城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第34話 決戦を前に 後編

「バカ野郎ッ!!」

 

 文明の話が終わるや、ずっとイライラしていたらしき笠間が爆発した。

 

「お前ら、自分たちが何やったか分かってるのか!? 何が『巻き込みたくないから』だ! 柳生操を孤立させた挙句、無防備な状態でほったらかしにしてるだけだろうがッ!」

「兄さん、冷静になって。年長者でしょう?」

 

 さすがに明日見が止めに入った。

 

「いいや、これだけは言わせてもらう! 『スタンド使いはスタンド使いと惹かれ合う』んだよ。いくら秘密にしたって、いずれは何らかの形で知られる。ましてやお前ら、未麗とやり合うつもりでいるんだろうが? 敵対的なスタンドが、どこにどれだけいるかもお前らは知らないだろ! そんな状況でよくもまあ……」

「笠間。それ以上、天宮くんを責め立てても、状況は好転せんぞ」

「教え子相手だと、ずいぶん優しいもんだな? 大体な、神原。お前にも責任の一端はあるんじゃないのか? お前はスタンド使いの先輩として、コイツらの指導を自分で引き受けたんだろ?」

「……確かにな」

 

 神原は、沈痛な表情になっていた。

 

「天宮くん。やはり私は、本当の意味では君に信用されてはいなかったようだな?」

「申し訳ないとは思っています」

「やむをえんことだ。これも私の不徳の致すところだ」

 

 その時。

 ガララ! と扉を開けて、航希が部室に飛び込んできた。

 

「みんな! 聞いて……」

「来やがったな? バカ野郎2号。いや、お前が1号か」

 

 笠間に睨まれて、航希も勢いを削がれて目を瞬いた。

 

「え? あの、なんでアンタにそんなこと」

「口答えすんな! 全部聞いたぞ。大事な大事な許嫁だそうだな? こんなことになったのも、お前の浅い浅い知恵が最大の原因だぞ! きっと、趣味は潮干狩りだろ? ロクなもんを掘り出してきやしねー!」

「兄さん! もういい加減にして! 話がちっとも進まない! ……航希くん、話を聞かせて」

 

 無理やり笠間を黙らせると、明日見は先を促した。

 さすがに傷ついたようで、ムスッとしながら、航希は手にしたカバンを差し上げた。

 

「操のだ……。4丁目の、通学路の途中の家に、入口の側に立てかけてあった」

「4丁目の家?」

 

 笠間は、スマホを取り出すと、何やら操作し始めた。

 マップアプリを開いた状態で、航希に突き付けた。一軒の建物に、ピンマークがつけられている。

 

「もしかして、この場所じゃないだろうな?」

「……そこだ。間違いないよ。だけど何でそれを」

「最悪だ!」

 

 笠間は頭を抱えた。

 

「ここは……未麗が、執務室代わりに使ってる一軒家だ」

「何だと!?」

 

 神原が、珍しく大きな声をあげた。

 

「するとまさか、未麗が柳生くんを拉致したと言いたいのか?」

「どうせ平竹にやらせたんだろうがな。おいちょっと待て潮干狩り」

「オレは服部航希だよ! 場所まで特定しといて、今度は止めるわけ!?」

 

 つい足を止めて反論してしまう航希。

 

「いきなり未麗のところに押しかけるのだけは絶対ダメだ。分からないか? こいつは間違いなく誘いだぞ。お前や他の連中をおびき寄せる撒き餌だ。罠にハマるだけで終わるぞ」

「じゃあどうしろって言うんだよ! このまま放っておけとか、あり得ないから!」

「そんなことは言ってないだろ? 放っておけないほどの、由々しい事態だ」

 

 笠間に視線を送られた神原が、考えつつも口を開いた。

 

「もしかしたら、柳生くんのスタンドこそが、貴様の言うところの、未麗の求めていた能力なのかもしれんな……」

「俺もそう思う。でなけりゃ、拉致なんて荒っぽいやり方はしない。警察まで動きかねないしな」

「実際、そうなりかけている。……待て。実は、貴様は知らないだろうが、器物に宿ったスタンドも我らにはあるのだが、今その所在が不明になっている」

「それって、お前らが隠れ家に使ってる、古いキャビネットのことか?」

 

 笠間以外の全員が、目を大きく見開いた。

 

「知っていたのか……」

「まあな。こちらも手中を明かすが、ここの部員の城田ユリは俺の間者、エージェントだ」

「何だってぇぇぇッ!?」

 

 遥音が、けたたましい大声で驚いた。

 

「たまたま、元からの部員であるユリがスタンド使いなのを、俺は知ってな。こちらの仲間に引き込んだ。大した情報も取ってこれないんで、しばらく放置してたんだが、平竹もアイツに粉をかけていた。最近アイツはそのキャビネットのことに感づいてな。俺は〈検索〉でそれを知って、平竹には伏せておけと釘を刺しておいたんだが、結局喋りやがったか……」

「城田くんのことは、後回しでいい。〈スィート・ホーム〉まで敵の手中に落ちた、ということか」

「未麗は、一気に動いてきたぞ。将棋で、敵の駒ギリギリまで全軍を動かしておいて、時が満ちたら一気呵成に攻撃を仕掛けるようにな……」

「それよりさ!」

 

 辛抱しきれない、と言いたげに航希が口を挟んできた。

 

「操を、どうするつもりなんだよ!? ここで話し込んでたら、戻ってくるわけ!?」

「気持ちは分かるが、話を最後まで聞きたまえ。未麗の企みの全容は分からないが、その目的のためには、柳生くんとキャビネット、おそらくその両方が必要なのだ。それを阻止しようとするならば、最低どちらかは奪還することが絶対条件だ。思うに、より重要なのは柳生くんの方だろう。キャビネットの方が重要ならば、ここまで強引な手法は取らん」

「だけど! 罠があるんだろ!? どうしろって言うんだよ!」

「罠を承知で、噛み破る。それしかあるまい」

 

 普段は慎重な神原の言葉に、全員の間に緊張感が走った。

 

「そのためには、最低限の準備が必要となる。揃えられる人数を全て揃えてかかる。笠間、貴様も少なからぬダメージを受けて、癒したばかりだ。せめて一晩かけてコンディションを整えないと難しいだろう?」

「確かにな……。正直その気遣いはありがたい。一斉攻撃で押し切る、ってのは俺も賛成だ」

「それと、是非とも確認したことがある。敵方のスタンド使いの情報だ。〈スィート・メモリーズ〉のスタンド使いは、亜貴恵ではなく未麗なのか?」

 

 神原の問いに、笠間は少し考えて答えた。

 

「まず間違いないだろう。他には、秘書の平竹、家政婦のトミコ、あとは狼男のフレミングだ。他にもいるかもしれんが、この三人は相手をする可能性が高い。何しろ、お前らが思いの他優秀で、未麗の手持ちのスタンド使いを軒並み撃破してくれたおかげで、かなり楽になっている」

 

(語るに落ちたな。笠間)

 

 神原は、腹の底で呟いていた。

 

(こやつ、いろいろ口実を作って、未麗の息のかかったスタンド使いを、わざと小出しに投入させていたな? 我らが1人でも2人でも削ってくれればよし、といったところか。未麗にしてみれば、体のいい〈産廃処理〉であったろうがな)

 

 その辺りの考えはおくびにも出さずに、神原は問いを続ける。

 

「フレミングは分かるが、平竹とトミコの能力は?」

「平竹は〈エアー・サプライ〉のスタンド使いだ。『ビーチボール大の空気を変質させる』能力。即死級の毒にもできるが、効果範囲を決めると移動させられないし、発動にも5秒かかるから、動き回っていればまず問題ない。ま、暗殺向きの能力だな」

「即死級の毒……?」

 

 文明の頭に、閃くものがあった。

 

「もしかして、多岐川さんがいきなり吐血して死んだのは……」

「明日見から聞かされたが、間違いないな。アイツの仕業だ」

「そうだったのか! 何て卑怯なッ!!」

 

 ヒートアップする文明を手で制して、笠間は続けた。

 

「トミコは実のところ、正確には分からない。〈掃除〉に関わりのある能力らしいが、スタンドが戦闘に出た話を聞かないんでな。どうも、いろいろと証拠隠滅の役に立ってるらしい」

「思い出したけど、多岐川さんの時も、音楽室に何の痕跡も残ってなかったのは、きっとそれね」

 

 明日見も合点がいったようだ。

 

「やはりフレミングの戦闘力が脅威だな。最も対抗しうるのは、武原くんだ。あれからもう一か月経とうとしてるが、彼は、まだ戻ってこないのか?」

 

 神原が、唸るように尋ねた。航希が、スマホを取り出して確認する。

 

「やっぱり返事がないです。オレ、今朝もLINEで連絡してるんですけど、既読すらつかなくて。どこで修行してるのかも分からないし……」

「だからと言って、悠長に待つことは愚策というものだろうな……」

 

 神原が視線を送ると、笠間も同感というように大きく頷いた。

 一同を見渡し、神原が宣言した。

 

「明日は土曜日だ。幸い学校も休み。明日の朝8時にここに集合。全員で、未麗の一軒家に押しかける。今夜はこれで解散として、それぞれ心身を休めておくように。よろしいな?」

 

 文明、航希、遥音、明日見、愛理、そして笠間。

 全員が、決意を秘めた面持ちで頷いた。

 


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