季節は冬に差し掛かったまだ少し暖かく感じられる頃、箱根の温泉巡りに来ていた辻神千賀、不知火篝、白理玖、神狩玖音、の四人は仲良く温泉を満喫していたのだが、千賀と篝以外の二人は本来の目的である、温泉には目もくれずそれぞれの道楽に勤しんでいる。そんな二人をよそに千賀と篝は二人で湯上がりの散歩へと繰り出していた。四人で宿泊している旅館の近辺に散歩道としてうってつけの場所があると旅館の女将に聞き、今まさにその林道を途中で買ったコーヒーを片手に歩いていた。
「久しぶりに四人で旅行なんて来たな、しっかしまぁ、よく理玖の奴がOKしたなぁ、アイツ有給は家でゴロゴロするんだ〜って、意気込んでなかったか?」
千賀はふと、仲間一の頑固者である理玖を誘い出した手口が気になり、篝にそんな疑問を投げかける。
「露天に混浴があるのと、美人のお姉さんが整体師やってるマッサージサロンが入ってるって言ったら二つ返事で了解って来た」
と、篝はそんな千賀の疑問に飄々とした態度に呆れ半分な笑みをしならがら答える。
「んな、単純な、、アイツ女に釣られたのかよ」
「そゆこと」
篝同様、千賀も呆れの混じった顔で笑いながら、竹馬の友のあくなき女好きを称賛する。
「どおりで散歩に誘っても来なかったわけだ、昼間『ナンパしてお姉さんとワンナイト、、、グフフ』とかなんとか言ってたのはコレだな?」
「そんなこと言ってたの?アイツ」
千賀は一時間ほど前に鼻の下を限界まで伸ばしてマッサージ室に飛んでいった理玖の表情を思い出し再度ため息をつく。それを聞いた篝も、さらに呆れの色を濃くした顔でやれやれと頭を振ると、左手に持ったコーヒーを流し込む。
しばらく歩いていると、ちょうど林道を抜けた先にブランコと滑り台のみがある小さな公園を発見する。
「おっ、いい感じの公園あるじゃん、座ろうぜ?」
千賀はそう言って篝と一緒に公園のベンチに腰掛ける。少しの雑談の後、二人とも物思いに耽るように空を仰ぐ。今日は一日、雲も無く晴れていたおかげか、街灯が少ないここら辺では星が綺麗に見えている。
「綺麗だなぁ……」
「あぁ、そうだな」
篝はコーヒーを啜りながらここ最近の忙しさを忘れるようにそう零す。対して千賀はそれに何を言うでもなく同調する。
「野郎二人で来るところでは無いなぁ……」
しかし、これだけ綺麗な星空を見て横に彼女や嫁がいない事の寂しさを覚えてか、千賀はそうハッと自笑気味に話す。
「悲しくなるからやめろ!」
このまま話を流したら本当に居た堪れなくなる。そう思った篝は、千賀の自虐に鋭い合いの手を入れる。
二人ともがそれぞれ思い思いのことを話し会話していると……。
突如、異様な光景に出くわした。そこまで標高が高いわけでもましてや昼夜の寒暖差が大きいわけでもないこの温泉地で霧が濃く出ている。
「おい、篝」
「あぁ、わかってる、なんか変だ」
まるでその霧は意志を持っているかのように思考どころか瞬きする時間すら与えず二人を一飲みにした。
千賀が霧の濃さに強く目を瞑る。次に目をあけるとそこは草花が生い茂る森だった。少なくとも千賀には見覚えはないし、先ほどの温泉街から歩いて行ける距離にこんな所はないはずだ。周りの木は大の大人二人分はあるのではないかと思うほどの太さの幹を持ち、その高さは九メートルは下らないと目測でも思わせるような威圧感があった。その威圧感以上に千賀は気になることがあった。
「暗いな」
ここが夜なのか昼なのかすらわからないほどに木々は光を遮断していた。周りを見渡しても篝の姿は見当たらず、あるのは木と草と岩くらいである。あの霧に飲まれてから逸れたとは千賀にはどう考えても思えない。
「どう、なっている……?」
言い知れぬ不安と恐怖が思考を支配し千賀の体が凍ったようにこわばる。辺りの暗闇がそれを嘲笑うようにこちらを悠然と見つめていた。
悪魔の花は
美しく
散れぬ姿は
未練ゆえの醜さ