呪いは巡り、怪異は囁かれ   作:カチカチチーズ

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呪ノ三

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 駅の待合室で待つこと数時間。

 既にその数時間で二人ほど、マーキング持ちを見つけたがその誰もが出勤であることから、なかなか動くことはできなかったが、なんとか最初に見つけたマーキング持ちがバイトを終え、帰宅する為に改札口からやってきたのを心實が捕捉したことでようやく行動する事が出来た。

 心實の案内のもと、件の人物を探してみればすぐに見つける事が出来た。

 

 

「あれか?」

 

「そう、この駅近くの女子大生。いま、四股中」

 

「そ、それは、いらない情報なのでは……」

 

「虎杖に同じく」

 

 

 三人の視線の先にいるのは正しく花の女子大生という印象が良く似合いまた清楚という言葉が相応しい風貌の女性であったのだが、そんな印象も全て心實の言葉で一瞬に崩れ落ちていった。聞きたくはなかった注釈に虎杖の表情は引き攣り、諏佐は思わず視線を逸らす。

 そんな男子二人など関係ないと言わんばかりにずんずんと進んで件の彼女の後を追う心實。そんな彼女に突き放された距離を早々に詰め直し、虎杖は口を開く。

 

 

「先輩」

 

「どうした、虎杖」

 

「いや、なかなか聞けなかったんすけど、心實先輩って」

 

「ああ……まあ、いいか」

 

 

 ホームを進んでいき、学生の帰宅時間とはズレているのか全体的にガラガラで並んでいる人がいない場所で、件の彼女にほどほどに近い場所で電車が来るのを待ちながら、諏佐は心實を一瞥し、飲み物でも買いに行くと近くの自販機へ向かうそんな彼女の反応から問題ないと判断し虎杖が聴こうとしている疑問に答える。

 

 

「心實……いや、(エイ)の術式は『聴魄(きはく)術式』っていう奴でな。所謂、読心術って奴なんだが」

 

「読心術?それって、ようするに相手の考えてる事がわかるってこと?」

 

「まあ、簡単に言えばそうだわな。つっても、普通なら一定範囲内の人間の無意識下、もしくは表層意識を読み取るつうおおよそ呪術師としては言うほど強い術式ってもんじゃなくてな、伊地知さんみたいな窓になるか、まあ暗殺からの護衛任務とかに就くもんなんだが……」

 

 

 そこまで、話して諏佐は内ポケットの飴を二つ取り出し、一つを虎杖に手渡して残ったもう一つを自分の口に放り込みながら続きを話し始める。

 

 

天与呪縛(てんよじゅばく)って知ってるか?」

 

「えっと……」

 

「生まれながらに何らかの縛りがかかってるのをそういう。普通の縛りと違って、基本的に選択の自由がない……そうだな、身近で言うなら真希だな。あいつは術式がない代わりにあいつの身体能力はかなり高い。でだ、詠もそれがある

 

 あいつは耳が聞こえないんだよ」

 

 

 諏佐のどこか暗さを見せた表情で語った内容に虎杖は目を見開く。

 

 

「生まれながらに耳は効かない、言ってしまえば肉体的な聴覚を失う代わりにあいつの術式は同じ術式を有す誰よりも強力なソレになっている。文字通り、一定範囲内の魂が垂れ流してる本音を聴ける………便利っていう奴もいれば、近くにいるだけで何もかも知られるのが気持ち悪いって奴もいる、普通に呪術師やってて自分の魂までしっかりと手が回る奴なんてそうそういない」

 

「……魂」

 

 

 諏佐の言葉を受け、虎杖はポツリと呟く。

 魂と聞いて脳裏に過るのは継ぎ接ぎの特級呪霊(真人)。そして、同時にあることに思い当たる。

 数時間前に虎杖が駅の売店から帰ってきた時に見た心實がとても消耗している姿、それがどうしてそうなったのか、同じく魂に干渉する真人の領域展開に自分が入った時にどうなったのか、それらが思い出され点と点が繋がっていき

 

 

「先輩ッ────」

 

「詠の術式はあくまで、魂から垂れ流れたモノを受け止めるものだ。別にお前が心配するようなことは起きてねえよ」

 

 

 だから、気にすんな。

 そう言う諏佐に思わず閉口する。今回、虎杖を連れての任務であることから、事前に五条悟や以前虎杖と共に任務に就いていた七海健人から話を聞いていた為に万が一を考えていた諏佐は何度も言葉に出さずに心實の安否を確認していた。

 あくまで魂から垂れ流れる情報を受け止める彼女の術式が虎杖から僅かに漏れた───呪いの王・両面宿儺に触れて何が起きるのか。元々は呪霊の二の前にならぬ様に意識して虎杖の魂を範囲から外していたつもりであったのだが、普段通りの広範囲術式使用で巻き込んでしまった。

 もちろん、宿儺ともあろうものが自身の魂から情報を垂れ流すなどということはしないだろう。今回のは本当に事故同然だった。常に宿儺の魂と共にいる虎杖の魂から本当に残滓に満たぬ情報を受けてしまっただけなのだ。

 少なくとも多大な消耗をしただけに留まっている。

 だから

 

 

「いつも通り、そう慣れている行為に甘い判断をした俺らが悪いから、お前は別に悪くはねえ。なにより、詠が何か危篤になったわけでもない。まあ、ここまで言っても罪悪感があんなら任務が終わったら付き合え」

 

「……それは別にいいっすけど」

 

「今夜中に間に合わなかったら、今度の放課後でもいいが、飯食おうか。しゃぶしゃぶ奢ってやる」

 

「え、普通、俺がなんか奢らされるんじゃないの!?」

 

「後輩に飯集るほど、終わってないんだが?」

 

 

 諏佐の言葉に思わず吹き出す虎杖、そんな彼を見て諏佐はやれやれと大げさに首を振る。既に先ほどまであった空気感はどこかへと消え去り、そのタイミングで自販機から心實が戻ってきた。

 

 

「男子だけで、何を楽しく」

 

「任務後の飯の話だ、虎杖が奢ってくれるらしい」

 

「え!?さっき、先輩が奢ってくれるって言ったじゃん!?」

 

「冗談だ冗談」

 

 

 高専を出てから妙に存在していた諏佐側の壁とも言えるものは既に消え、楽し気に冗談を言う諏佐の姿に思わず心實は相方の癖、肩を竦ませため息をついた。

 そうして、しばし待っていればホームにアナウンスが響き、電車が入ってくる。

 電車を待つために並んでいたのだが、この時間に来るこの電車に乗る客は存外少ないのかホームで待っていた人間の内、マーキングされている女子大生と自分たち三人を含め見える範囲で十数人ほどしか乗車せず、電車は動き出し始めた…………。

 

 

 

 

 

 

─────・─────

 

 

 

 

 

 

 ガタン・ゴトン ガタン・ゴトン

 ガタン・ゴトン ガタン・ゴトン

 

 既に時刻は夕方。

 学生が下校するには少しずれているそんな時間帯で外ではカラスが巣へと帰りながら鳴いているのが聴こえるがその代わりに車内はただただ静かだった。

 誰かの話し声が聞こえるわけでもなく、誰かの寝息が聞こえるわけでもなく、車内にはこの電車の音ばかりが響いていた。

 

 その静けさは何かうすら寒いモノを感じさせるような空気感を作り出しており、鈍い人間でもなければこの静けさ故、逆に澱んでいるとも言えるこの空気感に満ちた空間から離れるために別の車両へと移ることだろう。

 そんな車両にいるのはもう四つほどの駅に停まっているというのに変わらず両手で数える程度の人間しかいない。

 車両の長椅子、その端側の壁に凭れるようにして携帯を弄っている女子大生や、カバンを抱えるように寝ているスーツを着た男性、どこか放心しているように見え虚空を仰ぎ見ているOL、眠そうにしながら本を読んでいる学生。

 そして、そんな彼らを警戒する三人。虎杖、諏佐、心實の呪術師。

 この言い知れぬ空気に顔を顰める虎杖、そして既に目を瞑り自らの術式を使い始めている心實、そんな二人に対して諏佐は一人電車の出入口に寄りかかりながら飴を口に放り込んでいた。

 いつ呪霊が仕掛けてくるかもわからないこの状況で悠長に飴を食べる、しかも相方は早々に術式を使用しているのにも関わらずに。普通ならば苦言の一つや二つは出てくるもの。虎杖も流石に飴を舐めてる場合じゃない、と言おうとしたがそれよりも先に隣から声が飛んでくる。

 

 

「虎杖。気にしなくていい。太秦はあれでいい」

 

「ええ……いや、でも、飴なんて食ってて大丈夫なんかな」

 

「ルーティンみたいなもの」

 

「……うっす」

 

 

 例え、言葉に出さずとも心實には虎杖の考えは分かる。

 とりわけ、こうして術式の出力を上げていればなおさら。勿論数時間前のようなことは起きないように虎杖から汲み取る情報は必要最低限なモノにしている為、宿儺の残滓すら聴こえない。

 だから、虎杖がスパッと納得したのを心實は理解し胸中で虎杖の素直さというもの改めて好感を覚えつつ呪霊を待ち続ける。

 

 

 そうして、何分経ったか。

 いつでも反応できるように警戒心を強め維持している虎杖に、変わらず汗一つかく事なく術式を維持している心實、そして諏佐が二つ目の飴を口にしようとして、電車はトンネルへと入り、窓の外が闇に変わって

 

 

 

「────虎杖!」

 

「了解!」

 

 

 心實が叫ぶと同時に元々の予定通り、虎杖が電車の窓を全開させる。

 そして、諏佐が視線を巡らせれば、件の女子大生と他の乗客がその姿を消していた。攫う瞬間を見逃したが元より、そのつもり。視線が心實とかち合い、諏佐は声を張る。

 

 

「虎杖、出るぞ!」

 

「おっす!」

 

 

 諏佐は虎杖とは逆側の窓を開けて、三人は狭い窓から車外へと身を捻るように躍らせる。

 いまだトンネルの中、電車と壁で人二人並んで歩くことも出来ないような空間に三人は出ていく。

 当たり前だが、電車という速度を出している乗り物から飛び出せば、大きな力が加わるもので、心實を抱えながら飛び出した虎杖はその並外れた身体能力と呪力による強化を用いながら壁を擦りながら速度を殺していき、ある程度までいったと思えば虎杖と心實の視界に広がっているモノはまったくの別物に変貌していた。

 

 

 ガタン・ゴトン ガタン・ゴトン

 

 ガタン・ゴトン ガタン・ゴトン

 

 

 暗く、怖気が走り、陰鬱とした空気が漂う呪力がどこもかしこもこびりついている空間。

 電車から出たはずなのに気が付けば、電車の中。

 そこには先ほど消えたはずの乗客たちの姿があり、そして

 

 

「呪霊の領域」

 

「こいつらが……」

 

 

 別の車両、恐らくは先頭車両に当たる方向からまるで紙に染み付く墨汁のように滲み出てくる黒。

 気色の悪さを感じさせるような澱み切った黒の人型。

 小学生ほどの体躯のそれらはノイズがかったような声をきゃいのきゃいのと挙げながら、その手に持つ包丁やスコップ、棒を自慢するように振り回して二人を見ている。

 

 

…………ザザァ……』

 

「あれ、つか、諏佐先輩は?」

 

「どこかにいる。それよりも来る」

 

 

 

ザザ………粗挽きぃ~粗挽きぃ~

 

 

 

 

 

 

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