「はぁ、はぁ、、はぁ」
あれから何分、何時間、いや何日経った?時間感覚が麻痺してきやがった。出血が多過ぎる、視界が白んできた。
「やばいな」
掠れた声でそうこぼす。意識がもう持たない、これはまたダメだな。白くなって黒くなる視界を不思議に思いながら俺は意識を手放した。
あれから総計15回、俺は死んだ。それぞれ、刺殺、斬殺、焼殺、絞殺、圧殺、さまざまな方法で殺された。気が狂うような濃密な時間の中、いくつか分かったことがある。1つ目は現状、俺は死ぬことはないと言うこと、2つ目はあの女はどうやら俺を殺したりないという事、3つ目は今こうして考えているように、死んでいる状態でも脳が働いて思考することができると言う事。暗く深い海に沈んでいる感覚でまともに意識を保てないがな。
「ッーーハァ!」
大きく息を吸い込む、死んでいた肺に空気を送り込み、体に無理を言わせる。ゲホゲホと咳き込みながら息を整えて近くの大木に背を預ける。あの女から殺される事、約束20回。「常人ならば、とうの昔に狂っている所だろう」とか小説なら表現される所だろうが、人間案外割とどうにかなるもので、10回を超えたあたりからは死ぬ恐怖よりも、この状況に慣れつつある自分が怖くなってきた。
普段から気絶の経験があれば別だが、今の状況は一歩でも踏み外せば必死な上に、寝起きのように意識がハッキリしない。だが何回か死ぬうちに体がこの状況に適応してきた。もうアイツへの恐怖もだいぶ和らぎ、こうやって馬鹿馬鹿しい考えを巡らせるだけの余裕は出来た。考えるより先に逃げたい所だが、今下手に動くと普通に死ぬ、割とサクッと殺される。
「それじゃ死なねぇように逃げますか」
サッと立ち上がり、脇目も振らず一目散に森へと走る。あの女はもう復活したことに気づいているだろうか?
気づいてたとしたらどの辺にいるのだろうか?
その問いの答えは考えるまでもなかった。
「逃げ回るのが上手くなったわね、避けるのも上達したわ、死を経るごとに強くなる。素敵な能力だわ!」
後ろで目をキラキラさせた血塗れの女が立っている。もちろん女の血液ではなく俺の物だ。そのせいで、元々赤かった服が赤黒く変色している。見てるだけで気分が悪くなる量だ。吐き気を押し殺しつつ、女の後ろに浮かぶ5つの光弾に気を配りながら木の影に走る。
女がゆっくりと片手を俺に向ける。
「ーーッ!」
それを見て、女から視線を外すとバッと頭から木の影に飛び込む、振り返る暇はない、確実にさっきまで俺が立っていたところには黒焦げになってる。謎の光線、あの女が使ってくるとんでも攻撃の1つ。考えるだけで身の毛がよだつほどの熱量と火力。事実2度ほど滅多刺しにされて内臓を焼かれた。気を抜けばほぼ確実に当たる追尾性能のある光線。逆に言えば気をつけていれば最悪死ぬことはない、だがそれ以上に怖いのは、あの女が使う攻撃数。ただでさえ弾速が速く、目で追うのも避けるのは難しい上に着弾時での光量で目を潰される可能性すらあるのに、更に一度に打てる弾数が5発、再装填までの時間は約13秒。とてもじゃないが捌き切れる量を超えている。
それでも俺は今まで生き返りを続け、大体の発射から着弾までのタイムラグが掴めてきた。
「それにしたってファンタジー過ぎるだろ!なんだよ、空飛ぶ追尾式熱光線って!」
属性がインフレ起こしてんじゃねぇか、もっと一般人に優しい害的要因はないのか、戦うのすら悪手だ。応戦の選択肢はない、今この状況で俺に出来る選択肢は逃げて牽制して回避を繰り返す事だけだ。
「あはははははは、いいわ、逃げ惑いなさい!貴方の力をもっともっと見せて!!」
「笑い狂ってる女にケツを追い回される趣味はねぇんだよ!!」
女の光線を前転で回避しながら、近くにあった拳大の石を拾う。前転が終わると同時に振り返り、振りかぶって石を投擲する。逃げ回ってばかりいた俺の反撃に驚いたのか、女はかなりの距離後方に避け、着地後直ぐに右腕を水平に薙ぎ光線を放ってくる。
「ヤッベ!!」
投擲の反動で体がうまく操れない、死の噎せかえるような芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。それを自覚した途端俺は弾けるように地面を踏んだ。ほとんど無意識だ。いわゆる本能というやつに従ったにすぎない、その本能は一瞬だけ俺に一般の人間を凌駕する超反応を可能にした。
「ーーーーーーッ!!」
まるで光弾の射線から霞むように消えると、無茶な動きをしたせいからか足首に激しい痛みを伴い地面をする。激痛に喘ぎながら必死に体勢を立て直し先ほどまで自分がいた所を反射的に視界に入れる。そこには先ほどまで木々が立ち並ぶ森があったはずだ。そう、あったはずだった。そこにあるのは抉られた地面と穴の空いた森だったものだった。今までで最大の威力。あれが少しでも掠ってたら……そう思うと、腹の底がスッと落ち、冷や汗が額を覆う。俺は必死に背中にまとわりつく恐怖を振り払い、また走り出す。
投擲の方はこれでいい、最初から当たるとも、ましてや効くとも思っちゃいない。流石にあの回避は死ぬかと思ったが、まだ危機回避行動を取れるくらいの生への執着は残っているらしい。最大威力だろう光弾は大量の砂埃を巻き上げ、辺りの視界を悪くした。俺は出来る限り体勢を低くし、それに乗じて身を隠す。
「イカれてるな、あの女は」
小声で悪態を付きつつ、女のいた畑から全力で離れる。アイツはきっとあの畑がテリトリーなんだ。そしてそれを侵害した俺に報復心を燃やして、殺しにかかってきてる。ならその原因から離れてしまえばいい、全力で逃げる1匹の羽虫を追っかけるほど、向こうにも余裕は無いはずだ。そうであってくれ!!
そしてもう一つ、アイツは戦闘経験こそあるが攻撃に対して対処が雑だ。戦闘時の攻撃と防御に対する対処行動の洗練さがチグハグだ。そこから推測するにアイツはきっと攻撃を受ける前に相手を殺してきた、速攻の攻撃力への極振り型だ。ゲームなら一番重宝されるが真っ先に潰されるタイプ、だから火力は高いが、防御性能に欠ける。極論、絶対に避けられない角度から、あの怪物じみた耐久性を貫ける一撃があれば確実に殺せる。
「あははははははははハハハハハハ!」
だが現状、俺にはあの狂った女のトンデモ弾幕を掻い潜って、あの怪物の心臓を止めるだけの一撃を入れる術がこれと言ってない、実質詰んでいる。だからって捕まって無間地獄もごめんだ。
結論として、最も現実的な勝機はアイツのテリトリーから出来る限り離れて、アイツが諦めるのを待つか、アイツより強い何かのテリトリーに入ってビビらせて帰らせるかだ。
「勝機を引き当てるのと、俺の心が折れるのどっちか早いか、やってやろうじゃねぇか」
俺は絶望を自分にひた隠しにしながら吐き捨てた。そうは言ったものの、今のところ牽制、回避、隠密以外の選択肢が俺にはない、女のあの目を見た感じ諦めてくれる雰囲気でもなさそうだ。一応、策が無いわけではないのだが、成功率的にあてにしたく無い。
ひたすら勝機を探して、自分の手札と相手の手札を天秤に乗せながら、慎重に釣り合いを測っていく。女に大きく傾いたら俺は終わりだ。
「焦るな、焦るな、Stay Coolだ」
俺は物陰に息を潜めながら自分を鎮める。この状況、生き残る術なんてほぼ一般人の俺じゃ無いに等しい。アニメの知識頼りで粉塵爆発なんてのも考えたが、あれはダメだ、密閉空間に可燃物の粉末を空気と上手いこと混合させてなおかつ、周りの酸素より濃度を濃くしなければならない。小麦粉なんてそんな都合の良い物は無いし、それ以上に密閉空間が作れない、開けた場所でも出来るは出来るが量が無いと威力が期待できない。
「せめてマグネシウムとかアルミがあればもう少しマシに逃げられるんだが……」
その二種の金属があれば話は変わってくるが、むしろそれがあるなら罠を張ってテルミット反応を起こした方が3倍は建設的だ。それよりニトロどっかにないかな、いやいっそのこと硝酸から作るか!アホか、俺は科学者じゃねえ!!そもそもそんな時間くれる相手じゃねぇ。
「あれを殺せる方法なんて自然物しかないこの状況でどうしろと?」
俺にも使えて、この場で可能で、アイツを吹っ飛ばせる威力を持ってる攻撃……。
「あっ……あるわ」
それを思いついた俺は即座に立ち上がり、目的の場所へと急いだ。コトンと勝利への天秤に自らを乗せて。
「今度は俺のターンだ」
今際の際で咲く花は
彼岸の花がよく似合う
咲き乱れたり散り萎んだり