死にたがりセーラー少女と謎多きゴスロリ女という、普段の生活において遭遇しにくい、いや絶対に関わりを持たないであろうパワーワードの塊をどうすべきだろうか。
弱音はこの二人の対処について困っていた。
雨が弱まり日が差してきたとはいえ、今は梅雨が季語となる6月。
夏特有のゲリラ豪雨まではいかないが、このあと天気は順調に途中で崩れることなく回復するとはあまり思わない方がよさそうだ。
一度、雨宿りという形での休憩場所を設けるべきだ。
そう弱音は判断した。
もちろん、濡れたままの制服で長時間外にいるのは体温低下による体の不調を引き起こすといった面を配慮した結果でもあったが、理由はまだあった。
突然現われたゴスロリ女、日方美玲。
咲に起きた『非日常』を知っており、その現象を追っている者。
そして、自称ETCM開発者。
信用に値する人物かどうか、判断する必要があるのだ。
例の『非日常』を具現化したナニカを故意的に発生させた点において、彼女の言っていることは信じるしかなさそうなのだが、まずは彼女の話を聞かなければ始まらない。それだけだ。
故に、お互いが話し合える場所が必要なのだ。
町の中心となる商業や工業が集中した都市から電車で片道15分を掲げている、ここ福多市。
都心に電車で一本で行けるといった典型的なベットタウンであるが故に、福多市にはスーパーといった生活必需品の販売店や、中高等学校などの教育機関、老人ホームといった福祉施設は充実している。
だが、それと同時に若者向けの施設が少ないのだ。
ショッピングセンターやカラオケ、ゲームセンターはもちろんのこと。部活帰りに何か食べて帰ろうといったファミリーレストランさえ少ないのだ。
いくら都会にアクセスが良いとはいえ、基本的に田舎なのだ。
そうなってくると、複数の人数が集まっておしゃべりといった場所は限られてくる。
ここ福田市の少年少女達は、電車に乗って都会に出るか、友人や自分家で遊ぶのが主流らしい。
だが、今回はどちらもつかえない
何度でも言うが、この3人の関係は出会って10分も満たない初対面の人間だ。お互いの素性の情報など皆無に等しい。ましてや各個人の家の場所など把握しているわけがない。それにここから連れ出すための元気は雨と一緒に流れてしまっている。
要約すれば
雨宿りができるような屋内で
現在地から近くて
誰でも知っていて
ある程度の会話が許されているところ
条件を並べてみた結果、答えは弱音の中では一つしか思いつかなかった。
コンビニエンスストア、通称コンビニ。
いくら田舎とはいえ、塗装された道路も全国展開のスーパーマーケットもある福多市。
田んぼだけの自然豊かな、緑だけしかない町では無いのだ。
利便性が求められる今、コンビニの数は年々増加しておりここ福多市もその恩恵にあやかっている状態だ。
そういう意味では、周辺の地域よりも多い気がするほどだ。
目的地設定完了。
行き先は、最寄りのコンビニエンスストア。
だが行き先は決まったとはいえ、彼の中の不安は消えなかった。
片や自殺未遂を繰り返す女子生徒
片や彼女を取り巻くナニカを知る自称研究者。
この組み合わせを見る限り、どうあがいても明るい話とは思えないはずだ。
それこそ、セーラー少女の暗い過去話を聞かされ、ゴスロリ女が研究者らしい冷酷な感想を述べ解決に向けて強引な行動に出る。
彼自身、あまり他人に感情移入する人間ではない。
だが、目の前で他人が苦しんでいるのを見るのはあまり良い気持ちにはなれない。
彼は心の中で覚悟は持っていた。
重い空気の中でも首を突っ込んだからには、最後まで付き合うと。
だからこそ
「いいね~いいね~。今回もいい出来だな~一馬先生。これだからファンはやめられないのさ!」
コーラをがぶ飲みしながら、週刊少年向け漫画雑誌に熱中する発案者を見たときはどんな顔をすれば良いか分からなかったのだ。
確かにコンビニのイートインを利用する際は、せめてもの礼儀として商品を買うのは当然だ。
しかし、まさか入店するや否や目にも止まらぬ速さで雑誌コーナーに突撃し、コーラと漫画という自室でゴロゴロするための最強セットを持ってくるとは誰が予想しただろうか。
あまつさえ、相談者となるセーラー少女などお構いなしに読み始める次第だ。
一番の被害者である咲もどうしていいか分からず苦笑い。
あまり行動派ではないようだ。
このままでは話は一向に進まない。
結局のところ、弱音はゴスロリ女の持つ雑誌を取り上げることになった。
「なにするんだい!今一番いいところだったのに!」
「それはこっちの台詞だ!話がしたいって言ってきたのはそっちだろうが!さっさと話を進めろ!」
「オイオイ、慌てるなよ少年。人生ゆとりが大切なのさ。そうカッカしてると寿命を縮めるよ?」
したり顔で格言っぽいことをほざくゴスロリ女を一瞥して、弱音はため息をつく。
この女にいちいち構っていたらそれこそ寿命を縮めかねない。
これではらちが明かないと思った弱音は強引にでも話を戻すことにした。
「で、お話というのは何なんだ?天才女子高生、日方美玲サン?」
「天才とお呼び頂き光栄だね!なーに、簡単な授業みたいなおしゃべり会さ。せっかくだからたのしもうじゃないか」
「授業?」
「そう、授業。だって解決したいんだろ、アレ?」
そう美玲はこめかみの部分を指差す。正確には咲の髪に隠れたETCMを。
「あんたがETCM開発者だっていうのなら、あの場面であんたが出てきたってことはやはり原因はETCMなのか」
「おや、私がETCM開発者だって簡単に信じるのだね。信じてくれる分には嬉しいんだけど、もうちょっとは疑うのが定番じゃないのかい?」
「確かに信じられないかもしれないけど、信じるしかないだろ。それにお前がETCM開発者だって嘘をつくメリットが思いつかないだけだ。それにお前はあの現象が起こるのを知っていて
「・・・へぇ、以外と頭が回る子みたいだね少年。概ねその通りだ」
スッと目を細める美玲。鋭くなった眼光は、見定めるように弱音に注がれる。
「いやー、こういう子に物を教えるのは楽しそうだ。一層面白くなってきたなぁ」
「そもそもこんな一般人に話してもいいのか?ETCMは大学で研究されているようなものなんだろ?情報流出とか訴えられても知らないぞ?」
「大丈夫さ。私が教えるのはETCMの概要および不具合による不可解な現象についてさ。ざっくりとした説明だし、完全徹底理解できるはずがないから安心してよ」
あくまで彼女が直面している問題の解決に向けて動いているだけ。
そういう面では利害の一致しているということか。
そもそもあの現象について知っている時点で、彼女は何かしらの研究者であることは明確であり、それがETCMが関連していると言われれば首を縦に振るしかない。
金銭の要求や謎の宗教の勧誘が入れば、だます側とだまされる側の詐欺の関係となるが、このゴスロリ女はただ単純に問題解決に向けて動いているらしく、見返りや対価を要求していない。
物事が解決した後に要求されるパターンもあるが、それにしては説明などと言っためんどくさい段階を踏むことはないはずだ。仮に謎の現象が自作自演であったとすれば、その場であっさり解決して信頼を得た後に金品を巻き上げるはずだ。これ以外にも可能性はいくらでもあるが、弱音は彼女の言動や行動を考えるあたり悪意が全く感じられなかったのだ。同時に善意もなく、ただあるのは解決しなければいけないといった決まり切った仕事を行う義務感。そこに感情はなく、彼女はその課程に起こる予想しない出来事に興味を持つ人間らしい。これが彼女を見た感想であり、彼女が嘘を言っていないと思われる理由であった。
「君の反応からして大方私の話を信用してもらえるって解釈でいいかい?」
「あのスイッチを押した直後に起きたことからして、まあそうなるな」
「それは結構。まあ今のところ私の話しかあの現象の正体についての情報がないってことだからね」
全くもってそうであった。
自分たちの理解を超えた現象に偶然行き着いてしまった2人。
常識で固められた理解の外の存在に遭遇したからといって何が出来るのかという話なのだ。
誰でも知っているものを、人は常識と呼ぶ。
だが、これを一歩でも踏み外せば正体不明の未知と化す。
それらを未知から既知に帰すには、未知の構成要素を細かくほどいていくしかない。
これこそが知識であり、完全に分解し終えて解析し尽くして初めて学問と呼ばれる形に収まる。
彼らは道しるべのない迷路に意図的ではないとはいえ踏み込んでしまった愚かな冒険家。
無事、非日常を脱出するには今あるわずかな情報を集めて地図を作るしかない。
その第一歩。
これこそが例の少女の発明品、ETCM。
溺れる者は藁をも掴む。
困難な状況であるからこそ、何事にも首を突っ込んでしまう。
だがここで黙っていても何も進展しない。
何かアクションを起こさなければ、ただ突っ立っているだけで問題だけが進行してしまう。
胡散臭さ全開の少女の口から放たれる突飛な言葉は彼らをどのような方向に導くのか。
それはそのときになってみないと分からない。