城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

30 / 63
第25話 それぞれの今

「どういうことですか、未麗さん?」

 

 問い詰めてくる笠間に、未麗は読んでいた書類を机に置いて、眉を寄せた。

 

「何の話? それはそうと、アポなしで押しかけるのは勘弁してくれない?」

「失礼しました。急を要することですので」

「まあ。急を要するとは、どういうこと?」

「事態の究明に時間がかかりすぎますと、たとえばですね。イライラしている私がつい、そこのマヌケ面を、夏の浜辺のスイカみたいに叩き割ってしまうことにも、なりかねません」

「どうして、そこで私の頭がハーフ・アンド・ハーフにされてしまうのですか? ミスター笠間?」

 

 こめかみをピクピクさせながら、平竹の口調だけは穏やかだ。

 

「使えない脳ミソ取り出すのが、はかどるだろーが。ついでに糠ミソ入れて、ナスとかキュウリ漬け込んどけ!」

「人を漬物ダル扱いですか? だったらあなたは、爆弾とカクサンデメキンと一緒に調合されるがいいですね!」

「メインターゲットを達成しましたってか? 巻き添えくらって吹っ飛んでろ!」

「あなたたち、いい加減にしなさいよ」

 

 未麗が、うんざりした顔を隠さない。

 

「笠間。あなたは私の秘書に喧嘩を売りに来たの?」

「まあ、無駄話はこの辺にしましょう。間庭愛理が、先日あやうくリンチされかけました。これは、あなたの指示ではありませんよね?」

「リンチ? ……いえ。知らないわ」

 

 事実、未麗は知らないことであった。

 

「スタンド使いが関わっていたらしいので、何かご存知かと思いまして」

「そのスタンド使いを、私が差し向けたと? 言いがかりはよして。間庭愛理を今の状況で痛めつけて、一体私に何のメリットがあるの?」

「でしょうね。聡明な未麗さんが、竹を割ったような知恵をお出しになるわけがない」

「竹を割ったような性格というのは聞くけど、竹を割ったような知恵とは、初耳ね?」

「中身がスッカラカンってことですよ。さぞかし、叩けばよく響くでしょうね?」

「面白いわね。R-1にでも出場するの?」

 

 冷え切った目を笠間に向ける未麗。

 

「とにかく、私は何も知らない。どうしてもと言うなら、私の指揮下にいる者には、愛理に手を出すなと申し伝えるわ。もっとも……私の都合のいい状況ならだけど」

「それを聞いて安心しました。失礼します」

 

 一礼して、さっさと笠間は部屋を出ていった。

 その後姿を、平竹は忌々しそうに見送っていたが、

 

「何ですかあれは!? ノー・マナーにもほどがある」

「平竹」

 

 未麗が、ジロリと睨んだ。

 

「あなたが仕組んだことというわけ? 少なくとも、笠間はそう思ってるわよ」

「知りませんよ! あのパラノイアのナンセンスな言葉を、まともに受け取るのですか!?」

「お黙りなさい!」

 

 強い語気で、未麗が遮った。

 

「そのことはもういいわ。愛理もひとまず無事だったようだし。ただし……! 私の指示があるまでは、愛理に手出しすることは禁じます。他の者の仕業に見せかけるのも許しません。いいわね?」

「御心のままに」

 

 深々と頭を下げたが、平竹は内心で舌打ちしていた。

 

(まあいい。笠間を挑発する効果はあった。これでサムシング・ドゥ・イットしてくれれば、私のターンもあろうというものだ。さて、今度は何を仕掛けてやろうか……)

 

 

 

 

 

 愛理が〈スィート・ホーム〉のキャビネットから出てくるやいなや、炭三が一目散に駆けつけてきた。

 それを、愛理は優しく抱き上げる。その様子を、文明が微笑ましそうに眺めていた。

 

「あなたが炭三なのね。あたしの家には、あなたの子孫がいるんですよ」

「代々飼ってるの?」

「ええ。二代目の炭夫、三代目の炭太郎、四代目の炭助、五代目が炭乃で、今うちにいるのがスミリン」

「最後だけ、何かテイスト違わない?」

「お母様が、女の子の猫ちゃんには今風にしてあげた方がいいからと」

 

 微笑ましく、案内してきた文明は彼女を眺める。

 隣の部屋は、何やら騒がしい。

 

「こんなもんかな? どう?」

「明日見、じっとしてな! 今、写真撮るから」

 

 何だろう、と思いながら、文明が仏間に入っていくと。

 明日見が、奇妙なポーズをとっていた。立ち姿で、足を伸ばしたまま少しクロスさせ、両腕を無理やり曲げ、指先まで逸らせている。首も斜め上に捻り上げ、視線をあらぬ方向に向けていた。

 

「な、何やってるの?」

「〈露伴立ち〉。知らない?」

「ごめん。よく分からない……」

 

 どんな顔をしていいのか分からない文明。

 後ろからついてきていた愛理が、口を開いた。

 

「漫画家の岸辺露伴の作品に出てくる、特徴的な立ち姿ですね。代表作は〈ピンクダークの少年〉。イタリアの彫刻芸術が発想の原型となっていて、関節を強く捩ったポーズが特色になってます」

「へえ! 愛理ちゃん、漫画も詳しいんだ」

 

 感心している航希。

 

「あの……あたし、一度見聞きしたものは、忘れないんです。ハイパーサイメシアっていう症状だということです」

「それ、症状っていうより才能じゃないの!? すごいなー」

 

 困った表情の愛理に、にこやかに航希が応じた。

 

「とにかくさ、その〈露伴立ち〉が今、インスタで流行ってンのさ。今、その話題になって。みんなでやってみてるところさ」

 

 写真を撮り終えた遥音が、ニヤリと笑った。

 

「早速だから、かけつけ1ポーズやってもらおうか! まずは文明、アンタだ」

「え、えっ!? だって僕、その何とかいう人の漫画、読んだことない……」

「いいからやンな! 激しく、カッコよく、それでいてエレガントだよ! オリジナリティも忘れるんじゃないよ!」

「な、何で来た早々、そんな難しい注文を……」

 

 及び腰で座の真ん中に進み出ると、恐る恐る、適当に形を作りながらポーズを決めた。

 途端、次々と噴き出し、爆笑する一同。

 

「な、なンだよそれ! まるで、やっちゃいけないクスリ決めたダチョウだろそれ!」

「いや、これはこれで、な。本家の漫画でも、こんなテイストのポーズあるぜ」

 

 そう言いつつも、笑っている京次。

 

「独創性はあるが、スマートさにいささか問題ありだ。45点、赤点回避といったところか」

 

 一人だけ笑わず、冷静に批評を加える神原。

 

「何だよ何だよ! やれっていうからやったのに! 大体、みんなどんなのやったんだよ! 考えてみれば、先に見せてもらってからやればよかったよ!」

「文明くん、そうエキサイトしないで。ほら」

 

 明日見が、自分のスマホの画面を見せる。側に近づいている彼女からいい匂いがしてきて、ついつい怒りが別のものに変換されてしまう。

 だが、それも画面を見るまで。

 

「……何だか、みんなカッコいいじゃないか……こういう代物だって、教えておいてくれれば……」

「そうヘコまないで。先に見せると、影響受けちゃうでしょう? 遥音さんも言ってたけど、オリジナリティが重要だから」

「そういうこと! 愛理、アンタもだ。逃がしゃしないよ!」

「別に逃げるつもりはないです。え、と……バレエとかと重なるのはいけないのですよね」

 

 遥音に促され、愛理が真ん中に出てくる。

 強めの内股で立ち、足先はハの字型。背を少し逸らし、右手を指揮棒を構える形。左手はベルトよりやや上で横に曲げ、首を少しだけ捻って正面を見据える。

 

 今度は、全員が頷いていた。

 

「バランスもとれていて、優雅さもある。力強さも忘れてはいない。90点だ」

「残念。神原先生の採点は厳しいですね?」

「うむ、今後の成長を期待する意味でも、満点はそうやすやすとはやれんよ。たとえ君でもな」

「精進いたします」

 

 礼儀正しく、お辞儀をする愛理。

 

「さて……。成長と言えば、スタンドを覚醒させたようだね? 間庭くん」

「そうらしいです。そもそも、この空間はスタンド使いでなければ、入れないと聞きました」

 

 愛理は、己の傍にスタンドを出現させた。

 

「〈スィート・アンサンブル〉。能力は『動くものの速さを調整することによって、複数の動きによって引き起こされる事象のタイミングを合わせる。もしくは、裏拍をとることで、タイミングをずらす』というものです。そもそもタイミングを変えても発生の可能性がない事象を、発生させることはできないようですが。既に検証はすませています」

「さすがに探究心旺盛だね。だが、幾つか忠告はしておきたい」

 

 神原は、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「まず、スタンドの能力を他の者に話すのは禁忌に近い。能力を教えるということは、弱点を教えるのに等しいのだから」

「神原先生を信頼してお話したつもりです。とは言うものの、今後は気を付けます」

「もう一つ。スタンドの能力の限界を、自分で決めてしまってはいけない。スタンド使いの精神の成長と共に、スタンドも成長するのだからね。事実、ここにいる武原くんも天宮くんも、極めて短期間でスタンドを一段階成長させた。彼らの向上心が旺盛な証拠だよ。正直言って、私も驚いている」

「精進いたします、と、もう一度言わなければならないようですね? ご忠告、肝に銘じます」

 

 遥音が、明日見の脇をつついた。

 

「あのさ。普段からそうだけど、ちっとあのコ固すぎない?」

「日舞とかもお師匠について習ってるみたいだから。そのノリが出ちゃってるのよ」

「やれやれ。お嬢様は、アタシら庶民とは趣味が違うねぇ」

「あらら、私もそっち側なの?」

「何だよ! だったら、アンタも日舞とかやってるわけ?」

「……やってない……今風のダンスとかならまだ何とか……」

「それみろ! やっぱコッチ側じゃンか」

 

 一本取ったと得意げな遥音に対し、む~、という顔の明日見。

 

『もしかしたら、彼らがこうして楽しんでいるのも、最後になるのかもしれん』

 

 和気あいあいとしているジョーカーズの面々を見やって、神原は思った。

 

『一連の吹奏楽部の一件からすると、その裏にいるのは亜貴恵ではないように思われる。亜貴恵はずっと入院したままだし、理事長の目がなくなったからといって、黒幕で満足する性質ではないからな。別に黒幕がいるとするなら……娘の未麗か? いや、最初からそうだったのかもしれん。何とか裏を取る必要がある。一番早道なのは、笠間をこちらに引き込むことなのだが。……いずれにせよ、決戦の時が近づいている』

 

 

 

 

 

「また動画? フレミング、あんたそれ前にも見てたやつだよね。いったい何回目?」

 

 メイド服の初老の女が、半ば呆れたように、犬の顔をした異形の生体兵器に尋ねた。

 そこは、研究所の一角だった。フレミングは普段は特殊な液体の中で睡眠させられているが、定期的に液体から出して活動させないと、筋力などが大幅に衰える。そういう日は、このメイドがフレミングの世話をしているのだった。

 

「何度でも見る。俺には、実践できる機会は限られているからな」

「それにしても、ホント好きだねえ。総合格闘技だっけ? あたしゃ、こういうのは怖いから見たくないけどね」

 

 フレミングは、返答しなかった。顔のヒビは、もう完全に消えてしまっている。

 

(力だけでは、神原のスタンドに簡単には勝てん。それに、あの少年の動き。力なら俺の方が上のはずなのに、顔面に拳を打ち込まれた。あの動きは、何らかの訓練を受けているのだ。俺も、格闘の技術を身につける必要がある)

 

「トミコ」

 

 フレミングは、メイドに呼びかけた。

 

「稽古相手は、もうすぐ来るんだったな?」

「ああ。だけど、稽古になるか分かりゃしないよ。ほら、こないだの男だって、あんたの姿見ただけで、ションベンもらして使い物にならなかっただろ? まったく、〈お掃除〉するのはこっちなんだからさ」

 

 表情を変えないフレミングに、トミコははっと気づいたように、

 

「あ、ゴメンねえ! あんたのせいじゃないんだもんね。大体、今時の男はチャラチャラしてる腰抜けが多いからねえ。ちょっと顔が怖いくらいのことで、あそこまでビビらなくったって。あ、そうだ!」

 

 トミコは、いそいそと部屋の外に出ると、菓子のたくさん入ったカゴを持ってきた。

 

「あんた、これ食べな! 運動前には、甘いモン食べた方が体にいいんだよ」

「いや、俺はそういう体じゃ」

「何を遠慮してるんだい。育ち盛りなんだから、食べなきゃいけないよ!」

 

 断るのも面倒なので、仕方なしに、フレミングは菓子の一つに手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 学校から一番近くにあるドーナツショップ。

 ユリは所在なさげに、半分残ったコーヒーカップを揺らしていた。

 店内の新製品の宣伝ポスターが目に入る。 

 

(期間限定のドーナツかぁ……キャラクター入りで、インスタ映えはするけどさ。だけど、やっぱカロリー気になるし。写真撮って捨てちゃうのって、なんかヤダし。やめとこ)

 

 少し冷めたコーヒーを、飲み干してしまう。おかわり自由なので、後でもらってくるつもりだ。

 机に置かれているスマホを、手に取った。

 さっきも見たばかりなのに、また同じところを見てしまう。

 

(芸能プロダクションへの、紹介かぁ……。平竹とかいうあの男、信用できるのかな?)

 

 やたら横文字ばかり使う、茶髪の男の姿を、ユリは思い出していた。

 

(紹介先が怪しげなところじゃなかったら、悪くない話なんだけど。結局、笠間さんの時と同じようなことやらされるのよね、きっと)

 

 なぜだか、心が浮き立たず、ユリは頬杖をついた。

 

(どうしようかな、ホントに? 笠間さんには、ひとまず今まで通りにやれとは言われたけど。だけど別に、大して笠間さんに義理があるわけじゃないのよね。さぁて、どっちに乗っかろうかな……)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。