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『
それが諏佐太秦の術式。
釘崎野薔薇の『鄒霊呪法』、狗巻棘の『呪言』といった非呪術師が呪いと聞いて考えるモノに近い術式を有する呪術師は何人もいるとおり、諏佐太秦もまたそういう世間一般の呪いに近しい術式を有していた。
『厭魅巫壷呪法』は所謂、蠱毒と呼ばれる呪いだ。諏佐家相伝のそれは術式を発現した呪術師の呪力を一種類の毒蟲として術式に刻み込む。そうして、次の呪術師は先代の毒蟲を受け継ぎ、新たに自身の呪力で毒蟲を作り、また次の代へと繋いでいく。次に、次に、次に、と繋がれた毒蟲は術式の中でその呪力を攪拌していき多くの呪力が混じった劇毒を作り出していく。正しく蠱毒であり、術式は毒蟲を入れる壷。
実際の蠱毒と違う点を挙げれば、あくまで毒蟲は歴代の呪力で創られたモノで、本物の様にお互いが喰らい合うわけではなく、そして式神のように呼び出し使役できるという事か。
それだけを見れば禪院家の『十種影法術』に近く、また呼び出せるモノの種類はこちらの術式の方が上であるが、奥の手を考えればやはり軍配は『十種影法術』にあがる。
そんな術式を使い、諏佐はいままで多くの呪霊を祓ってきた。
何度も死にかけたが、それでも挫けず折れず術式を使って心實と共に足掻き進んできた。
それが諏佐太秦。
それが、一級呪術師諏佐太秦なのだ。
「『
一級呪具『
猿夢の口から悲鳴が漏れる。だが、知らん。
もう一度、呪具を振るえば斬撃が今度は左腕の一本を奪う。
既にここは領域外、邪魔をするような呪霊たちはいない。いや、いるにはいるがそれも先ほどまでの様にどこからでもいくらでも滲み出てくるのではなく、猿夢の身体から染み出してくるように出てくるがその度に、それらは何かに苦しんで霧散していく。
何に?
『劇毒』
心實の有する呪針にはわずかではあるが諏佐の残穢が意図的に存在しており、何本も何本もそれを受けた猿夢は諏佐が術式を使用していることで活性化しているそれによって、自身の術式で作り出している呪霊を祓われていた。
そのことに猿夢は理解していないが少なくとも何らかの方法で出力の弱い自分の手駒が払われているのは理解できていた。故に一度、猿夢は距離を取る。近くにある気を猿らしくうまく使いながら斬撃を回避し、回り込んできた虎杖を避けて木の上から諏佐を睨みつける。
手駒は出せない。
近距離戦を持ち込んでも十中八九宿儺の器との連携で祓われる。
そう、猿夢は思考を回して、その歪んだ顔をより醜悪に歪ませた。
「先輩!」
「無事か、無事だな」
互いに距離を開けながら、領域に入った時に別れた相手と言葉を交わす。諏佐が相方である心實に声をかけないのは彼女が既に諏佐の胸中を聴いているためだ。
虎杖と心實の無事を確認した諏佐は三節棍を回しながら、木の上にいる猿夢を見て────目と目があった。
「あ?」
「マズ・オマ・エ」
肉が断面から盛り上がり切り飛ばした腕がもとに戻った猿夢はいままで以上の速度で木を蹴り、諏佐へと迫った。距離にして数メートル、先ほど同様に三節棍を振るい斬撃を放てば十分に対応できる。
そう諏佐は判断し、三節棍を振るおうとして
気が付いた
呪力が高まっていることに。
故に諏佐は別の手札を切る。
「太秦ハ」
「
三節棍の先にあった刃が霧散する。
中段の腕が耳を塞いだ。
「神トモ神ト 聞コエクル」
「
三節棍から手を外し、両手で印を組む
上段の腕が目を塞いだ。
「常世神ヲ 打チ懲マスモ」
「 」
呪力がカタチを成して這い出てくる。
下段の腕が口を塞いだ。
「厭魅巫壷呪法───極ノ番」
『───領域展開』
澱み雑音のアナウンスが響き、駆けていた虎杖の目の前で無数のドアが無情にしまっていく。
そうして、汽笛が響いたと空耳し領域はここに閉じた。
─────・─────
『
「『
林の中から電車の車内へと空間は戻った、いや塗り替えられたというべきだろう。
『魘猿環状線』それがこの特級呪霊猿夢の有する領域展開。元々自身の狩場である領域内で術式を付与する形だった猿夢が領域展開を真っ当な形で会得していたのは当然の帰結だろう。
事実、猿夢の被害が高専に見つかったのも領域展開を会得したことで余裕、遊びを組み込んでしまったが故であった。
普段はわざわざ術式の弱体化を条件に電車十車両分の広さを展開していたが、いまこの時においては一両分の領域であり、その術式は必中効果を取りもどしていた。それは対象を殺すまで無尽蔵に滲みだす自身の手駒。
お前が死ぬまで、延々と回り続ける悪夢の電車旅。
如何に目の前の呪術師が強かろうと関係ない、死ぬまで甚振ればいい。そうして、殺した後は宿儺の器だ─────
「と、でも考えてるのか、猿」
ガチリ、と音を立てて三節棍、その真ん中の一本を腰裏に差し込み、端の二本を分離させ、」まるで太鼓のバチでも回すかのように手の中で回す諏佐。
その肩に一匹の大きな蟲を携えて。
緑色で胸部に白と黒の目玉模様を有した蟲は黄色の肉角を出しながら、威嚇するように蠢きながらしっかりと諏佐の身体にしがみつく。
挑発しているような態度に猿夢はいら立ちの表情を作り、領域にアナウンスが響いた。
『粗挽きぃ、粗挽きぃ』
『えぐり出しぃ、えぐり出しぃ』
『活けづくりぃ、活けづくりぃ』
「来いよぉおお゛お゛!!さぁ゛ァ゛る゛うう゛う゛ッッッ!!!!」
四方八方、領域のあらゆる場所から滲み出てくる呪霊呪霊呪霊、呪霊!
殺すまでいくらでも滲み出てくる呪霊が諏佐へと触れる。だが、瞬間、触れた呪霊は霧散していく。殴られてもいないのに、触れただけで、いや触れる前に霧散していく。その状況に猿夢は苛ついていた表情から理解できないという表情を見せる。
そんな猿夢の正面にいつの間にかに来ていた諏佐は嘲笑しながら、答える。
「『常世揚蝶』は他の蟲と違って固有の能力がある。『領域展延』、領域の中和、シン・陰流の簡易領域とは違う対領域展開の術。
で、だ、もう一つ、俺はこいつがいる間、他の蟲が使えない。蟲による応用を捨てその代わりに呪力を上げる、そういう縛りを結んでる」
「ああ?わかるか?」
お前の術式なんて知らねえんだよ猿。
嗤う嗤う、嗤う。
いままでこんな人間を見たことはなかった。猿夢にとって、この目の前の人間は意味が分からなかった。なんなのだ!?そんな恐怖と疑問ばかりが思考を埋め尽くしていく。
だが、諏佐には猿夢の状況などどうでもいい。
始まるのは乱打。
打。打。打。打。打。打。打。打。打。打。打。打。打。打。打。打。打。打。打。
何度も何度でも散樂を振るい、猿夢の顔面を破壊していく。
先の虎杖による乱撃と違う点は速度と威力。何より、領域展開してしまったことで自ら逃げ道を塞ぎ、領域展延で諏佐が術式を中和していることで結果としてすべて全て、諏佐に有利な状況を猿夢は自ら作り出してしまった。
「キョオオオオオォォォオオオオ!!!!」
「邪魔ぁ!」
せめて、反撃しようと腕を振るえば殴り千切られる。
元より高い呪力が高まり、切り札である領域展開が完全に殺されている。これでは特級呪霊であっても形無しだろう。
そも、猿夢は特級と言ってもあくまで領域展開を会得している為にそういう括りにあてはまっている程度であり実際の実力は宿儺の指を取り込んだ呪霊に毛が生えた程度、件の特級呪霊らと比べればまだまだ弱い。そんな猿夢の長所をこうして無駄にされれば、どうなるか……
そんなもの、火を見るよりも明らかだ。
削られていく、このままでは本当に祓われてしまう。猿らしく小賢しい命乞いをすることを考えたがそんなことをしたところで目の前の呪術師が見逃すとは思えなかった。ならば、どうする、どうする。
こと、猿夢は自身の存在が脅かされた時に回す思考はおおよそ平時以上のモノであり、最適解を導き出した。
それは────
「ギ・ギ・ギ」
「領域が…!」
先ほどの様に領域を解く事で動きやすくすること。そもそも領域展開が効かない相手に領域を継続する必要なんてどこにもないからだ。
そうして、狙うのは宿儺の器でもなく目の前の呪術師でもない、あの小娘。あれを人質にしてこの場から逃走する!
そのために猿夢はその場より跳び退こうとして、それを見た。
「ズグナ゛」
拳を握りしめ目の前まで迫っている虎杖の姿が。
「虎杖、領域が解けた瞬間に殴って」
領域が閉じる瞬間、諏佐から指示を受け取っていた心實からそう言われていた虎杖は、領域が解けたと同時に走り始め、猿夢の姿を捉えた時には既に飛び込み猿夢が反応するには間に合わない距離まで迫っていた。
ここまで消耗してきた中、この一撃で祓われることはない。そう判断した猿夢はこの一撃を受けその衝撃でこの場から離脱しよう、そんな考えを抱き
「おい、俺を忘れてるだろ」
「ギ…!」
散樂を元の三節棍へと戻した諏佐が逆側から迫り、一瞬猿夢の意識が諏佐へと向けられ反応が遅れ、三節棍が猿夢の鎖骨部分を、虎杖の拳が頬へと突き刺さった。
二人の呪力と打撃がほぼ同時に猿夢へと叩き込まれ空間が歪み、黒く輝く呪力が周囲に迸る。
ただの打撃ならば、問題なかった。
だが、それが『黒閃』であるならば話は別だ。二人の呪力が猿夢の中で走りぶつかり猿夢の身体を内側から蹂躙していく。
「ギギギギギギギギッッッッ!!??」
絶叫が林に響きわたる、もはや戦う事なんて出来やしない。
逃げろ、逃げろ、逃げろ─────ここまで至って、なりふり構わず逃走しようとする猿夢、だがしかしもはや遅い。
「『
思考が反芻する。
動こうとしたはずなのに、魂が終えた思考を繰り返した。そうして棒立ちとなる猿夢の頭部へと三節棍が振り下ろされ、虎杖の拳が胸を貫いた。
霧散していく。
呪力で編まれた身体が崩れていく。
六つの腕が消えていき、足は塵に変わっていく。
「ギ・ギ・ギギィ……終、て、ん」
そんなアナウンスじみた声を遺して、ここに呪霊『猿夢』は祓われた。
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「確かに、任務後に飯奢るつったがな」
「流石にこうなるとは…」
東京某所、しゃぶしゃぶ専門店にてため息をつきつつ諏佐は隣に座る心實と共に炭酸水を飲みながら、目の前で広がる光景を見る。
「ちょ、釘崎それ俺の肉!?」
「手放したあんたが悪いのよ」
「虎杖、うどん食いたいんだが」
虎杖と食事を奢る約束をしたのは確かであったが、気が付いてみれば一年生三人が揃っていた。いったいどうして、こうなったのかと諏佐は考えるがまあ、楽しそうだからいいかと軽く息をつきながら、菜箸で虎杖が入れた肉をかっさらう。
「まあ、金をかけるならこういう時か」
肉を盗られた虎杖の抗議の声をガン無視をしながら、肩を竦め諏佐はそう言い心實は頷いた。
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じゅじゅさんぽ
───前年度・京都姉妹校交流会
「お前が諏佐太秦か、一つ聞かせろ……どんな女がタイプだ」
「身長差50センチ前後、感情を表情に出すのが苦手な幼馴染」
「……太秦、私ここにいるんだけど」
───・───
本作はこれにて完結とさせていただきます。