城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第14話 【過去編】神原先生の昔話

 神原史門は、吸血鬼の父親と、人間の母親の間に生まれた。

 吸血鬼といっても、彼の父親は、古代において作られた石仮面と呼ばれる道具で、後天的に吸血鬼になった、元イギリス人だった。

 神原にある父親の記憶は、たった一つだけである。暗がりで幼い自分の顔を覗き込む、巨大な人影。それが、なぜだかとても恐ろしく、泣くことすらできなかったことを覚えている。

 彼は物心ついた頃に、母親と共に日本に移り住んだ。しかし、その母親も、ほどなくして病死。彼は、母方の実家である神原家に引き取られ、元外交官の祖父に育てられた。

 神原がスタンドに目覚めたのは、まだ小学生の頃であった。自分が、他人にない力を持っていることを知り、隠れて面白半分で、野良犬の精力を吸っていたりした。

 ある日、神原は祖父に呼びつけられた。祖父は、神原のやっていたことを知っていると話した。

 

『僕がやってたことは、やはりいけないことだったんだ……。僕は、見捨てられるんだ』

 

 神原は、真剣な面持ちの祖父を前にして、そう思った。

 しかし、祖父は彼に言った。

 

「人には……いや、生きとし生けるものには、それぞれ生まれ持った業というものがある。お前の場合は、人より深い業を背負っている。それはお前に一生ついて回るだろう」

 

 押し潰されそうな気持で、神原はその言葉を聞いていた。

 

「業を背負ったこと自体は、お前の責任ではない。しかし、己の業に負けてしまうことは、お前自身の人生を暗く歪ませることを意味する。業に負けることも人生、業を乗り越えることも人生だ。だがしかし、己に負けてしまったことを悟りながら、人生を終えることが果たして幸福だと思うか?」

「……」

「お前は業を身に受けると同時に、紛れもなく、正しい道を進みたいと願う精神がある。その心を見失うな。時には、業という暴れ馬を乗りこなしてでも、己の進むべき道を歩むのだ……」

 

 それから以降も、祖父は影日向となって、神原を育て上げ、城南学園に彼を進学させてくれた。

 城南学園で神原はある日、クラスメートにセミナーに誘われた。そのクラスメートの名は、笠間光博といった。

 興味本位で出かけたそのセミナーだったが、その内容に神原は戦慄を覚えた。セミナーとは表向きで、実のところ、吸血鬼を神祖として崇める新興宗教〈ダーク・ワールド・オーダー〉だったのである。

 教祖は、かつてその吸血鬼から力を授かったという触れ込みの、中年女であった。女は常に顔を石のような仮面で隠しており、信者にセラフネームと呼ばれる別名を与えていた。教祖のセラフネームは、クイン・ビーであった。

 神原はなぜだかその吸血鬼のことが気になり、調べていった。その結果、神祖である吸血鬼が、既に滅ぼされた自分の父親であることを知り、大きな衝撃を受けた。

 そして、彼は心の中で誓った。

 

(この組織は、何としても潰す。自分の血にまつわる汚辱は、葬り去る)

 

 しかし神原は、入信はしたものの、一介の新参の信者にすぎない。そこで彼は、自分の素性と能力を、限られた人間に示すことで、教団内部での派閥を密かに作り上げていった。

 クイン・ビーは口先では世界の改革を叫び、神祖の復活を祈っていたが、実のところは教団を利用した金儲けにしか興味がないことは、すぐに理解できた。それに気づき、内心で不満を持つ者たちを引き込むのは、それほど難しいことではなかった。

 水面下でのその動きに気づいたのが、彼を教団に引っ張り込んだ笠間であった。

 

「神原。お前のセラフネームが変わることになった。明日からお前はグレート・サンと呼ばれる」

「どういうことだ?」

「とぼけるなよ。お前が、神祖の血を引き継ぐ息子だっていうのは、調べがついてるんだ。お前は秘密にしてるようだが、明らかにしてもらうぞ。その上で、クイン・ビーに改めて忠誠を誓え」

「……なぜ、血を継ぐ私が、教団の長ではいけないのだ?」

「ふん……お前が、本当は教団の長なんて望んでいないのは分かってるんだ。本当の狙いは、この教団を分裂させて潰すこと。顔にそう書いてある……」

「何を言っているのか、分からないが」

「それは俺にとっては、嬉しくない話なんだよ。内心で人間を信じているお前よりも、クイン・ビーの方が、俺には都合がいいのさ」

「都合がいいだと!? 貴様、何を企んでいる」

「別に。どうせ下らない世の中だ。せいぜい、面白おかしく引っ掻き回してやりたい。それだけのことさ。それには、このクソッタレな教団も役に立ちそうだからな」

 

 その後、神原のセラフネームは変わり、神祖の血筋ということで、幹部に抜擢された。神原は表面上はクイン・ビーに忠誠を誓っていたが、裏では派閥作りは中止せず、ついには組織の大きな部分を掌握する派閥のリーダーにまでのし上がっていた。

 笠間の動きには常に気を配っていた神原だが、ある頃を境に、笠間の行動が変化していった。それまでは分裂を防ぐ方向で、時には信者を脅すような行動も目立ったのに、そうした行為があまり見られなくなったのだ。クイン・ビーに叱責されない程度に、最低限の仕事だけをこなすだけの男になっていき、それが神原には却って不気味に感じられていた。

 そして神原が入信してから二年後、ついに教団の派閥抗争が表面化した。

 教団は分裂し、それを契機にクイン・ビーも教団をあっさり解散。神原も、新たに立ち上げた新教団を維持する必要を感じなくなり、そちらも解散させた。これによって、〈ダーク・ワールド・オーダー〉は、神原の狙い通り、消滅したのである。

 それからは、普通の人生を生きるつもりであった神原は、教職を志していた。かつての祖父のように、『人を正しい方向に導く』人間を目指したかったのだ。

 そんなある日、城南学園の理事長の縁者であった、間庭数馬と会った。出会った当時は、まだ教師の一人に過ぎなかった数馬は、すでに校長になっていた。

 

「神原くん。〈スィート・メモリーズ〉を覚えているかね?」

「! 忘れはしません。クイン・ビーが、奇跡の技と称して手渡していたスタンドです。あの女は、〈消滅する時間〉を利用して、汚れ仕事を信者にさせるために、それを使わせていた……」

「あのスタンドが……また使われているようなのだ。城南学園の中で。しかも、スタンド使いを生み出す〈矢〉まで用いている可能性もある」

「何ということ……。するとクイン・ビーが、城南学園に潜り込んでいると?」

「おそらくは。かつて君は、学園に入り込んでいた、〈ダーク・ワールド・オーダー〉に関わるグループを一掃してくれた。おかげで、道を踏み外す生徒もいなくなった。心から感謝している……」

「あの頃は、間庭先生にも随分、尽力いただきました」

「……私は、あの学園が好きなんだよ。私も元は、学園で青春を過ごした。大切な思い出の場所でもある。それを……得体のしれないものに、汚されたくない」

「……」

「お願いしたいことがある。我が校の教師となって、〈スィート・メモリーズ〉が使われなくなるよう、力を貸してもらえないか? 放っておけば、おそらくは多くの不幸な人間が出てくる。あの頃のように」

「……それは私も同感です」

「スタンド使いではない私では、どうにもならない部分がある。君には辛い思いをさせてしまうかもしれないが、他に頼れる人がいないのだ。この通りだ……!」

 

 深々と頭を下げる数馬の、真摯な態度に打たれ、神原はその申し出を受けた。

 そして京次、遥音の二人が〈矢〉でスタンド使いになった時に、神原はいち早く二人に接触した。二人とも〈力〉に振り回されるだけではない、正道を歩んでいこうとする人間であることを見て取った神原は、京次に推薦された航希も含め、共にジョーカーズの前身を作っていったのである。

 


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