「自分はただの同盟市民でありたかったが、叶わぬ願いである」(あるデルメル政治家の呟きより)
夜になってもデルメルの都は眠らない。本日の業務を終えた部門のオリュンポス・カンパニーの社員たちが、居酒屋で酒をひっかけていくのは毎日のようによく見る光景である。そんな光景を見ながら、フードを被って顔を隠した男は、大変複雑な感情を抱きながら目的地に向かって歩いた。
目的地はとある居酒屋である。デルメルに存在するこうした飲食店の半分程度はオリュンポス・カンパニーの飲食部門によって経営されているものが多いが、その店は少数派に属する個人経営の名店である。その店の扉を男は開いた。
「いらっしゃいませ。何名様でしょう?」
「すいません。友人が先に来ているんと思うんですが。アンダーソンっていう人の」
「ああ、アンダーソンさんの。それなら二階の三番の部屋になります」
店主に告げられた番号の部屋へと足を運ぶと、そこでは既にビールジョッキを片手に飲み始めている男がいた。男は入室した相手の顔を確認すると、喜色に満ちた笑みを浮かべた。
「おお、待ったぞアーン」
そう言われてフォルカーは乱暴にフードを外すと、疲れたような声で言った。
「こっちこそ遅くなってすまないな、ガーフ」
先に待っていた男は内政派幹部のガフパリア・アラヴァノスであり、やってきた男は協商派幹部のアーノルド・フォルカーである。この二人は幼馴染であり、同じ学校で学び、同時期に協商平和聯合党に所属した親友であり、互いに愛称で呼び合う仲である。対立する二大派閥の大幹部になってからも、こうした交友は継続していた。
「いや、なに。同盟弁務官アーノルド・フォルカー殿ともなれば、故国に帰っても色々と仕事があるだろうかな。仕方がない」
「そういうお前だって、人的資源担当国務委員として、人的資源局の長を務める閣僚だろうが。あそこの仕事も暇とは到底思えないが」
「だとしても俺は基本的に国内にいるから、緊急案件でも来ない限り、ある程度は慣れた仕事が多くなる。一方同盟弁務官ともなれば、多くは同盟首都ハイネセン暮らしで、頻繁に故国の星の土は踏めぬわけだから、色々と仕事たまっていよう。その差だ」
「まあ、な」
同盟弁務官は同盟中央において、デルメル平和共和国の利益代表者たる身分である。地元に帰れば、休暇というわけではなく、同盟中央政界の新鮮な情報欲しさにデルメルの有力者たちが大量に群がって来て、色々と説明をしてやらなくてはならない。
いや、今回はまだしも楽な方だ。常ならば、次の同盟上院の議事に向けて民意の収集と取捨選択を行い、デルメル政府とも折衝して、次の上院の会期で何に重点をおいて主張していくのか決めていかなくてはならないが、今回は任期最後の年なので、次の同盟弁務官選挙で新たに選ばれる後任の同盟弁務官への引継ぎ準備だけですんでいるのだから。
「それでどうだ、同盟首都ハイネセンというか、バーラト共和国の様子は?」
「そうだな、相変わらずというか、バーラト・エリートどもの作り出した世界観の中に、バラート人は安住しているよ。近頃では反戦派とかいう政治勢力も台頭してきた。【距離の防壁】によって同盟の安寧は守られているのだから、戦争そのものに反対し、帝国との停戦・講和を模索しようという主張をして、相応の支持を集めているぞ」
「それって露骨に【交戦星域】のことを同盟から除外していないか。同盟議会の下院で少し議席を得たというニュースはみた覚えがあるが、たぶん一過性のものだろう?」
「いいや私はそうは思えん。現に同盟議会ではなく、バーラト共和国の議会に目をやれば、小なりとはいえ、反戦派の勢力はとても無視できぬほどの議席を占める勢力に成長しつつあるぞ」
「なに?」
アラヴァノスは少し驚愕した。決して同盟中央の政界を軽視していたつもりはなかったが、デルメル国内の内政に忙殺されている立場もあって、やはりバーラト共和国の政界よりかは、同盟全体の政界、国政方面の情報蒐集に偏りすぎていたために、その情報は初耳であったのである。
「なんでそんな、棄民みたいなことを公然と主張する政治勢力に民衆の支持が集まるんだ。バーラト人どもは恥を知らんのか」
「その通りなのだが、なんて説明すればいいのかな。バーラト人たちは【交戦星域】の現状を、どうにも自業自得だと思い込んでいるようでな」
「…………は?」
アラヴァノスは何を言っているのかが一瞬理解できなかった。自業自得? 何が???というのが率直な感想であり、あっけにとられるとしかなかった。
そんな親友の様子を見て、フォルカーはいま少し説明を付け加える必要を感じて、口を再び開いた。
「本当になんと言えばいいのか。そうだな、良きにせよ、悪しきにせよ、バーラトの連中は国家というものに夢を見過ぎなのだ。国家権力とは死者を蘇らせることを例外とすれば、あらゆるすべてを実現することができる万能の力だと思い込んでいる節がある。六年間弁務官をやって、私は身に染みてよくわかった……」
フォルカーはそこまで言うと、深くため息をつき、ビールジョッキをぐいっと傾けて喉を潤した。これ以上口に出して続けるには、アルコールの魔力による助力が欲しい気分であったのである。
「この国、デルメルは語るに及ばず、【交戦星域】にある星々は、コルネリアス一世の大親征以来、それぞれの波瀾の歴史を歩んで来た。帝国との最前線という役割を果たしつつ、紆余曲折の歴史を歩んだのだ。だが、バーラトやその周辺、首都圏の星々は違う。大親征後の首都圏は戦災からの復興を果たし、そのまま経済的にも政治的に絶頂期に突入するという順風満帆な歴史を歩んだ。そのせいなのだろう。『同じ同盟構成国なんだから、【交戦星域】の国だろうが自分たちの国と同じくらいの環境は整っているはず』という無意識の内に考えてしまうようなのだ」
「あーってことはなにか。帝国の侵略の被害なんぞバーラトの連中は理解できないと?」
不機嫌そうに問うアラヴァノスに、フォルカーは苦笑する。
「そういうわけではないさ。バーラトの人たちも帝国の脅威は理解している。理解できてないのは、インフラの充実してなさとか、産業基盤の脆弱さだとか、日々の暮らしのありようとかだ。極端な例を言ってしまえば、中央の連中はヴァンフリート民主共和国みたいな、過酷な環境の国で、ろくな産業がないというのが想像できないのだ」
フォルカーの声には皮肉の色があった。
「なんでそんなことになっているのか、という方向に思考が進むと、現地の政治家連中がそうした問題の解決方法を模索しようとしないからであり、どうして模索しないのかと自分たちの基準で考えて、現地政治家どもが既得権益に固執して腐敗しているから、という結論を出す。だから帝国の被害を受けた地域へ戦災復興費等が支払われるのは正当なことと理解できても、それらの費用が現地の復興のためではなく、現地の政治家連中が楽するために使用されていると錯覚し、『こんな怠け者どもを守るために、どうして自分たちが死地に赴かなくてはいけないのだ』と被害感情を拗らせて、反戦派勢力に対する支持へと繋がっていくわけだ。どうだ、中々に面白い話だろ」
まったく面白くないし、ふざけているのか。その言葉が口から出かけたが、寸のところでアラヴァノスはそれを飲み込んだ。あることを連想して、それを問いたくなったのである。
「ってことはなにか、今の同盟中央は、歴史上の地球統一政府みたいな有様になってるっていうのか?」
「いや流石にあれよりはマシだろう。同盟構成国であれば、代表を上院に送ることができ、最低限の団結……団結というほど麗しいものでもないが、そうした共同体意識を持てているんだからな。だが一部の連中が主張している【上院における一票の格差是正】とかいう、上院の存在意義に正面から喧嘩売っているとしか思えない改革案が、なにかの間違いで実現するようなことがあれば、同盟も地球統一政府と同じ滅びの道を歩むことになるかもしれんな」
フォルカーはそう言って肩をすくめた。正直、この種の主張をし出す輩には辟易するのである。とりわけ、地球統一政府の前例を出しながら『一票の格差是正こそは地方自治の推進』とかいう頭の痛い雑語りをバーラトで見かけると、めまいすら感じるほどなのだが、バーラトでそれなりに見かける主張だから困る。
しかしあまりデルメルの外には出ない立場であるアラヴァノスには受け入れがたいことであったようで、バーラトを罵る言葉をこぼし続けたので、少しばかり補足をつける必要をフォルカーは感じた。
「つまり、私たちデルメル人がアスターテやティアマトの『本土奪還』にかける熱量をしばしば勘違いするのと同じように、バーラト人は【交戦星域】を誤解しているというわけさ」
「そう言われると、なんとなく理解できなくはない気がするな」
アラヴァノスは感心したようにそう呟いた。たしかにそのあたりの錯覚は、どちらも生まれ育った環境に由来したものであり、一般的なデルメル人が陥る病理も同根のものといえなくもないのだ。
デルメル人はそれの歴史から、生まれ育った郷土を最重視する。それが故に、自分たちの国がまだ存在してすらなかった頃より、本土を失っているティアマトやアスターテが、郷土奪還に固執するのは理解不能の領域にある。
いや、理屈ならばわかる。国家としてのアイデンティティ、正統性の確保のために、そうした姿勢をとり続ける必要性があるのだろう、と。特にティアマトは全領土を失っており、現在はあちこちの同盟構成国内にある自治領の連合体のような形態になってしまっているので、本土の権利を主張し続けなければ同盟構成国としての権利をも喪失することになりかねない。その必要性のために、本土奪還を仕方なく主張しているのだと。
だが、それは誤りである。外交の場で幾度となくティアマト人と接している内に気付かされたのである。理解できないが、彼らは本当に父祖が暮らしていた本土とやらを感情的にも本気で取り戻したがっているのだと。彼らが郷土を失ったのは、百年近く昔のことで、本土で暮らしたことのあるティアマト人などほとんど残っていないし、仮にいたとしても当時はかなりの幼子のはずで、記憶などろくに残っていないであろうに。
極めて摩訶不思議な現象であるとフォルカーは思う。自分の祖先は、革命前のアルレスハイムで暮らしていたと聞くが、だからと言ってアルレスハイムに望郷の念など全く抱けないし、それが普通だとすら思う。そうした自分の感覚からすれば、あの過酷な環境のコロニーで暮らし続けるヴァンフリート人の方がはるかに理解できるように思えた。どんな場所であれ、生まれ育った故郷に愛着を持つのは当然だし、守ろうとするのも当然の感情だろう。
だからフォルカーはティアマトやアスターテの者たちの本土にかける心情などわからない。そこで暮らしたこともなければ、見たことすらないであろう星に寄せる強い愛着心などサッパリわからないが、わからないなりに「そういうものだから」と想像で補い、同盟上院で彼らの弁務官と交渉をするのだ。
そこでふと思い出したようにフォルカーがある人物の話題を出した。
「ああ、そうだ。ヒューイ・タロットとかいうビジネスマンを知っているか」
「知ってるぞ。少し前にこの国にやってきて、ヘイト・スピーチ一歩手前なことをやらかして、ちょっとしたニュースになってたぞ」
「この国にも来てたのか……。なら知ってると思うんだが、あいつも過激で派手なティアマト本土奪還主張する奴でな。ティアマト人たちの間では中々に人気の人らしいぞ」
「それって一種の芸人としての人気じゃないのか? なんか政治的な主張もしてたが、荒唐無稽な誇大妄想でしかないし、まともに相手したら負けだと思う。政治家としてなら人気なんかでないだろう。ティアマト人もそれを理解した上で、囃し立ててるだけだと思うぞ」
「……だよな、そうだと私も思うんだ」
そう言いつつも、フォルカーは一抹の不安を覚えていた。ティアマト人の良識を疑うわけではない。だが、一部で『タロットといえばティアマト、ティアマトいえばタロット』みたいな認識が同盟のあちこちで蔓延しつつあることを思うと、政界進出して何処ぞの自治領の代表になるなんて展開が、もしかしたらありえるのではないかと嫌な想像をしてしまうのであった。
「荒唐無稽な誇大妄想といえば、うちの国でも無縁な話ではない。独立派なんていうポピュリストどもが勢力を伸ばしているではないか。それも小なりとはいえ党内の派閥として、だ。まったく、我が党も衰えたものだなぁ」
協商平和聯合党は『歪な平和』の維持というただひとつの目的のために、それ以前の主要政党のいくつかが連合して出来上がった包括政党である。その点から言えば、デルメル独立などという、『歪な平和』を壊しかねない独立派が党内に勢力を持ってきているとはいうのは、大きな矛盾であるといえ、自党も民衆の支持を集めることに腐心しすぎて、大切なことを見失っていないかとフォルカーは感じざるを得ない。
「おい、アーンはバーラトの空気に染まりすぎじゃないか」
だが、アラヴァノスは異なる見解を持っているようで、眉根を寄せてそう言った。
「ああしたポピュリズムを民衆が支持してしまうのは、言ってしまえば民意の汲み取りに俺たち政治家が失敗している証みたいなものだ。普通の政治家が自分たちの苦境に全く耳を貸してくれないというのなら、どんだけ不安な政治家であっても自分たちの民意を汲み取ってくれる方を民衆は支持する。いくら独立派の主張が危険なものであっても、それを内包することは党が民意を汲み取ろうとしていると民衆に示すためでもあるんだぞ」
「そのアピールのために、国を危険な方向へと向かわせやしないかという不安なのだ」
「その懸念はわかる。が、あれは必要悪だ。現にツォラコグルの演説を聞いていると、少しばかり共感してしまう」
予想外の言葉にフォルカーは目を剥いた。あんな【フィリバスター野郎】の戯言に、親友が共感してしまう部分があるなど、とても信じられぬ気持ちであった。アラヴァノスはやや忌々しそうに口を開いた。
「率直に問うが、おまえはこのデルメルが民主主義国家だと思うか」
「……民主主義国家だろう。少なくとも、そうあろうとは努力している」
「『歪な平和』の許す範囲内で、だろう?」
「……まあ、まっとうな形ではないことは否定できんな」
デルメル平和共和国は、国外からは【一党独裁国家】ないしは【フェザーン企業のオリュンポス・カンパニーが保有する国家】と評されることがあり、それは容易には否定しにくい風評である。
無論、デルメルにおいて、協商平和聯合党が法的に執権政党たる役割が保障されているわけではなく、ちゃんとした普通選挙が実施されているし、その投票結果により国民議会において圧倒的多数派となるために政権与党となっているのであって、協商平和聯合党といえども選挙は重大な意味を持つイベントではある。
しかし少し掘り下げると、これは一種の出来レースでしかない。デルメル国民にとって、オリュンポス・カンパニーの株主としての権利を持つ協商平和聯合党以外の党が政権与党となることは、帝国との秘密裏に交渉できる建前を喪失することであり、それはそのまま『歪な平和』の崩壊を意味し、この星が再び同盟と帝国が激しく軍事的衝突を行う場となる可能性を招来するので、他の政党への票を入れるのは相当に躊躇われることである。ましてやオリュンポス・カンパニーに務め、相応の地位についている者は、かなりの不満がなければ株主に叛逆するという行為は非常に躊躇するのは当然だ。
その当然の結果として、協商平和聯合党は結党以来、常に圧倒的過半数の議席を確保し続けてきたのである。ゆえに【一党独裁国家】と呼ばれるのだが、一般で想像されるほど協商平和聯合党は絶対的な権力を有してきたわけではない。それにはいくつかの理由がある。
ひとつには、結党当初の協商平和聯合党は、畢竟『歪な平和』の維持以外の同意がないも同然の勢力であったので、個々の政策では派閥間の対立が激しかったことである。今でこそ、通商派と内政派の二大派閥を中心として、安定とした党内の秩序が築かれているが、昔はもっと混沌としていたのだ。
党内がそのように整理されていったのは、オリュンポス・カンパニー、ひいてはそれを仲介して行われる帝国勢力という『敵』を前に団結する必要があったからだ。協商平和聯合党が絶対的な権力を握れずにいるもうひとつの理由は、彼らに株主総会での主導権を彼らに握られれば、デルメルの地下に眠る豊富な戦略資源は際限なく帝国へと流出して、同盟全体の憎悪を買う事になり別方向から『歪な平和』が崩壊しかねないのだ。
更にオリュンポス・カンパニーそれ自体も問題であった。経営者一族たるヘルメス家の者達は、会社の最高幹部たるどこかの部門統括に就任することが約束されているような存在であり、彼らの個々の動向も大いに気にかけなくてはならない。別に現社長のように積極的に政治発言をするようなのは稀だが、自らの部門の利益拡大のために行動されるだけで大いに国政に影響を与えてくる存在でもある。兵器開発等を担当する軍需部門が、帝国軍相手に商売しようと目論んで大問題となった前例さえあるのだ。
こうした前例とデルメルの多くの産業を独占していることから【フェザーン企業のオリュンポス・カンパニーが保有する国家】とデルメルが嘲笑われることもあるのだが、オリュンポス・カンパニーと協商平和聯合党のパワーバランスは、様々な事情がとても複雑奇怪に入り組んでいて、これも実態を捉えているとは言い難い。デルメル政府として、国家権力を用いてオリュンポス・カンパニーにあれこれと干渉してきたのもまた事実なのだ。
協商平和聯合党とオリュンポス・カンパニーの関係をあえて端的に説明しようとするならば……『互いに殴り合う関係なので別居したいのは山々なれども、様々な事情のために仕方なく同居状態を継続している』あたりが一番実態に近いだろうか。
このように色々と複雑に絡み合った積み木細工のような形態で、『歪な平和』以後のデルメルの政治は動いており、非常にややこしく、建前のために余計な手間ができている点も多く、民意の汲み取りも他の同盟構成国と比べれば限定的なものになってしまっている。それでも協商平和聯合党政権が民衆に支持されているのは、歪ながらも平和を実現し、国内を富ませ続けているからである。しかし、この現状に不満を抱く者は決して少なくない。
「独立派は、こうなっているのはデルメルが無理に自由惑星同盟という共同体に属し続けているからと主張しているのだ。それを抜け出し、フェザーンのような中立勢力となれば、国内改革に手をつけ、民主主義の実質を取り戻せるとな」
「バカバカしい理想論だ。第一、そんなことをして同盟も帝国もデルメルの独立を尊重してくれるなぜ信じられるんだ。それに【交戦星域】の国々は、デルメルが同盟構成国としてとどまっているからこそ、辛うじて現状を許容してくれている節があるのだから、独立なんぞしたら彼らも参戦しかねん」
アスターテ連邦共和国の艦艇群に乗り込んだ交戦星域諸国の連合軍が続々とデルメルに殺到してくる光景が、フォルカーにはありありと想像することができた。
「だいたいフェザーンとて、特殊な立地と政治的・経済的環境も考慮する必要があるが、それ以上に、形式の上では帝国の自治領であるから存在が許容されているのだろう。その点から言えば、デルメルもフェザーンもさして変わらん。フェザーンがデルメルより公然と敵対勢力――フェザーンの場合は同盟だが――と交流できているのは、帝国の国家体制が論外な代物だから、という事情の方が大きいからだ。ガーフ、こんな単純なことくらい、お前にもわかるだろう?」
「わかるとも。だが、わかった上でも、連中を拒絶しきれん自分がいるのだ」
アラヴォノスは声には苦いものがあった。
「独立派の支持者たちの多くは若者だ。それがなぜだか、お前にわかるか?」
「……連中の主張が過激で小気味好く痛快だから。そう私は思うが、おまえはそう思っていないようんだな。でなくばこんな前振りはせん」
「その通りだ。理由は大きく二つ。ひとつは同盟構成国としての義務を若者は重荷だと感じているということだ。特に……徴兵がな」
同盟構成国である以上、同盟軍の兵員補充のために徴兵を受ける可能性がある。それは非常に低い確率であるのだが、一般のデルメル人の間では、許容し難いと考えられているのだった。
徴兵への忌避は一般的な現象であったが、デルメル特有の事情も絡んでいる。『歪な平和』達成後、同盟軍内において、デルメル出身者は差別対象であった。士官学校への入学を希望しても、書類選考の時点で失格になるし、徴兵もしくは志願により一兵卒から始めるにしても、ほぼ間違いなく過酷な運命が待ち受けている。
具体的にはデルメル出身で徴兵にあえば、ほぼ間違いなく最前線へと送り込まれる。デルメルという国の立ち位置のために裏切る可能性が高いと見なされ【前線で活躍し同盟への忠誠を示せ】という理屈からくることであった。特にゲルマン系のデルメル人となると、ほぼ自動的に帝国系亡命者部隊に配属させられ酷使されるのだった。
要は他の国の出身者と比べて戦死する率が桁違いに高いのだ。デルメル人が徴兵を強く厭うのも無理からぬ話ではない。この国で喜んで同盟軍で兵役につきたいとか言い出すのは、ロイヒテンベルク一族みたいな例外中の例外だけで、普通なら同盟への帰属心が強い者であっても兵役は忌避するものだ。
「だからこそ兵役満了者に対しては、我が国は退役後の生活を手厚く保護してきたし、戦死者遺族に対してもケアは惜しまなかったはずだ。無論、そんなもので、彼らの献身に報いきれているかというと、甚だ怪しいが……」
「その通り。『歪な平和』のために、そんな状況をほとんど手をつけずに俺たちは放置し続けてきたのだ。生きて兵役を満了した者たちが、独立派への支持を表明し、それに若者たちが共感して勢力を築くのは当然なことだ」
「だが、これはずっと我が国が抱えてきた問題ではないか。現に、私が物心ついた頃から、問題とされてきたことだ。だが、独立派が急成長して、党の中央委員になる奴すら出てきたのは、ここ一〇年くらいの話だろう。それが独立派が急成長した大きな理由だとは思えんが」
「ああ、そこでもうひとつの理由が密接に関係してくる。俺の息子もそうなんだが、最近の二〇代の連中、帝国への拒絶感や嫌悪の念がほとんどないらしいぜ」
「………………………………………………はぁ?」
あまりに意外な発言すぎて、その内容を脳が理解するまでに二〇秒ほどの時間が必要であった。そしてようやく染み込んできた意味を吟味しても、フォルカーが得られた感情は困惑一色であった。
「すまぬ。さっぱりわからないのだが。え、どういうこと?」
「早い話、今の若者連中は、帝国の恐怖を実感できていないって話」
アラヴァノスはそう吐き捨てた。
「俺たちはジャピエン政権が六〇年前に『歪な平和』を作り上げて、数年もしない内に産まれた世代だ。親たちからこの星で同盟軍と帝国軍がなにをしたのか聞かされて育ったし、大人たちが同盟に対してのもの以上に、帝国に強い警戒心を持っていたのを実体験として知っている。だから帝国に対しては強い警戒心をずっと持ってきた。おまえだってそうだろ?」
フォルカーは深く頷いて同意を示す。
「だが、昨今の若者は違う。若い連中の帝国のイメージは、日頃身近で接する帝国人達だ」
「……警備部門の連中か?」
「いや、採掘部門のほうだ」
採掘部門は、その名の通り、このデルメルの地中に大量に眠っている天然資源の採掘を管轄している部門であり、ヘルメス商会時代からやっていた事業である運輸部門と並ぶ基幹部門であり、現在のオリュンポス・カンパニーでも最も莫大な利益を生みだしている主力部門である。だが、ここには同盟の安全保障グループや人権派グループから問題として指摘され続けてきたことがある。
安全保障グループが大きく問題としているのは、この部門で採掘された重要な戦略資源を帝国のカストロプ閥へと少なからず横流ししていることである。特に希少な流体金属類がイゼルローン要塞の工廠へと流れているのは重大な問題であり、利敵行為であると叫ばれているのである。
しかしそう言われてもデルメルとしてはどうしようもないことである。デルメルで採掘された戦略資源をカストロプ閥におさめればこそ、カストロプ閥は帝国内でデルメルのために骨を折ってくれるのであり、帝国軍中央はカストロプ閥から少々割高ながら前線付近で安定して戦略資源を購入できる。そうした秘密の取引があればこそ、【交戦星域】に存在する国家でありながら、デルメルは『歪な平和』を半世紀近くにわたって謳歌してきたのである。
もちろん、同盟側の声を歴代デルメル政権は決して軽視してきたわけではなく、カストロプ閥に横流しする戦略資源の量と種類についてはオリュンポス・カンパニーの株主総会で毎度帝国軍側と激しく論争が交わされている案件であり、規定以上の戦略資源が流出しないよう厳格な管理体制を敷くなどして、そうした声に【配慮】し自制してきたのだが……、フォルカーが同盟弁務官として活動してきた経験から言うと、それを【配慮】とは思わないデルメル国外の人間は非常に多い。
しかし安全保障グループから特に糾弾されていることより、後者の人権派グループから糾弾されていることの方が、今回の場合は大きな問題を占めている。
「帝国からの出稼ぎ労働者か」
表向きは『オリュンポス・カンパニーが雇ったフェザーン人労働者』が採掘現場で働いていることになっているが、その【フェザーン人労働者】とやらが、その実【カストロプ一門の領地から運ばれてきた帝国人】であることはデルメル国民のだれもが知っている公然の秘密である。
そのようなことになった原因は極めて単純であり、地下資源の採掘にはそれなりの危険があり、人権だの何だののために、大きなリスクを背負う同盟人に現場での採掘をさせるより、そんな権利など最初からない帝国から人を雇って危険な作業に従事させた方が良いと半世紀近く前の採掘部門の統括が考え、時のデルメル政府も天然資源の採掘に及び腰になられては『歪な平和』が危ういとその方針を黙認してしまったことである。
そしてそれが現在まで続いているのであった。無論、人権派グループからの糾弾もあって、昔のように使い捨てのような扱いをしているわけでなく、三〇年ほどまえから彼らの労働環境も徐々に改善されるようになり、今では他の同盟内にある地下資源採掘現場と比べても、平均くらいの労働環境が帝国人労働者たちに提供されているが、これによってまた別の問題を引き起こされているのだった。
「人的資源担当国務委員として、俺はこの問題に取り組んでいるんだが、帝国からの労働者は採掘部門が休日の時は普通にデルメルの街中で暮らしている。すると当然デルメルの民との間にも交流を持つ。それ自体は別に悪いことってわけじゃないんだが、どうも若い連中はそれを『平均的な帝国人』と誤解しているようでな」
アラヴァノスは嘆息した。たしかにデルメルで出稼ぎにきている労働者が、帝国においては下層の階級に属する者達であることは間違っていない。彼らは平民であるし、高度な学問をおさめたインテリゲンツィヤではなく、肉体労働に従事して日々の糧を得ている者たちである。
しかしカストロプ閥がデルメルに送り込んできている労働者は、そうした下層の中では最上層部に位置している者達なのだ。向こう側の意図としては、学がまったくない連中を派遣して問題を起こしたらそれはそれで面倒という事情と、帰還後のことも見据えて人材育成の意味も含めて派遣しているのであり、同盟側基準で言えば初等教育くらいは受けている者達のみが派遣されてきているのである。
だが、若いデルメル人には容易にそれが理解できないらしい。だって派遣されてきている帝国の労働者たちの知識は、どうあがいても義務教育を完了しているかいないかというところなのだから、それより学がない大人が帝国には大量にいるというのは、なかなか想像しにくいことなのだ。
「で、採掘部門の労働者たちと仲良くなると、自然と警備部門の二課ってことになってる帝国軍の将校たちとも交流を持つ例が出てくる。労働者とオリュンポス・カンパニーの間を仲介しているのは、帝国軍とカストロプ閥だからな。そうして接していると若者たちは思ったりするわけだ。もし同盟軍に徴兵されて戦場に出ると『目の前で談笑している帝国人』と同じ者たちを敵として殺さなくてはならなくなるのか、と。だから若者たちの徴兵を嫌う心情は昔の比でない。なにせ、帝国とも話せばわかりあえると信じてしまっているんだからな」
「……マルティノス議長や、パーギリニスは気づいておられないのか」
「知っているが若者たちが何故そんな感覚になるのかがわからないんだろうな。ご老人方は、俺たちの親世代は、帝国の野蛮さを身に沁みて知っている。もはや『帝国が脅威』というのは、言葉に出すまでもない明白な真実だと思い込んでいる。だから独立派を若者が支持するのは、同盟嫌いの表現として、近頃流行している形態のひとつ程度にしか考えてねぇんだ」
アラヴァノスはジョッキを掴んで、残っている中身を一気に飲み干した。かつて閣議の席において、彼は何度か独立派に対する懸念を表明したことであるのだが、それに対する議長の返答は以下のようなものであった。
曰く、独立派の主張も一理ある。たしかに帝国は脅威ではあるし、デルメルが同盟に属しているのはその脅威からこの国を守って欲しいからだ。だが、同盟に守って欲しいのは【デルメル平和共和国】なのであって、同盟にとって都合のいい辺境領土デルメル、前線軍事基地デルメル、属国デルメルなどでは断じてない。同盟に属する共和国諸邦は、我々にとって心から信頼できる仲間か? かつて我らの先祖を不毛だったこの惑星に押し込めた分際で、不毛でないと知るや大胆に介入してきて、この国を焼き尽くした輩が。そして今もあれこれ注文をつけては、この国を戦場にしようとしてくる恥知らずな輩が。それを思えば、若者たちが独立派の派手な主張に共感するのもわからなくはない、と。
そう熱く主張する通商派の領袖マルティノスに対し、対立派閥である内政派の領袖パーギリニスが深く頷いていたのが印象的な光景だった。政治信念の差異などどうでもよくなるくらいに、帝国への憎悪と同盟への猜疑が老人たちには根強く、その子ども世代である自分たちもまたそうなのである。自分の子から独立派の主張に共感する発言に耳を疑い、ちょっとした論争を起こさなければアラヴァノスも自覚できなかったのだから。
一方、フォルカーは完全に飲み込めてはいなかったが、同盟弁務官として活動してきた経験もあって、その聡明な知能は事情を理解できてしまったらしく、無意識に渋い面を浮かべた。
「盲点だった。同盟内におけるデルメルの立ち位置ばかり問題視して、国内認識が甘くなっていたか……」
「いや、同盟弁務官としてデルメルをよく留守にしていたお前にはわからないのも無理ないさ。ずっと国内にいた自分でさえ、気づいたのは割と最近なんだぞ」
「そう言ってくれると、少し救われた気持ちになるよ」
苦く笑った後、フォルカーの思考はややおかしな方向へと向かった。
「しかし息子か……今更な事ではあるが、五〇も半ばを過ぎているというのに、私はそっちの話と全く無縁に生きてきてしまったな」
「ほんとうに今更だな。だから俺、若い頃に何度か言ったろ? おまえ結婚する気ないのかって」
「とは言ってもだな。私は外交畑を歩んできたから、諸国を飛び回ってる事が多くて、腰が落ち着けられなかったんだ! そして長距離恋愛なんてやる気もなかったんだから、仕方ないじゃあないか!!」
机をバンバン叩きながらそう熱弁する親友の姿は、五〇半ばの中年男性とは思えないほどガキっぽく感じられた。
「ああ、じゃあ、年の差恋愛にでもチャレンジしてみればだろうだ? 他の国ならともかく、この国だとそのあたりわりかし自由だぞ。主に銀河ローマ同盟の功績のおかげで。俺だって、それで嫁さんが二人と合法的に結婚できたわけだし。な、まだ可能性はあるって」
「おまえ、私に喧嘩売ってるのかッ!?」
デルメルではやけに性的マイノリティに寛容的であり、一夫多妻、多夫一妻、多夫多妻なども制度として整えられており、同盟構成国の中でもジェンダーギャップがほとんどない国であると評されるほどで、その恩恵により年の差婚にも理解のある人が多いので、それを踏まえて助け舟を出したつもりであったのだが、フォルカーには勝ち組からの皮肉としか感じられなかった。
さらに憤慨した親友の様子を見て、深く深呼吸をした。これ以上長引かせていると、本題に入ることなく話が終わってしまう気がしてきたので、スイッチを入れ替える儀式のような深呼吸であった。
「アーン、いや、アーノルド・フォルカー。真面目な話をしていいか」
「ん? ……ああ、いいぞ」
声音が変わったのを感じ、私人として怒気を引っ込め、フォルカーの双眼には冷静な政治家としての鋭い光が宿った。
「おまえ、同盟弁務官の任期が終わった後、どうするつもりなんだ」
「どうするもりもなにも、政治家として働き続けるつもりだぞ。通商派幹部との間でポストの相談をしているが、たぶん、外務局のどこかのポストに就くことになるんじゃないかな。私の同盟弁務官としての経験と知識を活用したいと考えるものは多かろうし……」
「外務局の幹部ではなく、長になりたいとは思わないか」
フォルカーは目を剥いた。
「外務担当国務委員にか。ガーフ、いや、アラヴァノス。それは冗談で言っているんじゃないだろうな?」
「冗談じゃない。実はマルティノス議長が、内閣の改造を考えていて、非公式に俺に副議長兼財務担当国務委員になってくれないかと打診されている。議長は、帝国内でのカストロプ公爵の地位動揺を鑑み、帝国と距離を置きたいと思っていて、そのためにウチのドンであるパーギリニスの影響力を削ぎたいらしい。俺は答えを保留しているが……世代交代を促進するためにも、受けようかと思い始めている。いつまでも戦場時代のトラウマが忘れらない老人に政治の主導権を任せきりと言うわけにもいかん」
「……それが私の外務担当国務委員になることとの関連性がわからないが?」
「俺が副議長職を受ける条件として、おまえを外務担当国務委員にすることを議長に要求しようと思うんだ」
「何故だ?」
フォルカーの見定める視線を、アラヴァノスは正面から見つめ返した。
「正直に言う。俺はこの国のことはよく知っているつもりだが、同盟全体を見定める視野となると、自信がない。だから、おまえには俺の味方でいてほしいんだ。おまえほど同盟諸国を見渡せる奴はこの国には数える程しかいない。そして公人としても、私人としても俺が信頼できるとなると、もうおまえしかおらんのだ。だからどうか、俺を支えてほしいんだ。この国の『歪んだ平和』を、多少であっても、歪みが少ないものとするために」
頭を深く下げてそう懇願してきたアラヴァノスの姿を見て、フォルカーの胸中に込み上げてくる感情があった。ああ、こいつ、駆け出し政治家だった頃から何一つ変わってないな!
フォルカーは顔をあげた。ずっと親友の頭を下げた姿を見ていては、感情的にアラヴァノスの懇願に是と答えてしまいそうだったからである。仮に受けるとしても、政治的に受けるべきかどうか知性で判断した後でなくば、親友に迷惑をかける結果になることだろう。
一分ほど時間が経過した後、フォルカーは口を開いたが、それは返答ではなかった。
「どんな代議員も最初は国と民を思っている。より良い国にしようと願ってなる代議員になるものだと。しかし理不尽な政争に揉まれ、理想を踏みにじられている内に当初の志を見失い、腐敗していくのだと」
「え?」
全く想定していなかったことを語り出されて、アラヴァノスは思わず顔をあげた。
「バーラト暮らしをしている時に聞いた話だ。だが、そんな不心得者、私の知る限り極少数だ。どんな形であれ、代議を務めている者は、自分を選んだ選挙区の声の代弁者として、完璧にではないにしても誠実に職務を果たしている。今の私たちがそうであるように。だからこそ、同盟の現状は深刻なのだ。わからぬこと、理解できぬことを、【腐敗】とみなして斬って捨てる空気が同盟全体で広がっていると言ってもいい」
フォルカーは逸らしていた視線を戻して、再びアラヴァノスを見た。
「だから私を外務局の長になんぞしたら、あちこちの国にデルメルの事情を『わからせる』ために全力でやるぞ。同盟弁務官として活動していた時とか、政府の意向も考慮して、かなり自重していたんだからな。外交トップになったら自制なんか絶対にしないからな」
「え、あれで自制してたのか……」
「当然ではないか。で、おまえには私がそんなことを仕出かしても許容していく覚悟はあるんだろうな?」
「……おまえのことだ。何か考えがあってやるんだろう。ちゃんと納得のいく説明をしてくれるのならば、腹立たしく不快な事実であっても飲み干してやるさ」
「そして、私と一緒に頑固なマルティノス議長と対峙してくれると?」
「厳しいが、まあ、やるさ。うん。見捨てられないし……」
そこでむしろ相手を不安にさせる返答をしてないかと悟り、キッとフォルカー睨みつけながら叫んだ。
「わかった! おまえがハチャメチャやらかそうが、ちゃんと俺と協力して仕事してくれるなら絶対に守ってやる!!」
「素晴らしい! じゃあ、誓いの盃ということでもう一度乾杯しようか!」
「……すまん、おまえ酔ってない?」
「大丈夫だ。別に酒だけに酔っているわけではない」
「ん? ……ああ、なるほど」
フォルカーとアラヴァノスは互いのジョッキにビールを注ぎあい、取っ手を掴んだ。
「あー、そうだ、なにに乾杯しようか?」
「普通に『祖国デルメルに』でよくないか」
「わかった。『心の底から憎み、愛する祖国に』でいこう」
「長いな。しかも憎んでいるのか」
「真の愛国者たる者、愛する祖国の問題点の百や二百はあげれるべきだろう」
「なるほど。では……」
「「心の底から憎み、愛する祖国に!」」
ガキィン、と音がなるくらいに強くコップをぶつけ合った後、二人はジョッキの中身を一気に飲み干した。二人の誓いが、今後のデルメル平和共和国の未来にどのような影響を与えていくことになるのか。少なくとも当事者二人には、良い影響を及ぼすことになろうと信じて疑わなかった。