呪いは巡り、怪異は囁かれ   作:カチカチチーズ

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呪ノ一

─────・─────

 

 

 

 

 

 

 ガタン・ゴトン ガタン・ゴトン

 

 ガタン・ゴトン ガタン・ゴトン

 

 

 電車の音が静かな夜に鳴り響く中、彼女は目を覚ました。

 垢抜けたような女子大生。そう感じられる風体の彼女はしばし、ボーっとしておりいま自分の周囲がどのような状況なのかがよくわかっていない様に見え、一分か二分ほどしてようやく意識が鮮明になりそれによってだんだんと状況が分かってきた彼女は不意に勢いよく寄りかかり気味だった姿勢を正した。

 そうして、彼女は電車の窓から見える光景に目を見張り次の瞬間には自分の携帯を見てみれば、「あっ」という声を漏らして肩を落としながら俯いていく。

 

 

「はあぁぁ、かんっぜんに寝過ごした……」

 

 

 彼女は久方ぶりに大学の友人たちと一緒に大学終わりにカラオケや食事やらと楽しみ帰宅の時間が普段よりも遅くなったものの帰路の電車に乗ったわけなのだが気が付けば寝落ちてしまったらしく、すでにいつもの駅は寝過ごしてしまってどことも知れぬ駅へ向かっている。

 もちろん、まだ終電ではなく最悪次の駅で降りて登りの電車に乗ることで最寄り駅に向かうという事も不可能ではない。だが、そうだとしても、遊び疲れている中電車を乗り換えるというのは存外に精神的な影響が強いものだ。まして、自分が寝過ごしたという圧倒的に自分に非があるのなら、なおさらというモノだろう。

 

 

「………やっぱり、最近ちゃんと寝れてなかったのもあんのかな」

 

 

 そんな自虐的に呟きながら、思い返すのはここ数日の事。

 いまいちよく憶えていないのだが、彼女はここ数日、妙に魘されていることが多く熟睡というものが出来ていなかった。寝よう寝ようと思っても一、二時間おきに目を覚ましてしまい疲労感が抜けきらないことがあった。そもそも、今日の友人たちとの遊びも彼女が良く寝れておらず暗く鬱屈とした空気を漂わせていたのを遊んで吹っ切ろうという友人たちの気遣いによるものであった。

 その結果、こうして寝落ちてしまうというある種、狙い通りに寝れているのだが……

 まあ、仕方ないか、とため息をつきながらひとまず次の駅まで時間を潰すために改めて携帯へと視線を向けてみれば

 

 

「え?」

 

 

 携帯の液晶の片隅に映っているのは「圏外」の二文字。

 何故?という疑問に思考が溢れ出ていく。確かに彼女にとって家の最寄り駅から下りはほとんど乗ったことがないがしかし、だからと言って圏外になるなんて聞いたことがない。

 

 

「(なら、なんで圏外?)」

 

 

 普通なら「ふーん圏外なんだ」で済ませられるような状況だが、寝過ごしてしまったという今の現状が彼女に普段以上の負荷をかけているようでにわかに鳥肌が立ち始め、たかだか圏外というだけなのに、恐怖を抱き始めていた。

 彼女の脳裏にいくつもの圏外になるような理由が過っていく。

 電波が悪い、近くでなにか強い電波の機器が使われている、純粋に壊した。そう次々に湧いては否定を繰り返していき、微かに身体が震え始めた。

 

 

「なんで、どうして、なんで………」

 

 

 周りに客がいるいないなんて考えずに彼女は嗚咽を漏らし始め、圏外の携帯から逃げるように俯いていた顔を上げて─────

 

 

「…………あ」

 

 

 対面の窓になにかがいた。

 それは電車の外に広がっている光景にいるのではない。

 電車の窓一枚隔てたすぐ向こう側から彼女を見ていた。

 一般的に顔が大きいと言われる人間のそれとは二回りは大きな顔、人間の顔とは似ても似つかぬ見る者を恐怖させるような歪んだ顔面。いや、もっとも恐怖を抱かせるのはその歪んだ顔の造形ではない、最も恐怖を抱かせるのはその眼だ。

 そこに色彩など無い。あるのは黒。夜のような黒、影のような黒とは違う、まるでマンホールの穴、何がその先にあるのかも分からない窺えない、言い知れぬ不安感を見る者に抱かせる澱みに澱んだ黒。

 その双眸が彼女を外から見つめていた。

 いったい、どれぐらいそうしていただろうか。まるで蛇に睨まれた蛙のように視線を切ることも出来ず、その場から動くことも出来ず、彼女は見つめ合い続けていて……ようやく、視線を切れた時にはそれはどこにもいなかった。

 恐怖心がありながらも、彼女は周囲を伺うように視線を巡らして見て、何もいないのを確信してようやく深い深いため息をついた。

 どうやら、彼女はさきほどのそれを自分の恐怖心が浮かばせてしまった幻覚か錯覚だと判断したようで、もう一度安堵のため息をついた。

 

 

 

 だが、その安堵も

 

 

……ザザァ………』

 

 

 ノイズがかったアナウンスによって、歪められていく事となる─────

 

 

 

 

 

 

─────・─────

 

 

 

 

 

 

「え?任務?俺だけで?」

 

 

 そんな呆けたような少年の声が一年生の教室に静かに木霊する。

 首を傾げてそう言ったのは薄茶色の短髪頭の少年───虎杖悠仁、そしてその疑問に対して返事をするのは白髪に黒い目隠しで隠すというなかなかの不審者っぷりを醸している風体をした虎杖悠仁の担任である五条悟。

 

 

「そ、今回は恵も野薔薇もお留守番」

 

 

 まるで語尾に星か音符かが飛んでいそうな軽薄そうな声音でそう告げる五条悟。そんな自分たちの担任の言葉にやる気を出し鼻を鳴らす虎杖悠仁に対し、五条悟に口を挟むのが二人。

 

 

「なんで、虎杖だけなんですか!?」

 

「そうよそうよ!こいつ、放っておくと今度は一人で死ぬわよ!?」

 

「えぇ……」

 

 

 俺、死ぬの?

 傷ついた…、そんなしょぼんとした表情をしている本人を無視して抗議する二人に対し、まあまあと五条悟は諫めながら、まだ話は終わってないよ、と続きを話していく。

 

 

「別に悠仁一人で任務をするってわけじゃないよ。あくまで、一年は悠仁だけってだけ」

 

「一年は虎杖だけって……もしかして真希さんたちと任務?」

 

「どうなんです?」

 

 

 早く言えと詰め寄る二人に対してチッチッチと聞く側からすれば、勿体ぶるようなうざさすら感じさせるように指を振る五条悟は何歩かその場から教室の戸へと下がって、大仰な仕草をしながら語り始め

 

 

「二年生?ノンノン!!今回の虎杖悠仁くんと一緒に任務へと行ってくれるのは!彼r────」

 

「遅い」

 

「前置きが長い」

 

 

 まるでゲストを紹介するかのような、勿体ぶった五条悟を無視して教室の戸は普通に開き一組の男女が入ってくる。

 それは虎杖悠仁や伏黒恵、釘崎野薔薇ら三人と同様の呪術高専の制服に身を包んでおり二人もまた高専の学生であるのが見受けられ、初めて見るのか虎杖悠仁と釘先野薔薇が首を傾げる中、伏黒恵は顔見知りなのか二人の名前を一人呟いた。

 

 

「諏佐先輩、心實先輩」

 

「久しぶりだな、伏黒」

 

 

 軽くひらひらと手を振りながら挨拶するのは菫色の髪をした男子二人よりやや背が高い男子生徒・諏佐。彼は隣に立っている小柄なそれこそ中学生か小学生ではないだろうか?と思ってしまうような身長の若草色の髪をした少女の頭に手を置き肩を竦めながら視線を虎杖悠仁へと向ける。

 つま先から頭頂部まで値踏みするような視線に向けられている本人は僅かに身を強張らせる。だが、向けている側からすればどうでもいいのか、すぐにその値踏みした視線を終わらせ口を開いた。

 

 

「呪術高専三年生の諏佐だ……それで、こっちの小さいのは」

 

「三年、心實(みさね)。よろしく、宿儺の器」

 

「うっす、虎杖悠仁です!よろしくお願いします!」

 

 

 威勢の良い挨拶に対し、眉一つ動かさない諏佐であるがそんな彼に反して、どこか表情の変化があまり見受けられない心實は僅かに目を見開いたと思えば、これまた同じく僅かに表情をやわらげ

 

 

「うん、よろしく虎杖」

 

 

 友好的にそう返す。そして、視線を心實は諏佐に向ければその視線に込められた意図を察したのか、どこか硬かった表情を緩める。

 そんな二人の無言のやり取りに今日が初めましての虎杖、釘崎はその頭上に見えないハテナが浮かぶ中、伏黒は行動には出さないが一人胸を撫でおろす。一年生組と三年二人各々の反応を見ていて忘れられた男はいつも通りに唐突に柏手を打ち皆を注目させる。

 

 

「はいはぁい!それじゃ、任務について説明するからね悠仁。まあ、いつも三人で任務をするわけじゃないのは知ってるだろうからね。だから、上級生の任務についていった他の呪術師との連携を高めるのと経験を積んできてね」

 

「あー、それもそうだよな……よっし、五条先生、俺頑張るよ!」

 

 

 気合十分意気軒高。

 そんな雰囲気が十分に感じられる虎杖を前に諏佐はわずかに驚き、すぐに笑いながら踵を返して教室を出ていく。もちろん、他の後輩たちに声をかけていくのを忘れずに。

 

 

「それじゃあ、虎杖を借りていくな」

 

「こいつ、無茶ばっかりするんでよろしくお願いします」

 

「お、お願いします」

 

「ん、大丈夫。私と太秦に任せておいて」

 

 そうして、伏黒と釘崎に見送られながら三年生二人と虎杖は教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 場所は移り変わり、窓の運転する車内。

 後部座席で真ん中に小柄な心實を座らせ、その両隣に男二人が座るという形を選び目的地へと向かっている中、諏佐が話を切り出した。

 

 

「それで、虎杖」

 

「なんすか?」

 

「今回の任務だが……基本的に俺らはある種の呪霊を専門的にしているところがあってだな」

 

「専門?呪霊相手にも専門があるんすか?え、魚とか?」

 

 

 虎杖から返ってきた疑問に心實は軽く笑い、諏佐は冷静にツッコミながら詳細を話していく。

 

 

「魚介系とか動物系とか、ラーメンじゃねえよ。要は所謂、妖怪みたいな奴とか仮想怨霊の区分で……ああ、面倒だな。後で伏黒にこの辺は教えてもらえ。でだ、俺たちが主に相手してんのは─────虎杖、『都市伝説』って知ってるか?」

 

「えっと、小さいおじさんとか歩く二宮金次郎とか?」

 

「前者はともかく、後者のはそりゃ都市伝説じゃなくて、学校の怪談だな」

 

 

 虎杖が挙げた二つについて受け答えする中、心實が諏佐の話を受け継ぐように口を開く。

 

 

「都市伝説は虚偽の情報と本物の情報が入り混じってる。だけど、その分実際の呪霊による被害はそこまで多くない……」

 

「あくまで、他の一級やら準一級のと比べての話でしかないが、な」

 

 

 そこまで話して、虎杖は今回の任務の相手である呪霊がどういう存在なのかをなんとなくではあるが察し始めていた。

 虎杖はあまり都市伝説の類に明るくはない。それでも、なんとなく知っているモノはある。

 例えば、口裂け女。

 例えば、きさらぎ駅。

 日常では聞くことはそうそうないが、元々虎杖が高専に来るまで通っていた柳沢第三高校ではオカルト研究会であった為に先輩たちがなんとなくそういう話をしていたのを覚えていた。

 息を呑む、虎杖を余所に足の間に置いていたカバンから書類を取り出した諏佐は、その書類に記載されている情報をもとに辿り着いた怪異(呪霊)の名を告げた。

 

 

 

 

「『■■』────それが、今回の怪異の名前だ」

 

 

 

 

 

 

─────・─────

 

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