「俺だ……」
え?という目で遥音は、隣にいた河村を見た。
「俺がこのチームのエースになる! そう、キング・オブ・エースに!!」
教室全員の、呆気にとられた様子をものともせず、河村は拳を握りしめていた。
「バ……バカ! 座りなって!」
「……え? あれ?」
「アンタね、今はクラスでやる課題研究の係を決めてンの! そーゆーことは、野球部の練習が始まってからにしな!」
無理やり、河村を引っ張って座らせる遥音。
「居眠り決め込んでっからだ。ったく、この大ボケは……」
「多部! その大ボケは、アンタんとこの管轄だろ? 面倒みてよ!」
「冗談じゃねーっつの。バッテリー組んでるわけでもねーのに、こんなの面倒みきれるか」
そっぽを向いて、冷たく言い放つ多部。
「……話を元に戻すよ。多部くん、君も何か、係を引き受けてくれよ。他のみんなもやってくれてるんだから」
「わりーけど、練習やら何やらで、とてもそんな余裕はねーよ。他を当たってくれ」
取り付く島もない返答に、うんざりした表情を隠しもしない文明。彼は、クラスの学級委員でもあった。
「もう無理だって。多部が引き受けるわけないじゃん?」
「遥音くん、君までそんなこと言うの?」
「だってさ、説き伏せるより、アンタがコイツの役引き受けた方が手っ取り早いと思うよ?」
「えー!? だ、だってさ、他のみんなが了解しないだろ? そんなの」
だが、他のクラスメートは、あまり反応する様子を見せない。
「見た通りさ。みんな、多部についちゃ諦めてるのさ。河村とは別のタイプの野球バカだからね。頭ン中に、野球しかないのさ」
「ま、否定はしねーけど」
他人事のように相槌を打つ多部。
「すまない! ウチのワガママ性格クソ悪キャッチャーが申し訳ない! 俺はこの冷血漢とは違うから、部活に支障のない範囲で協力するぞ! 何なりと言ってくれ!」
「かぁわぁむぅらぁぁっ!! お前、ドサクサに紛れて俺の悪口をてんこ盛りで!」
「あぁもう、喧嘩は後でやってくれよ! 君たち二人はいっつもこうだ。頼むから時と場所を選んでくれよ!!」
ついに文明が、机を何発も叩いて怒鳴りつけた。
さすがに、口をつぐむ河村と多部。
「ね、ねえ文明、アンタも落ち着いて。気持ちはよっく分かるけどさ……」
「……つい取り乱した、すまない。多部くんの仕事は、僕が引き受ける。河村くんには、空き時間でもできるような仕事を考えるから……」
学級委員なんざなるもんじゃないね、と、つくづく思う遥音であった。
放課後、軽音楽部室。
「ブンちゃんも苦労してるよなー。今頃、生徒会でも会議やってるんだろ?」
「結果的に、やたらと仕事抱え込むのさ。あーいう奴らと同じクラスになったのが運のツキさ。まったく、野球部ってのは変人の集まりなのかね?」
「いや、あの二人が特別製なんじゃない? そーいえば先生、最近よく野球部の練習みてるよね? 興味出てきたの?」
航希に水を向けられた神原は、しかし、すぐには口を開かなかった。
「……実はね。私は最近、〈ドカベン〉を愛読していてね」
「ああ、プロ野球編のやつ?」
「いや、無印の高校野球編だ」
「どんだけ前のヤツ読んでるの!? まぁ名作って呼ばれてるやつだけどさ」
「それで、一度我が校の野球部を見てみようと思ってね。この前、練習試合を観戦したんだが……」
そこで口をつぐむ神原に、航希も遥音も怪訝そうな顔。
「他校との試合だったが、今話に出てきた多部くんがキャッチャーをやっていた。正捕手が怪我をしたとかで、控えの彼が出てきていたのだがね。エースも調子を崩してしまっているというし、あのチームは災難が続いているなと。そもそも、高校野球は選手に対する健康管理がまだまだ……」
「センセ、そこからまた話が脱線してくのかい?」
嫌な予感を覚えた遥音が、釘を刺した。
「ああ、ついうっかり。その試合でだが、敵チームの攻撃で、巨漢の選手がホームに強行突入しようとしてね。いわゆるクロスプレイと言われるものだ。多部くんもブロックしようとしたが、体格が違いすぎる。これは吹っ飛ばされるな、と思った時だった」
ふ、と息を神原は漏らした。
「多部くんの前に、スタンドが出現した。相手選手より、さらに一回り大きかった」
「!」
二人が、目を見張る。
「そのスタンドがガードしたのだろう。多部くんはまったく微動だにせず、ブロックに成功した」
「それで!? 相手の選手は」
「怪我も何もしなかったようだ。普通に立ち上がって、首を傾げながら戻っていったよ」
「それって……多部が出したスタンド、ってことかぁ?」
「いや、それは分からない。当然、グランドには両軍の選手がいるし、私のような観客も割といたからね。その中の誰がスタンド使いなのか、特定はできなかった。スタンドもあの一瞬だけで、それ以降は出現しなかったしね」
「すると……先生がここんとこ、野球部の練習見てたのって」
「ああ。もう一度、あのスタンドが現れれば、スタンド使いを特定するカギとなる。あの時は、誰も傷つかずにすんだが、何しろスタンドという存在は、使い手を暴走させかねない。それを未然に防いでおきたいと思うのだよ」
「ん……そういえば。でも、関係あるかな?」
「心当たりが? 言ってみてくれ。重要なヒントになるかもしれない」
首を捻る航希に、神原が促した。
「実は……京ヤンなんだけど、さっき話に出てきた河村から、野球部に入ってくれって誘われてるみたいなんだよね……」
「武原くんが?」
「元々さ、京次って、あちこちの運動部から勧誘されてるんだよ。あの体格で、運動神経はバツグンだから。軽音楽部に籍置いてるのも、京次は虫避けも兼ねてるって言ってたけど。ほとんどが根負けして諦めるけど、最近河村が食い下がってるみたいで」
「……」
しばらく、神原は考え込んでいた。
「それだけだと、不審な点はないがね。ただ、前にも君たちに教えたことがあるだろう? スタンド使いは、スタンド使いに惹かれあう……」
「!? すると、河村がさっきのスタンドを使ってたとか……」
「可能性はゼロではない。河村くんも確か、控えではあったがベンチ入りしていたはずだ」
「うーん……」
「多部くんを最もマークしていたが、今の話を聞くと、河村くんも気を付けるべきかもしれん。よく教えてくれた」
その時。
三人のスマホが、一斉にLINEの着信音を発した。
「……京ヤン! 京ヤンがSOSなんて、よっぽどのことだよ!」
「彼は一人で戦うのを好む戦士だ。我々を呼び出すとなると、のっぴきならぬ事態だぞ」
三人は、一斉に部室から駆け出した。
京次は、あっさりと見つかった。
野球のダイヤモンドが作られたグランドで、木のバットを下げ、左のバッターボックスに入っていた。
「京ヤン! 無事だったんだ」
「それがな……。戦いは、これから始まるんだよな。対戦相手は、アイツだ」
京次がバットで指し示した先には、マウンド上でロージンをいじっている、河村がいた。
「河村くん! 君は何をしている」
「え!? 神原先生か。いやあの、これから野球勝負やるってだけで。なあ、武原!」
「まあな。三打席勝負。俺が三回打ち取られたら、俺は野球部に入る。俺が一本でもヒット打ったら、河村は俺への勧誘を諦める。そういうルールだ」
「それだけじゃないよね?」
鋭い目つきで、航希が河村を睨んだ。
「ただの野球勝負で、京ヤンがオレたちを呼ぶ訳がないよね。何をやろうとしてんだよ、河村ァ!!」
航希の足元に〈サイレント・ゲイル〉が現れた。瞬時に加速、マウンドの河村に迫ろうとした。
が。
ぴたり。と、〈サイレント・ゲイル〉が停止した。そこはグランドの手前。
「ありゃりゃ? どうして進まない!?」
わずかに下がり、再びグランドに突っ込む。しかし、またもグランド手前で停止してしまう。
「アタシに任せな! 〈ブラスト・ヴォイス〉ッ!!」
遥音が手元に〈スターリィ・ヴォイス〉を手元に現すや、美声が繰り出す音撃をマウンドに叩きつけた。グランドの手前の木の葉が揺れる。
しかし木の葉は、グランド手前で遮られて力なく舞い落ちる。音撃そのものも無効化されたのは明白だった。
「やっぱりダメか。俺もバッターボックスから出て、コイツを張り倒そうとしたけど、出られなかった。一歩でも外に踏み出した瞬間、滑らされてボックス内に戻されちまう」
やれやれと言いたげな京次。
「そういうこった。俺の〈ウィッシュ・オブ・ダイヤモンド〉は、勝負の最中は誰も邪魔できないんだよ!」
「このグランドそのものが、君のスタンドというわけか。なかなかスケールが大きいのは認める。だが、なぜこんなことを?」
神原が静かに問うた。
「さっき武原が言った通りだよ。俺は、甲子園に行きてーんだよ。そのために、武原の力を貸してほしいんだ。コイツ、この前の球技大会で、ものすごいバッティングしてたからな」
「だが、彼は今、君のスタンドに取り込まれた状態だ。グランド内が君の思い通りになるなら、そもそもアンフェアな戦いではないのか?」
「……あくまで、勝負を投げたり、水を差されたりしねーためだ。勝負はフェアにやるよ」
河村が首をぶん! と振ると、グランドに九人の人影が出現した。八人は河村と同じユニフォーム姿で、ピッチャーを除いた守備位置についている。もう一人はアンパイヤの恰好で、キャッチャーの背後についている。
「守備についてるのは、俺の分身だ。完全に俺の能力をコピーしてる。ありえない守備でアウトにはできない。アンパイヤも、野球のルールを厳正に守る。ストライクゾーンを誤魔化したりしない。あと、フォアボールになった場合は、打ち取らなきゃいけない回数が一回増える」
「ボールやバットは?」
「部活で使ってる、普通の用具だ。スタンドで干渉はしない」
「なるほど。スタンドは、スタンド使いの性格を反映する。野球については、君が真面目に取り組んでいるのは理解できた。もう一つ尋ねよう。勝負に負けた場合、君が武原くんを解放する保証はあるのかね?」
「する!」
河村は、断言した。
「勝っても負けても、結果に責任は持つ。そこで嘘ついたら、俺が野球に対して嘘ついたことになる。それだけはしたくない……!」
「そう彼は言っているが。武原くん、納得しているのかね?」
「ああ、俺か?」
ニヤリ、と京次は笑った。
「スタンドに取り込まれて、つい先生たちを呼んじまったけどよ。正直言って、俺は、コイツの勝負に対する姿勢が嫌いじゃねぇんだ。悪ぃけど、何だか面白くなってきやがった」
そして京次は、バットの先端を河村に向けた。
次の瞬間、その全身が赤銅色の装甲に包まれる。
「おめぇがスタンドを使う以上、俺も使わせてもらうぜ。〈ブロンズ・マーベリック〉をな。これは、俺にとっちゃスタンド勝負でもある」
「いいぜ。それがフェアプレイってもんだ」
プレイボール! と、アンパイヤが手を挙げた。
真剣な面持ちで、対峙する二人。
観客三人は、グランド外の土手に座り込んた。
「やれやれ、スタンド使ってスポ根対決が始まるとはね」
「須藤くん。茶々は控えて、こちらも真摯に見守ろう」
これは〈ドカベン〉のシーンじゃないんだよ、と神原に言いたいのを、遥音はじっとこらえる。
河村が、大きく振りかぶった。
そして、しなる左腕からボールが投げ込まれる。
ベースの端を掠める一球を、京次は見送った。
「トーライ!」
アンパイヤが、独特の発音でコールし、右手を曲げて上げた。
「一球目は見送ったか。京ヤンもまずは様子見したね」
「そうかな?」
「え?」
神原の言葉に、目を見開く航希。
「……なるほどな。おめぇ、なかなかの曲者だな」
「へえ、たった一球で分かるのか? 俺の球が」
「投げる腕が、体に隠れて見えなかったぜ。いきなり球が飛んでくる感覚だ。しかも、いきなり変化球で入るかよ。手元で曲がったぞ」
「武原くん! それはただの変化球ではない」
神原が口を挟んだ。
「河村くんは、ムービングピッチャーだ。どうも、手首が非常に柔らかいために、本人も予測のつかない回転をボールに与えるらしい。結果、彼の球は、手元で変化しがちなのだ。逆に言うと、彼にとっては、ストレートも変化球の一種なのだ」
「……そういうことかよ。余計に厄介な野郎だ」
妙にうれしそうな京次。
二球目は、高めに外れ。京次は見送る。
続いて三球目。外角に逃げるカットボール。
これをスイングした京次。しかし、ボールが高々と舞い上がり、グランド外に出る。
「……!?」
土手を転がる球を、神原はじっと眺めていた。
(外から、ボールが出てきた? ということは、中から外へは、障壁は働かないということか)
そして、四球目。
河村の投げた球は、やや低めに飛んだ。
「やっ!」
京次は、これを捉えるべく、フルスイングした。
が、そのわずか手前で、ボールが沈み込んだ。
鈍い音と共に、バットがヘシ折れた。その先端が、回転しながら宙を飛び、遥音の方へと飛んでいった。
「!」
油断していた遥音が、硬直したまま動けない。
航希と神原が、慌ててスタンドを出そうとした。
が。
遥音のすぐ前に、巨漢のスタンドが出現した。
あっさりとバットを受け止めると、瞬時に消滅した。残されたバットが、ぽとりと地面に落ちる。
ボールは一塁線を転々と転がり、ファーストが取って一塁を踏んだ。
「今のは!? 練習試合で見たスタンド! 河村くん、君が出したのか」
「ち、違う! 俺はあんなの知らない!」
その時、少し離れた木陰から、人影が現れた。
「……〈ワインド・アップルーター〉。俺のスタンドだよ」
「多部くん! やはり君だったか」
「先生が、やけに練習を見に来ると思ってましたけど。お目当てはスタンドだったってことですか」
皮肉な笑みを、多部は浮かべた。
「その通りだ。我々ジョーカーズは、スタンドを悪用する者たちを阻止することを目的としている。質問しよう。多部くん、今のスタンドはどういう代物なのかね?」
「スタンド使いが、自分のスタンドについて語ると思いますか? ……って言いたいところですけど、別に悪さをするつもりもないんで、お話しします。嗅ぎ回られると、練習に集中できなくなるし」
あっさりと多部は言った。
「俺の〈ワインド・アップルーター〉は、野球のプレイ中にしか発動しません。通常のプレイの範疇じゃないことが原因で、怪我をしそうになった時に、選手とかを守るだけのスタンドなんです」
「そうか。あのクロスプレイも、相手はわざと君を吹っ飛ばそうとしていたな。それも、通常のプレイとは見なさないわけか」
「……ウチの正捕手は、別の試合で、クロスプレイで怪我をしました。次の大会は難しいでしょう。エースはデッドボールを相手バッターの頭に当てて、それがトラウマになって調子を崩してます」
思いつめた様子の多部に、神原はあえて口を挟まない。
「先生……。スポーツに怪我はつきものですけど、怪我をしてもさせても、体にも心にも傷が残るんですよ。下手すりゃ、それで選手生命がフイになりかねない。俺は、そういうのが嫌になったんです」
「そうかね……。どうやら君も、野球に対する気持ちは純粋なようだな。河村くんと、共通のものがある」
「いえ先生! アイツと一緒にされるのは、何だか心外なんですけど」
「どーゆー意味だコラ! ってゆーか、俺こそ大心外だ!」
指を指された河村が、多部に食ってかかる。
「それはともかく。河村、俺も加わるぞ。お前の球、俺が受けてやる」
「何だと!? お前とだけは、バッテリー組みたくなかったんだぞ俺は!」
「それは俺も同じだよ! だけどな、監督はもう、お前と俺で次の大会を乗り切るつもりになってる。さっき、そう告げられた」
「えっ……」
「つまり、否応なしに、バッテリー組む羽目になったんだよ。お前が試合で投げたくないなら、話は別だけどな。ま、そんなワケないよなぁ? あれだけ、普段からアピール三昧だもんな」
「……じゃ、じゃあ、お前が試合に出ないとかいう選択は」
「あるかそんなもん! 試合に出られるなら、あえて毒でも口にするぞ」
「俺は毒かー!!」
拳を握りしめて叫ぶ河村。
「ちょおっと待った!」
航希が割って入った。
「多部もこの勝負に加わるわけ!? これって一対一の対決じゃんか。ズッコクない?」
「そっちだって、さっき神原先生が武原に助言してたよな? なら、俺が河村に助言してもいいはずだ」
ついっと目を逸らす神原。
「俺はあくまでキャッチャーだ。投げるのは河村ただ一人。俺のスタンドは、勝負に介入するタイプのものじゃない。そこまでアンフェアとは思わねーけどな?」
「……そう言ってるが。武原くん、張本人としてはどうかね?」
「ま、ソイツの言うことも一理ある。了解だ」
「待て待て! 俺はまだ了解してないぞー!」
河村が叫ぶのを、多部は冷静に見つめていた。
「……お前の球、武原に見切られ始めてるぞ」
「何だと!?」
「お前の言うとおり、武原のアスリートとしての素質はピカイチだ。最初はお前の変則投球に面食らったみたいだけど、対応し始めてる。それは、お前も感じてるはずだ」
ぐっ、と詰まる河村。
「お前の配球じゃ、あと二打席を乗り切るのはおそらく無理だ。全国には、こんなバケモノがうようよしてる。お前一人で勝ち抜けるほど、野球は甘くねーよ」
「……分かったよ。防具つけて、キャッチャーボックスに入れ!」
河村がマウンドから手を振ると、先ほどまでいたキャッチャーが消滅した。
背負っていた大きなバッグから防具を取り出し、慣れ切った手つきで装着していく多部。やがてそれが済むと、グランドに向かった。
見えない障壁が消滅したかのように、当たり前にグランドに入っていく多部。そのすぐ背後に、素知らぬ顔で航希がついていこうとしている。
だが、航希だけは見えない障壁に阻まれ、入ることができなかった。わちゃわちゃと、もがく航希。
「ダメだって! 俺が許可したヤツしか、ここには入れないんだから」
「ズルいじゃないか! オレも入れてくれよー!」
「入ってどーするんだよ。やることないだろ?」
「いやあの、ランナーとしてとかさー」
「意味ないだろ! 武原がヒット打てば、それで勝負が決まるんだから。得点とか関係ないの!」
「グランドに入ったところでムダだぜ?」
河村に代わり、多部が口を挟んだ。
「河村に攻撃を仕掛けようとしても、俺の〈ワインド・アップルーター〉が自動的に防御する。俺のスタンドは防御に特化してるから、その分ガードは鉄壁だ」
「……野球部って、イケズ」
ハンカチを噛んで、拗ねて見せる航希。
「厄介に拍車がかかってきたな……。あの二人に組まれたら、少なくともグランド内では無敵。外からの侵入も不可能。武原くんが河村くんを打ち崩さない限り、どうしようもない」
「でもさ、考えてみたら、負けても京次が野球部に入るだけじゃない? 別に構わないンじゃないの」
「野球部は、本気で甲子園行きを目指している。練習時間もかなり長い。武原くんは、おそらく一度入れば、サボることなく本腰を入れて参加する。彼が拘束される時間が長くなるのは、我々にとって好ましくない」
「……やれやれ、変にクソ真面目すぎる奴らだと、厄介だよね」
「須藤くん。君も、彼らと同じタイプだよ。やるとなれば、手を抜かないで取り組む」
そう言われて、遥音はいささか複雑な表情を浮かべた。