呪いは巡り、怪異は囁かれ   作:カチカチチーズ

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呪ノ二

─────・─────

 

 

 

 

 

 

 埼玉県某市───

 

 

「最初の被害者はフリーターの男性だ」

 

 

 テーブルの上に置かれた書類の一つを指し示しながら諏佐は情報のすり合わせを行っていく。

 

 

「バイト先から帰宅途中に行方不明になった。帰りの電車に乗ったところまでは間違いないが、本来降りる駅に降りたという情報はない。

 次の犠牲者は証券会社に勤務している女性だ。彼女もまた、退勤してから電車に乗ったというのは分かるがその後の足取りはつかめていない。

 三人目は駅の売店で働いているパートの女性。

 こちらも同様、帰宅で電車に乗ったのは分かっている、がそこで終わっている」

 

 

「それって、全員電車に乗って行方不明になってるってこと?」

 

「そうだ。この三人以外にもあと数名の被害者がいるが、その誰もが同様に電車に乗ってから行方が分かっていない」

 

 

 諏佐の説明に虎杖はその表情を険しくする。

 そんな彼を見て、諏佐は一人心中で虎杖への印象を変えていく。この目の前の少年は他者の不幸を苦痛に感じるタイプであると、この僅かな時間でなんとなくではあるが感じ取っていた。だが、だからと言ってお前は来なくていいとは口にしない。

 

 

「勿論、この調査書に載っている被害者の数はあくまで窓が調査して間違いなくそうだろうと考えられた人間だけだ。そもそも、これらの情報の発端は所謂、インターネット内の掲示板からだ」

 

「掲示板?……あー、確かに先輩たちもなんか、掲示板がどうだのって言ってたな」

 

 

 そう呟きながら思い出す虎杖に諏佐は頷きながら、別の書類を引っ張り出して見せ始める。

 

 

「基本的に都市伝説・怪異の類はそういった不特定多数で匿名な真偽問わずの情報が錯綜している掲示板にあることが多い。より多くの人間を呪おうとしてるのか、それとも不特定多数に知られることで自己補完をしているのかは分からないがな。

 それで、そういった掲示板の中での情報と今回の被害者を照らし合わせて調査していくんだが……まあ、なんとなく分かるかもしれないが、そういう調査は時間がかかるし意外と専門分野とかが関わってくるから、難しいわけだな」

 

 

 それでも出来るところはやったわけだが。

 ため息交じりのような言葉で話を締めくくりながら、諏佐は自分の前に置かれていたパフェをスプーンで掬って、口に運ぶ。

 そうして、視線を隣でパスタを食べている心實へと向けてから、もう一度正面でグラタンを食べている虎杖へと戻す。

 彼ら三人は今回の任務先である街の駅前近くのファミレスで昼食を摂っていた。

 高身長である男子二人に対して140弱という小学生ないし中学生でもおかしくない低身長な心實の組み合わせはなかなかどうして、危ない組み合わせであるが今のところ問題は起きていない。

 

 

「で、あくまで現状わかっているのは三つ。

一。行方不明者はみんな夜の電車に乗って姿を消している。

二。行方不明者の何人かは何らかの悪夢を見ていたらしい。

三。これら行方不明者がどのように呪霊によるマーキングを受けたのかわからない」

 

「それ、わかってるのは二つ」

 

「確かに」

 

「やかましい、わからないってことがわかったろうが」

 

 

 野次を飛ばしてくる心實とそれにハッと気づく虎杖に切り返しながら、店員を捕まえて新しくメイプルココッシュを注文してからため息をつき、パフェを食べ進めていく。

 そんな中、ふと虎杖がテーブルの書類を一つ手に取って、視線を走らせてしばらくし口を開いた。

 

 

「なあ、先輩。今回の呪霊ってさ、電車の中にいんの?」

 

「……さあな。確かに電車に乗って姿を消したからといって、電車にいるとは限らない。例えば、マーキングした人間を電車が一定のポイントを通過した際に引きずり込むという場合もある」

 

「じゃあ、どの電車の路線に残穢があるか虱潰しに探さないといけないのか」

 

「……別にわざわざそうする必要はない、虎杖」

 

 

 え?そんな呆けた声を出す虎杖に心實はパスタを食べ終え、口元を紙で拭きながらどこか感情が窺えない表情ながらもその眼に確かな自信を宿しながら鼻を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

─────・─────

 

 

 

 

 

 

「まあ、こうなるわな」

 

「いつもどおりが一番、太秦」

 

「そりゃ、そうだが。五条が言っていたろ、虎杖の経験積みをさせるって」

 

「適材適所」

 

 

 そんな会話をしながら、諏佐と心實は駅内にある待合室にいた。この場には虎杖はどういうわけかその姿が見当たらないが、二人は平然と話していることから何か問題が生じているわけではない。

 

 

「確かに、虎杖がそういうのに向いてるなんて、聞いてないが……いや、まあいい。虎杖に頑張ってもらうのは呪霊んとこにいってからか」

 

「そう」

 

 

 会話は途切れ、諏佐は制服の内ポケットから取り出した飴を口に放り込み、それと同時に心實が眼を閉じ軽く深呼吸をする。そうして、彼女は自身の仕事を開始する。

 

 

『はぁ~、授業めんどくせぇ』

  『あのセクハラ上司、早く死んでくんないかな』

        『帰って漫画読も』  『あの女子高生可愛いな』

『うっせぇな、餓鬼連れて電車乗んなよ』

      『高田ちゃん、マジ可愛いわ』 『最近の若者はこれだから……』

 

 

 目を瞑り闇一色の視界。そこには何も映っていないが、しかし、心實は彼らの声を聴き続ける。

 いまの心實にとって、この駅の人々は生きたラジオとなにも変わらない。目を瞑り、視覚を捨て彼ら彼女らの魂から垂れ流れている膨大な声、壊れたラジオと評する他がない。

 心實に届く声は多種多様。純粋無垢なモノであったり、どこか悪戯めいたモノや、優しいモノ、決して良いとは言えない敵対心を感じさせるモノ、下劣な欲望が見え隠れするモノ、気狂いのそれ、そんな数えるのも馬鹿らしくなるほどの多くの様々な感情が見え隠れした情報が濁流の様に心實へと流れ込んでくる。

 もちろん、五条悟の『無量空処』に比べればその情報量は処理しきれる量でしかないが、それはあくまで比較対象が比較対象であるため。常人であればあまりの情報量と感情のソレに思考回路はショートし、強制的に意識を落とすだろうモノ。

 それらを一人受け止めながら、心實は平然として流れ込んでくる情報をひたすら取捨選択していく。

 今回の呪霊の被害者は皆一様に悪夢に魘されていたらしい。諏佐、心實はそれを呪霊によるマーキングと判断していた。誰に残穢が憑いているかもわからない、ならばそのマーキングを探す。

 心實に隠し事は出来ない。彼女は魂の声を暴き聴く。

 プライバシーなど一切、関係ないと言わんばかりに術式圏内の人間の隠したい本性すらも暴き立てながら─────

 

 

「ひゅっ─────」

 

 

 刹那、溢し聴きそうになった誰かの声に心實は声にならぬ息の詰まったような音を喉から溢し、閉じていた目を開き、額から汗を垂らしながらあまり変化のない表情を歪ませる。

 その異変にすぐさま気づいた諏佐が心實の肩を掴む。

 

 

「おい、大丈夫か」

 

「大丈夫……少し、いつもの通りにしただけ」

 

「……、なるほど」

 

「先輩、戻りました……って、何事!?」

 

 

 荒い息を吐きながら、汗を滲ませる心實の言葉にこうなった理由を悟った諏佐。そんな中、買い物でもしていたのだろう幾つかペットボトルの入ったレジ袋を持った虎杖が待合室へと入ってきて、気分が悪そうで消耗している心實を見て驚く。

 そんな虎杖に対して、諏佐は手で制し問題ないと告げた。

 

 

「少し疲れがぶり返しただけだ。少し大人しくさせておけば問題ない」

 

「いやでも……」

 

「大丈夫、虎杖。私は問題ない」

 

 

 心配げな表情で食い下がる虎杖だが、心實の言葉に言葉に詰まる。

 どう考えても、大丈夫ではない。心實はその未成熟としか言えない体躯で呪術師をしている。どう考えてもその身に降り積もる消耗は虎杖が見たことがある呪術師の誰と比べても一際辛いモノなはずなのだ。いったい、どうして買い物に行っているほんの少しの時間でこんな小さい先輩が消耗しているのか、虎杖にはわからない。

 いや、わからないからこそ虎杖は知ろうとしているのだ。

 脳裏に過るあの時の光景が、虎杖にまず先に事を知れと強く訴えているから────それを知ってか知らずか、心實は自身の消耗の理由よりも先に今最も重要な事を話す。

 

 

「……マーキングは見つけた」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、虎杖は口を閉じ、諏佐はすぐに意識を切り替える。心實は荒くなった呼吸を整えながら、先ほど取捨選択した情報をより整理させていきながら続きを話していく。

 

 

「似たような悪夢を見てる人間がいる。それに残穢も普通じゃわからないようにしていた」

 

「……なるほど、てことはまともに考える頭があるわけだ。ここ最近台頭してきたっていう特級と呪詛師の一味────と考えるのはちと俺の考えすぎか?その辺、どうだ虎杖」

 

「……んと、いまいち、その辺は俺もあんまりわかってないっていうか……」

 

 

 諏佐の質問に首を傾げる虎杖に肩を竦ませながら、諏佐は虎杖が買ってきたレジ袋から一本のスポーツ飲料を抜いて心實に手渡す。

 

 

「ともかく、マーキングが見つかったのなら本丸を探して叩くわけだが……その本丸にこっちのマーキングは?」

 

「してはある、けど……乗り込むのはまだ先。対象は今から出勤」

 

 曰く、わざわざ電車に乗ってこっちの方でバイトであるらしい。それを聞いた諏佐は軽くため息をつきながら、待合室の椅子に座り直す。

 今から出勤ともなれば、帰りの電車に乗るのは数時間は先の事だろう。ならば、いま行動するよりもここで変わらず待機しつつ心實に新しいマーキング捜索を任せる他はない。

 その分、心實の消耗が増えるが────

 

 

「私は、問題ない」

 

「わかった。虎杖、まだしばらくここで張り込みだ……問題ないか?」

 

「そりゃ、相手がいまから仕事で、呪霊も電車に乗らないと来ないなら仕方ないよな……うす、問題ないよ」

 

 

 なら、いい。と、諏佐は頷き、虎杖は諏佐に促されるまま心實とは逆の席に腰かけてからレジ袋を開いて飲み物や軽い菓子類を取り出していく。

 

 

「っと、そうだそうだ。諏佐先輩、イチゴオレ。で、心實先輩はミルクティーね」

 

「ん、ありがとう虎杖」

 

「すまんな、パシらせて。レシートくれ」

 

 

 

 

 

 

─────・─────

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