恐怖! チェンソーマン VS 鬼 !!   作:今日は晴れ

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 ロボット残党兵大好き!


第二話 見知らぬ世界とデンジの行方

 ガッガッガッガッ!!

 

 慈悟郎は呆れた表情で、どんぶりに盛られた茶漬けをかっ込む少年を眺めていた。

 山中で辺り一面に奴らの血肉がまき散らされていた場所にいた少年と対峙して座っている。辺りからは飯の良い匂いが立ちこめ、食欲をそそられる。だが、目の前で大量の飯をかっこむ姿をみれば食欲も失せる。

 ここは麓の街――慈悟郎が住む街の食堂である。

 

 あのあと、慈悟郎は少年に持っていて握り飯を食わせて落ち着かせた。聞きたいことは山ほどあったが、やるべきことも沢山あった。まずは、奴らに殺され、残された少女だった。

 少年がどこかで逃げる可能性もあるため、逃げるなよ、と慈悟郎は睨む。奴らを狩ったのは目の前にいる少年だろうし、日光に焼かれていないから、奴らの仲間ではないだろう。だが、慈悟郎に凶刃が振るわれない保証もなかった。否、慈悟郎に刃が振るわれるなら、まだ対処もできる。最悪なのは、慈悟郎のもとを逃げだし、奴らのような凶行に及ぶ事態だ。慈悟郎の右足は義足、あまり速く走れず、逃げ出すのは容易だろう。故に、効果は薄くても、睨んで言い聞かせた。近所の悪童であれば、その一睨みで縮こまるが、少年は萎縮するどころか、逃げなかったらもっと食わせてくれるか、と尋ねてきたので、死ぬほど食わせてやるといったら、大人しく慈悟郎のあとをついてきている。

 

 熊に親が殺されたと警察に説明し、襲われた処理は隠に依頼した。少女には親戚の類もなかったため、慈悟郎が現役時代から懇意にしている藤の家に連れて行き、面倒を見てくれる手はずも整えた。

 父親の葬儀もしてくれるとの話だった。

 

 少女は一言も話さず、じっと黙っていたが、慈悟郎たちと分かれる際、少年が少女の頭を撫でて離れると、ぽつりとありがとうと少女は涙を流した。

 

 少年は、なんとも言い難い顔をしていた。例えるなら、剣道の練習をして竹刀を振ったら、その竹刀が手から抜けて通行人の頭を直撃、だが、その通行人がひったくりでお手柄と褒められるような、本来なら咎められて当然なのに、偶然善行になってしまって、感謝されるのがむずがゆいような、複雑な顔だった。

 

「デビルハンターとして当然だかんな」

 

 そういって、片手を振って振り向かずに少女と別れた。

 角を曲がった途端、少年は倒れる。

 

 慈悟郎が駆け寄ると、いい加減飯を食わせてくれ、と少年が蚊のような声で訴える。

 

 もう、太陽は真上を通り過ぎる、昼過ぎだった。

 

 そんな訳で冒頭の飯屋にいるのだ。

 

 飯屋に入るなり、少年はなにか食い物! と、かなり大雑把な注文をする。店員が困惑し、そのため、慈悟郎は少年の頭を殴った。

 

「何すんだよ! じじい!」

 

 後頭部をさすりながら抗議する少年に、これから選べとお品書きを渡すが、少年は眉を顰める。

 

「文字、読めねえよ」

 

 今度は慈悟郎が気まずい表情を浮かべる。それなら、と茶漬けを注文する。

 少年は痩せ細っている。ある程度の肉はついているが、圧倒的に栄養が足りていない。渡した握り飯も何度も噎せながら食べている。よって、消化の良い茶漬けを注文した。

 簡単な茶漬け故に、調理時間も早い。

 

 すぐに運ばれた茶漬けを少年はかき込んだ。

 普段は作法に厳しい慈悟郎ならば、再びげんこつが飛ぶだろうが、そんな暇もないほどに流し込んでしまった。

 

 そして、じじい、死ぬほど食わせてくれるって言ったよな? とにやけた笑みを浮かべて少年は確認し、追加で10杯も茶漬けを注文する。

 

 慈悟郎は一杯ずつだ、と言うと、少しだけ残念そうな顔をして、一杯ずつ食べていき、結局、34杯もの茶漬けを食べ終えた。

 流石の慈悟郎も顔が引きつった。

 

 

 ☆

 

 

「食った食った」

 

 腹を押さえて少年は一息つく。

 

「だろうな」

 

 慈悟郎も思わず相づちを打つ。

 場所は変わって、慈悟郎の家を兼ねた道場の縁側で少年は慈悟郎の煎れた茶を飲みながら、一息ついていた。

 日頃から大金は持って慈悟郎は歩いてはいないが、安い茶漬けであったのが幸いだった。どうにか金は足りた。

 足りなくても、連絡して貰って、藤の家や今も近くにいるだろう隠から金を借りることは出来るだろうが、いくらなんでも体裁が慈悟郎にもある。

 

「さて、お前さんの話を聞かせてくれるか?」

 

 落ち着いたところで、慈悟郎は切り出す。

 本来はすぐにでも、少年に聞き出したかったが、少女のことがあったし、飯屋では表の人間ばかりだ。だから、場所を移して自宅に招いたのだ。その間も、少年が僅かでも殺気を慈悟郎に向ければ、抜刀できるよう鯉口に手を掛けていたが。

 

「話ぃ、俺の話なんて聞いても面白くも――」

 

 その言葉は最後まで続かなかった。

 一瞬で慈悟郎が抜刀し、少年が持っていた湯飲みの底を切断したからだ。底が抜けた湯飲みから茶がこぼれ落ち、少年のズボンを濡らす。温めの茶であったため、火傷の心配はしていない。

 

「いいから、聞かせろ」

 

 慈悟郎の一撃は、現役の頃と劣っていない。

 剣術は五体満足ではじめて威力が発揮できる。剣術とは、全ての筋肉と関節を限界まで酷使して使用する。故に、片足を失って現役を退いた。更に、老いもある。体を動かせば肉と関節は硬くなり、しなやかな動きができない。だが、それでも一度身についた技術は衰えることはない。右足が失われ、老いてなお、至近距離なら現役と同じものが放てる。

 そして、醸し出す殺気も、鋭かった。

 ずっと、奴らとの死線の中に身を投じ、研ぎ澄まされた、半世紀を掛けて磨かれた刃のような殺気。並の人間なら、気絶する。奴らでも、縮こまるような殺意であった。

 

 だが、その殺気を受けても、少年は湯飲みに視線を注いでいた。

 

「あー!! もったいねぇ!!!」

 

 大声をあげ、中身が殆どこぼれ落ちてしまったため、湯飲みに残った雫をなめ、床にこぼれたお茶を啜ろうとする。

 これには慈悟郎が片眉を上げ、止めた。

 

「みっともないまねはやめろ。新しい茶を入れてやるから」

 

 道場の隅に置いてある掃除道具を持ってきて、こぼした茶を拭き、壊れた茶器を片付ける。ついでに、少年は衣類は布きれになっていたズボンと、裸体をさらしていたため、慈悟郎の上着を着ていた。よって、上着はかなり小さかった。

 慈悟郎は弟子が出来たときのために用意していた胴着を、持ってきた。

 だが、

 

「お前、それは左前だ!」

 

「左前?」

 

「死人が着るときの作法だ!」

 

 上着の着方もわからず、一から教える。

 

「だー!! 袴の結びが滅茶苦茶だ! こうだ!」

 

 袴をはかせると、紐の結びは見たこともない結び方で、本来、手本を見せても代わりに慈悟郎がやることはない。だが、あまりにも不慣れで慈悟郎が代わりにやってしまった。

 

 結局、一応の格好が整うまでに一時間ほど掛かってしまった。

 

 荒い呼吸をつき、慈悟郎は少年を睨む。

 聞けば、着物を着たこともなく、見たことも殆ど無いとのことだった。

 

 とりあえず、落ち着き、再び縁側でお茶を飲む。

 

「お前は……名前を聞いていなかったな? お前さん、なんて名だ?」

 

 慈悟郎は腰に刀は差したままだが、鯉口には手を掛けていない。馬鹿らしくなってきたのだ。本来、慈悟郎は人間であっても初対面の相手に手を差し伸べない。だが、この少年があまりに物を知らず、ついつい手が出てしまった。その気になれば、慈悟郎を害する機会は何度もあった。しかし、そればかりか、少年から殺意どころか敵意も感じない。そんな相手にずっと警戒する自分が一番馬鹿らしくなったのだ。

 

「デンジ」

 

「そうか、いい名だ」

 

 珍しい名前だ。金色の髪であるから、日本人の血が薄いのかも知れない。

 

「はじめて言われたぜ、良い名前なんて」

 

「デンジ、朝のあれは、お前さんのあの姿は、なんだ?」

 

 慈悟郎はデンジと付き合いは今朝からだが、一通り、この少年のことは理解できた。

 デンジには学がない。常識も無い。しかし、頭は良い。そして、着物や食い物、身の回りの世話をしてくれる者には、利があればついていく。つまり、処世術に長けている。

 だからこそ、腹の探り合いをするよりも率直に尋ねる方がいい、と思い切り出した。

 

 しかし、デンジは一転、手元の湯飲みをのぞき込むような、茶に映った水面の顔を見つめる。

 

「あー、俺もよくわかんねぇ。飼ってた悪魔が俺の心臓になったみたいで、それでこの胸の紐を引いたらあの姿になる」

 

「悪魔?」

 

 デンジは頷いた。

 

「デビルハンターやってたんだよ。親が借金して、そんでヤクザが紹介する悪魔を狩って、生活してた」

 

 聞けば、デンジの親はデンジが幼い頃に借金を残して死亡。そして、金を貸していたヤクザはデンジから金を取り立てていたそうだ。デンジはヤクザが持ってくる依頼をこなして生活していたらしい。

 

「……デンジ、そのヤクザは」

 

「悪魔の力が欲しくて、ゾンビになって、俺が殺した」

 

 一息にデンジは茶を飲み込んだ。

 

「――デンジ、質問に答えろ。その悪魔って存在は、太陽の光で死ぬか?」

 

「あー? 悪魔が太陽で死ぬわけねえじゃん」

 

 慈悟郎の質問に、怪訝そうに、太陽が東から昇るか? と当たり前のことを聞かれたように、デンジは話す。悪魔が太陽で死んだら楽で良い、いや、ポチタも太陽で死んだら困る、とそんな風にデンジは思いながら茶をなめる。

 

「じゃあ、質問を変える。悪魔は、お前さんがやってた『でびるはんたー』って仕事は一般的なものか?」

 

 慈悟郎の質問に、腕を組んでデンジは悩む。

 

「んー? 誰でもできるわけじゃねえな。悪魔はつええし、俺もいずれ死んでただろうし。でも、儲かるな。一体殺しゃあ大体30万だ」

 

「30、ま、ん?……そりゃ円か?」

 

「そりゃ、30万円だろ?」

 

「……お前、借金いくらあった?」

 

「だいたいだけど、3800万くらい」

 

 慈悟郎は悟られないように茶を飲んだ。

 二人は知らないが、認識に大きな隔たりがある。

 大正時代、つまり、慈悟郎の時代は大卒サラリーマンの初任給が50円の時代である。

 

 それからも、慈悟郎の質問にデンジは答える。

 

 一通り答えると、慈悟郎は押し黙った。

 

「あー、俺からも聞いていいか? 爺さん」

 

「……儂の名前は慈悟郎だ。何だ?」

 

「なんでこんな生活してんの? 金ありそうなのに、車ももってねぇし――あ? いや、そういや、なんでこの町、車走ってねぇんだ?」

 

 デンジは腕を組む。

 慈悟郎の家は屋敷と呼ぶべき大きさだが、全てが古めかしい。お湯もわざわざ竈門で湯を沸かしていた。古くからある屋敷かとも思ったが、所々増築のあとがあるが、数年以内に行われている形跡だ。それに、移動はすべて脚だ。慈悟郎は義足であるし、これくらいの屋敷を持てる財があれば、自動車の一台でもあってもおかしくはないのに。そればかりか、慈悟郎とともに入った食堂はある程度の大きさで、客もかなり入っていたのに、隣接する駐車場はなかった。そもそも、この町を歩くが、車とすれ違った経験も無かった。

 

「車? 人力車のことか? そりゃ――」

 

 慈悟郎は眉を顰めた。何かが繋がった。

 

「デンジ、お前が過ごしてたことを教えろ。町の様子とか、どんな暮らしをしてたか、教えてくれ」

 

「あー、さっきからなんだよ、爺さん。女の子に聞かれるならなんでも教えるけどよ、こんな爺に聞かれても――」

 

 面倒くさそうに、いい加減飽きてきたとばかりにデンジは寝転んだ。

 

「そういえば、湯煎堂の羊羹がここにあったのぅ」

 

「なんでも聞いてください」

 

 戸棚から、前に鍛えた弟子が持ってきてくれた羊羹を取り出すと、デンジは正座して姿勢を正した。

 

 デンジは羊羹を頬張りながら、慈悟郎の質問に答えていく。

 

 そうして、慈悟郎はデンジと正面から向き合った。

 

「デンジ、よく聞け。お前さんにはちょっと、いや、かなり辛い話をするぞ」

 

 深刻そうな表情を慈悟郎は浮かべ、デンジもその表情から察して、居を正した。

 

「お前さんは、この世の人間じゃない」

 

 

 ☆

 

 

「何寝言いってんだ? 爺」

 

 真面目そうな顔をして、慈悟郎が切り出した言葉に、素直に言ってしまった。

 慈悟郎からげんこつがデンジの頭に叩きつけられた。

 

「話を聞け」

 

 悪魔と戦って怪我をしたときも、臓器を売り払ったあとに麻酔がきれたあともここまで痛くなかったと思いながら、デンジは頭をさすりながら座り直す。

 

「勘違いするな。お前さんは生きてるし、ここはあの世ではない。だがな、お前さんが今まで生きてた世界とあまりに違いすぎる。だから、お前さんが住んでいた世界じゃないと言ったんだ」

 

 そうして、慈悟郎が財布を取り出し、一枚の札を見せる。

 

「これは一円札だ」

 

「いちえん!? 一円にも札があんの?」

 

「ああ、お前さんからすればはした金……でもないだろうが、これでパンだったらかなりの数が、一週間分は買える」

 

 デンジは耳を疑った。一円で一週間分の食費がまかなえるのだ。一ヶ月1800円で暮らしていたが、それならば、どんな美味いものを食べてもお釣りが来るだろう。

 

「けどな、元々が安い。もしも、悪魔を狩っても、せいぜい70円くらいだろうな」

 

 その言葉がデンジを落胆させた。

 一回の仕事で70円、借金を返すまでに何回戦えばいいのか。そして、金銭事態が安いのか、と理解して、その落胆は余計にひどかった。だが、その落胆はこれから聞かされる言葉と比べれば、なんてことはない衝撃であった。

 

「ここに、悪魔は存在しない」

 

「は?」

 

「いないわけじゃない。悪魔、と呼ばれる存在はいる。だが、空想の中だ。そういった者はおとぎ話だ。この世に、何かしらの抽象的概念だろうと、存在しないものだろうと、それを司り、人の恐怖心によって強さを増す悪魔と呼ばれる異形は、過去と現在において、確認されていない」

 

「でもよ、昨日、俺が戦ったのは……」

 

 デンジの脳内に浮かぶのは、昨晩森の中で対峙した、一体の異形。

 何故かデンジを同じ存在だと勘違いしていて、デンジも疲れ切っているし、あっちが無警戒なら好都合だったので、さっくりと殺した異形。

 人を襲ってるようだし、逃げる女の子に人の頭を投げつけて、脚を食っていた。どう考えても悪い奴だし、それにデンジに襲いかからない保証もない。第一に、あの襲われていた女の子は、将来美人になりそうだった。

 

「ああ、だが、全てが空想ではない。この世界にはな、デンジ――――」

 

 ゆっくりと呼吸をし、慈悟郎は告げた。

 

 「――『鬼』がいる」

 

 奴ら――人を襲い、人を食らい、そして、闇夜に紛れる異形の存在。

 そんな連中がいる。

 

 「儂はな、そんな連中を狩っていた鬼狩り――鬼殺隊の一人だった」

 

 じっと、慈悟郎はデンジの顔をのぞき込んだ。

 

 

 

 「デンジ、鬼殺隊に入らんか?」

 

 

 

 




 大正チェンソーこそこそ話

 慈悟郎さんは獪岳や善逸の前にも弟子がいたけど、全員鬼との戦闘や入隊試験で敗れて死んでしまいました。(オリジナル設定)
 でも、弟子がはじめての給金で買ってくれた羊羹は保存が利くギリギリまで取ってありました。

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