(できることなら、来たくはなかったんだがな……)
笠間は、城南学園の校門を潜っていった。
放課後、生徒たちの行きかう中、石畳の小道を歩いていく。
すぐ近くにある校舎に入り、受付を覗き込んだ。
「すいませーん。ネットワーク管理の笠間ですが」
「ああ、聞いてますよ。こちらにお名前と時間を記入お願いします。あと、この入館管理証を、腕につけてください」
言われるままに手続きを済ませると、笠間は職員室に向かった。
「失礼しまーす……。ネットワーク管理の者です」
ガラリと扉を開けたが、数人の教師がいるだけ。
(神原には会わなくてすみそうだな。一応タイミングは図ってきたし、とっとと済ませて帰ろう。ま、見つかったところで、これは普通の業務で裏はないから構わないが、やっぱり気まずいからな)
「あ、ちょっといいですか?」
教師の一人が、声をかけてきた。
「はい、何ですか?」
「ネットワーク管理の方ですよね? 実は、第三校舎の視聴覚室のパソコンが調子が悪くて。ちょっと見てもらっていいですか?」
「はぁ……。いえ、前もって伺っていれば、準備もできたんですが」
「今日の朝イチからなんですよ。突然で申し訳ないが、見るだけでも見てもらえませんか?」
「……承知しました。ですが、直るかどうかは、見てみないと分かりませんよ」
念を押してから、笠間はサーバーに向かい、バッチを当ててチェックを行っていった。
(……問題はなさそうだな。アイツが侵入してきた時に備えてある仕掛けも、発動していない。まあ、どうせ気休めなんだが)
作業を一通り終えると、笠間は職員室を出て、第三校舎に行くことにした。
第三校舎は、職員室のある第一校舎を出て、第二校舎を大きく回り込んだ先に入口がある。そこまで行くと、通りがかる生徒もいない。中庭には、初夏の頃に行われた体育祭で、応援合戦に使われたオブジェが、まだ飾られていた。
グランドからの喧騒を微かに聞きながら、笠間は第三校舎に入っていった。
誰もいない廊下を歩き、視聴覚室に入る。教壇に置かれていたノートパソコンを開けて、電源を入れた。が、すぐにエラーメッセージが出て、起動が止まってしまった。
(あらら。こりゃOSが壊れてるんじゃないのか? 再インストールするしかないが、データのバックアップができるかどうか? どちらにせよ、今日は無理だ。帰ろう)
笠間は視聴覚室を出ると、入口に戻って靴を履き直した。
そして、立ち上がった時。
中庭のオブジェを、歩きながら眺めていた初老の男を見かけた。
「あれ? 時東さんじゃありませんか」
ビクッ! と身を震わせて、その男は振り返った。
「あ、え、笠間くん……!?」
「今日は理事会でしたっけ? こんなところまでお越しになって」
「い、いや。私個人で、事務的な用事があって。それが済んだんで、ちょっと散歩してたところで……あはは」
(コイツ、やましいことがある! コイツは、俺がクイン・ビーのエージェントであることを知っている。もしかすると……!)
妙にオドオドした様子が、笠間の直感を刺激した。
〈インディゴ・チャイルド〉を出すと、笠間はその言葉を口にした。
「フェイス・オープン!」
時東が突っ立ったままの姿勢で硬直し、顔面が真っ白になった。
「キーワードは『理事選挙、投票、名前』」
そこに浮かび上がる文字を見て、笠間は顔色を変えた。
(どういうことだ、これは!?)
「そこで、何をしている!」
突然、背後からかけられた声に、今度は笠間が驚かされた。
振り向いた先には、眼鏡をかけた学生の姿があった。
笠間は、それが誰なのかを知っていた。厄介ごとになりそうな予感が、ひしひしとしていた。
「何をって。話をしていただけだ。何だ君は?」
「僕は風紀委員の天宮文明! あなたは、スタンドを出しながら人と話すんですか?」
「……別に、この人に危害を加えるつもりはない。誤解が挟まっているように思うが」
「質問の答えに、なっていないと思いますが?」
「……もう、用件は済んだ。帰らせてもらう」
元の顔に戻って、おろおろしている時東を放っておいて、笠間は早足で去っていこうとした。
「待て!! この人に、何をした! 答えろ!!」
〈ガーブ・オブ・ロード〉が出現し、腕から布が、笠間目がけて伸びた。
笠間は、とっさに小さなオブジェを拾い上げると、布の先に投げつける。オブジェに邪魔されて布の伸びが一瞬止まった隙に、間合いを取って向き直る。
「……ずいぶん不躾なことをするんだな。この学校の校則は、そういうのもOKなのか? 風紀委員くん」
「笠間、って名前を聞きつけたから、来てみたけど。あなたが、神原先生の。そこの人! 逃げてください、早く!」
時東が、慌てふためいて一目散に駆け去っていくのを、笠間はチラリと見た。
「おいおい、まるで犯罪者扱いだな。どうでもいいけど、帰らせてもらえないかな?」
「その前に、あなたには少し僕と来てもらう。みんな、あなたには関心があるから」
「そうか、俺も人気者になったもんだな。……って、やっぱりやめとくぜッ!」
笠間は地面を蹴って、砂利を文明の顔に飛ばした。
とっさに布でガードし、後ろに飛んで身構えると。
一目散に、校舎の入口へと駆け込んでいく笠間が見えた。
「逃げるか!」
布を飛ばしたが、わずかの差で校舎に入り込まれる。
文明も、校舎の中に駆け込んだ。
廊下から、階段に向かう後姿が見える。
(上に行く!? どこかの教室に潜り込むつもりか)
見失うまいと、後姿を追って、文明も階段を駆け上がる。
二階から、三階へと向かう、踊り場を通り過ぎたところで。
文明の方を向いた〈インディゴ・チャイルド〉が、消火器を構えて、ノズルを絞った。
途端に真っ白になる視界。文明は、ポケットからハンカチを出すと、鼻と口を覆って目を瞑り、手すりの感触を頼りに、足音を追ってさらに上に駆け登った。
「……!」
白煙を抜け、三階へ。足元に転がっていた消火器を辛くも避け、屋上へ通じる階段を、息を切らしながら登っていく。上から、カツン! という小さな音が聞こえた。
登りきると、屋上へと出るための扉、そこに取り付けられた南京錠が、切り落とされていた。開け放たれた扉からは、コンクリート打ちっぱなしの屋上と、その端の手すりの上に広がる青空が見えた。
(追い詰めたか? だけど、何をしてくるか分からない……)
文明は、ゴクリと喉を鳴らすと、屋上に出た。
辺りを見回すと、エアコンの巨大な室外機や、コンクリート作りの小屋などがあちこちにある。
ふと、目に留まったのは、屋上の端の手すり、その近くの床に落ちていた、一枚のハンカチだった。
(まさか、ここから飛び降りた? 結構な高さがあるけど、スタンドを使えばもしかして……)
文明は、そのハンカチに近づいた。
そして、手すりから眼下の中庭を見下ろした時。
急に、ベルトを後ろから掴まれて、体全体が持ち上げられた。さらに、背中から体当たり。
突き飛ばされた文明の体が、手すりを越えた。手を伸ばして、手すりを掴もうとしたが、透明な手がそれを跳ねのけた。
地面へと、落下していく文明。
「〈ガーブ・オブ・ロード〉!」
布が手すりに巻き付いた。文明の体は、一階の窓に足が届きそうなところまで落ちて、そこで止まった。
すぐ真上の、布が絡まった手すり。その傍にいるはずの、笠間を睨んだ。
次の瞬間。
視界が、青空と雲だけとなった。布が、空中に掴まりどころを失い、力なく垂れる。
(落ちる!?)
目まいに似た感覚を覚え、ぺたん、と文明は尻もちをついた。
そこは、屋上の床。いつの間にか、元の位置に戻っていた。
「あ、あいつは」
慌てて立ち上がり、中庭を見下ろす。
全速力で、走り去っていく笠間の姿が、遠ざかっていくのが見えた。
「待て!!」
声をかけるしか、できなかった。すでに、〈ガーブ・オブ・ロード〉の射程外。今から階段を急いで降りても、追いつかずに見失うのは明白だった。
(そういえば、あいつは物体を入れ替えられると、神原先生が言ってた。あの高さなら、僕と入れ替わっても、普通に飛び降りられる。最初から、これを狙って屋上に逃げ込んだんだ。やられた……)
その後すぐ、全員を〈スィート・ホーム〉に呼び集めた文明は、先ほどの顛末を聞かせた。
「笠間とやり合ったのかね!? たった一人で!?」
「なかなかやってくれるじゃねぇか。逃げられたのは、いただけねぇが」
「武原くん! 無闇に煽ってもらっては困る」
そう窘めると、神原は首を横に何度か振った。
「天宮くん。君が、私を完全には信用してはいないことは承知だが、さすがに黙ってもいられないので、申し述べておく。君のやったことは、少し無謀すぎる」
「……」
「あれはスタンドの戦いの経験も、少なくとも君よりは豊富だ。しかも、イザとなれば、相手を殺すことも躊躇しない。たとえて言うなら……試合で二度三度勝った闘犬が、弱肉強食のサバンナで生き抜いてきた野生のライオンに戦いを挑むようなものだ」
「ならよ、先生」
京次が口を挟んだ。
「あのフレミングとなら、どっちが強いんだ? 先生の見立てじゃあ」
「……一言では言えんな。いきなり道で行きかい、真正面からの戦いになるなら、フレミングに分があるだろう。笠間のスタンドは、攻撃力はともかく防御に難があるからな。だが……」
「だが?」
「前準備が可能で、いつでもどこでも相手に仕掛けられるなら、まず笠間の勝利は動かん。それこそ、勝つためには何でもアリの男だからな。武器はもちろんのこと、罠に心理作戦。しかしながら、あの男はあまり肉弾戦を好まん。リスクの伴う戦いを避けて、策略で勝利を目指す方が、あれの得意手だ」
「ふーん……なかなか、面白そうな野郎じゃねぇか」
京次の言葉に、遥音が不思議そうな顔をした。
「そうなのかい? アタシはてっきり、アンタは拳で勝負しねー野郎に興味ないとか言い出すモンだと思ってたけど」
「いや? 元々、戦いは何でもアリが基本だろうが。それで勝てると思うなら、な。むしろ……〈武〉の本質はそこにある。ウチの親父はそう言ってるぜ」
「前にも思ったけど、アンタの親父さんって物騒な人だねぇー? じゃ、アンタも何でもアリってわけ?」
「俺は、自分がやりたい戦いをするだけだ。相手が何をしようが、別に向こうの勝手ってだけだ」
「まったく、この格闘バカは……」
付き合いきれないと言わんばかりの遥音。
「それよりさ」
航希が、話の流れに棹差してきた。
「そんなにツワモノの相手なら、何でブンちゃんと戦わなかったんだろうね?」
「うむ。笠間は〈スィート・メモリーズ〉を使用していなかった。使えば、効果範囲内にいた我々に気づかれて、援軍が来る可能性もある。だがそれは、瞬時に天宮くんを殺して逃げれば済む話だ。しかし、あれはそうしなかった。〈スィート・メモリーズ〉をそもそも所持していなかったか、使うつもりがなかったかの、どちらかだ。使わない以上、天宮くんを安易に殺せない」
「やっぱり、警察とか乗り出してくるから?」
「その通りだ。さすがに、殺人ともなると、学校側も隠蔽はできん。いくらスタンドで証拠なく殺せたとしても、あれとしては、容疑をかけられるだけでも困るだろうからな。かと言って、我々に尋問もされたくはない、ということだろう」
「そうかー……。つまり、尋ねられると困ることしてたんだ。その、何とかいう理事の人と、何してたんだろうね?」
「理事長選挙の根回しだろう。まず間違いない」
そこまで言って、神原は顎に手を当てて考え始めた。
「時東理事だけとは、とても思えん。おそらく、ほぼ全員にアプローチしているだろう。人の内心を検索する〈インディゴ・チャイルド〉なら、彼らの弱みを握るのも簡単だ。それを元に副理事長への投票を強要するくらい、十秒メシのゼリーを食するように実行するだろう」
「それじゃ、理事のほぼ全員が、副理事長に尻尾振っちゃうんじゃないの!?」
「無論、このまま傍観しているつもりはない」
神原は、少し言いにくそうに続けた。
「君たちには黙っていたが、実は私も理事たちについては内偵を進めていた。笠間がそうした手段に出ることは予測できたからな。同じ弱みをこちらが握っているとなれば、話の持っていきようで笠間の脅迫を無効にできる可能性がある」
「僕はあまり納得できません」
文明が口を挟んだ。
「そもそも、後ろ暗いところのある人たちが、うちの学校の理事になってること自体が嫌ですし」
「すると君は、彼らを放逐してしまえと?」
「……気持ちの上では、そうしたいくらいです」
「現実的にできると思うのかね? いいかね、私立学校における理事というのは、一般の企業における役員職と同じような立ち位置だ。スキャンダルで専務や常務、取締役が複数、辞職に追い込まれれば、その企業はどうなると思うかね? 経営の混乱はまず避けられず、倒産の可能性も大だ」
さすがの文明も、二の句が継げない。
「天宮くん、君の正義感は承知しているが、行き過ぎればあまりにも多くの人間に影響が及ぶのだよ。その中には、君たち自身も容赦なく含まれる」
「……では先生はどうするつもりです?」
「私としては、理事たちにはでき得る限り、自由意思で投票してもらいたい。そのために、笠間の脅迫に屈しないように働きかけるし、その材料も用意する。そして、君の言うところの、後ろ暗い所業については是正を求める。応じればそれで不問とし、でなければ処分の対象となってもらう。ただし、なるべく学校に大きな影響が出ないような形でね」
文明は、少し唇を噛み締めたが、それ以上の反論はしなかった。
「理事連中の自由意思って言うけどよ」
今度は京次が口を開いた。
「もし、その副理事長が勝って、次の理事長になったら、どうするつもりだ? 〈スィート・メモリーズ〉使える連中が、好き放題始めるってことになるんじゃねぇのか?」
「……考えたくはないが、そうなるだろう」
「だったらよ」
「却下だ」
「まだ何も言ってねぇだろがよ」
苦笑する京次。
「聞かなくとも分かる。前にも言ったが、くれぐれも副理事長を強襲しようなどとは考えるな。笠間にフレミングも向こうにはいる。相手は矢を所持しているから、スタンド使いを確実に増やしていける。敵の全体像も分からないまま仕掛けるのは、破滅へ向かうのみだ」
再び、沈黙が訪れた。
「……やっぱり、笠間を見つけ出すのが早道だと思います」
沈黙を破ったのは、文明だった。
「もし理事の人たちに工作していたとすれば、その役目は笠間でしょう? あの男を捕まえて、脅迫を止めさせ、そのことを脅迫していた人たちにも通達させます。そうすれば、それまで脅されていた分、自分の意志で副理事長に投票しようとする人も減るでしょうから」
「天宮くん!! 君は、さっきの私の言葉を、もう忘れたのかね!? 笠間には関わるなと言ったつもりだぞ」
「覚えていますが、これしか僕には思いつきません。神原先生が、以前あの男と行き合ったとかいう場所を中心に、調べてみます。急ぐので、これで失礼します」
「ちょ、ちょっと待ってよ! オレも付き合うから!」
立ち上がってさっさと部屋を出ていく文明を、航希が慌てて追いかけていった。
他の者は、半ば呆気に取られて見送っていたが、
「センセ、アイツ放っておいていいの?」
「彼の努力は、間違いなく徒労に終わる。笠間は、すでに潜伏先を他に移しているだろう。天宮くんから逃げたその心は、何が何でも、選挙までは我々に捕まりたくないということだろう。下手をすると、選挙まで一歩たりとも外に出てはこんよ。今は、宅配などいろいろ便利なシステムがあるからな」
「それにしても、ホント思い込んだら一本道だねアイツは」
遥音が机に頬杖を突いた。
神原は、じっと腕組みをして考えていた。
(私立学校における理事長は、校内に関わる事柄については、絶対権力者だ。亜貴恵が新理事長になればまず私は免職、目の前の彼らも報復の対象になりかねん。そもそも、このまま学校を追い出される形で終わってしまっては、何のために活動してきたのか分からない)
内心で、神原はため息をついた。
(彼らには言えないが、実のところ、私の内偵にはさほど期待できん。プロに依頼してはいるが、所詮は学校の部外者。情報収集においても、それを元にした交渉術においても、卓越した手腕を持つ笠間を出し抜けるとは思えない。亜貴恵が理事長選に勝利した時は、非常手段に打って出ることも視野に入れねばならん。ただし、私単独でだ。彼らの人生を台無しにするわけにはいかん……)
「どうしたの? アポもなしで押しかけるなんて」
抑揚のない声音で、その女性は座ったまま、笠間を見上げた。
彼女の執務室には今、彼女と笠間以外誰もいない。彼女が人払いしたのだ。部屋の中には、バイオリンのBGMが流されていた。
「未麗さん。今日、時任理事と出会いました。たまたまだったんですが」
「それで?」
「どうも、様子がおかしいんでね。それで〈検索〉してみたんですよ。あの人、間庭校長に投票するつもりでしたよ」
未麗の表情は、全く変わらない。
「未麗さん。理事たちへの工作は、あなたが一手に引き受けておられる。それがうまくいっていないということですか? あれだけの材料では足りませんでしたか?」
「そんなことはないわ。さすがにあなたの仕事と評価しています」
「いえね。別に、私の立場で、副理事長の娘さんであるあなたを責めたてるつもりはないんですよ。私みたいな下働きと違って、あなたはお母様が理事長になれば、自動的にその跡を継ぐお立場だ。私なんぞとは、切実さが全然違うでしょうからね」
「何が言いたいの? 回りくどい言い方は嫌いよ」
「つまりですね。他の理事とかどうなのかな? とか思っちゃいましてね。ああいう人もいたりすると、ついつい気になっちゃうわけですよ」
「笠間さん」
未麗が、冷ややかに笠間を見据えた。
「……あなたの言うことは、よく分かりました。あなたに、お願いしたいことがあるの」
「はい、何でしょうか?」
「あなたには、これ以上何もしないでもらいたいの。少なくとも、新理事長が選出されるまではね」
「口出しはするなと?」
「そう。だけど、それだけじゃないわ」
彼女の自分を見つめる目が、異様なものに笠間には感じられた。
「私には、分かっているのよ。あなたは、ギリギリまで副理事長の言いなりに動いて、土壇場で全てを暴露するつもりでいる。そうなれば、理事長選挙を待たずして決着がつく。そういうことでしょう?」
「……」
「神原一味に対して、チマチマ小規模の攻撃をさせていたのは、こちらのスタンド使いを彼らに始末させて戦力を削るため。神原がキレて、副理事長に強襲でもかけてくれれば、あなたにとっては好都合。もっとも、神原もそこまで短絡的な行動には出なかったけれど」
笠間は、じっと黙っていた。
「私をスタンドで始末しよう、とか考えてない? それはやめておいた方がいいわ。なぜなら……あなたの本来の目的が、果たせなくなるから」
「しませんよ」
笠間は、即答した。
「今まで、私にWEB電話で指示を出していたのは、副理事長じゃない。城之内未麗、あなただ」