城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第15話 城之内家系図、および部員会議

 過去の話を、〈スィート・ホーム〉の仏間に集合した、ジョーカーズ一同の前で語り終えた神原は、深いため息をついた。

 

「……そして今、クイン・ビーであろうと思われる城之内亜貴恵は、この学園の副理事長になっている」

「何で!? どうしてそんな、教祖あがりの怪しい女が、この学校の副理事長なんかになってンのさ!」

 

 遥音が噛みつくように詰め寄った。

 

「ってゆーかさ、城之内っていうくらいだから、元から理事長の一族なんじゃないの?」

「服部くんの言うことは、概ね正しい。状況を知ってもらうため、城之内一族の構成を説明しよう」

 

 神原は一枚の紙を取り出し、家系図をそこに書きつつ語っていった。

 いつの間にか、幽霊猫の炭三までちゃっかり加わり、その家系図を眺めている。

 

 

 【】内は故人      間庭数馬-愛理(養女)

              │    ↑

            【間庭謙介】 │

              ├--間庭愛理

            ┌【信乃】

 【城之内恵三】-茂春-┤

            └【雅史】 ┌未麗

              ├- -┤

       (旧姓:満島)亜貴恵  └聖也  

 

 

 

「敬称は略させてもらう。城南学園の創始者は、炭三君の朋友であった城之内恵三だ。現在の理事長は、恵三の息子の茂春。茂春には、長女の信乃と、その弟で長男である雅史の、二人の子供がいた。二人とも、既に故人となっているがな」

「両方? それじゃ、後継ぎがいないってこと?」

「それも説明していく。まず信乃だが、結婚して間庭姓となり、生徒会書記の愛理くんを生んだ。彼女が8歳の時、両親が共に交通事故で亡くなり、伯父の間庭数馬の養女となっている」

「ああ! 校長の娘だってのは知ってたけど、実の娘じゃないんだね?」

「その通りだ。そして雅史の妻こそが、城之内亜貴恵だ。元は一族の人間ではない」

「一気にキナ臭くなってきたね……」

 

 航希が、家系図を見据える。

 

「雅史なき後、亜貴恵は長男の妻であったことを足がかりに、副理事長の地位を手に入れた。そして今、現理事長の城之内茂春は来期で引退を表明している。来月には、次期理事長の選出会議が予定されている……」

「読めた! この亜貴恵が、理事長の椅子を狙ってるんだね!?」

「候補は二人。一人は、君の言うとおり、副理事長の亜貴恵。もう一人は、校長でもあり理事の一人でもある間庭数馬。最終的には、彼らを除いた九人の理事の投票で決まる……」

「待ってください」

 

 文明が、話を遮った。

 

「そもそも、新興宗教の教祖なんかやっていた人物が、学校経営に関わっていいんですか? ここは、特に宗教絡みの学校ではないでしょう?」

「だから、亜貴恵は自分の正体を隠して活動していたのだろうな」

「お金のため、ですか?」

「うむ……。元来、金に執着心の強い性格なのだろうと思うがな。しかし、きっかけと思える事柄がある」

「と、いうと?」

「亜貴恵は、亡くなった雅史との間に、二人の子供を作った。長女の未麗は、現在は成人して、理事ではないが評議会議長となっている。四歳下の長男・聖也だが……本来なら、私と同じ学年で、この学校に入っていただろうな」

「本来なら?」

「彼は……生まれた時から、全く意識がないのだ。現在も、どこかの病院で眠り続けているはずだ」

 

 全員が、息を飲んだ。

 

「テレビとかでは、時折聞く話ですけど……身近に聞くのは初めてです」

「当然、膨大な金額の医療費が必要なはずだ。そのために、亜貴恵はなりふり構わず金を搔き集めるようになったのだろう。そのための一手段として学園内の権力を欲していたが、やがて手段が目的化し、目的のためならいかなるドス黒い手段にも手を染めるようになった、というところだろう。スタンド使いを用いるのも、その一端だ」

「だったらよー」

 

 京次が、面倒くさそうに口を挟んできた。

 

「その亜貴恵を倒しちまえば、いいんじゃねぇか? スタンド使えば、できない相談じゃねぇだろ」

「京次くんッ!!」

 

 文明が、大声をあげた。

 

「通り魔みたいに襲うつもりか!? それをしてしまえば、奴らとやっていることが、何も変わらないだろッ!?」

「だけどよ、一番早道だぜ? 先生、なんでそうしない?」

「大きな理由は二つある」

 

 神原は、わずかに顔をしかめている。

 

「まず、亜貴恵がクイン・ビーであるのは十中八九間違いないと思っていたが、確証がなかった。もっとも、あのフレミングのおかげで、その点はクリアしたと思っていいが」

「ふうん……もう一つは?」

「これは、今後も頭に置いてもらいたことだが。クイン・ビーは、私を狙ってスタンド使いを差し向けているが、私が反撃してくる可能性を考えないわけがない。これが挑発で、反撃を待ち構えているとしたら、備えがあると考えるべきだ。実際、君と対決したあのフレミング、あれはおそらくクイン・ビーの切り札だろう。他にも強力な戦力があるかもしれん。敵の備えの全体像が分からないのに、いきなり飛び込むのは愚策極まる。特にスタンドというものは、能力によっては1体で戦局をひっくり返しかねないからな」

「……じゃ、先生はどうするつもりなんだよ?」

 

 いささかうんざりした風情で、京次が尋ねた。

 

「まずは、来月の理事長選出会議を待ちながら、敵の出方を見る。奴らも、タイムリミットが差し迫って、切羽詰まってきている。あのフレミングを出してくるくらいだからな。敵がジタバタ動けば動くほど、こちらは情報を得られて有利になる」

「だけどよ、敵が実力行使に出てきたら、どうするんだよ?」

「反亜貴恵派の理事を殺すとかかね? そこまでは、さすがにやれんよ。殺人ともなると、警察も乗り出してくる。学園を手に入れるのが目的なら、学園の評判を落としたり、警察にマークされるのは避けたいはずだ。たとえ証拠なく、やりおおせたとしても、ね」

 

 ここで、神原は言葉を切ると、全員を見回した。

 

「さて。君たちには、これからどうするか決める権利がある」

 

 全員が、真剣な表情で互いを見合う。

 

「聞いての通り、私が相手にしているのは、その全容もはっきりしない敵だ。スタンド使いを生み出せる矢が、奴らの手にある以上、敵の戦力もまだ増える可能性も充分ある。もっとも、適性のある人間は限られているが。それを踏まえて、君たちだけで話し合いたまえ。私は、席を外す」

「その前に、一言いいですか? 先生がいなくなってから、この話をするのは、陰口になってしまうと思うので」

 

 そう切り出した文明に、神原は頷いた。

 

「いいだろう。何だね?」

「実は僕は、神原先生のスタンドを見たことがあります。吸血鬼に変化した後の姿も」

 

 ジョーカーズの他の面々が、文明を凝視した。

 

「……いつのことだね?」

「先日のカンニング騒動です。実はあの直前、僕は芦田くんの家に押しかけてました。敵にいいようにあしらわれて、公園に追い出されましたが。そこから、先生が戦うのを見かけたんです」

「そうか……見られてたか」

 

 神原は、目を閉じた。

 

「あの時の先生の姿を見てしまえば、全面的に信用するとは、正直言えません」

「ブンちゃん!」

 

 口を出そうとした航希を、神原が制した。

 

「それに、僕は、副理事長を個人的に知っているわけじゃないし、そちらは判断のしようがありません。今の話は、あくまで先生の側の言い分だけです。それを裏打ちするものは、現在の状況だけでしょう?」

「まあ、確かに君の言う通りだ。すると、我々とは袂を分かつと?」

「……僕は、スタンドを悪用する人間が、許せないだけです。それが誰であろうと」

 

 文明は、重い口を開いて続けた。

 

「僕は本来、スタンドを可能な限り使いたくありません。なぜなら……僕の感覚では、ズルいんですよ。人が努力しても持ちえない力を使って、人を出し抜いて、自分の欲望を満たすなんて」

「ふむ……」

「そんなものが、際限なく跳梁跋扈する世界なんて、断じてゴメンです。だからせめて、悪用する人間は止めなければならない……そう考えてます。それは、誰に対しても同じです。たとえそれが、神原先生であったとしても」

「了解した。ならば一つ提案しよう。君はこれまで通り、こうした話し合いに参加してもいいし、他の三人の手助けをしてやってもらいたい」

 

 文明は、じっと神原を見つめている。

 

「その上で、反対意見があるなら申し出てくれて構わない。我々の作戦にも、不服なら参加しなくてもいい。他の三人を説得するのも自由だ。君がジョーカーズに残ってくれるなら、そうした形でも構わない」

「……そういうことなら、考えてもいいです」

「うむ。実を言うと、私はホッとしている」

 

 え? という顔で、文明は神原を見た。

 

「かつての教団では、私の言葉に正面切って意義を唱える者がいなかったからね。しかし、それは実は恐ろしいことなのだよ。私は万能ではないし、判断が間違っている可能性ももちろんあるからね。追従者ばかりを周りに置くことは、自分だけでなく、多くの人間を破滅に導きかねない。事実、私はそれを利用して、教団を滅ぼしたのだから……」

 

 

 

 

 

 

 神原が去った後、残った全員が、いったん黙り込んだ。

 重苦しい沈黙の中で、最初に口火を切ったのは、文明だった。

 

「……京次くん。君も、先生のあの姿を見たんだよね? その……恐怖は、なかったのかい?」

「怖いに決まってんだろ。強いヤツはみんな怖ぇよ。文明、おめぇにしたって、航希にしたってそうだ」

「次元が全然違うだろ!? 先生の、強さというか、その……人間を超えた凄まじさってものを、僕は目の当たりにした。僕ら全員がかかっても、勝てる気がしない……」

 

 京次は、小さく息をついた。

 

「ウチの親父も格闘バカなんだけどよ。親父に言われたことがある。『相手を、正しく見ろ。正しく怖れろ。正しく立ち向かえッッ!!』だとよ」

「……」

「怖がるのは、生物として当然だろ? だけど、相手を自分の頭ん中でやたらとデッカクしまくってたら、そりゃ勝てねぇよ。だから、相手の実力を正しく見極めなきゃイケねぇ。それで自分の力が足りねぇって思うなら……足りるまで、強くなるまでだ! 俺は、そう思い込んで、今日までやってきた。これからもそうする」

 

 まじまじと、文明は京次を見つめた。

 

「そこまで、強くなれる。そう君は、思ってるんだね?」

「おめぇはどうなんだ? これ以上強くはなれねぇ。そう思うのか?」

「……自信はない。正直言って」

「おめぇの心配してるのは、先生が暴走し始めることだろ? そうなったら、勝てねぇから引き下がるのか? おとなしく殺されるのか? スタンドを悪用するヤツは止める、そう言ったのはデタラメか?」

「そんなことはない! それだけはッ!」

「なら、先生を止めるために強くなれや。無理だとかできねぇとか、泣き言は意味ねぇぜ」

「……」

「スタンドは、『できる、と思う強い思いが力の根源だ』。先生自身がそう言っていた。おめぇはおそらく、この中じゃ、本来の精神力は一番強ぇ。つまり、スタンド勝負なら先生に対抗できる力を持てるはずなんだよ。おめぇはよ」

 

 文明の目が、ジワリと強い光を帯び始めるのを、京次は感じ取っていた。

 

(それだ! おめぇに俺が惚れたのは、その目の力だ。自分で気づいちゃいねぇだろうが、コイツには、並外れた闘争心がその中にある。とんでもねぇ〈竜〉がいるんだよ!)

 

「あのさ」

 

 航希が、口を挟んできた。

 

「正直、オレは先生と戦いたくない。オレは、みんなに対するのと同じように、先生を信じてる。京ヤンの、戦いに対する気構えは分かってるし、否定しないよ。だけど、そもそも先生とオレたちの道が、分かれるとは限らないだろう? 少なくとも、今はオレたちと先生は同志だ。その関係が壊れない限り、オレは先生についていく。二人は、どうするつもりなの? 遥音も、さ」

「アタシかい?」

 

 遥音は、頭を掻きながら言った。

 

「京次と文明が、全然別の所で見たってンなら、ホントの話なンだろうね。だけど正直、アタシは実感がないンだよ。アタシは基本、自分で見たり聞いたりして、それで感じたことに従うようにしてる。今は、アタシにとっちゃ、あの人はいい人さ。ただアタシが言えることは、中途半端に事を放り出すのは、アタシの性に合わない。行ける所まで行くまでさ」

 

 人が好すぎるな、と文明ですら思ったが、口にはしなかった。

 続いて京次が、

 

「俺は、いつも先生と組みながら、場合によっちゃ戦うことを考えてたからな。ま、俺もこれまでと同じだな」

「僕は……」

 

 文明は、少し考えて言った。

 

「僕は、やはり気持ちのどこかで、先生を信じ切れないでいるんだ……」

「ま、おめぇはそうかもな。俺は、あの人は悪人じゃねぇと思うがね。少なくとも、人間の時は」

「……どうして? 拳士の直感、なのかい?」

「いや」

 

 ふと、京次が遠い目をした。

 

「あの戦いの時、あの人は犬公にメチャクチャにされながらもよ。俺に〈エナジー・ドレイン〉を使わなかった」

「え?」

 

 航希が、京次を見つめる。

 

「そうすりゃ、吸血鬼になれて怪我も回復するし、スタンドもパワーアップするんだ。爪の射程距離も足りてたはずだ。あのままだと、あの人は確実に殺されてた。でも、あの人はそうしなかったんだ」

「あ……!」

 

 航希にも、京次の言いたいことが理解できた。

 

「人間モードの〈エナジー・ドレイン〉なら、俺が死ぬほどの威力はねぇようだしな。だのに、味方の犠牲は最小限で、自分が死なずにすむ選択を、あえて避けたんだ」

「何で、だろうね?」

「俺が思うによ……。あの人は、俺の、というか俺たちの精力を吸ってまで生き延びたくなかったんじゃねぇかな。そんな気がするんだ」

「アタシたちが、教え子だから、仲間だから。そう言いたいのかい?」

 

 遥音の言葉に、京次が頷いた。

 

「そうか……。そうなのかもしれないな」

 

 文明は、小さく頭を縦に振った。

 

「ただ、 僕まで先生に無条件に従ったら、誰も止める人間がいなくなる。あの人は懐も深い人だし、言葉に重みがあるから、つい引き込まれそうになるけど。僕は、先生とは気持ちの上で距離を置いた方が、みんなのためになるはずだと思ってるから。そのつもりで、今後もみんなと一緒に活動する」

「それでイイんじゃねぇか? じゃ、決まりだな。先生と一緒に、このメンバーでいけるところまでいくぜ」

 

 それぞれ思うところはあるものの、全員が頷いた。

 


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