心の奥に住まうモノ   作:レコ

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16話

 現実と非現実の狭間にて、抗争が始まった。

 体格差、推定5倍以上。

 見ただけで恐怖に駆られる程の、比べるのもはばかれる大型生命体に立ち向かうその姿は、あらゆる神話で描かれる英雄像とでも言えるだろう。

 だが立ち向かう勇者に、大岩を真っ二つに切り裂く剣も、人を溶かす灼熱の炎を防ぐほどの盾もない。

 あるのは人間の肉体のみ。

 そして、舞台はハッピーエンドや勝利が約束されたおとぎ話の世界ではなく、理不尽や不幸が罷り通り、イレギュラーがいくつもの歯車となって想像もしない結果へと姿を変える、理屈と確率で縛られた現実世界。

 第三者としてではなく、自分というキャラクターを自らの力で動かす舞台。

 弱音はコンテニューもリセットも効かない『現実』で、『非現実』を相手する。

 リアルな戦闘において、明確なゴングなど存在しない。

 不意打ち、だまし、フェイント。

 ルール無き弱肉強食のフィールドは、 いちいち足踏み揃えてスタートを切ったりしない。

 一触即発。

 何の前触れもなく風が吹くように、突拍子もなく開始される。

 今回は、両者の視線がちょうど交わったときだった。

 いち早く行動を起こしたのは大蛇。

 重たい頭を下へ傾けたと思うと、地面に腹を擦るか否かのギリギリのラインで、氷の上を滑るように突進してきた。

 一流の水泳選手が飛び込むが如く、頭を一度上に向けてから地面と一体化するかのように近づき直進する、といった一連の動きに無駄など一切無かった。

 「くッッ!」

 捕食者としての運動能力に、恐怖を通り越して全身の筋肉が強ばる。

 それでも、人間としての本能がうまく働いたおかげなのか。

 弾力性のないコンクリートの床に、足に釘が刺されたかのように倒れ込む。

 ろくに受け身を取れず膝や肘を打ったことによる痺れや痛みに顔を歪ませながらも、弱音はひとまず安堵の息をつく。

 もし本能による筋肉への危険信号がなければ、今頃肉塊となって新しい壁の記念すべき第一号のシミとなっていたはずだ。

 だが、これを避けたからといって安心してはいけない。

 この程度など、相手にとっては普通の動作なのだから。

 手をコンパスの針として素早く後方に体の向きを合わせる。素早く立ち上がり、すかさず標的を視界の中心へと映す。

 予想通りといったところか。

 大蛇はちょこまかと動く小さな餌を見つけたかのような様子で黄色に輝くギョロリとした目玉を向け、舌舐めずりするように真っ赤な舌を出し入れする。

 自分の脅威を誇示するかのように頭と首を連動させて時計回りに回し始め、ゆっくりと近づいてくる。

 そして、それと平行して動く浮遊物。

 大蛇の核にして本質。そして、苦悩という形で顕現させた張本人。

 日野咲が、見えない誰かに操り人形として使役されているかのように、意識を失った状態で空中に浮いていた。

 体全体に力が入らず手足をだらりと垂らした彼女の額からは、彼女の異常性を示すかのように赤色の光がともっていた。

 脳内を読み取り、想像したイメージを現実化にするための課程を作り出す精密機械。ETCM。

 彼女の暗い部分を抜き取った機械が、その存在を表していた。

 自分の感情に振り回される少女。

 自らの負の衝動に身を乗っ取られた少女。

 そのような感想を抱いた弱音は、何故か怒りを覚えていた。

 「なんだんだよこれ・・・」

 理由のない制御不能の感情に戸惑いの声を挙げる。しかし今の彼にそんな余裕はない。

 目的を忘れるな、その言葉を頭に刻んだ弱音は再度身構える。

 彼の役割は時間稼ぎ。決して討伐や排除といった常人離れした力業を要求されているわけではない。

 相手を傷つけるのではなく、相手の気を引いて時間の感覚を失わせることが目的なのだ。

 しかし、だからといって難しくないというわけではない。

 相手は、人間の想像によって作られた怪物。

 その人間の想像が電子記号や信号として電子的な情報となり、その情報を元に『オカルティックな力』が姿を変えた存在。

 この情報のリソースは、人間の豊かな想像力。

 想像は現実を遙かに跳躍する。

 現実世界の物理法則など考慮しているはずがない。

 あらゆる可能性を無視する程の力が含まれているはずだ。

 それに加え、物語は理屈が明確に表記されてないものがほとんどだ。

 神の使いが天罰として雷を落とせたのは、雲の中の細かな粒子に力を加え摩擦を引き起こし、それによって静電気を発生させたからだ、なんていった説明など入るはずがない。

 つまり、神話に原理は存在しない。

 概念、つまり『口から炎が出せる』や『見ただけで人を石に出来る』などといった現象も、物理現象や理屈関係なく、一つの概念として在るといことだ。

 弱音が対峙する相手が、神話を情報として認識しそれに沿って形成されるというのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 神話には、人智を遙かに越えた力を振るう存在が多く登場する。

 概念がそのまま実現されるのならば、人の理など簡単に崩れる。

 どこかの神話に『自分が視界に入れただけで相手は即死』という概念があれば、それが現実世界に通用されるようになるということだ。

 

 「(今のところそういう事はなさそうだな・・・)」

 美玲の説明を自分なりに解釈し、なんとか飲み込んだ弱音はそう結論を導き出す。

 彼が想像する能力が相手に備わっていれば、彼自身対象の前に立つことも出来ずにあの世息だったはずだ。

 もしかしたら概念にも読み取られる範囲や領域が決められているのかも知れない。

 今はただ『光のような速さで駆け回る』、『鉄をも溶かす灼熱の炎を吐く』といった概念がないことを願うばかりだ。

 頭の情報を整理し終えた弱音は、体の節々の痛みを考えないようにしながら立ち上がる。

 どの道彼が行えるアクションは限られている。

 ひたすらに意識を自分に向けさせ、逃げ回る。

 どんなに不格好でもいい。

 それが彼の能力で求められる仕事。

 そんなことしかできない自分の能力値を嘆いている暇はない。

 新たな脅威が次々と顔を出す。

 それらに必死に対応するだけだ。

 

 その言葉に従うように、次が来た。

 彼が見たのは、頭部を後ろに向ける大蛇の姿。

 正確には頭を起点に、厚く太い胴体をぞうきんのごとく捻っていた。

 先ほどの大きく構えていた姿から一転、胴体の多くを円柱状に束ね、頭だけが飛び出ている状態。

 インドあたりの芸者が蛇を頭に巻いている姿に似ているか。

 自分より大きな存在にネジを締めるような力を無理矢理加えられているような様子にさえ見えた。

 さて、蛇は本来狡猾な生き物である。

 凶暴であると同時に臆病でもある蛇は、知能が高い生き物として分類される。

 狩れるか否かの判断を周りの状況や相手から分析し、最善の結果を出せるように行動を行うことが多い。

 特にネズミなどの小動物を捉える際は驚異的な動きを見せる。

 小さくすばしっこい小動物は、捕食者といえど捕らえるのは容易ではない。

 確実に胃の中へ修めるために、準備を怠らないのが蛇が狡猾と呼ばれる所以である。

 精密な狩りを支えているのは、胴体の筋肉の強さである。

 狙いを定めた獲物を逃がさんと胴体を左右に揺らし追いかけるその姿は蛇特有のものであり、獲物に食いかかる際には時速100kmを計測するほどの能力を秘めている。

 また大型の相手を狩るときには、首に巻き付き絞め殺すなどといった話も残っていることから、蛇の胴体を構成する筋肉の強度は頑丈かつ驚異的な力を持ち合わせているとされている。

 だからこそ、自分で力強く己の身を捻るといった芸当も、蛇に関しては可能だといって良い。

 内側に向けて、自身の持てる最大の力を加える。

 ゴム製のプロペラ玩具を想像してみよう。

 羽を何回も回し、それによりゴムに円形の力が加わっていく。

 そして、十分捻ったところで手を放す。

 すると、勢いよく回転し始め、空へ飛んでいく。

 さて、これを今の状況に合わせてみるとどうなるか?

 プロペラが、弱音ほどある尾に置き換えられ。

 

 風を切るほどの速度で、弱音の体を叩き潰そうと迫ってきたのだ。

 

 「クソッッッ!」

 先程と動揺、人間の目では追えない速さの攻撃。

 これも自身の体に直撃する寸前で、理性ではなく本能で攻撃に気づく。

 これもまた体を投げ出す形での回避を考えていた。

 だが、本能に隠れた一部の理性が危険信号を放つ。

 そして、彼はやっとこの攻撃の怖さを知覚する。

 大蛇が放ったのは、自身を中心に円形に広がるように放たれた、尾を鞭のように叩きつける攻撃。

 リーチは長く、十分に弱音を射程圏内に入れていた。

 問題なのは横からの攻撃という点。

 尾自体が弱音の身長ほどの厚さを持ち、自動車がぶつかってくるような感覚。

 つまり、上への逃げ道はない。

 先程は直線的な攻撃だったため、その線からはみ出すように這々の体で移動したため難を逃れた。

 しかし、今回は違う。

 今回の攻撃は円形、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!

 「(ヤバいッッ!どう足掻いても避けられないッッッ!!)」

 隠された攻撃の本質に気づき、慌てて行動の方向性を変える。

 避けるのは不可能。だったら受け流すのみ。

 弱音は超人ではない、一般高校生だ。自分の身丈ほどの物体に正面衝突されても傷一つ付かない鋼鉄な体などしていない。

 自分の体へのダメージを最小限に抑える。

 第一目標を思考の中で設定し直し、一瞬の間でもできる限りの行動に移す。

 弱音は咄嗟に床に付こうとした腕を、脇を締める形で体に密着させる。

 自分の体と尾の間に滑り込ませる形で、腕をクッションの代わりとし、なるべく体を丸めるため膝を抱えるような形でしゃがむ。

 そしてインパクトの瞬間、体の右半身から倒れ込み、体を丸めた状態でわざと転がるように意識する。

 メキリッッと骨にヒビが入る音がすぐ側で聞こえ、聞こえたと感じた瞬間視界が横転する。

 体が地面から離れたと感じた直後、回転しながら地面に叩きつけられること数回。

 静止したと感じたときには、未だ視界が定まっていなかった。

 犠牲となった右腕は、肘から下にかけて動かすたびに今までにない痛みが走り、体全体としてみても擦り傷がない部分を探す方が難しい有様になっていた。

 服は所々破れ、その下からは拳大の青白い痣が覗いていた。

 全身打撲と切り傷、骨や筋肉の損傷は感じられるが、今ここで息をしている。

 その事実だけで十分だった。

 頭を振り視界を安定させてから、弱音は再び立ち上がる。

 比較的無事な左腕を膝に付きながら、今に倒れそうなほどふらつきながら。

 そして、負けじと元凶を睨み付ける。

 その視線が届いたのか、それとも生きているということが分かってしまったせいか。

 怪物は怒りを表現するかのように牙を剥いて威嚇すると、再び自慢の尾を振り上げた。

 そして、苛立ちを解消するように至る所に打ちつけ始めた。

 十分な質量を誇る攻撃だが、怒りのせいか狙いが定まっていない。

 そのため弱音は姿勢をなるべく低くし、やり過ごす。

 雷が周囲に何発も落ちるような衝撃に襲われながらも、彼は意識を強く保とうと唇を噛む。

 「(頼む!頼むから耐えてくれ・・・・ッ!)」

 自らの体に鞭打つ弱音。

 折れそうな心をひたすら叱責し続ける。

 インカム先を信じて、彼は体を動かす。

 時間稼ぎはまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 美玲もまた、弱音とはまた別の敵と戦っていた。

 彼の現状を攻防戦と呼ぶならば、美玲は情報戦と呼ぶべきだろうか。

 ここでいう情報は、咲を乗っ取り弱音を攻撃している『アーキタイプの具現化』の構成要素。

 『信仰の概念』に従うのならば、この情報と猛威を振るっている怪物は一心同体。

 ETCMが読み取り独自に形成した情報体に変更を加える事が出来れば、直接例の化け物に影響を与えることが出来るということだ。

 彼女の設ける最終目的は、現象を引き起こしたとされるアーキタイプを特定、分析をした上での変更やアンチコマンドを入力するというもの。

 美玲はあらかじめ咲が抱えているであろうアーキタイプを推測しそのデータを収集、分析を行いパターン化することで、同類の情報を見つけやすくしようとした。

 しかし、ここで彼女の見落としがあった。

 いわば見る観点を間違えた美玲に残された道は一つ。

 再度彼女から得られる無意識領域を分析し、原因となったアーキタイプのデータを特定し直すだけ。

 だが、

 「くそ!やっぱりダメか!?」

 キーボードを手元に身を乗り出して画面に向かう美玲の額には、無数の汗が浮かんでいた。

 彼女の手先は休むことなく動き続けており、荒々しいキーボードの打撃音が鳴り響く。

 誰もが驚くであろうタッチタイピングの速さで打ち続けるが、彼女の顔が晴れることはない。

 むしろ悪化していく一方だ。

 そんな彼女の焦りを表すかのように、数字とアルファベットの羅列が、彼女が対峙する画面から目で追いつけないほどの速さで浮かんでは消えるを繰り返している。

 隣のパソコン本体が異常なほどの熱を帯び、冷却用のファンが全速力で回転しているが、気にかけている暇はない。

 次々と流れてくる電気信号。理解が追いつかないほどの情報量。

 これが、科学的に迫った人間の心の世界だというのか。

 「くッ・・・!」

 過度に動かしすぎたせいか、指の筋肉が張りを訴えてくる。

 それに続くかのように頭の奥がズキリッと痛む。

 それでも意図的に無視し、無理矢理活動を継続させる。

 だが、それは彼女の体にも限界が来ていることを示していた。

 「やっぱり無理があるか!?」

 彼女が事前に用意していたデータは、彼女がETCMの研究を始めてから地道に収集してきた貴重なもの。そして、『コンプレックスからくる自己嫌悪』のパターンを定義した。

 問題はその量。

 莫大なデータを前にして、ひたすらに数字とアルファベットを追いかけること丸二日。

 コンピューターに組み込まれたコマンドはデータの分類、そこまで難解でもなければそれ自体にそれほど時間はかからない。

 問題はそのデータ量。

 人間の心理を科学的に定義するには、想像を絶するほどの電気信号が必要なのだ。

 

 ほぼ画面の前から動かずに分析し続けた故の成果。

 それが、今からたった数時間で解析し終わるわけがない。

 やるかやらないかという問題ではない。

 可能か不可能かという時点での問題だ。

 今回は後者。

 理論や経験則からして、達成不能。

 その事実が、美玲の心に重くのしかかる。

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 やがて、全てを悟ったのか。

 美玲の指が、キーボードの上を動き回っていた指が止まる。

 そして

 力が抜けたかのように椅子から転げ落ち、地面に膝をついてしまった。

 諦め、もしくは後悔。

 うなだれた彼女の姿が、全てを物語っていた。

 

 「全く、何をしているのだ貴様は?みっともない」

 

 そんな彼女にいち早く声をかけたのは私市。

 先程とは桁違いの侮蔑の視線を、美玲に投げつけていた。

 

 「・・・何って、必死に彼女の分析をしていたさ。でも無理だ、あまりにも時間が足らなすぎる」

 

 絞り出すような声で、今の現状を語る美玲。

 だが、私市は鼻で息を鳴らし

 「ハッ、科学者が聞いて呆れる。お前がいっぱしの科学者なら効率というものを考えろ。そんな事をしている暇などない。非効率かつ無駄だ。さっさと立て、変人野郎」

 鼓舞ではなく、叱責。

 攻撃的な言葉達が、美玲の心に突き刺さる。

 よろめきながらも、後ろを振り返りながら

 「無駄とか効率とかの問題じゃないんだよ。最初の読み違えの時点で全てが終わっていたんだよ。今からどうしようと結果が変わらないということさ」

 「だからその態度を改めろ。全ての可能性を無視せずに、ありとあらゆる条件を変数として組み込んで思考するのが科学者だ。一点だけを捉えて物事を語るな」

 「だから言っただろう?私達は科学的なアプローチしか出来ないって。どうやっても心理的なアプローチやオカルティックなアプローチは不可能なんだよ」

 「何故貴様は科学的アプローチを諦めている?貴様はそれしか能がないと分かっているはずだろ」

 「だから!分析し終えるにはあまりにも時間が足らなすぎるんだよ!!その間少年が持つわけがない!」

 「何も根性論などと言った非科学的な仮説を立てるわけではない。だから何故・・・」

 ヒステリックを起こしたかのような美玲の反応にも眉一つ動かさずに、彼は科学者として告げる。

 科学者として、今取るべき行動を。

 

 「何故貴様は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 「は?」

 根本的な質問に思わず聞かれた側である美玲が疑問の声をあげる。

 何を聞いているんだとばかりの表情で、美玲は

 「だから今回の現象の正体は、彼女のアーキタイプを読み取ったETCMが作り出した設計図。その改変を行うことで事態を解決しようとしているんじゃないか」

 「つまり、ETCMが作り出した設計図のデータをETCMから直接読み取り、分析していたということだろ?問題は膨大なデータの読み込み速度が間に合わないという点」

 「その通りさ。分析に対する情報量の読み込みが完全に間に合わない。いくら分析が速くても、データの全体像が読み取れるには相当の時間がかかるんだ」

 「やはりそうか、ならなおさら観点を増やして考えるべきだ」

 「観点?だから私達は科学的なアプローチしか出来ないって何回言ったら分かるんだい?」

 「科学的アプローチをやめろと言っているわけではない。()()()()()()()()()を増やせと言っているんだ」

 私市は彼女の側に立つように近づくと、親指で前を指す。

 正確には、弱音に襲いかかる、未知の怪物を。

 「貴様は言ったよな、あの現象は少女のアーキタイプのデータそのものだと。では何故()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 「・・・・・・・まさか、ETCMの作り出した設計図のデータからではなく、あの化け物をデータと捉えてそこから分析しろって事かい?」

 突拍子もない話に美玲は困惑するしかなかった。

 話としては筋が通る話。

 だが、あの現象自体をデータとして読み取るための機材がない限り、彼の話は机上の空論なのだ。

 「簡単に言ってくれるね、そんな事出来たら苦労はしないさ。第一、いくらデータ情報そのものだとしても、物理現象として実体を帯びた存在をどうやって遠隔でデータ化するって言うんだい?」

 「忘れたか?俺の研究テーマを」

 「はいはい、だから君のテーマは・・・」

 そう言いかけて、美玲は何かしらの取っ掛かりを覚える。

 何故、私市はこの話を美玲に持ちかけてたのか?

 何故、ここで彼自身の研究の話を持ち出すのか?

 自慢ならあまりにも場違いだ。必ず意味がある。

 そう思い、美玲は彼の研究テーマを思い出す。

 確か、

 「()()()()()()()()()()・・・・・・!」

 そこからは速かった。

 彼の言いたかった本当のこと。

 今、提示できる解決方法。

 彼らしい、ひねくれた道順で彼女に提案していたということを。

 美玲は再度、頭を回す。

 新たな可能性を変数として捉え、再起不能と思われた数式に挿入する。

 消えたと思っていた、解決への糸口。

 もう見逃すわけにはいかない。

 

 「わかったよ。君が何を言いたいのかを」

 「ほう、言ってみろ」

 挑戦口調に腕組みの私市に、彼女は自分の答えをぶつける。

 糸口を提示してくれた、そのお礼も兼ねて

 

 「君の研究しているテーマ、人間の感覚をデータ化する概念を使って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、違うかい?」

 彼女の答えに、私市はニヤリと口角を上げるだけだった。

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