城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第24話 迫りくるリベンジの旋律 後編

 音楽室に、吹奏楽部の全員が集合していた。総勢三十人ほど。

 女部長の神木が、にこやかに壇上で喋っていた。

 

「えー、この度、私たちに新しい仲間が増えました。知ってる人もいると思うけど、1年3組に先日転入してきた、笠間明日見さんです。仲良くしてあげてね」

 

 明日見が頭を下げると、おおむね好意的な笑顔の一同から拍手が起きた。

 それを受けながら、明日見は音楽室を目線で見回す。

 

(多岐川さんは休学扱いにされてて、死んだことすら誰にも知らされてない。それはまだしも、この部屋に戦闘の跡すら残ってないのは、普通ありえない。スタンド使いが手を入れた可能性はあるかも……)

 

 挨拶を終えた明日見は、愛理の隣の空席に戻っていった。愛理が、視線で労ってくる。

 さらに、神木が話を続けている。

 

「次の演奏会の自由曲だけど。みんな、動画は見てくれた?」

「あの、すみません。動画って、何のことですか? あたしは何も聞いてなくて」

 

 愛理が手を挙げて尋ねた。

 

「あ、そうか。間庭さんは、先週お休みしてたから知らないのよね? 今回から、私がネットにアップロードしておいた動画をチェックしてもらって、曲の雰囲気を掴んでもらうって試みをしてるのよ」

「見た見たー! パンダがサックス吹いてるやつ!」

 

 部員の一人の茶々に、どっと笑いが起きる。

 

「何ですか? パンダって」

「着ぐるみのパンダが、曲をバックにノリノリでサックス吹いてるんだよ。絵面で笑わせようと思ってるだろ部長ー?」

「だって、あんまり映像が殺風景だと、誰も最後まで観ないでしょ? サービスよサービス。じゃ、間庭さんや笠間さんは見てないようだし、せっかくだから全員で動画を見てみましょうか」

 

 神木は、カーテンを引いて日差しを隠し、スクリーンを天井から引き出した。手際よく机をスクリーンの前に設置、PCを机の前に置いて、デスクトップ画面をスクリーンに映し出す。

 そして神木は、スマホをPCにテザリングすると、動画サイトの画面を出した。

 明日見は、その時違和感を感じた。

 

(? 動画ファイルを前もってPCに移してないの? どうしてわざわざ、テザリングしてまでサイトに)

 

 そして、動画がスタートした。

 話に出ていた通り、着ぐるみのパンダが画面に登場した。おどけて手まねでカンフーをしたりすると、部員の数人がクスクス笑っている。

 演奏が始まる。サックスを中心とした前奏で、パンダがサックスを加えて、吹いている様子を見せている。一同、そこまで来ると、真面目にじっと聞いている。

 だが明日見は、聞いているうちに、音にならない囁きを感じていた。

 

(間庭愛理は、敵……。間庭愛理は、仇……)

 

 明日見の肌が、泡だった。勝手に本能が、スタンドを出していた。

 ちらり、と当の愛理を見ると。

 

「何……? 一体、この声は何なの……? どうして、あたしが」

 

 小さな掠れ声で、呟いていた。両手で耳を塞いで、震えている。

 その頭上に、何か揺らめくようなものが、明日見には見えた。

 

「部長!」

 

 明日見は、壇上の神木に大声で呼びかけた。

 

「間庭さんが、気分が悪いと言ってます! 保健室に」

「認めません! 逃がさない!」

 

 神木が怒鳴るのと同時に。

 

(間庭愛理に、制裁を! 殺さなければ、何をしても自由だ!)

 

 声なき指令が、動画から飛んだ。

 

「〈パラディンズ・シャイン〉ッ!!」

 

 伸びた槍の穂先が、PCにつながったスマホを貫き、粉砕した。

 

「く!? みんな、やってしまいなさい!」

 

 部員たちが、一斉に立ち上がっていく。全員、目をひん剥き、明らかに正気を失っていた。

 小さな悲鳴をあげる愛理に、手近にいた数人の男子が掴みかかってきた。

 明日見は槍を引き戻すと、横に振るった。

 分裂して鎖でつながれた槍の柄が、男子たちに横殴りに叩きつけられた。もんどりうって倒れこみ、後続の部員たちを巻き込む。

 が、明日見の背後から、腕が羽交い絞めしてきた。愛理にもしがみつこうとしてくる者がいて、それを必死で愛理が振り払っている。

 

「くっ!」

 

 〈パラディンズ・シャイン〉の槍が、上に突き出された。

 穂先から一瞬、ストロボのような強烈な光。

 その場の、ほぼ全員が目を眩まされた。

 明日見は腕を振りほどくと、目を押さえている愛理の手を強引に引いた。行く先にいる部員をスタンドで搔き分けて扉に走り、開けた。

 廊下に飛び出し、二人は駆け始めた。その後を、部員たちが叫びながら追いかけてくる。

 途中で、外への出口がある。明日見は、スタンドを先行させて開けようとした。しかし、鍵がかかっているのか開かない。

 

(鍵を壊している暇も、窓を割って出る暇もない! 足を止めれば追いつかれる)

 

 走りながら、〈パラディンズ・シャイン〉が廊下の途中の消火器を取り上げる。そして、後方に向けて噴射。それが、先日自分の兄がやった手段と同じとまでは、さすがに気づかなかった。

 白煙の上がる中、咳き込む声を背にして、さらに廊下を走る二人。

 もう出入口はない。さすがに、窓を割って出るまでの余裕はない。明日見は、愛理を引っ張るように、廊下の端にある階段を駆け上がった。

 二階の、階段のすぐ側の教室に、二人は駆けこんで錠を閉めた。

 そこは家庭科室。コンロと流し付きの、ステンレスの天板付きの大テーブルが等間隔で並べられている。壁際には、小さな椅子が重ねて置かれていた。

 明日見は大急ぎで、重ねられた椅子を、入口の前に動かした。愛理もそれを見て、反対側の入口に椅子をずらした。

 すぐに、激しい音で両方の入口が揺さぶられ、叩かれだす。

 

「逃げらんねーぞコラ!」

「出て来なさいよ!」

 

 怒号が幾つも、外から聞こえてくる。

 

「愛理さん、窓開けて! 最悪、そこから飛び降りる!」

「は、はい!」

 

 青ざめた愛理が、窓の一つに取り付いた。

 震える手で錠を外し、振り返る。

 明日見が、スタンドを身構えさせて、扉の方を見ている後姿があった。その手には、小さな椅子がぶら下げられている。

 揺さぶられていた扉の一つが、ガタン! と音を立て、レールから外れた。外側へと扉が引き剥がされ、形相の変わり切った部員たちの姿が露になる。

 

「やっちまえ!!」

 

 先頭の部員が、重ねられた椅子を押しのけにかかった。

 明日見が、その顔面目掛けて、腕をブン! と振って椅子を投げつけた。

 

「おっと!」

 

 その部員が、両手を上げてそれをチャッチしようとした。

 が。

 腕の動きが一瞬遅れ、その隙に椅子の脚が顔面に直撃した。

 のけぞって後ろに倒れ、後続を巻き込んで転倒する。

 その時愛理は、自分の目の前に現れた、ぼんやりとした腕に気が付いた。細い指が、指揮棒を摘まんで構えていた。

 

(え、何、これ!?)

 

 愛理が驚いている矢先、廊下に面した窓ガラスが叩き割られた。破片が、室内の床に散らばる。

 女子部員の一人が、手にしていたポーチを、愛理目掛けて投げつけてきた。

 愛理の目の前で、幻の手が伸びた。指揮棒が、ポーチを串刺しにする。

 その腕が振るわれ、串刺しのポーチが逆に投げ返された。狙い違わず、女子部員に命中。何か重いものが入っていたのか、やけに鈍い音。廊下の向こうで女子部員が崩れ落ちた。

 愛理はもはや、ハッキリと自分の〈傍に立つ者〉を、視認していた。上品な膝丈の、紺色のワンピースのような姿。袖先は、キュッとしまっている。一筋のカーブを描く髪らしきものが突き出た頭部は、横から見るとまるでト音記号のようであった。

 

(こんな状況だというのに……なぜだか分からないけど、これが傍にいると、勇気が湧いてくる。これの名前は……そう〈スィート・アンサンブル〉!)

 

 それを、思い切って〈パラディンズ・シャイン〉の隣に並べた。明日見がそれを見て、一瞬ギョッとする。

 しかしすぐに扉に再び視線を向けると、さらに押しかけてくる部員たちに、分裂させた槍の柄を次々と叩きこんだ。

 

「どけ、俺が行く!」

 

 体格のいい男子部員が、前でもたつく部員を押しのけて入り込もうとする。

 とっさに、愛理が机の上にあったサラダ油のペットボトルを掴むと、前に投げた。空中で、指揮棒がペットを切り裂く。

 油が床に撒き散らされる直前、さらに指揮棒が動いた。

 ついよろける男子生徒。だが止まれずに、ペットボトルが床に落ちたと同時に、足が着地した。

 まともに油を踏んでしまい、派手に転ぶ男子生徒。ビシャッ! と油が弾かれて大きく跳ねた。

 

「何やってんのよ。踏んでいきなさい!」

 

 神木が指示を下すと、他の部員たちは躊躇せず、倒れた部員を踏みつけながら突入してきた。踏まれた部員が、連続して悲鳴をあげている。

 もはや留めるものはない。二人に、一斉に襲い掛かる。

 

「愛理さん、外に!」

「はい!」

 

 二人が、開いた窓に駆け寄ろうとした時であった。

 窓の外に、人影が二つ。

 

(回り込まれた!? 二階なのに!?)

 

 愛理が、愕然とした瞬間だった。

 窓の外から、一本の布が伸びてきた。

 先頭の部員の足に絡みつくと、大きくうねって引き倒した。床に転がった体に毛躓いて、さらに数人が転倒する。

 

「〈ブラスト・ヴォイス〉ッ!!」

 

 激しい声が家庭科室に響いた。扉近辺にいた者たちが、一斉に倒れこんでビクビク震えだした。

 

「天宮くん! 須藤さん!」

「間に合ったみたいだね。よかった」

 

 文明と遥音が、窓から家庭科室に入り込む。

 〈ガーブ・オブ・ロード〉の布が部員たちの出足を止めている間に、遥音は〈スターリィ・ヴォイス〉を片手に歌いだした。

 普段の激しさとは裏腹な、柔らかく優しい旋律。そこには〈鎮静〉の効果が乗せられていた。

 生徒たちが一人、また一人と動きを止めていった。その耳から、何か小さなものが、ポトリポトリと落ちていく。

 自分たちの置かれた状況が分からないようで、皆一様にポカンとしている。

 全員が正気に戻ったのを確認すると、遥音は歌うのを止めて呼びかけた。

 

「みんな! ミニコンサートはおしまいだよ。まだ部活の途中なンだろ? さあさあ、音楽室に戻ってくンな。部長さんもすぐに戻るからさ!」

 

 狐につままれた様子の部員たちが、戻っていく。先ほど音撃で倒れた者は、文明も手伝って、医務室へと運ばれていった。

 一人取り残され、わなわなと神木が震えていた。

 

「な、何で!? そんな御都合主義があるわけが」

「そうね。助けを呼ばなかったら、こうもタイミングよくは来ない」

 

 明日見が、自分のポケットからスマホを取り出した。

 

「私の〈パラディンズ・シャイン〉は、ネットに接続するものに干渉できる。最初にあなたのスマホを狙ったのは、ただ壊すためじゃない。壊れる直前の一瞬でアカウントを切り替えて、LINEでSOSをみんなに送ったの」

「な……!」

「後は、逃げたりしながら続報をさらに、私のスマホで送る。スマホを自分の手でいじらなくても、能力でメッセージの送信くらいできるから」

「う、嘘! そんなこと、できるわけないでしょ!? 超能力者だとでも言うの!?」

 

 その言葉に、明日見たちは全員、意表をつかれた。

 いや、一人だけ、そうでもない人間がいた。

 

「おかしいと思ったよ。こいつは、アタシの以前のバンド仲間の能力だ。ほら」

 

 遥音がぶら下げたのは、イヤホン型のスタンドだった。

 

「これが、吹奏楽部の部員たちの耳に刺さってたンだよ。ヤツの能力は、ネット動画を通じて発動する。明日見、動画をさっき見せられたとか、LINEで言ってたよね?」

「ええ。そこの神木部長に」

「つまりそこのアンタ。タクヤのヤツとつるんでるんだ? どういうことだ?」

 

 もはや観念したらしく、神木は座り込んだ。

 

「……だ、だって。アンタたちでしょう? 多岐川くんを手にかけたのは」

「え!?」

 

 全員が、それぞれ顔を見合わせた。

 

「知ってるのよ、私! だから、これは敵討ち……う、わああーッ!!」

 

 その場で床に伏せ、泣き崩れる神木を、四人はただ見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

「……連絡が来ないな」

 

 タクヤは、自室のPCを前にそう呟いた。

 

「タクちゃーん! ちょっと来てくれる? ごはんももうすぐできるし!」

「分かったよママ! すぐ降りるから」

 

 階下の母親にそう返事をすると、タクヤは再びPCに向かった。

 

「失敗したかな? せいぜい逃げられる程度なら問題ないけどな。要は、遥音に見つからなきゃ問題はないんだ。軽音楽部を乗っ取ってる奴らがいなくなれば、また遥音と……」

『それじゃ、問題大アリってとこね。もうあなた、終わりだから』

「……え!?」

 

 突然、画面に映し出された天使の画像に、タクヤは仰天した。

 そして。

 天使が、画面から抜け出してきた。それと共に、明日見が出現、タクヤの部屋の床に降り立つ。

 

「な……!」

「初めまして。私は、ネットを通じて移動できるスタンド使いよ」

「え!?」

「私一人しか移動できないもんだから。もう一人、来たがってた人がいるんだけど、仕方ないから動画で我慢してね」

 

 ぽん、とPCをスタンドが触れる。

 モニターに映し出されたその姿に、タクヤは真っ蒼になった。

 

「は、遥音……!」

『タクヤ! アタシ、前に言ったよね? スタンドを悪用するな、アタシたちに関わるなと。アンタはそれを破った。許せないね』

「お、俺はお前を」

『どうせ言い訳しようとするんだろ? 聞くつもりはないよ。アンタには制裁を加える』

「な……」

『マザコンで、父ちゃんが怖いアンタには、よく効くお仕置きさ。明日見、やっちゃって!』

「了解!」

 

 〈パラディンズ・シャイン〉の槍が、動いた。すぐ側にあったギターが、串刺しにされて大穴が開く。さらに二撃、三撃。

 

「こ、小遣い三年分ためて買ったベースがぁぁぁッ!」

 

 タクヤの悲鳴をよそに、明日見は周辺にある、なるべく高そうなものを次々と破壊していく。

 ガクガクと震えるタクヤに、明日見はニッコリと微笑んだ。

 

「このPCも壊そっか? 私は自分の足で、下に降りて帰ればいいし。ご両親、厳しいんだよね? 誰とも分からない女の子が入り込んでて、二階から降りてきたら大騒ぎになると思うけど?」

「や、やめて……」

「じゃ質問。あなたに、神木部長を引き合わせたのは誰?」

「か、笠間って言ってた……」

「はい了解! どうせ、あなたなんかに本名を名乗るわけがないもんね。ま、兄さんがすぐに挨拶に来るだろうから、それまで首を洗って待ってなさい。じゃあね、二度と会うこともないだろうけど!」

 

 明日見は、スタンドと共に、画面の中に吸い込まれていった。

 その直後、モニターの画面が唐突にブラックアウトした。タクヤは慌ててPCを再起動しようとするが、そもそも電源が全く入らない。

 

「タクヤ! 何を騒いでいる。早く降りてこんか!」

「わ、分かったよ!」

 

 急いで階段を降りて居間に入ると、父親が厳しい顔で、腕組みをしていた。

 

「タクヤ。ちょっと座れ」

「な、何?」

「お前、音楽の方で、よからぬ先輩と付き合いがあるそうだな? 事情が書かれた手紙が、うちのポストに入っていたそうだ。大体、私はバンドなど元から反対だったんだ。何やら、動画投稿とかくだらん趣味もあるようだが、それについてもこの際、言い聞かせておくことがある……」

 

 もはや、ギターやPCの買い直しどころではないことを、早くもタクヤは理解していた。

 

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