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ノイズがかった車内アナウンスが響いたの皮切りに黒い呪霊たちが車内の壁、天井、床、金網の上を我が物顔で駆けながら、虎杖と心實へと迫っていく。
同時に虎杖も駆ける。呪力を拳に纏わせ、迫ってくる呪霊へと振るう。
一撃、二撃、三撃と的確に彼らの芯を捉える様に殴りつければ、面白いように彼らは吹き飛んでいくが虎杖の表情はやや顰めたモノを見せる。
「(軽すぎる!芯を殴れてるけど、吹っ飛ぶ瞬間に自分から跳んでダメージを最低限にしてる……なら、)」
こっちがあと一歩踏み込む!
「ゲキャッ」
一瞬の思考。
それを隙と見たか、牛なたを持った呪霊が車両の手すりを掴み、ぐるりとその小さな体躯を活かして壁との間を回ったと思えばその勢いままに虎杖へと飛び込む。
牛なたを振りかぶって迫る呪霊、並みの呪術師ならばぎりぎり回避できる速度で迫る呪霊を虎杖はその身体能力で牛なたを避ける様に呪霊の腕を掴み引き寄せ、引き絞った拳でその布で隠れた顔面を殴りつける。
先の様に最低限のダメージで抑えられないために床と拳で挟むようにして。
虎杖の目論見通り、呪霊はそのまま祓われたが
「虎杖、三体連携」
まだ、呪霊は大量にいる。
棍棒やスコップを持った呪霊が並んで迫り、一体が虎杖へと飛び掛かる。
それに対して、虎杖は回し蹴りで壁へと蹴り飛ばして見せるがその影から二体目が虎杖に肉薄する。それを前に虎杖は何も焦ることはなく僅かに姿勢を下げ、呪霊はその顔面にいくつもの長針を突き刺さっていき僅かにその勢いが殺され、その隙を虎杖は逃さずに呪霊の足首を掴んで前方へと振り下ろす。
「ゲギャッ!?」
更に背後にいた三体目が二体目の呪霊に巻き込まれ勢いよく床にたたきつけられる。
普通ならば、二体目までは対処されるが三体目の対処は難しいはずで、不意打ちとしては充分なはずだった。虎杖の不意を打てるかどうかは分からないが……そんな呪霊の連携は容易くだいなしに変えられていく。
「『聴魄術式』遠慮しなくていい、全部私が
その指に何本もの長針を挟み込んだ心實は至極どうでもいいとでも言う様に虎杖の背後から呪霊たちを見る。
心實の『聴魄術式』は例え、相手が呪霊であってもその思考を聴きとれる。無論、相手が特級呪霊など、実力差がありすぎれば深くまで聴くのは難しいが。だが、少なくとも目の前の呪霊たちは三級が関の山。
雑音、雑音、雑音ばかり。
聞くに堪えない、だがいくらでも聴き取り呪霊のやりたいことはとことん潰す。
初めて組む相手、呪術師として高専生として先輩であっても心實詠はその小学生と見間違う身長故に嘗められる事が多い。ましてや、他者の魂から垂れ流れる本音と本性を暴く術式であるが故に長い付き合いである諏佐や後輩たちや五条悟でもなければ距離を置かれ、信用されないことが多いのは当然だ。
だからこそ、心實は駅で諏佐から術式の詳細を聞いた虎杖もその胸中では距離を置こう、あまり良い顔はしないと思っていた。
だが、蓋を開けてみれば
「数で来る。漏れ残しは私がやる」
「うっす!」
点で来る先ほどまでとは違い、まるで動く壁とでもいうような勢いで迫ってくる何体もの呪霊を虎杖は先んじて突貫し、蹴りを、拳を、放ち放って呪霊を吹き飛ばしていき逃した呪霊は後方から心實が呪力を纏わせた長針を投擲し祓っていく。
魂が聴ける……なんか、大変そうだな。聴きたくないこととか、聴いてて嫌なこととか、聴こえるんだろ?さっきみたいに、聴いたら危ないこととかが不意に来るわけだし……あと、凄くうるさいんだろうな。
思わず笑みが零れそうになる。
論点が違う。自分の本音、本性が暴き立てられる。それはどれだけ聖人君子であってもいい顔はできないものだ。
諏佐ですら初めて心實と出会った時に彼女へ文句を言っていたのだから。
だが、なんだ、これは。自分が原因で危険な目に合わせてしまったと、普通ならミスとはいえ術式で聴いてしまった方が悪いというのに自分が悪いと考え、さらにはこちらのメンタルを心配する?
「生意気」
新しい呪針を取り出しながら、心實は今も呪霊を殴り倒し蹴り倒している後輩の背を見て文句とも言えぬ言葉を呟き、虎杖が漏れ逃した呪霊の眉間に呪針を叩き込む。
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場所は変わり、諏佐は一人呪霊の領域に足を踏み入れる。
虎杖らと同様に領域内は電車の車内だが、彼らと違うのは
「俺一人、か」
文字通り、諏佐一人。
乗客の姿はここにはない。代わりにいるのは諏佐を取り囲むようにわらわらとその手に包丁を持った黒い呪霊たち。
皆一様にその顔を隠している布を揺らす様にけたけたと嗤っている。見ている側からすれば、いい気分ではないそんな呪霊を前に諏佐は飴を口に放り込み、加虐的な笑みを浮かべる。
「来いよ」
『次は~活けづくりぃ~活けづくりぃ~』
挑発的な言葉と同時に車両にアナウンスが響き渡れば、途端に呪霊が諏佐へと四方八方より殺到していく。一切の逃げ場のない襲撃に対して諏佐は四肢に呪力を回し、持っている刃物ごと呪霊を蹴り飛ばしていき、僅かに空いた空隙に身を捻らせながら滑り込み呪霊の包囲網から脱出する。
スライディングのように勢いを殺し、振り返れば既に呪霊たちは諏佐の方へと向きなおって、巨大な玉のように迫っていく。今度は前面にその包丁を突き出して、ゴリ押そうモノならそのまま突き刺してやると言わんばかり。
「だから、どうした」
右の袖。
そこよりズルりと這い出る一匹の蛇。
それはみるみる内に大きく大きく、アナコンダよりもなおデカくなったと思えば口より何かを吐き出してから、その長く太ましい尾を振るい玉となって襲ってくる呪霊にたたきつけ、彼らの団結を大きく崩しながらその姿を消す。
唐突に現れ唐突に姿を消した蛇に面くらいながらも呪霊たちは崩れた玉を直しながら、今度こそ活けづくりにしてやろうと諏佐に向かっていき────
「猿猿しいんだよ」
車内に暴風が撒き散らされた。
触れたモノを抉るような暴風は玉となっていた呪霊たちを次々と外側から削っていき、同時に車内の金網や長椅子、手すりを一切関係なく破壊していき、生き残った呪霊たちが吹きとばされ出入口付近の壁にぶつかっていく頃に暴風は止み、代わりに白い三節棍を手にした諏佐がそこにいた。
「そんなに曲芸してぇなら、日光にでも行ってろ。……ああ、やっぱ行くな、実家と同県だわ」
三節棍を軽く振り回しながら、諏佐は嗤う。
調子は良好。
甘味は充分。
心實や虎杖と逸れはしたが、何も問題ではない。
「さて、お前らの本体はどこだろな。先頭車両か?それとも最後尾?ああ、もちろん逃がさない。ところで、この電車、領域はなんだ、実際に動いてるのか?それともそういう風に錯覚させてるのか?」
どこまでなら、お前たちは許容できる?
そんな嘲笑交じりの言葉に呪霊たちは一瞬、何を言っているのかが理解できなかった。
どこまで?それはどういう意味だ?いったい、何を許容するというのか。そこまで知能がない呪霊らには理解できず、ひとまず殺そうと騒ぎ始め、次の瞬間に騒がしさが消えた。
「『厭魅巫壷呪法』────『
諏佐の背より呪力が渦巻き、三節棍を構えている諏佐の周囲に数匹もの巨大なムカデが這い出ていく。幅が四十センチはあるムカデが四匹その顎を軋らせながら呪霊たちを睨め付けている。
一匹一匹が相当量の呪力を有しており、その呪力差に呪霊たちは僅かに恐怖を抱いてその場から数歩後ずさった。
刹那
「さぁ゛る゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅぅぅっ!!!」
諏佐が床を蹴り、四匹のムカデを引き連れ、否勢いよく前進するムカデと共に呪力の塊同然に車内を突き進む。
ギジギジと諏佐とムカデたちは長椅子を金網を手すりをおおよそ、電車らしい内装の全てを破壊しながら呪霊たちへと突き進む。その姿はさながら、戦車のようで呪霊の領域を蹂躙していく。
如何に呪霊たちが数を揃えていようとも、良くて三級程度。
そんなものでは諏佐太秦は止まらない、ムカデらしく前へ前へと。
そうして幾つの車両を突き進んだろうか。
既に呪霊は尽く轢き潰していったが、まるで染みのように車両の壁面、天井、床から滲み出てくる。
その手にはやはり包丁やら棍棒やらを持っている。そんな呪霊たちを諏佐は一瞥して
「ひたすら作って殺す。同じことしかできねえのか、猿」
飴を噛み砕きながら嗤った。
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