恐怖! チェンソーマン VS 鬼 !!   作:今日は晴れ

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軍靴のバルツァー大好き!


第五話 デンジ修行日記・全集中の呼吸

 デンジは走っている。

 ただ走る。走る。走る。

 桃の花や実が同時になっている不思議な山を、駆けている。あたりには、熟した桃の甘い香りが漂い、淡い桃の花が目を楽しませてくれるが、デンジにそんな風情を楽しむ余裕は一切なかった。

 

 脚を交互に動かし、一目散に走っていた。

 額から汗が流れ落ちるが、そんなものは気にも留めずに、ただ駆けていた。

 

「ほれほれ! どうしたデンジ!? 速度が落ちて居るぞ!」

 

 デンジは、目の前を走る慈悟郎の背に手を伸ばして、駆けている。

 慈悟郎の肩から白いたすきが後方に流れている。あまりの慈悟郎の速さに、たすきはまっすぐに地面と平行に伸びて、地につくことはない。

 

 時折、デンジがそのたすきに手を伸ばして、あと少し、という距離で慈悟郎の速度が速まるか、急に曲がって、デンジの手は空を切る。その都度悪態をデンジはつくが、慈悟郎の速度が緩まることはなかった。

 そのため、疲れからか、デンジの走る速度が落ちる。と、慈悟郎は声をかける。しかし、労りではなく、デンジを小馬鹿にするような、煽るような内容であり、デンジは顔を赤くして速度が戻るが、一切追いつけなかった。

 

 そうして、30分あまり慈悟郎との追いかけっこが続き、デンジが飛び出していた木の根に足を取られ転倒する。

 顔面から盛大に着地するが、一瞬の鋭い視線――殺気を感じて横に飛び退いた。

 

 一拍をおいて、山中に銃声がこだました。

 

 慈悟郎は、ただ、右足――義足の足底に穴が空き、そこから白煙――硝煙が上がっていた。

 さきほどまでデンジが転倒して倒れていた場所には穴が空き、銃痕がつけられている。

 

「あっぶねぇな!? ジジイ!! かすったぞ、いまの弾!」

 

 長時間、走っていたため荒く呼吸をつき、泥が衣類について寝転がった姿勢のままにデンジが叫ぶが、撃った本人である慈悟郎は近くの切り株に腰を下ろしている。義足を外して、腰に提げていたポーチから弾丸と手入れ道具を取り出して、仕込み銃の発射装置の手入れを始めた。

 

「当たり前だろう。殺す気で撃たん馬鹿がどこにいる」

 

 その後、五分休憩とやる気がなさそうな口調で慈悟郎が話し、今度こそデンジは全身の力を抜いて地面に大の字に倒れた。

 

 ☆

 

 デンジを本格的な修行、の前に慈悟郎と歩いたのは2ヶ月も前の話である。

 

 デンジの持久力が足りていないのは前話の通りであるため、最初はデンジの持久力、つまり体力を上げる基礎訓練から始まった。

 

 これは鬼滅の刃原作で、最終決戦前の柱稽古でもあったことだが、走り込みや筋トレが主である。

 ただ、通常とは、量が違った。走り込みは朝昼夕の一日三回に街を一周、つまり、30km、の三回、計90kmを走る。走ってきたあとは、木刀というより、ただの丸太の千回の振り下ろしだったり、岩を背中に乗せて腕立て伏せや、持ち上げ動作を何百回と行ったりしていた。

 

 

 デンジにとって鍛錬は楽ではなかったが、苦ではなかった。そもそも、デンジが体を鍛えるとは、無駄に体力を消費することであり、何かと兼ねて行うべき行為であった。そんな認識だから、体力を体を鍛えるためだけに消費するのは、今までの貯蓄を散財するようで、後ろめたさと同時に一種の清々しさを兼ね揃える、背徳的行為であった。

 

 それに、生活自体は変わっていない。

 食事は一日三回、満腹になるまで食べられる。最近は満腹だとそのあとの鍛錬が苦しく、腹八分目に抑えるなんて贅沢だってしていた。

 慈悟郎に覚えさせられた家事も、鍛錬が始まると、朝方と午前中に行って、あとは慈悟郎がやってくれた。

 家事に割いていた時間が鍛錬に変わっただけである。

 

 しかし、そんなデンジでも、一つだけ耐えきれないものがあった。

 

 それは――

 

「だー!! ジジイ、ついてくんなぁ!!」

 

 朝の鍛錬、走り込みの最中のデンジの前を、慈悟郎が走っていた。

 どちらかといえば、デンジがついて行っているのだが、デンジからすれば慈悟郎がついてきてるのだ。

 

 慈悟郎は右足が義足とはいえ、元、鬼殺隊の幹部である柱。これくらいの距離を走るなど、朝飯前である。実際、朝は朝飯前、食事前に走っていたが。体を鍛えたことのないデンジも、最初は辛くとも、一週間で慣れてこなせた。

 

 

 走り込みで、デンジがサボらないように慈悟郎の監視が常にあった。それが、耐えがたい。監視があることではない、慈悟郎と一緒に走るのは勘弁して欲しかった。できるなら、とある通りだけでもいいから別ルートで走って欲しい。

  別に慈悟郎の後ろにデンジがついていくと決まってはいない。デンジが慈悟郎を追い抜かせばいいのだが、慈悟郎も対抗意識が強く、デンジが追い抜けばすぐに追いつき、越され、結局は競争になる。よって、最終的に体力が勝る慈悟郎にデンジは敗れるのだ。

 

 だから、慈悟郎を追い抜けるよう、頑張った。努力を重ねた。

 

 最初は慈悟郎よりも足を速く動かす。滅茶苦茶に速く走る。

 それは当たり前だが、すぐに慈悟郎と短距離走のようになり、体力のないデンジには勝てない。バテたデンジは慈悟郎に殴られる。

 

 次の作戦は、慈悟郎が起きる前に家事を済ませると、早く走り始めた。それでも、慈悟郎が後ろから走ってきて、デンジを追い抜いた。終わったあと、断りもなく、走り始めるな、と殴られる。

 早く起きて時間をずらしても、勝てなかった。そんな時に、ひらめいた。慈悟郎から家事を仕込まれた経験を思い出した。

 

 生活をはじめた当初、デンジのこなす家事の量が多く、時間通りに終わらせるのは酷であったが、慈悟郎は時間通りに終わらせるようにさせていた。

 デンジはできるわけないと投げ出しそうになったが、慈悟郎はよく動きを見ろと言われ、無駄がなく家事をする慈悟郎をみて、それを真似た。

 無論、始めは同じ動きは不可能だったが、慣れてできると、時間通りに終わった。

 

 つまり、デンジは自分の動きに無駄が多いと気付いたのだ。

 

 よって、デンジは走る慈悟郎を観察した。

 

 慈悟郎はどのように動いているか――どのように手足を出しているか、重心の移動から、呼吸方法まで、つぶさに確認して行う。

 

 一週間目は、余計に疲れたし、距離も縮まらなかったどころか開いて、慈悟郎から遅いと殴られた。

 

 二週間目は、慈悟郎の走り方が義足を、足を庇っているフォームだと気付いて、走り方は真似できないと理解し、真似できそうな呼吸法に重点を置いた。

 

 三週間目で、慈悟郎とずっとどちらが先頭に行くか、勝負になっていった。

 

 四週間目、半分以上、デンジが先頭を走った。

 

 その次の日、慈悟郎から荷物をまとめるように言われた。

 てっきり、最終選別に行けるのかとデンジはウキウキして荷物をまとめていたが、慈悟郎は屋敷の門を閉めて、山にいくぞと歩き出した。

 

 最終選別じゃないのか、と尋ねたデンジは、慈悟郎に殴られる。

 これからが次の修行だと言って、慈悟郎に連れられ、デンジは桃の実と花が一年咲き乱れる裏山を登っていった。

 

 それが一週間前のことであった。

 

 慈悟郎とデンジが生活を始めて二ヶ月、デンジの体ができあがったのだ。

 

 驚異的な成長力であり、今までの鍛えた弟子でも、デンジは群を抜いていた。

 

 ☆

 

 デンジが独自に全集中の呼吸を修得していたのは、慈悟郎にとって驚きだった。

 

 慈悟郎はしかるべき時が来たならば、デンジに全集中の呼吸を習得させるつもりだった。

 

 全集中の呼吸は鬼殺隊士にとって必須である。

 人間の身でありながら、鬼と互角に渡り合える身体機能の大幅な向上が見込める呼吸法――『全集中の呼吸』。

 それなくして、鬼と戦えない。

 

 しかし、教育にも手順がある。

 隊士に育てるといっても、最初から呼吸は修得させない。第一に、覚えさせようとしても、鍛えていない人間の肺は小さすぎる。肺が小さいのに、酸素を大きく取り込み、心拍数を増加させる全集中の呼吸を行えば、肺――肺胞に負荷がかかり、間違いなく卒倒する。否、気絶ですめばいい。下手をすれば殆どの肺胞が破れ、肺が血で満たされ溺死するか、一命を取り留めても、剣士どころかまともに生活できなくなる可能性が高い。

 

 しかし、デンジは全集中の呼吸を会得した。それも、慈悟郎の動きを見て学ぶ、見稽古でだ。だが、デンジが凄まじい才能だったり、知性が群を抜いている、といった訳ではないと慈悟郎はわかっていた。

 

 今までの弟子の中にも、見稽古で全集中の呼吸を修得する者は存在したし、そういった者の呼吸は、自らのレベルに合わせている自己流の呼吸で、デンジもその例だ。

 大抵はほんの少しだけ、身体能力が向上するか、もしくは心肺に多分な負荷が掛かって、悶絶する。

 危険な場合は即座に止めるが、正しく呼吸できないからこそ、僅かな向上や悶絶といった程度に収まり、そういった者の呼吸を矯正するのも育手の仕事である。

 

 デンジも呼吸自体は正しいので、僅かな向上に止まる。その時、はじめて全力を出してデンジの鼻をへし折ってやると慈悟郎は考えていた。

 

 だが、慈悟郎も予想だにしなかった方向に進む。

 

 デンジの呼吸は、日に日に正しく、そして、身体機能も大幅に上昇していったのだ。

 

 ありえないことだった。

 全集中の呼吸を無意識に修得している者もいるが、それは体の基礎ができあがっていて、正しい呼吸を理解して身につけただけ。そもそも、どんな者でも最初は肺を大きくしなければならない。そのために、ただひたすらに鍛え続ける必要がある。デンジのみならず、弟子たちに鍛錬を課しているのもそのためだ。そして、デンジは呼吸を修得するほどの段階ではなかった。

 

 だが、デンジの全集中の呼吸は正しい呼吸となり、まして、それで訓練をすることによって、大きく身体機能が伸びるなど、ありえない。基礎ができていないのに、応用ができて、その応用を活かして基礎ができあがるなど、聞いたことがない。高等技術である常中を会得しているのか、と思ったが、デンジは鍛錬の時にしか全集中の呼吸をしていない。

 

 ならば、理由は一つしか考えつかなかった。

 

 ――デンジの心臓が『悪魔』の物であるからだ。

 

 デンジの呼吸機能など以外、身体機能は常人となにも変わらない。ならば、呼吸機能――臓器が違うだけの話だ。

 

 そもそも、思い返してみれば、慈悟郎はデンジが筋肉痛を煩った様子がないことも気がついた。

 

 今までの弟子たちは、基礎訓練を始めた一週間目の朝、筋肉痛で悶絶して寝床から起きてこない。だが、デンジは基礎訓練をはじめてから、朝は平然と起きて炊事をしていたし、なんなら、全集中の呼吸を行いはじめてからも同じである。

 

 デンジの心臓が――血液を送り出す器官が悪魔のものであり、全身に送られる血液――酸素が筋肉や臓器になんならかの影響を与えているのか、と慈悟郎は推測するが、医者でも学徒でもない、一介の剣士である慈悟郎にわかるはずもない。

 

 ただ、事実がある。

 

 デンジは一ヶ月で全集中の呼吸を修得し、一ヶ月で基礎訓練を終え、そして、それから一週間で、バテていた。

 

 大の字になって伸びている。

 

 慈悟郎がたすきをかけ、デンジがそのたすきを取るのが修行である。

 この桃が咲き乱れるのは、慈悟郎が、歴代の雷の呼吸の使い手たちが所有していた山だ。

 

 一年中、桃の香りと見目麗しい花々に囲まれているため、桃源郷と呼ぶ者もいる。もしも、一般に開放されれば良い観光地になるだろう。

 

 だが、この山の至る場所に罠が設置され、常人であれば死んでもおかしくない場所であった。

 

 その山で、慈悟郎とデンジは追いかけっこをしている。

 デンジはまだ始めたばかりであるから、罠はあまり設置されていない。だが、すぐに油断をして木の根に足をかける。時には落とし穴に落ちる。

 そうした場合、容赦なく義足の仕込み銃で慈悟郎は撃った。

 

 慈悟郎の右足の義足は軍からの払い下げ品だが、どういうわけか仕込み銃がついていた。

 散弾銃で二発しか撃てないが、なかなか使い勝手が良かった。

 

 デンジは油断が多い。否、一度緊張の糸が緩んでしまったのだろう。あったばかりの頃は、飯を食わしてくれると暢気に慈悟郎についてきたが、常にどこかは警戒しており、獣のようであった。

 だが、平穏な、戦いのない生活でデンジは一気に緩んだ。緊張の糸がなくなったといっても過言ではない。

 

 だから、それを思い出すため、デンジが体勢を崩したり、少しでも隙を見せれば仕込み銃で容赦なく弾丸を撃ち込む。

 

 そんな鍛錬をしていて、慈悟郎は嘆息をついて、デンジに声をかけた。

 

 

「なぁ、デンジよ」

 

 手入れを終え、右足をはめながら問いかける。デンジは呼吸するばかりで顔をあげなかった。

 

「お前、なんでそんなに弱くなった」

 

 慈悟郎は話す。その口調は、少しばかり怒気が込められていた。

 

「儂をなめるな。お前さんは修行を始める前の方が、基礎訓練の方が何倍も張り合いがあった。それに、呼吸が元にもどっとる。どうしてだ?」

 

 デンジの訓練中の呼吸は元の、全集中の呼吸ではない。普通の呼吸であった。それを咎めていた。この訓練は一日で終わってもおかしくないのだ。

 それが、一週間経っても終わっていない。それを咎めていた。

 

「いや、あれ疲れるし」

 

 デンジの頭をひっぱたく。

 

「馬鹿者!! どこに疲れるからなんて理由で底上げしない馬鹿がいる!!? デンジ、お前それだけじゃないな! なぜ修行に身が入らない!!!」

 

 慈悟郎の怒声が山に響き渡った。

 山々に響き渡る怒声だ。

 

 それに対して、デンジは両手をついて上半身を起こした。

 

「……なんでかってか? …………ジジイ、それはなぁ」

 

 ひどく濁った目、恨みすら籠もった目で、デンジは慈悟郎をみつめ、そして、

 

「女の子ォォ!! いねえぇじゃん!!! こんな山ン中でぇぇぇ!!!」

 

 デンジは地面を両手で叩きながら叫んだ。両目から、滝のような涙を流しながら。

 

「せっかく、ジジイに追いつけるようになって、ちょっとは見る目が変わったのに! ジジイと何が悲しくて山ン中を駆けずりまわらなくちゃなんねぇんだよ!!!

 クソな生活変えたくて努力したのに、待ってたのが特大級のクソだったなんて、クソだぁぁぁぁ!!」

 

 それは、デンジの悲痛な叫びだった。

 すべては、女学生からの見る目を変えるために努力したのだ。

 今の生活は満足できたが、一つだけ、デンジには不満なものがあった。

 

 それに気付いたのは、ある晩のことだった。

 

 日々の鍛錬に追われながら、布団の中でポチタとの契約を、約束をデンジは思い出した。

 

『……これは契約だ

 

 私の心臓をやる

 

 かわりに――デンジの夢を私に見せてくれ』

 

 悪魔との契約は絶対だし、なによりも、家族からの願いだった。

 

 でも、夢を叶えた――とは胸を張っていえるか、と疑問符がつく。もちろん、今の生活に満足できている。しかし、何かが足りない気がした。

 

 そこで気付いた。

 

 女が足りない、と。

 

 今までの生活で諦めていたが、今の状況ならワンチャンスあるのでは、とデンジは思った。

 昔、女とイチャイチャして抱かれながら寝たいとポチタに語っていたが、女とふれあう機会なんてなかった。あるわけがなかった。けれど、生活が変わってた。だが、身近にいるのは慈悟郎という老人で、女とふれあう機会は依然としてない。

 

 しかし、完全にないわけじゃない。

 

 それは鍛錬――走り込みのときだ。

 

 基礎訓練において、一日三回の走り込みは、決まった時間に走っている。その道順も決まっていて、そのルートは女学校の前を通っていた。

 近隣では一番大きな女学校で、若い女性が大勢通ってくる。

 

 デンジは朝昼夕の三回に走る。つまり、女学生の登校、下校時間に合致していた。

 

 最初は、多くの女学生から視線を浴びているのはよかった。良くも悪くも、注目されるのはデンジにとって心地が良い。しかも、若い女性なら、なおのことである。

 だが、デンジと慈悟郎の二人が微笑ましく笑われていることに気付くのに、時間は掛からなかった。

 女学生たちの視線が、祖父の運動に付き合う孫を見るような温かい視線ならまだよかった。しかし、常にデンジは慈悟郎の後ろを走っているのが問題だった。老人の後ろを走って追いつけない――そんな若者にかけられる、自分の運動に祖父を付き合わせるという、慈悟郎には尊敬の、デンジには軽蔑の視線に耐えきれなかった。

 朝、起きるのを諦めたのも、そのためだ。そんな早朝では女学生の誰も登校していないことに気付いた。デンジは軽蔑の視線が嫌なだけで、女学生に会うのが毎日の楽しみであった。楽しみのために、楽しみを犠牲にするのは嫌だった。人生で一番嫌なことかもしれない。

 

 デンジはまだ16歳である。だが、内面は驚くほどに幼い。そんなデンジは、まだ視線に耐えきれるほど、強くはなかった。

 

 だから、デンジは慈悟郎を追い越し、女学生たちから心地よい視線をもらうために全集中の呼吸修得するまでに至ったのだ。

 

 それと聞いた、慈悟郎は、なんというか、ともかく微妙な表情をしていた。

 

 今まで、自己流で全集中の呼吸を修得した者でも、こんな理由はいなかった。

 怒りもなにもかもを通り越し、慈悟郎は言葉がでなかった。

 

「……………………語彙力ないな、デンジ」

 

 とにかく、クソな事態にクソな結果でクソだという、弟子の語彙の少なさにそんな感想が漏れた。

 

 ちなみに、今でもデンジは泣いている。

 

 大きな、特大級の嘆息をつき、慈悟郎はその場を離れ、戻ってきたときには、一枚の手紙が握られていた。

 

 それをデンジの前に置いた。

 

「デンジ、それを読め」

 

 一通り泣いたデンジは、鼻を啜りながら手紙を開く。

 桑島慈悟郎さまと達筆で書かれた手紙だった。

 基礎訓練中、一週間に一度、その日は鍛錬の量が半分になって、この世界の文字の読み書きを慈悟郎からデンジは教わっている。元の世界でも、ひらがな、カタカナ、それと簡単な漢字の読み書きはできていたから、それほど難しくなかった。今では日常の手紙程度なら、読めるくらいになっている。

 

 その手紙を開き、読み進めていく内、デンジの目が開かれ、充血していた目は血走るように、食い入るように、手紙を見つめる。

 

 デンジは思い切り顔をあげ、

 

「ジジイ、いや、師範!! マジか!? これ、マジかああ!!?」

 

 悲しみの涙から一転、喜びのあまりデンジは泣いていた。

 こんな時だけ師範と呼ぶなと思いはしたものの、鷹揚に慈悟郎は頷く。

 

「ああ、マジだ、おおマジだ」

 

 なお、マジという言葉は江戸時代からあるため、慈悟郎も普通に使う。一般的になったのは1980年代からだが。

 

「デンジ、この修行を終えられたら、内弟子として連れてってやる、だからな――」

 

 慈悟郎の言葉は最後まで続かなかった。

 

 駆動音が鳴り響き、そして、血が噴き出し、肉を割る音――デンジの頭からチェンソーが伸びる音だった。

 

 そして、慈悟郎がいた場所に、デンジは飛びかかる。もしも、慈悟郎の判断が遅ければ、慈悟郎のたすきをデンジが取っていただろう。

 手からはチェンソーが伸びていない。デンジは疲労回復のためにスターターをひいて、チェンソーを生やしたのだった。

 

「ジジイ、こっからは 本気(マジ)だぜぇ……」

 

 デンジはそういって、全集中の呼吸をおこなう。

 

 風にのって、デンジが読んでいた手紙が飛んでいったが、誰もそれに気に取られなかった。

 その手紙の送り主は、デンジたちが鍛錬で前を通っていた女学校からで、女学生の剣術指導の指南役として、慈悟郎に来てくれないか、との依頼の手紙だった。

 

 デンジの鍛錬は、今、本格的に始まる。

 

 




 慈悟郎の事を知ろう!

 1、料理の味付けとお茶の温度が教えた通りじゃないと殴るぞ!

 慈悟郎「茶がぬるいわ!」ゴンッ

 2、説教は軽く一時間は話すぞ!

 慈悟郎「だからお前は~~」ウンタラカンタラ

 デンジ「……」ガックンガックン

 3、風呂は一番風呂じゃないとキレるぞ!

 慈悟郎「誰に断りなく入ってるかーー!!」スパーン

 4、礼儀作法に厳しいぞ!

 近所の住民「こんにちは-」

 デンジ「チャース」

 慈悟郎「なんじゃその挨拶はーー!!」ドゴンッ

 5、実はデンジのイタズラを知っててやられているぞ!

 デンジ「(くっくっくっ、明日、起きたらジジイの傷がもう一本増えてるぜ)」

 慈悟郎「…………」グーグー

 慈悟郎「…………」

 慈悟郎「……まったく、馬鹿弟子が」ハァ

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