城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第18話 グランドの夢の続き 前編

「俺だ……」

 

 え?という目で遥音は、隣にいた河村を見た。

 

「俺がこのチームのエースになる! そう、キング・オブ・エースに!!」

 

 教室全員の、呆気にとられた様子をものともせず、河村は拳を握りしめていた。

 

「バ……バカ! 座りなって!」

「……え? あれ?」

「アンタね、今はクラスでやる課題研究の係を決めてンの! そーゆーことは、野球部の練習が始まってからにしな!」

 

 無理やり、河村を引っ張って座らせる遥音。

 

「居眠り決め込んでっからだ。ったく、この大ボケは……」

「多部! その大ボケは、アンタんとこの管轄だろ? 面倒みてよ!」

「冗談じゃねーっつの。バッテリー組んでるわけでもねーのに、こんなの面倒みきれるか」

 

 そっぽを向いて、冷たく言い放つ多部。

 

「……話を元に戻すよ。多部くん、君も何か、係を引き受けてくれよ。他のみんなもやってくれてるんだから」

「わりーけど、練習やら何やらで、とてもそんな余裕はねーよ。他を当たってくれ」

 

 取り付く島もない返答に、うんざりした表情を隠しもしない文明。彼は、クラスの学級委員でもあった。

 

「もう無理だって。多部が引き受けるわけないじゃん?」

「遥音くん、君までそんなこと言うの?」

「だってさ、説き伏せるより、アンタがコイツの役引き受けた方が手っ取り早いと思うよ?」

「えー!? だ、だってさ、他のみんなが了解しないだろ? そんなの」

 

 だが、他のクラスメートは、あまり反応する様子を見せない。

 

「見た通りさ。みんな、多部についちゃ諦めてるのさ。河村とは別のタイプの野球バカだからね。頭ン中に、野球しかないのさ」

「ま、否定はしねーけど」

 

 他人事のように相槌を打つ多部。

 

「すまない! ウチのワガママ性格クソ悪キャッチャーが申し訳ない! 俺はこの冷血漢とは違うから、部活に支障のない範囲で協力するぞ! 何なりと言ってくれ!」

「かぁわぁむぅらぁぁっ!! お前、ドサクサに紛れて俺の悪口をてんこ盛りで!」

「あぁもう、喧嘩は後でやってくれよ! 君たち二人はいっつもこうだ。頼むから時と場所を選んでくれよ!!」

 

 ついに文明が、机を何発も叩いて怒鳴りつけた。

 さすがに、口をつぐむ河村と多部。

 

「ね、ねえ文明、アンタも落ち着いて。気持ちはよっく分かるけどさ……」

「……つい取り乱した、すまない。多部くんの仕事は、僕が引き受ける。河村くんには、空き時間でもできるような仕事を考えるから……」

 

 学級委員なんざなるもんじゃないね、と、つくづく思う遥音であった。

 

 

 

 

 

 放課後、軽音楽部室。

 

「ブンちゃんも苦労してるよなー。今頃、生徒会でも会議やってるんだろ?」

「結果的に、やたらと仕事抱え込むのさ。あーいう奴らと同じクラスになったのが運のツキさ。まったく、野球部ってのは変人の集まりなのかね?」

「いや、あの二人が特別製なんじゃない? そーいえば先生、最近よく野球部の練習みてるよね? 興味出てきたの?」

 

 航希に水を向けられた神原は、しかし、すぐには口を開かなかった。

 

「……実はね。私は最近、〈ドカベン〉を愛読していてね」

「ああ、プロ野球編のやつ?」

「いや、無印の高校野球編だ」

「どんだけ前のヤツ読んでるの!? まぁ名作って呼ばれてるやつだけどさ」

「それで、一度我が校の野球部を見てみようと思ってね。この前、練習試合を観戦したんだが……」

 

 そこで口をつぐむ神原に、航希も遥音も怪訝そうな顔。

 

「他校との試合だったが、今話に出てきた多部くんがキャッチャーをやっていた。正捕手が怪我をしたとかで、控えの彼が出てきていたのだがね。エースも調子を崩してしまっているというし、あのチームは災難が続いているなと。そもそも、高校野球は選手に対する健康管理がまだまだ……」

「センセ、そこからまた話が脱線してくのかい?」

 

 嫌な予感を覚えた遥音が、釘を刺した。

 

「ああ、ついうっかり。その試合でだが、敵チームの攻撃で、巨漢の選手がホームに強行突入しようとしてね。いわゆるクロスプレイと言われるものだ。多部くんもブロックしようとしたが、体格が違いすぎる。これは吹っ飛ばされるな、と思った時だった」

 

 ふ、と息を神原は漏らした。

 

「多部くんの前に、スタンドが出現した。相手選手より、さらに一回り大きかった」

「!」

 

 二人が、目を見張る。

 

「そのスタンドがガードしたのだろう。多部くんはまったく微動だにせず、ブロックに成功した」

「それで!? 相手の選手は」

「怪我も何もしなかったようだ。普通に立ち上がって、首を傾げながら戻っていったよ」

「それって……多部が出したスタンド、ってことかぁ?」

「いや、それは分からない。当然、グランドには両軍の選手がいるし、私のような観客も割といたからね。その中の誰がスタンド使いなのか、特定はできなかった。スタンドもあの一瞬だけで、それ以降は出現しなかったしね」

「すると……先生がここんとこ、野球部の練習見てたのって」

「ああ。もう一度、あのスタンドが現れれば、スタンド使いを特定するカギとなる。あの時は、誰も傷つかずにすんだが、何しろスタンドという存在は、使い手を暴走させかねない。それを未然に防いでおきたいと思うのだよ」

「ん……そういえば。でも、関係あるかな?」

「心当たりが? 言ってみてくれ。重要なヒントになるかもしれない」

 

 首を捻る航希に、神原が促した。

 

「実は……京ヤンなんだけど、さっき話に出てきた河村から、野球部に入ってくれって誘われてるみたいなんだよね……」

「武原くんが?」

「元々さ、京次って、あちこちの運動部から勧誘されてるんだよ。あの体格で、運動神経はバツグンだから。軽音楽部に籍置いてるのも、京次は虫避けも兼ねてるって言ってたけど。ほとんどが根負けして諦めるけど、最近河村が食い下がってるみたいで」

「……」

 

 しばらく、神原は考え込んでいた。

 

「それだけだと、不審な点はないがね。ただ、前にも君たちに教えたことがあるだろう? スタンド使いは、スタンド使いに惹かれあう……」

「!? すると、河村がさっきのスタンドを使ってたとか……」

「可能性はゼロではない。河村くんも確か、控えではあったがベンチ入りしていたはずだ」

「うーん……」

「多部くんを最もマークしていたが、今の話を聞くと、河村くんも気を付けるべきかもしれん。よく教えてくれた」

 

 その時。

 三人のスマホが、一斉にLINEの着信音を発した。

 

「……京ヤン! 京ヤンがSOSなんて、よっぽどのことだよ!」

「彼は一人で戦うのを好む戦士だ。我々を呼び出すとなると、のっぴきならぬ事態だぞ」

 

 三人は、一斉に部室から駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 京次は、あっさりと見つかった。

 野球のダイヤモンドが作られたグランドで、木のバットを下げ、左のバッターボックスに入っていた。

 

「京ヤン! 無事だったんだ」

「それがな……。戦いは、これから始まるんだよな。対戦相手は、アイツだ」

 

 京次がバットで指し示した先には、マウンド上でロージンをいじっている、河村がいた。

 

「河村くん! 君は何をしている」

「え!? 神原先生か。いやあの、これから野球勝負やるってだけで。なあ、武原!」

「まあな。三打席勝負。俺が三回打ち取られたら、俺は野球部に入る。俺が一本でもヒット打ったら、河村は俺への勧誘を諦める。そういうルールだ」

「それだけじゃないよね?」

 

 鋭い目つきで、航希が河村を睨んだ。

 

「ただの野球勝負で、京ヤンがオレたちを呼ぶ訳がないよね。何をやろうとしてんだよ、河村ァ!!」

 

 航希の足元に〈サイレント・ゲイル〉が現れた。瞬時に加速、マウンドの河村に迫ろうとした。

 が。

 ぴたり。と、〈サイレント・ゲイル〉が停止した。そこはグランドの手前。

 

「ありゃりゃ? どうして進まない!?」

 

 わずかに下がり、再びグランドに突っ込む。しかし、またもグランド手前で停止してしまう。

 

「アタシに任せな! 〈ブラスト・ヴォイス〉ッ!!」

 

 遥音が手元に〈スターリィ・ヴォイス〉を手元に現すや、美声が繰り出す音撃をマウンドに叩きつけた。グランドの手前の木の葉が揺れる。

 しかし木の葉は、グランド手前で遮られて力なく舞い落ちる。音撃そのものも無効化されたのは明白だった。

 

「やっぱりダメか。俺もバッターボックスから出て、コイツを張り倒そうとしたけど、出られなかった。一歩でも外に踏み出した瞬間、滑らされてボックス内に戻されちまう」

 

 やれやれと言いたげな京次。

 

「そういうこった。俺の〈ウィッシュ・オブ・ダイヤモンド〉は、勝負の最中は誰も邪魔できないんだよ!」

「このグランドそのものが、君のスタンドというわけか。なかなかスケールが大きいのは認める。だが、なぜこんなことを?」

 

 神原が静かに問うた。

 

「さっき武原が言った通りだよ。俺は、甲子園に行きてーんだよ。そのために、武原の力を貸してほしいんだ。コイツ、この前の球技大会で、ものすごいバッティングしてたからな」

「だが、彼は今、君のスタンドに取り込まれた状態だ。グランド内が君の思い通りになるなら、そもそもアンフェアな戦いではないのか?」

「……あくまで、勝負を投げたり、水を差されたりしねーためだ。勝負はフェアにやるよ」

 

 河村が首をぶん! と振ると、グランドに九人の人影が出現した。八人は河村と同じユニフォーム姿で、ピッチャーを除いた守備位置についている。もう一人はアンパイヤの恰好で、キャッチャーの背後についている。

 

「守備についてるのは、俺の分身だ。完全に俺の能力をコピーしてる。ありえない守備でアウトにはできない。アンパイヤも、野球のルールを厳正に守る。ストライクゾーンを誤魔化したりしない。あと、フォアボールになった場合は、打ち取らなきゃいけない回数が一回増える」

「ボールやバットは?」

「部活で使ってる、普通の用具だ。スタンドで干渉はしない」

「なるほど。スタンドは、スタンド使いの性格を反映する。野球については、君が真面目に取り組んでいるのは理解できた。もう一つ尋ねよう。勝負に負けた場合、君が武原くんを解放する保証はあるのかね?」

「する!」

 

 河村は、断言した。

 

「勝っても負けても、結果に責任は持つ。そこで嘘ついたら、俺が野球に対して嘘ついたことになる。それだけはしたくない……!」

「そう彼は言っているが。武原くん、納得しているのかね?」

「ああ、俺か?」

 

 ニヤリ、と京次は笑った。

 

「スタンドに取り込まれて、つい先生たちを呼んじまったけどよ。正直言って、俺は、コイツの勝負に対する姿勢が嫌いじゃねぇんだ。悪ぃけど、何だか面白くなってきやがった」

 

 そして京次は、バットの先端を河村に向けた。

 次の瞬間、その全身が赤銅色の装甲に包まれる。

 

「おめぇがスタンドを使う以上、俺も使わせてもらうぜ。〈ブロンズ・マーベリック〉をな。これは、俺にとっちゃスタンド勝負でもある」

「いいぜ。それがフェアプレイってもんだ」

 

 プレイボール! と、アンパイヤが手を挙げた。

 真剣な面持ちで、対峙する二人。

 観客三人は、グランド外の土手に座り込んた。

 

「やれやれ、スタンド使ってスポ根対決が始まるとはね」

「須藤くん。茶々は控えて、こちらも真摯に見守ろう」

 

 これは〈ドカベン〉のシーンじゃないんだよ、と神原に言いたいのを、遥音はじっとこらえる。

 

 河村が、大きく振りかぶった。

 そして、しなる左腕からボールが投げ込まれる。

 ベースの端を掠める一球を、京次は見送った。

 

「トーライ!」

 

 アンパイヤが、独特の発音でコールし、右手を曲げて上げた。

 

「一球目は見送ったか。京ヤンもまずは様子見したね」

「そうかな?」

「え?」

 

 神原の言葉に、目を見開く航希。

 

「……なるほどな。おめぇ、なかなかの曲者だな」

「へえ、たった一球で分かるのか? 俺の球が」

「投げる腕が、体に隠れて見えなかったぜ。いきなり球が飛んでくる感覚だ。しかも、いきなり変化球で入るかよ。手元で曲がったぞ」

「武原くん! それはただの変化球ではない」

 

 神原が口を挟んだ。

 

「河村くんは、ムービングピッチャーだ。どうも、手首が非常に柔らかいために、本人も予測のつかない回転をボールに与えるらしい。結果、彼の球は、手元で変化しがちなのだ。逆に言うと、彼にとっては、ストレートも変化球の一種なのだ」

「……そういうことかよ。余計に厄介な野郎だ」

 

 妙にうれしそうな京次。

 二球目は、高めに外れ。京次は見送る。

 続いて三球目。外角に逃げるカットボール。

 これをスイングした京次。しかし、ボールが高々と舞い上がり、グランド外に出る。

 

「……!?」

 

 土手を転がる球を、神原はじっと眺めていた。

 

(外から、ボールが出てきた? ということは、中から外へは、障壁は働かないということか)

 

 そして、四球目。

 河村の投げた球は、やや低めに飛んだ。

 

「やっ!」

 

 京次は、これを捉えるべく、フルスイングした。

 が、そのわずか手前で、ボールが沈み込んだ。

 鈍い音と共に、バットがヘシ折れた。その先端が、回転しながら宙を飛び、遥音の方へと飛んでいった。

 

「!」

 

 油断していた遥音が、硬直したまま動けない。

 航希と神原が、慌ててスタンドを出そうとした。

 が。

 遥音のすぐ前に、巨漢のスタンドが出現した。

 あっさりとバットを受け止めると、瞬時に消滅した。残されたバットが、ぽとりと地面に落ちる。

 ボールは一塁線を転々と転がり、ファーストが取って一塁を踏んだ。

 

「今のは!? 練習試合で見たスタンド! 河村くん、君が出したのか」

「ち、違う! 俺はあんなの知らない!」

 

 その時、少し離れた木陰から、人影が現れた。

 

「……〈ワインド・アップルーター〉。俺のスタンドだよ」

「多部くん! やはり君だったか」

「先生が、やけに練習を見に来ると思ってましたけど。お目当てはスタンドだったってことですか」

 

 皮肉な笑みを、多部は浮かべた。

 

「その通りだ。我々ジョーカーズは、スタンドを悪用する者たちを阻止することを目的としている。質問しよう。多部くん、今のスタンドはどういう代物なのかね?」

「スタンド使いが、自分のスタンドについて語ると思いますか? ……って言いたいところですけど、別に悪さをするつもりもないんで、お話しします。嗅ぎ回られると、練習に集中できなくなるし」

 

 あっさりと多部は言った。

 

「俺の〈ワインド・アップルーター〉は、野球のプレイ中にしか発動しません。通常のプレイの範疇じゃないことが原因で、怪我をしそうになった時に、選手とかを守るだけのスタンドなんです」

「そうか。あのクロスプレイも、相手はわざと君を吹っ飛ばそうとしていたな。それも、通常のプレイとは見なさないわけか」

「……ウチの正捕手は、別の試合で、クロスプレイで怪我をしました。次の大会は難しいでしょう。エースはデッドボールを相手バッターの頭に当てて、それがトラウマになって調子を崩してます」

 

 思いつめた様子の多部に、神原はあえて口を挟まない。

 

「先生……。スポーツに怪我はつきものですけど、怪我をしてもさせても、体にも心にも傷が残るんですよ。下手すりゃ、それで選手生命がフイになりかねない。俺は、そういうのが嫌になったんです」

「そうかね……。どうやら君も、野球に対する気持ちは純粋なようだな。河村くんと、共通のものがある」

「いえ先生! アイツと一緒にされるのは、何だか心外なんですけど」

「どーゆー意味だコラ! ってゆーか、俺こそ大心外だ!」

 

 指を指された河村が、多部に食ってかかる。

 

「それはともかく。河村、俺も加わるぞ。お前の球、俺が受けてやる」

「何だと!? お前とだけは、バッテリー組みたくなかったんだぞ俺は!」

「それは俺も同じだよ! だけどな、監督はもう、お前と俺で次の大会を乗り切るつもりになってる。さっき、そう告げられた」

「えっ……」

「つまり、否応なしに、バッテリー組む羽目になったんだよ。お前が試合で投げたくないなら、話は別だけどな。ま、そんなワケないよなぁ? あれだけ、普段からアピール三昧だもんな」

「……じゃ、じゃあ、お前が試合に出ないとかいう選択は」

「あるかそんなもん! 試合に出られるなら、あえて毒でも口にするぞ」

「俺は毒かー!!」

 

 拳を握りしめて叫ぶ河村。

 

「ちょおっと待った!」

 

 航希が割って入った。

 

「多部もこの勝負に加わるわけ!? これって一対一の対決じゃんか。ズッコクない?」

「そっちだって、さっき神原先生が武原に助言してたよな? なら、俺が河村に助言してもいいはずだ」

 

 ついっと目を逸らす神原。

 

「俺はあくまでキャッチャーだ。投げるのは河村ただ一人。俺のスタンドは、勝負に介入するタイプのものじゃない。そこまでアンフェアとは思わねーけどな?」

「……そう言ってるが。武原くん、張本人としてはどうかね?」

「ま、ソイツの言うことも一理ある。了解だ」

「待て待て! 俺はまだ了解してないぞー!」

 

 河村が叫ぶのを、多部は冷静に見つめていた。

 

「……お前の球、武原に見切られ始めてるぞ」

「何だと!?」

「お前の言うとおり、武原のアスリートとしての素質はピカイチだ。最初はお前の変則投球に面食らったみたいだけど、対応し始めてる。それは、お前も感じてるはずだ」

 

 ぐっ、と詰まる河村。

 

「お前の配球じゃ、あと二打席を乗り切るのはおそらく無理だ。全国には、こんなバケモノがうようよしてる。お前一人で勝ち抜けるほど、野球は甘くねーよ」

「……分かったよ。防具つけて、キャッチャーボックスに入れ!」

 

 河村がマウンドから手を振ると、先ほどまでいたキャッチャーが消滅した。

 背負っていた大きなバッグから防具を取り出し、慣れ切った手つきで装着していく多部。やがてそれが済むと、グランドに向かった。

 見えない障壁が消滅したかのように、当たり前にグランドに入っていく多部。そのすぐ背後に、素知らぬ顔で航希がついていこうとしている。

 だが、航希だけは見えない障壁に阻まれ、入ることができなかった。わちゃわちゃと、もがく航希。

 

「ダメだって! 俺が許可したヤツしか、ここには入れないんだから」

「ズルいじゃないか! オレも入れてくれよー!」

「入ってどーするんだよ。やることないだろ?」

「いやあの、ランナーとしてとかさー」

「意味ないだろ! 武原がヒット打てば、それで勝負が決まるんだから。得点とか関係ないの!」

「グランドに入ったところでムダだぜ?」

 

 河村に代わり、多部が口を挟んだ。

 

「河村に攻撃を仕掛けようとしても、俺の〈ワインド・アップルーター〉が自動的に防御する。俺のスタンドは防御に特化してるから、その分ガードは鉄壁だ」

「……野球部って、イケズ」

 

 ハンカチを噛んで、拗ねて見せる航希。

 

「厄介に拍車がかかってきたな……。あの二人に組まれたら、少なくともグランド内では無敵。外からの侵入も不可能。武原くんが河村くんを打ち崩さない限り、どうしようもない」

「でもさ、考えてみたら、負けても京次が野球部に入るだけじゃない? 別に構わないンじゃないの」

「野球部は、本気で甲子園行きを目指している。練習時間もかなり長い。武原くんは、おそらく一度入れば、サボることなく本腰を入れて参加する。彼が拘束される時間が長くなるのは、我々にとって好ましくない」

「……やれやれ、変にクソ真面目すぎる奴らだと、厄介だよね」

「須藤くん。君も、彼らと同じタイプだよ。やるとなれば、手を抜かないで取り組む」

 

 そう言われて、遥音はいささか複雑な表情を浮かべた。

 

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