとしていたら、ふと生命体の反応を探知して立ち止まる。

 

 とりあえず行ってみるか。もう使う人もいないだろうから壁や地面をぶち抜きながら反応のあった場所へと向かう。すると、そこには巨大な通路の様な場所と、亀みたいな重厚な船、そして一人の人間がいた。船を操作しようとしていたようで外側のパネルと顔を合わせていたソイツは、俺が近づいて来たのを見て目を見開いた。

 

 戦闘になった。ワケワカメ。「トリガーオン!」とか言って叫んだかと思うと、トリオン体になって戦いを挑んできた。手術で使う最先端機械の様な機械の腕を何本も背中から生やして、俺に向かって撃ったり切ったりの大盤振る舞い。

 

 面倒だったのでそのまま突っ込んで首をひっつかんで地面に叩きつけてやったら動かなくなり、トリオン体から生身に戻っていた。よわっ。

 

 一先ず尋問してみることにした。頬をつつきまくったり鼻にトリオンで作った洗濯ばさみをはさんだりして遊んでいると、簡単に情報を吐いてくれた。なんでも彼女は日本からこの世界に攫われた日本人で、ここでは工兵として飼育されていたらしい。それがちょうどよく世界が滅んだので、この世界から脱出するために色々と試していた所だったのだと。

 

 日本あるのかよ。ここに来て衝撃の事実である。しかし、そうであるのならば俺は是非日本に行きたい。ジャンクフード、寿司、ゲーム、アニメ。前世では好きだったのに碌に楽しめなかったものたちを楽しめるまたとないチャンスだ。

 

 とりあえず少女をひっつかんで脱出の方法を教えてもらった。どうやらこの巨大な船がその脱出の手段らしい。近界を行き来できる船なのだとかなんとか。ただし動かす為のトリオンが足りないのでうんともすんともしないのだと。

 

 それなら仕方がない。ここは俺も肌を脱ぐことにしよう。そういう訳でトリオンを提供してやると、彼女は心底驚きながらもこれなら何とか行けそうだと喜色を浮かべた。しかしすぐに肩を落とす。話を聞くに、なんとトリオンだけじゃなくそもそも発射装置も壊れているのだという。

 

 何とかできないかと俺に言ってきたので、しょうがないにゃあと二人で船に乗り込み、発射装置の代わりに奥の手として開発された『天撃』で発射することにした。もちろん発射装置として機能するように指向性を持たせて放つ。これなら何とかなるっしょ。

 

 そういう訳で、はい『天撃』。すると一瞬で俺と少女を乗せた船は闇の中へとワープし、加えて少女の操縦スキルで近くの近界へと一直線に向かった。

 

 代償として幼女になったり規模がデカすぎたりして何かと不便な奥の手だったが、利用方法があって嬉しい限りだ。少女も大はしゃぎで俺に抱き着いてきたり抱き上げたりしてくる。はははやめいこら。

 

 とりあえず目標は日本だ。サブカルチャーとジャンクフードを目指して、俺と少女の旅は始まったのだった。 




・アヴァントヘイム
 人類賛歌がヤベー国。一言で言うとディストピア。トリオン兵は全て人型。兵器を作ろうとして勝手に自爆したりしてた。
・フリューゲル
 主人公。作られたのは一体だけ。自分の事転生者だと思ってるけど、あれれ何かがおかしいぞ~?この人格の誕生は製作者も意図していなかった。口調はですますで丁寧、自分のことは私と呼ぶ。言動が中身と違うのは大体中途半端に入れられた戦闘用人格プログラムの所為。機能的には本来の天翼種の何十倍も低い。仕方ないね。
・アラクネ
 丈夫な腕を何本も持つ工兵用トリガー。切断、接合、重い物を持ち上げる、戦闘などなど様々な用途で使用可能。規模のデカい十徳ナイフ。
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