城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第23話 迫りくるリベンジの旋律 前編

 文明がその朝、道の角を曲がろうとした時、事件が巻き起こった。

 

「あっ!」

「あれっ? えーと、天宮くん、だよね?」

 

 大きな目を瞬かせる明日見に、文明はドギマギした。

 

(うー……。やっぱカワイイ……)

 

「どうかしたの?」

「あ、いや。ちょっと驚いちゃって。もしかして、今日から転校するの?」

「うん、そういうこと。トーストくわえて、ぶつかった方がよかったかな?」

 

 ふふ、と笑う明日見。

 

「愛理さんが今日から登校再開するみたいだから、日にちを合わせてもらったの。あなたも、もしかして?」

「うん、迎えに行こうかって思って。あんなことも、あったしさ」

「私もそうなんだ。一緒に行こうか?」

 

 文明は、この時ほど愛理に感謝したことはなかった。

 内心ウキウキで、文明は明日見と並んで歩く。

 

「天宮くんも、あれから体は大丈夫だった?」

「いや……実は、二日ほど寝込んでた……。もっと、カッコよく勝てればよかったんだけど」

「えー!? 私、カッコいいと思ったよ? 西部劇のガンマンみたいだった!」

「そ、そうかな?」

 

 真っ赤になる文明。

 

「だけど、あの多岐川さん、あ、いや! 何でもない」

 

 押し黙る文明を、明日見はじっと見つめる。

 

「救えなかったって、責任感じてるんでしょう? あれは仕方ないと思う。窓の外に、もう一人いるなんて私も気づかなかった。武原くんも、結局捕まえられなかったんでしょ?」

「うん、近くの道に、車を用意してたらしい。準備万端だったってことだよ」

「本当は、兄さんが年の功でそういうことを考慮すべきなのよ、うん! 困ったもんよね」

 

 この輝くような少女が、あの笠間の妹。そう思うと、酢を飲んだような気分になる文明だった。

 

「天宮くん」

「え?」

「兄さんについては、今まで迷惑もかけただろうし、怪しむのも無理はないと思う。だけど、愛理さんについては、あの人は命がけで守ろうとしてる。私も彼女を死なせたくない。今まで学校は違ったけど、私は友達のつもりだから」

「そう、なのかぁ……」

「もう彼女が襲撃される心配はなさそうだけど、しばらくは気をつけましょうね。私は彼女と同じ吹奏楽部に入るから、そっちは任せて。天宮くんは、生徒会絡みでよろしくね」

「ああ、分かったよ」

 

 文明が雲を踏むような気分で受け答えをしているうちに、二人は〈間庭〉と表札のかかった家についた。高級住宅地の一角にふさわしい、門付きの上品な一軒家。

 インターホンを押すのを文明がためらっているうちに、明日見がさっさと押した。

 中からの応答に明日見が返事し、しばらく待っていると。

 

「おはようございます。明日見さん、お久しぶりですね」

「元気そうね。よかったー!」

「あなたも、今日からうちの学校の生徒なんですね。一緒に通えるなんて、本当にうれしいです」

「そうよね。もう何年前から、そうなればいいねって言い合ってたもんね?」

 

 朗らかに笑い合う二人に、文明は入り込む余地が見いだせない。

 

「それじゃ行きましょうか。あら、天宮くん? なぜここにいるんですか?」

「いや、あのね! 僕も君を迎えに来たんだけど」

「あら、ごめんなさいね。気が付かなくて」

 

 もういいや、と思いながら、談笑しながら先を歩く二人についていく文明であった。

 

 

 

 

 

「そりゃもう、大騒ぎだったよ! 特に男どもがね」

 

 遥音が、苦笑いしながら、その日のクラスの様子を伝えていた。

 

 例によって、〈スィート・ホーム〉にジョーカーズが集結していた。ただし、いつものメンバーに、一人加わっている。

 航希が、新聞受けから引っこ抜いた黒猫新聞を眺めている。

 

「一面にも、デカデカと乗ってるもんね。『敵か味方か、笠間妹が乱入!』だってさ」

「って言うかさー。炭三の判断はもう決まってるンじゃない?」

 

 遥音の示した先では、正座している明日見の膝の上で、炭三が優しく撫でられてうっとりしている。

 

「ここにも明日見ファンが一匹できてンじゃないのさ。やっぱオスだねぇ」

「どうやら、そのようだな……」

 

 いささか困った顔の神原。彼は、明日見に〈スィート・ホーム〉の秘密を明かすことを最後まで渋っていたが、文明に押し切られて許可していた。

 

「私、神原先生とは、お話したいと思ってたんです」

 

 明日見が、真面目な表情で言った。

 

「先生は、兄とはかつて因縁があったことは知ってます。ですが、今の兄は、昔の兄とは区別して考えてほしいんです」

「君は、笠間の代理としてここに来たのかね?」

「いえ。兄には、この〈スィート・ホーム〉のことすら、話す気はありません。先生とお話ししたということも、教えるつもりはないです」

「それは、どういうことかね?」

 

 予想していない言葉に、神原はどう判断していいのか迷った。

 

「今はまだ、それができる環境にないと思うからです。兄は、まだ敵と完全に切れてはいないと思いますから」

「敵? それは、誰のことかな?」

「そこまではまだ。ですが、兄は音楽室の一件があった後でも、神原先生と完全に連携する気はまだないみたいですから。多分、兄は敵と交渉を続けるつもりなんだと思います。愛理さんに身の危険が及ばないように」

「私が不思議に思っているのは、そこなのだよ」

 

 神原は、じっと明日見を見つめた。

 

「音楽室の一件は聞いた。君たち兄妹が、それぞれ愛理君の命を守ろうとしたことも。それはなぜだ?」

「……兄は、昔の償いをしようとしてるんです」

「償い!?」

 

 神原は驚いた。

 

「君の前で申し訳ないが、あれは償いなどという言葉とは、おおよそ無縁な男だった」

「昔はそうだったかもしれません。ですが、8年前の事件が、兄にとってターニングポイントになった。私は、そう思います」

「8年前!? 当時なら、私もあの男も〈ダーク・ワールド・オーダー〉に所属していた。……待てよ……そういえば、あれの教団内での態度が、急に消極的になっていった時期があった」

「記録を調べてもらえれば、分かると思います。その頃に、城之内信乃さん夫婦の自動車事故があったことになってます」

「あった、『ことになっている』?」

「事故に見せかけて、殺されたんです」

 

 全員が、息を飲んだ。

 

「信乃さんというと、確か愛理くんの実の母上だ。すると、愛理くんは実の両親を殺された、と?」

「はい。兄は、その事件に関わっていたんです。それが兄の負い目になっているみたいで。娘の愛理さんだけは救いたいと思っているんです。それが、信乃さんへの恩義に報いることだと」

「恩義、か……。申し訳ないがあの男と、恩義だの償いだのという言葉が、どうも結びつかん」

「それだけ、信乃さんが兄の心に深く食い込んでいたということだと思います。妹の私から見ると……兄の人に対する情は、とても狭いけど、その分深いです」

 

 神原は、じっと黙り込んだ。

 

「……あるいは、そうなのかもしれんな。それで、君自身はどうなのかね?」

「私ですか?」

 

 少し考えて、明日見は答えた。

 

「実は最初は、兄がこだわる相手に興味を持って、愛理さんに近づいたんです。ですけど……彼女、真面目で健気な子なんです。彼女の方も、頭が良すぎるのが災いして、友達があまりいなかったみたいで。不徳の兄に加えて、私まで愛理さんを守り切れなかったら……何て言うか、申し訳が立ちません」

「そうか……」

 

 神原は、感じ入るものがあったようだった。

 

 

 

 

 

 未麗の執務室にて。

 

「神原と笠間は、早めにデリートするべきです」

 

 平竹が、そう進言していた。

 

「神原はともかく、笠間を? どうして?」

「あの笠間が信用できますかね? 彼は、未麗様に心から忠誠を誓っているわけではない。私にはアンビリーバブルですが、間庭愛理の命を守るために、あなたに協力したにすぎません」

「そんなことは百も承知よ。だからこそ、利用できるんじゃない。愛理の命さえ保障してやれば、あの男に害はないわ」

「ノンノンノン! その愛理について風向きが変われば、彼は必ずあなたにアタックしてきますよ」

「平竹」

 

 未麗は、皮肉な笑みを浮かべた。

 

「あなた、要するに笠間が気に入らないだけじゃないの?」

「クッド・ビー(かもしれませんね)。理事長選挙が終わった今、彼の役目はジ・エンドでしょう? 不確定要素は、とっととデリートするべきですよ」

「あなたもしつこいわね。愛理を押さえてさえいれば問題ないのよ。あの男は、また使えるかもしれないし。風向きが変われば、その時に両方始末すればいいのよ」

 

 平竹の眉根が、不快そうに寄った。

 

「なら、神原はどうします? 彼があなたとトゥゲザーするとは思えませんが」

「ああ……あの男は、しばらく泳がせるわ」

「キャント・シー! 泳がせるメリットが感じられません」

 

 未麗は、一つため息をついた。

 

「聖也がね。そう言ってるの」

「え?」

「聖也は、神原を殺したり、学校から追い出したりしないでくれって言うのよ。私一人の考えで、神原を消そうとしていたのは間違いだったわ」

 

 平竹も、さすがに絶句した。

 

(ホワット!? 城之内聖也は、バースデイから全く意識がないというではないか。弟への溺愛が行き過ぎて、頭がおかしくなってきているのか?)

 

「神原をクビにしようと思えば、今までだってできたのよ? そうしなかったのは、あの男を野に放つのも危険と感じてきたから。だけど、理事長選挙も終わったことだし、神原をそこまで恐れることもなくなった。一介の教師として、学園に留めておいた方が、行動を把握しやすいし」

「ですが、神原チルドレンはどうします?」

「どうせ生徒でしょう? いずれは全員卒業しないわけにいかない。それまで放っておいてもいいのよ」

 

 平竹は反論はしなかったが、それは表向きだけであった。

 

(神原と笠間には、早めにステージ・アウトしてもらいたい。この学園に、ワイズマンは私だけでいいのだ。そうだな……間庭愛理が死なない程度にいたぶって、挑発してみるか。……そうだ、ジャストフィットの者がいる。笠間! 貴様がスルーしたスタンド使い、私がリユースさせてもらうぞ)

 

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