城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第13話 狼男フレミング

『笠間。あなたのお家芸の計略も、ずいぶん鈍ったんじゃない?』

 

 WEB電話の向こうで、女は冷ややかに言った。

 

『せっかく貸し出したスタンド使いを、またも倒されるなんて』

「完全に予想外でした。まさか、蚊のサイズのスタンドまで発見して打ち落とすとは。神原の取り巻きども、侮れません」

『あれは、理事長選出会議の時に、多数派工作が不調だった時に使うつもりだったのよ。あなたが、ウォーミングアップも必要などと軽口を叩くから』

「申し訳ございません」

 

 笠間は、深々とカメラに頭を下げた。

 

「しかし、ヤツを使う必要もなかったと思いますよ。私がお渡しした、理事の連中の弱みをチラつかせれば、工作は楽なものでしょう?」

『確かにね。そこは、よくやってくれたわ。ようやく、待ちに待った時が来るというわけね』

 

 甘やかに上擦る声。己の野望を果たそうとしている女の、歓喜が噴き出していた。

 

『コホン……。その前に、ゴミ掃除はしておきたいわ。もう一度、神原に仕掛けます』

「なぜ、そう勝負を急ぐのですか? 神原は、あなたが〈スィート・メモリーズ〉を供給していることは知らないはず。知っていれば、とっくに向こうが仕掛けています。理事長選出が済んでから、じっくり料理すればいいではありませんか。どうせ、会議ではあの男は投票権どころか、出席すらできないというのに。所詮は、一介の新任教師ですよ?」

『……少しでも、不確定要素は消したい。あの男がその気になれば、あらゆる手を使って会議をひっくり返しかねないのよ。分からない?』

「そのご意見もどうかと。これでは、いたずらにヤツを刺激しているだけです」

『倒せれば、問題はないわ。そうでしょう?』

 

(……勝算があるのか? この女)

 

『ドレスの霞の目博士。あなたも知っているでしょう?』

「ドレス!? ……また、大昔の組織を引っ張り出してきましたね。あんなもの、もうとっくに壊滅しているでしょう? まさか、霞の目博士が生きているとか言い出さないでしょうね?」

『まさか。私は、彼の研究の遺産を手に入れただけよ』

 

 さすがの笠間も、戦慄を覚えざるを得なかった。

 霞の目博士。かつて、秘密組織ドレスのマッドサイエンティストであった男。遺伝子を操作した動物達を、過酷な環境で育成するという方法で、生物兵器を生み出していたという。

 

「ですが……いくら生物兵器といえども、スタンドが使えるわけでもないでしょう?」

『その点は、問題ないわ。なぜならその生物兵器そのものが、スタンドだからよ』

「!?」

『どうやら、霞の目博士の助手が、独自に作り上げたらしいわ。本体はドレス壊滅の時に死亡してるけど、 よっぽど未練があったのでしょうね。死体と化した生物兵器に、本体がスタンドという命を新たに吹き込んだ。自分の命と引き換えにね。まったく、科学者という連中の気が知れないわね』

「……同感ですね……。それをお使いになる、と。制御は効くのですか?」

『幸い、知性はあるから、こちらの命令は理解できるわ』

「分かりました。お任せします」

 

 そして、通信が切れた。

 笠間は、唇を噛んだ。

 

(……切り札を持っているとは思っていたが、ついに出すか。とにかく、百聞は一見に如かず、だ)

 

 

 

 

 

 数日後、放課後のこと。

 夕焼けの中、京次と神原が連れ立って歩道を歩いていた。二人の手には、スーパーの袋がぶら下がっている。

 

「だけどよぉ。先生がスーパーで買い物してるなんて思わなかったぜ。イメージにねぇもんな」

「いやいや、私に言わせれば、君こそ野菜コーナーで念入りに品定めしているとは思わんよ」

「俺はいつも自分で料理するんですよ」

「何と、そうなのか! お父上との二人暮らしとは聞いていたが。今日は何を作るのかね?」

「今日は簡単にラタテュイユですよ。先生は?」

「うむ。蓮根のよいものがあったので、筑前煮にしようと思う」

「ちくぜんにー!? 先生が!? 純和風じゃねぇか! イギリス料理じゃねえのかよ」

「私は日本料理が好きなのだ。イギリスのものは私にはどうも……そのな……」

 

 神原が、いつになく口ごもっている。

 彼らの背後から、一枚の名刺サイズのカードが回転しながら飛来してきているのに気づかずに。

 

「ぐっ!?」

 

 京次の後頭部に、強烈な打撃が命中した。一瞬遅れて、地面にガラスの砕ける音。

 神原が驚いて京次を見ると、その足元に、普通の住居に使われるサイズのサッシ窓が、ガラスを粉々にして落ちていた。窓枠の一部が、大きくへこんでいる。京次の後頭部に当たった場所なのは、明白だった。

 

「何者!?」

 

 頭を押さえて呻く京次を背後に隠して、神原が誰何した。

 すぐ近くに止まっていたワゴン車の扉が開くと同時に、何度も味わった感覚が神原を襲った。

 

「自己紹介しておきましょう。私は深田と申します。〈ミステリアス・キャッツアイ〉のスタンド使いです」

「〈消滅する時間〉か。貴様ら、私の首を取りに来たか!」

「フフフ……血相を変えますね。大好物の、人間の血が吸えなくて欲求不満ですか。吸血鬼のあなたとしては」

 

 ワゴン車から降りてきた、三十絡みのジャケットを着た男がせせら笑ってきた。

 

「口を慎め。私は人間だ」

「よくもヌケヌケと。それでは、試してみましょうか。このフレミングで」

 

 続いて、ワゴン車から降りてきた姿に、神原も息を飲んだ。

 顔面が、狼のそれであった。黒い毛皮に身を包んでいても分かるほど、引き締まった筋肉で全身が造り上げられている。肩にあるパットらしきものは、外側が鋭利に尖っている。人間と同じ二足歩行だが、肩や手足の関節、反り返った腰、それらが明らかに人間のフォルムではなく、獣のそれであった。

 神原が、買い物袋を置いて、スタンドを出そうとした時。

 

「上等じゃねぇか、犬ッコロが!! 俺が相手になってやる!」

 

 京次が、一足先にスタンドに身を包み、駆け出していた。

 神原が制止しようとした時、深田がカードを京次の頭上に投げつけた。

 

「キューブ!」

 

 ガシャンッ!

 男の声と共に、京次の周囲を、縦横3メートルほどの、4枚の正方形のフェンスが取り囲んだ。次の瞬間、足の下にも頭上にもフェンスが出現。フェンスの六面体の中に、京次は取り囲まれてしまった。

 

「武原くん!」

 

 叫ぶ神原に、フレミングと呼ばれた狼男が、両方の掌を向けた。猛禽類に近い形のその掌には、

指よりも太いくらいの穴が開いていた。

 そこから、何かが高速で打ち出された。ほとんど音がしない。

 

「!」

 

 〈ノスフェラトゥ〉のマントが振るわれた。飛来物が絡み取られ、払いのけられて、二回軽い音を立てて地面に落ちる。それらは、大きな銃弾から四方八方に棘が飛び出している代物だった。

 間髪入れずに、フレミングがダッシュしてきた。

 

(速い!?)

 

 間合いをあっという間に詰められ、神原は〈ノスフェラトゥ〉のマントを、エッジを効かせて振るった。エッジを効かせるとそれは刃となり、日本刀くらいの切れ味を出せる。

 だが、その間合いの直前で、フレミングはダッシュを止める。

 肩パットが両方とも、すぅっと宙に浮かんだ。尖った方とは逆の端から伸びたワイヤーで、肩と接続されている。

 ワイヤーが伸びて、肩パットが左右から神原に迫る。

 再び、マントが振られた。右のパットは直撃、左のパットはロープにエッジが擦り付けられる。が、どちらも破壊には至らず、宙でわずかに跳ねのけられただけであった。

 

「〈エナジー・ドレイン〉!」

 

 〈ノスフェラトゥ〉が、右手の爪を全て伸ばした。フレミングの胴体に、鋭く突き立てられる。

 が、爪先は刺さらなかった。固い物に当たった軽い音を立てて、跳ね返されたのだ。

 

(これは!? ただの皮膚ではない。昆虫や甲殻類の外骨格に近い!?)

 

 肩パットのロープが、蛇のようにうねりながら再び伸びた。片方はマントで防いだものの、もう片方はかわしきれず、太股に尖った先端が突きこまれた。

 

「ぐうっ……!」

 

 先端が引き抜かれた傷口から、鮮血が噴き出す。血まみれになり、よろめく神原に、さらにフレミングが詰め寄っていく。

 

「やめろ! 出せよコラ!」

 

 スタンドをまとい、フェンスを殴り、蹴りだす京次。

 

「無駄なことを。針金を編んで作られたフェンスは、打撃の衝撃を吸収する。だから、壁の代わりとして用いられるのですよ。殴る蹴るで破れるものか。あなたは神原の後で殺しますから、じっとしてなさい」

 

 冷ややかに、深田が言い放つ。

 

「フレミング! とっとと神原を捕まえてしまいなさい。電流で黒焦げにしてしまえば、面倒がない」

「黙れ。深田」

「な……」

「貴様が俺に命令するな。俺に命令できるのは、亜貴恵様だけだ」

「亜貴恵だと……!?」

 

 神原が、フレミングを睨んだ。

 

「やはり、副理事長の城之内亜貴恵か! あの女がクイン・ビーだったということか」

「ご主人様を呼び捨てにするな。吸血コウモリ風情が……!」

 

 にじり寄るフレミングが、両方の拳を構えた。

 〈ノスフェラトゥ〉も、応じるように構える。

 双方のラッシュが、始まった。

 

「挽肉にしてくれる! ノバノバノバノバノバノバノバノバノバ!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

「ノバッ!!」

「……ぐっ!?」

 

 〈ノスフェラトゥ〉の腕のガードが開いた瞬間、フレミングの拳がその胴体に食い込んだ。

 

「ノー・バーキン!(吠えたてるな)」

 

 フレミングの台詞と共に、神原の口から血が飛び出した。

 

「やめろッつってんだろうが!!」

 

 京次は、なおも金網を殴りまくるが、フレミングは無視して、再び両方の掌を神原に向けた。

 弾丸が発射され、神原の左肩に食い込む。体内で、無数の棘がさらに傷を広げたのを、神原は激痛によって知った。

 神原の左腕を捕まえたフレミングが、その喉笛に食らいつこうとした。右腕でかろうじて防ぐが、その腕に牙が深々と食い込み、神原に呻きを上げさせる。

 

(くそッッ!! こんな金網なんかで! 破れろよ壊れろよ!)

 

 そう思った時。

 突如、京次の頭に掠めるものがあった。

 

(前にも、同じようなことを考えたことがあったぞ。確か……)

 

 キャンプ先の湖で、ナマズのスタンド使いを、岩を蹴りつけて振動で気絶させた時のこと。

 京次の脳内に、天啓が下った。

 

(もしかしたら……やってやるか!)

 

 京次は、無暗に殴るのを、ピタリとやめた。

 正拳突きの構えを取り、じっと集中する。深田が、不思議そうにそれを眺めた。

 高めた集中が、頂点に達した刹那。

 

「邪魔ッ!!」

 

 精神力を込めた正拳が、金網に叩きこまれた。

 ジャンッ!! と、金網が鳴る。しかし、破れる様子は全くない。

 

「……まったく、何をするかと思えば。無駄なことを」

 

 深田が呆れた様子で肩を竦めたが、じきに違和感に気づいた。

 ガシャ……ガシャ……ガシャ……。

 金網の揺れが、止まらずに続いている。京次は、微動だにせず、金網を見つめている。

 ガシャ、ガシャ、ガシャ!

 揺れが、どんどん大きくなっていく。その音にフレミングも気づき、神原を殴る手を止めた。

 ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャッ!!

 金網の揺れは、もはや全体に広がっていた。檻が、激しく揺さぶられている。

 

「な、何をしたのですかこれは!?」

「うっせぇ!! 黙ってろ!」

 

 予想外の事態にうろたえる深田を、京次が怒鳴りつけた。

 やがて、金網の針金を固定していた金具が、幾つもきしみ始めた。

 バツッ!! バツッ!!

 一か所がついに外れ、さらにひずみが大きくなって、次々と金具が外れていく。

 

「邪魔ッ!!」

 

 京次が、金網の端を殴りつけた。

 残っていた端の金具がついに外れ、金網の角が枠から大きく外れた。

 振動がピタリと止まり、京次は外れた角から、金網を強引に押し曲げて出ようとする。

 

「で、出るな!」

 

 深田が、カードを何枚も投げつけた。手から離れるや、それらが大きなガラス板に変化する。

 京次が、〈足場〉を踏んで、空中に飛び上がり、ガラス板を回避する。

 それらが高い音を立てて割れるのを、背中で聞いた。

 

「そんなもん、今更通用するか!」

 

 空中を駆けてくる京次に、深田が慌ててカードをまた投げようとする。

 だが、すでに遅かった。京次の空中での蹴りが、深田の顔面をまともに捉えた。

 吹っ飛ばされて、白目を剥いて倒れた深田をチラリと見ただけで、着地した京次はフレミングに向き直った。

 

「次は、てめぇだウサギ野郎! 先生の分まで、ブチかましてやるぜ」

「俺をウサギ呼ばわりだと? 何を言っているのだ貴様」

 

 凶悪な笑みで近づく京次に、フレミングは血まみれになっている神原を放り出して、自分も向き直る。

 両者の間合いが、充分に縮まった。

 フレミングの肩パットが伸びてきた。それを京次はかわしつつ、フレミングの脇に回り込んでいく。

 忌々しそうにフレミングは、その長い腕を、京次の首目掛けて斜めに振り下ろした。

 京次はそれもかわすと、拳を胴体に叩きつけようとした。これは、フレミングの腕がガードする。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!」

「ノバノバノバノバノバノバノバノバノバ!!」

 

 両者のラッシュが、激しく交差する。

 そのうちの数発が、互いの体に食い込む。〈ブロンズ・マーベリック〉に身を包んでいる京次が、そのダメージに呻いた。

 すると、フレミングが急に、拳を繰り出すのをやめた。

 ダラン、と両腕を垂らしてみせる。京次は、予想しない行動に戸惑った。

 

「おう! どうしたんだ? もうスタミナ切れとか言わねぇだろうな?」

「……効かん」

「……何?」

「全然効かないのだ。貴様の拳が、な。所詮は人間の力だな」

 

 相手の言葉の意味が理解できた時、あまりの屈辱に、京次は蒼白になった。

 

「少しチャンスをくれてやる。ガードはしないから打ってこい」

「この野郎……! じゃ、効くようにブチこんでやらぁ!」

 

 腰だめの正拳突きを鳩尾に。ハイキックを側頭部に。顎にアッパーを。

 打ち込むものの、固い衝撃しか伝わってこない。フレミングは全く表情が変わらない。

 肩で荒い息をする京次に、フレミングは述べた。

 

「気はすんだか? これが、ただの人間と俺の違いだ」

「……ふっざけんじゃねぇ!! もう一発行くぞ、歯ァ食いしばれ!!」

 

 京次は、腰で拳を固めた。ギッ、と目の前で無防備に立っている狼男を睨みつける。

 

(こいつに、一泡吹かせてやる! これが効かなきゃ、生きてたって甲斐がねぇ。この場で死んでやらぁ!!)

 

 京次が、裂帛の気合を発して動いた。

 フレミングの横面にフックを叩きこんだ。今習得したての〈能力〉込みで。

 

「ぬうっ!?」

 

 グシャッ! とフレミングの頬がへこんだ。その周辺に、ヒビが入っている。

 フレミングの目の色が、微かに変わった。

 

「……俺の皮膚を割るとはな。 先ほどとは違う攻撃か?」

「〈振動〉を強化して、てめぇを殴った……」

 

 京次が、ボソリと口にした。

 

「俺はたった今、〈振動〉を操れるようになった。てめぇの分厚いツラの皮は、固ぇブンだけ、振動が逃げにくい」

「そうか。だが、こんなものはすぐに治る」

 

 みるみる、ヒビが塞がっていく。

 フレミングの肩パットが、またも宙を動いた。迫る肩パットを、京次は拳で弾く。振動込みではあるが、ワイヤーで減殺されて、フレミングの体にはろくに伝わっていないのは、傍目にも分かった。パットがうねるように迫り、京次は間合いを詰められない。

 片方のパットが、京次の腕に張り付いた。パットの内側から、脚のようなものが広がって食い込む。

 もう一つのパットが、今度は足に張り付いた。

 突然、京次の体全体に衝撃が走った。

 

「ぐあっ!?」

 

 痺れと共に、体の力が抜けてしまう京次。

 

「ほう、まだ生きているか。パットは、突き刺すだけではない。掴まえた相手に電流を流せる。その電圧は1千ボルト。知っているか? 家庭用の100ボルトでも、毎年のように死者が出ているのだ」

「く……」

 

 ガァッ、と、フレミングの顎が開いた。鮫を思わせる、鋭利な牙が並んでいる。それが、京次の喉笛に突き立てられようとしていた。

 ドガッ!

 横合いから伸びてきた何かが、フレミングを鋭く突いた。外骨格にかろうじて穴は空いたが、体内までは深く刺さりはしなかった。

 

「ふん……。やはり殻は頑丈だな。犬ではなく、カニか何かか貴様?」

 

 嘲りを含んだその声に、フレミングはそちらを見て、短く声を上げた。

 血みどろになっている神原が、爛々と目を光らせて屹立している。その傍には、先ほどとはまるで別物のスタンドが、爪を戻しつつ構えている。足元には、意識のない深田が転がっていた。

 

「弾丸はどうした? 牙から毒も送り込んだはずだが」

「あのようなもの、傷口をくりぬいて取り出せばすむこと。どうせ傷もすぐ治るからな。毒も、今の我には効きはせん。見よ、すでに日は落ちた。時間をかけすぎたのが、貴様の失敗だ」

 

 指さされた先を見ると、夕日はすでに沈み、空を薄暗がりが支配しようとしていた。

 

「この我と〈ノスフェラトゥ・メティシエ〉が、直々に相手をしてやる。光栄に思うがいい!」

「正体を現したか。吸血鬼!」

 

 怪物としか言いようのない両者が、互いに詰め寄っていくのを、京次は動けないまま眺めていた。

 

「WRYYYYY……OOOO!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

「ノバノバノバノバノバノバノバノバノバ!!」

 

 〈ノスフェラトゥ・メティシエ〉とフレミングの、ラッシュが交錯する。

 腕のガードを、〈ノスフェラトゥ・メティシエ〉が弾いて崩した。そこにできた隙を突き、先ほど京次が作った傷跡を、拳が穿つ。ヒビが再び広がり、フレミングが思わず後ずさった。

 

「ぬ……!」

「速攻でとどめてくれる! 滅せよ!」

 

 〈ノスフェラトゥ・メティシエ〉のマントの裾が、フレミングに斬りつけられた。

 逆袈裟に体が切り裂かれて、夥しい血が吹きあがった。

 ドウッ! と倒れる、深田の体。

 

「!?」

 

 神原が、深田のさっきまで倒れていた場所を見ると、ワゴン車がいつの間にか移動してきていた。透明な腕に引っ張られるように、フレミングが車に引きずり込まれようとしている。

 

「横槍は無用だ。まだ決着は……」

「いいから来い! 仕切り直しだ」

 

 車の中から聞こえるその声に、神原はそちらを睨んだ。

 

「〈クリスタル・チャイルド〉! 笠間も来ていたのか!」

「今日はこれくらいにしといてやるよ。じゃあなー!」

 

 扉が閉まると、ワゴン車は一目散に逃げ去っていった。

 

「あの曲者めが。あの犬と、こやつの位置を入れ替えたか」

 

 とても追えないと踏んだ神原は、深田の体に爪を突き立てた。絶命したばかりの深田の体が塵に変わり、消滅していく。

 

「……そいつが、あんたの本当の姿ってわけか?」

 

 振り返ると、京次がよろよろと立ち上がってきたのが見えた。

 

「さてな……。どちらが真の姿なのか、我にも分からぬ」

 

 皮肉な笑みが、みるみる寂しげなものに変わっていった。スタンドも元の〈ノスフェラトゥ〉に戻っていく。

 

「今の姿は、3分間しかもたないのだ。持続時間が切れた」

「ウルトラマンだなまるで。また、楽しみが一つ増えたぜ」

「……私を、倒すというのかね? 君たちにとっては、私は所詮、怪物ということなのかな」

「あぁ、そういうのは、俺にはどうでもいいんだ。あんたが、人間だろうが怪物だろうがな。俺に分かるのは、あんたがメチャクチャ強い姿を持ってるってことだけだ」

「そうか……君らしいな」

 

 京次は、笑みを消した。

 

「それよりだ。他の連中には、今見聞きしたことは洗いざらい話すぜ? あんたの本当の力についてもだ。あいつらは、あんたを信じてスタンドと戦ってる。あんたは、その信頼ってやつに答える義務があるだろ?」

「重々分かっている……。あのような怪物まで出てくる以上、彼らには今後どうするか選択する権利を与えたい。もし私についてきてくれるなら、私の背景を全て知っておいてもらいたい」

 

 京次は、真剣な顔で頷いた。

 


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