時間にして約30分が過ぎようとしていた。
実験という名目での雑談会。指示書の言葉を意図的に使う点で雑談かどうか怪しいが、弱音はあまり気にならなかった。
そこまでリラックスしていたかどうかは分からないが、ある意味違和感のない環境であったということだろう。
大股二歩ぐらいの間を挟んで座る少女。
今回の全ての元凶であり、最大の被害者。
だが会話をしていくにつれて、そのような後ろめたい肩書きなど気にならなくなっていた。
その要因こそ、彼女がもつ性質だ。
初めこそ、お互いまだ初対面としか言い様がない関係性なため、彼女自身遠慮や気恥ずかしさが見て取れていた。
しかし、学校生活や趣味、その他の高校生らしい会話を重ねていくうちに次第と口数が増えていったのだ。
自己評価として、弱音はコミュニケーション能力は決して高くないと自負している。
そのため、彼女が楽しそうに話していることは、彼女自身がもつ性格や性分なのだろう。
誰にでもすぐ打ち解け、気にかけない程度にパーソナルスペースへと入り込んでいく。
弱音とは真反対の性質。
事件と発端となった橋にて彼女の現状を語ってくれたことを見る限り、初対面であってもぐいぐいとしゃべる子だということか。
彼女との会話が一区切りしたのを感じて、弱音は一度深く椅子に座り直す。
腰を浅く座り天井を見るような姿勢で一息つく。
いくらは話しているだけとはいえ、矢張り疲れるものは疲れるのだ。
しかし倦怠感こそあれど、不思議と不快感は湧いてこない。
これが無意識にも会話を楽しんでいたということに、弱音は気がつかないのだ。
このほんわかとした状況で本来の目的を忘れそうになり、再度紙飛行機として渡された紙を流し見る。
指示書とは言っても書かれているのは単語だけだ。
学校生活、家族、趣味、運動、悩み
専門用語のせもない、ごくごくありふれた言葉達。
美玲曰く、言葉を使って無意識を刺激することで原因となるアーキタイプを浮き彫りにする。
言い換えれば、言葉によってアーキタイプを故意に呼び起こすということ。
人間は酷く傷つきやすい生き物だ。
自ら生み出した言葉という非物質的なものによって、体に害がでるほど弱ったり、最悪死に至る行動を起こすトリガーともなる。
雑談会とはいえ、これはれっきとした実験。
目に見える外傷がないだけであって、これは彼女の心の傷をえぐり取り、それを露わにする行為。
どのよな言葉で飾っても、今行っているのは彼女の触れられたくない、闇の部分を垣間見る作業なのだ。
『やあやあ少年、楽しんでいるかい?』
ネガティブ思考に陥る寸前のところで、美玲から連絡が入る。
インカムを通しての声はテンションが高いがなぜか普段よりも覇気が足りていない、そんな気がしてならなかった。
『いやー流石だね少年。おしゃべりでお嬢ちゃんの緊張を解いてくれて感謝だね』
「・・・そりゃどうも」
『さて、他のアーキタイプのデータも観測できたとこだし、そろそろ本題に行こうか。少年、紙の下から二番目をお願いできるかな?」
インカム越しからの指示。
それに従うように、視線を下ろしていく。
そして、そこに書かれた単語は
「部活動・・・」
『そう、部活動。お嬢ちゃん曰く、これが大部分のアーキタイプの原因だからね。この話題は避けられないかな?』
「・・・・・・・」
彼女が自ら命を絶とうとしたほどに衝撃を与えた要因。
それが、一般の高校生が一度は経験するであろう部活動。
誰にだって忘れてしまいたい過去や行いをもっているものだ。
違いとして挙げるならば、それがどれほど本人の近くにあるか否かの違いだけだ。
そこに拘っていては前に進むことは出来ない。
「・・・あいつにとって最大のトラウマを持ち出すんだ。おおよその予測は出来ているんだよな?」
いとも簡単に心の傷とも言える言葉を持ち出したことに若干の苛立ちを覚えた弱音は、皮肉を込めて美玲に問いかける。
『自己嫌悪。正確にはコンプレックスから構成される自己嫌悪だね』
対して美玲は、その答えを淡々と口にする。
答えを勿体ぶる美玲には珍しい答え方に疑問を感じたが、それほど追い詰められているということなのか。
『自分のせいで周りがダメになった、自分の行いがチーム全体に悪影響を与えた、自分の不注意が元凶を作り出した。言動からしてお嬢ちゃんは自分のミスを大きく捉えているみたいだね。そしてその負の感情の矛先は誰にでもない自分自身。橋の会話からして少年も薄々気づいてはいたんじゃないかい?』
「まあなんとなく、な」
大きな答えをもらったのにも関わらず、弱音はそこまでの衝撃を受けなかった。
彼は、客観的に人を見る側の人間だ。
付属価値が第一な彼にとって、周りからの評価というものは切っても切れない関係にある。
その視線を理解するために、自分自身の心を殺してでも、主観を外からに設定する。
その彼だからこそ、咲の症状は早めに理解できたのかもしれない。
その気持ちも含めて今は無視を決め込む。
彼女を救うには、これが最短距離だからだ。
「なあ」
「はい、何でしょう?」
雑な切り出し方に、笑顔で応える咲。
先ほど同様、会話を楽しめると思っている顔であった。
その楽しそうな顔を今から苦痛に歪むと思うと、弱音の胸が締め付けらるような感覚になる。
人に過度な干渉はしない、自分で言っておきながら目の前の苦しむ少女に同情してしまう。
自分の評価に反吐がでそうになる弱音。
それでもここは無理をしてでも押し通す。
今は弱音の感情など考えてはいけないのだ。
「・・・お前の部活動について教えてくれないか?」
もう少しマシな聞き方はあっただろう。
我ながら自分の切り出しからに怒りしか覚えなかった。
しかし、だからといって遠回しにしてうやむやにするのも違うはずだ。
だからこそ、彼は真っ正面からぶつけるのだ。
これが、弱音なりの配慮であった。
「やっぱり、その話題になりますよね」
想像通りだった。
弱音の言葉を聞いた瞬間、彼女が浮かべたのは苦痛の顔だった。
眉をひそめ、見えない痛みに耐えるように唇をかむ。
しかしそれは一瞬のこと。すぐさま現われたのは、諦観の表情であった。
傷つくことは分かっていたがそれは避けられない、そんなことを理解した顔を。
「わるいな、どうしても避けられない話題なのはお前にも分かっているだろ?」
「はい、でもやっぱり心に来るものがありますね・・・」
あえて開き直る弱音に、仕方が無いという咲。
彼女は彼女なりに覚悟していたのだろう。その心持ちを無駄にしないために、弱音は咲の心に切り込んでいく。
「お前が死にたい、消えたいと思うようになった原因は部活動での大怪我、これで合っているんだな?」
『ちょっと少年、それは流石にド直球過ぎないかい?』
美玲の慌てた制止の声が耳に届くが、あえて弱音は無視する。
彼女に向き合うために、視線を彼女の目からそらさないことで精一杯だった。
「はい、そうです」
対する咲の応えは簡単なものだった。
狼狽えることも、動揺することもなく、ただ当たり前のことを確認するかのように。
「私の不注意によってバスケが出来ないほどの怪我をしてしまいました。そのことがチームに申し訳ない気持ちになって、身を投げ出そうとしました」
「なるほどな、この前に言ってたことと変わりはないんだな」
咲はあくまで冷静だった。
自分の現状を把握し、自らの行いを否定せずに正面から受け入れる。
まるで死刑囚の最後の自白のように感じるが、客観的に見ているという点では弱音と一緒だ。
だが、頭で理解できても制御できないのが感情だ。
彼女だって心の奥底に潜む悲壮や悲しみを必死に殺しているはずだ。
「でもそこまで自分を責めなくてもいいんじゃないのか?確かにその怪我をしたのはお前の不注意があったからこそだ。だけどバスケはチームスポーツ、一人がみんなを支えることはもちろんだが逆にみんながお前の穴をカバーできるようにするのが当たり前だろう。そこまで責任を感じることはないんじゃないか?」
「確かに、自分の友達やチームメイトはそうやって自分を励ましてくれました。君は何も悪くない、自分たちは大丈夫だから怪我を治すのに専念してって。だけど、どんな言葉をかけてもらっても、自分がチームに迷惑をかけたことに変わりはない。そのことでチームに取り残された気がして嫌だったんです・・・!」
平然を保とうとした咲。それでも耐えられなかったのか、次第にうつむき語気が強くなっていく。
自分の醜い感情を閉じ込めるため、またそれを悟られないように表現するため。
彼女は外見では分からない、自分の内に潜むものと必死に戦っていたのだ。
それが弱音の一言で崩落寸前にまで至る、それほど彼女は追い詰められていたのか。
自己嫌悪。
自分で自分の首を絞めるという愚かな行為だが、同時に自分で自分を罰することで精神の安定を保つ役割がある。
リストカットもそのような意味合いを持ち、現代の若者の自傷行為を増幅させている要因とも言える。
『ふーむ、やっぱりお嬢ちゃんは些か責任を感じやすい子みたいだね。一度つまずいたら結構引きずるタイプなのかもしれないね。けれどこれで自己嫌悪の線ははっきりしたね。あとはこの原因となったコンプレックスを解消するだけさ』
咲には聞こえない、インカムからの美玲の評価。
心の研究者としての言葉なのか、彼女の声にあまり感情の色は見られなかった。
実験対象の経過様子を見るような、無機質な声。
研究者としての顔を、今の美玲は見せていた。
彼女の研究者としての本気を見せられ、弱音も気を引き締める。
未知の恐怖に戦っているのは咲だけではない。
その認識を改める。
「ん?」
認識を改めたところで、弱音の頭の片隅に僅かな疑問がよぎる。
認識としては微々たるもの、しかし一度気になってしまえば中々振り払うことは難しい。
気づいてしまった以上、疑問点は膨張し無視できない代物へと変化する。
美玲は言った、咲を苦しめているのは自己嫌悪だと。
正確には、コンプレックスからなる自己嫌悪。
この原因となるコンプレックスがアーキタイプとしてETCMに読み取られ、彼女を未知の力で包み込んでしまった。
そうなると、この全ての原因となったコンプレックスを特定する必要がある。
しかし、ここで疑問点が浮上する。
自己嫌悪とは、自らの負の感情を内側に押し込んだことで発生する。
だが、よく考えてみてほしい。
そもそも自己嫌悪とはどのように陥るものなのか。
「なあ、自己嫌悪の原因についてなにか明確な原因てあるのか?」
正面に座る咲には聞こえない程度の声を、インカムに拾わせる。
『原因?それこそ怪我をしたお嬢ちゃん自身の存在じゃないのかい?』
「違う。俺が聞いているのはアイツ個人についてじゃない。普遍的な自己嫌悪の原因だ」
疑問点を早急に解決すべく、急ぎ口調で問いかける。
この疑問点は見逃してはダメだ。そう弱音の直感が警告してくる。
『普遍的か、そりゃ
「つまり、自分の目標となる姿に追いつかないからこそ発生するんだよな。じゃあよ、その理想とやらはどこから来るんだ?」
『それは自分自身の心からじゃない?』
「
研究者である美玲の言葉を遮るように、弱音は自らの結論を叩きつける。
「大抵の人間は理想を抱くとき、その姿は必ず他人の視線を意識しないか?自分がこうあるべきだ、と思うのも
これが弱音なりの結論。
他人の視線から逃れることなど出来ない現代において、自分としての価値観に苦しめられていた弱音だからこそたどり着けた結論。
人間は少なからず、周囲の環境に左右される生き物だ。
適応といってしまえば聞こえは良いが、実際には環境の変化に応じて姿や役割を強要されることと同義なのだ。
自分自身を定義する。
だが、この定義こそ曖昧で脆弱だ。
あるときは否定され、あるときは迫害される。
そうなるのなら他人の視線で縛られる方が、よっぽど正確だ。
自分自身とはこうあるべきだ。
この姿とは、自分ではない誰かが望んだ、エゴの本質そのものではないのか?
『つまり、少年のいう理想像とは他人にとって都合がいい姿ってことかい?なんとも残酷な話だけど、ありがち間違いではないかもね?』
あまりにも身勝手で自分の感性が根拠の話を、美玲は否定することなく肯定した。
『確かに自我の形成において、根底が作られる青年期は周囲の環境に大きく左右される事が多い。この事を念頭に置くと、少年の言う理想像は
「
カチリと、足りないピースがはまる感覚。
出来上がったパズルは、予想だにしない姿をしていた。
その現実を受け入れた美玲は今までに無い焦りの声を出す。
『待ってくれ!それだと完全に話が変わってくる!その原因は特定できるのかい!?』
「ああ、なんとなくだけどな」
なんだって!?、と驚愕する美玲を差し置いて、再度弱音は少女に向き直る。
理想とは、想像から生まれるからこそ理想なのである。
自分のスペックや感情などお構いなしの最適解。効率や結果だけを求められた答えに人は翻弄されてしまう。それが目の前の少女の現状だ。
その原因こそ周囲の評価。
彼らの欲求が、彼女の姿を無理矢理作り上げていたと考えられる。
ではそれは誰なのだろうか?
条件として、咲と近い関係の人間となるだろう。
親しい人間でなければ、彼らの欲求の姿になろうと思わないだろう。
親愛を寄せるからこその呪縛。
その点、咲の友人は候補から外れるだろう。
彼女の身を案じて、無理はするなと助言までしている。彼らの要求する姿は、筋が通っている。
この時点で、該当する人物というのは自然と限られてくる。
この世に生まれた子供達が、必ず一度は関係を持つ人物。
「なあ、お前は何故そんなに自分自身を責めるんだ?」
インカム越しから得た回答を、惜しげもなく明らかにする弱音。
過去の事を突きつけられ、それでも涙だけは見せまいと踏ん張る咲は顔を挙げながら
「だって!それは私のせいで!チームに迷惑をッッ!」
「そんなことじゃない」
彼女の気持ちを弱音は容赦なく切り捨てる。
愕然とする咲に、追い打ちをかけるように、彼らしい客観的な意見をぶつける。
「お前がチームに迷惑をかけたことに罪悪感を感じているのは十分に分かった。その気持ちを否定も侮辱するつもりもさらさらない。だがこれだけは聞かせてくれ」
念には念を、彼女の気持ちを尊重するための注意文を繰り返す。
それでも弱音は、容赦しない。
ここから彼女の心の核心に容赦なく切り込む。
その狼煙として、弱音なりに分析した彼女の弱点を。
言葉として、深く切り込む。
それは、たった一言だった
「オマエは何に
「ッッッ!!」
反応は劇的だった。
外側から刺激されたかの如く肩をふるわせたと思うと、その震えは全身に伝播していく。
その内側からの衝撃を必死に押さえようと、スカートを握りしめるほどであった。
しわになることも気にせず、彼女のスカートを握る握力はどんどん大きくなっていく。
それに比例するかのように、彼女の口も横一文字に力強く結ばれる。
瞳に浮かんだ涙が、より一層顔を見せる。
明らかな動揺、そして怯え。
これが彼女の、いや今回の現象の核。
読み違えの末に見つけ出した、彼女の心の弱さ。
だが、弱音はここで追求の手を止めるわけにはいかない。
彼女の
「オマエは人よりも周りをよく考える人間だ。自分よりも周囲の人間の為に動ける人間だ。ハッ、とんだお人好しだなクソッタレ」
悪態をつきながらも、彼女の心を細かく分析、明確にしていく。
その情報を言葉の刃として、無慈悲に彼女に突き刺す。
「オマエは周囲の環境をよく見て行動に移せる人間なんだろうな。喧嘩しているメンバーをほっとけなかったり、チームの為に雑用仕事を積極的に手伝ったりか?粗方そんなもんだろう。周りはいい人だの優しいだの囃し立てるんだろうな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「だが、オマエをそう駆り立てる心理的な要因はあふれ出る慈愛の心や博愛、そして自己犠牲の精神でもなんでもない。オマエの場合は、ただの
彼女はこう言った、自分のせいでチームの輪の中には入れなくなったと。
彼女はこう言った、自分の立場がなくなったような気がしたと。
このチームの存在でありたい。
そんなごくありふれた願いであり、自分の立場を明確にするための明確な鎖。
「言ってみれば、オマエは他人の視線や好感度を中心に考え行動する人間だ。何せ周囲とのギャップを埋めることが一番大事だもんな。だからこそ、選手としての役割がなくなった今、マネージャーやボール拾いみたいな雑用係を自ら進んで行おうとした、違うか?」
「それは・・・ッ!」
「でもしなかった、いや《《出来なかった》》」
咲の反論をかき消すかのように、故意に言葉を被せる弱音。
ここで主導権を彼女に渡してはならない。
このまま、いくつもの嘘に隠れた、負の側面としての本音を引っ張り出す。
周囲から溢れ、孤独感を感じてしまうことに対する恐怖。
ティーンエイジャーならではの、周囲との共和に関しての悩み。
ごく当たり前で、大人に成長するために必ず通る通過点。
だが、彼女が今いる場所はここではない。
普遍的な恐怖に隠れたその先に、彼女の本音が待ち構えている。
それを最短距離で辿り着いてみせる。
彼女の行動を予測し、それを言葉にして形にすることは、ただの過程に過ぎない。
本番はこれからだ。
「怪我したと分かった時点で、オマエの中の心は早々とスイッチしていたとは限らない。そこまで辿り着いた努力が一瞬にして消え去ったんだ。落ち込まないはずがない。でも、オマエはそれでもチームの一員として在りたいと裏方に徹しようとした。そういう形でチームに歩み寄ろうとした。でも出来なかった。今度は
「・・・・・・ださい」
「周囲の視線や評価を第一にする人間は、自分の在り方を他人の要求に合わせようとする。言うなれば
「・・・めてください」
「そして複数の
「やめてくださいッッッ!!」
今までにない大きな声で咲は叫んだ。
それでも、弱音は眉一つ動かさない。
どれだけ彼女が泣きそうであっても、それを必死に押さえ込もうとしていても。
彼女に
「オマエの理想と理想の板挟みな状況に陥れた人間は、オマエにとって心理的な距離の近い人間だ。層でなければソイツの理想に応えようとは思わないもんな。その点、オマエの友達は対象外だ。オマエの理想と限りなく近いからな。だとすると、原因はもっと身近な者になる」
ここで初めて、弱音は席を立つ。
そして一歩ずつ一歩ずつ、歩み寄る。
掻き毟るように耳を塞ぐ、心を痛めた少女と対峙するために。
視線を合わせるため、膝をついて無理矢理視線を合わせる。
彼の目に映るのは、憔悴した咲の表情。
相当追い詰められていたのか、若干青ざめた皮膚に視点が定まってない瞳をしていた彼女は目の前の弱音も捉えていないのかもしれない。
未知の力に苦しむ少女を救うため、弱音は冷酷に告げる。
最大の原因となった正体を。
『ダメだ少年!」
ここでいきなり美玲から連絡が入る。
『この実験は彼女のコンプレックスやそれに準ずる負の側面を刺激して観測するためだ。今のお嬢ちゃんの無意識は刺激されすぎて
今までにない焦りが弱音の鼓膜を叩く。
それほど予想外のことなのだろうか、デスクを勢いよく叩く音が聞こえる。
それに応じるように、彼女が座っていた椅子が倒れる音も響いてくる。
それでも、弱音は口を動かすことをやめない。
ここまで来たのだ、もう引き下がることはしない。
意を決して、弱音は最後の答えを、最大の敵に叩きつける。
その答えは
「オマエを苦しめていたのは、
これこそ本当の原因の正体。
その言葉を口にした瞬間
少女の背中が、弱音の言葉を拒絶するように。
爆ぜた。