ニャア、ニャア……。
海鳥の鳴き声と共に、笠間と愛理、航希の三人は、簡素な港に立っていた。キャビン付きの小さな漁船が、一隻だけ止まっている。
「結局、この船にも何もなかったよね……。いるのはカモメだけか」
「あれ、カモメじゃありません。ニャアニャア鳴くのは、ウミネコです」
「そうなんだ。やっぱり愛理ちゃんは物知りだよな」
「あ……ごめんなさい。他意はないんです。つい口から出てしまって」
「いや、こっちこそ当てつけのつもりじゃなかったんだよ。ゴメンね」
笠間はその会話を聞きながら、やや遠い目をしていた。
「二人とも。波止場の雰囲気を味わうのは、また今度にしてくれるかな? どうやら、あの扉から進む方向は、逆が正解だったらしい」
「そうみたいですね。戻るしかないですね」
愛理は三人で連れ立って歩きながら、港の周囲を見渡した。コンクリートで固められているのは、漁船が3隻も入れば一杯になる程度の、小さな港の部分だけ。そこからは石段で崖の上まで登るしか、行く道はない。5メートルほどの高さの崖の、海に面する側は、びっしりと石垣となっていて、城の堀を連想させる。
崖の上に登ると、舗装されてもいない土の道が伸びている。海側は草むらとなっていて、合間を開けて木が生えている。島の奥側は、深そうな森が広がっていた。
笠間は頭をバリバリ掻きながら、
「……ったく、俺はいっつもこうなんだよな~。丁半バクチに向いてないんだよ。2択で選ぶことになると、大抵裏目に出るんだ。昔っからそのパターンなんだよ」
「人間は〈成功体験〉より、〈失敗体験〉の方が、印象に残りやすいそうですよ。今回がたまたまそうであったからといって、笠間さんが悪運ということではないと思います」
「そう言ってくれるのか。優しいな」
航希はふと、状況が許しさえすれば、自分はさりげなく消えるべきなんだろうな、と思ったりしたものだった。それほど孤島での道程は、自然に囲まれたのどかさに包まれていた。
「それに、うまくいかなかった体験が、逆に糧になることって、ありませんでしたか?」
「……かもしれないな。おかげで俺は、運否天賦を信じないようにと心がけるようになった。2択になる前に可能な限り準備して成功率を高め、できることなら2択になる前に、決着がつくことを望むようになった」
「〈武〉という文字は、〈戈を止める〉と書きます。戦いを止めるのが究極の武であるという、その解釈自体はあくまで俗説ではありますが、真理の一面を示しているのではありませんか?」
「だが、時には大バクチを打たなきゃならない時がある。だから俺たちは、こんな所にいるんだろう?」
「……そうです。この大バクチは、あたしが望んだものです。だから、最後までやり遂げます」
「それを良しとした、俺自身のバクチでもある。必ず、勝とう」
オレにとってもそうだ。航希は、口には出さないがそう思った。彼にとっては、操を無事に取り戻すことが、このバクチの、欠くべからざる勝利条件だった。
三人は、数軒並んだ、一軒家の廃墟の前を通り過ぎた。その中には、先ほど自分たちが通り抜けた扉もあった。その上に張られた札は、白紙となったままであった。
さらにしばらく進むと、道は途中で枝分かれし、海沿いに伸びる道と、島の中央に向かう森へと伸びる道に分かれていた。
「俺は実のところ、この島の全容を知ってるわけじゃない」
笠間は、道の分岐点の前で、いったん立ち止まってそう言った。
「というより、未麗の執務室以外はほとんど知らないんだ。ただ、おそらくは未麗がいるであろう別荘は、島の中央にあるのは間違いない。ここは、森へと向かおうと思う。他の連中が島に来ているなら、同じ方向に向かうだろうしな」
「だよね。みんなと合流できればベストだし。スマホが圏外だから、連絡取れないけど」
「別荘とその周辺は、衛星通信が可能になってるから、スマホも普通に使える。未麗たちだって、ネットが使えないんじゃ不便で仕方ないからな」
「……って、ちょっと待って」
航希は、気が付いたことがあった。
「別荘なら、ネット使えるんだよね? ってことは、明日見ちゃんの能力なら、別荘に直接テレポートできるんじゃないの?」
「それは明日見にも言われたよ。固く禁止したけどな」
「え!? 何でだよ」
「〈パラディンズ・シャイン〉は、テレポートする先の状況が全く分からないんだ。いや、行先の端末に入っている情報は事前に分かる。だが、端末が具体的にどこの場所にあって、周囲に誰がいて何があるかは、テレポートしてみないと分からない。今回の状況でテレポートを試みるのは、お前が敵中に無闇に突入しようとしたのと大差ない」
バツが悪そうな顔をして、航希は頭を掻いた。
「第一、敵が明日見の能力を知らないとは限らない。知られていれば、テレポートを予期して、罠を仕掛けるくらい当然だ。誰だってそーする、俺もそーする」
「……だよねー。別荘に近づくまで、スマホは用なしか」
航希は、スマホをウェストポーチに突っ込んだ。
三人は、森へと伸びる道に、踏み込んでいった。一列になって、航希、愛理、笠間の順。一番戦闘力に劣る愛理を、前後でガードする隊列だ。
道そのものは、草こそなくて先まで見渡せるが、石や木の根っこがゴロゴロしていて、デコボコだらけであった。
「服部。こんな道でも、お前のスタンドは高速移動できるのか?」
「それは大丈夫。地面を少し浮いて走るからね。草木まみれのところだと、うまくいかないけど。道なりに進むならイケる」
「了解だ。何ができるか、こっちも理解してないと、イザという時の判断に影響するからな」
それから、三人はしばらく道を進んで行った。香しい木の匂いが、周囲に漂っている。木漏れ日が時折射して、風景にアクセントをつけている。
「……ストップ!」
航希が立ち止まった。
何事か、と言いたげな二人に、航希は一本の木を指さして見せた。
それを、愛理もまじまじと見やった。
「……縦に3本並んだ傷跡。それがたくさんつけられてますね」
「熊のマーキング。オレが伊賀の里で見せられたのと似てるよ」
「やはりそうですか」
「だけど、それにしては、妙だなと思うんだ」
「……と言いますと?」
愛理の質問に、航希は木を見つめたまま答えた。
「オレは、地面にも気を配ってきた。ここまで、熊の糞らしきものは見当たらなかったんだ。マーキングするような場所なら、糞くらいあって当然だ。もちろん、もっと奥とか、他の場所にある可能性はあるけど」
「そうですね。確かに、見ませんでした」
「あと、木の上に〈熊棚〉っていうのを作ることがある。熊は木に登って、実のついた枝を足でヘシ折って、実を食べる。食べ終わった枝は、寝るためのベッドの材料として、木の上の一か所に集めるんだ。そんなものがあったかな?」
「少なくとも、私の視界に入る限りではありませんでした」
写真記憶の持ち主である愛理の口から出ると、それは確定的な意味を持っていた。
「二人とも。考えてみろ。そもそもこんな孤島に、熊なんかいると思うか?」
笠間の言葉に、二人はハッとした。
「ここは、昔は小さいながらも集落があった島だ。もし熊なんか出没したら、猟友会かなんか呼んで、駆除させるに決まってる。集落に誰も住まなくなってから、余所から移ってきたとも思えない。熊が、海を泳いでワザワザこんな島にやってくるわけないだろう?」
「そりゃそうか……するとこれは?」
「スタンドの仕業、っていう可能性が大だ」
笠間の推測は、当たっていた。
崖の下を見下ろせば、およそ5メートル下に、森と森をつなぐ山道がある。その周辺は、あまり木も生えておらず、日差しで照らされていた。
その崖の上に、まだ小学生低学年とおぼしき少女がいた。肩までの髪を二筋編み込んでいる。
少女が手にしているのは、タブレットの形をしたスタンドだった。モニターには、動物が歩いている動画が流れており、鼻歌混じりに少女はそれを鑑賞している。
「ふふ~ん。ふふ~ん。ふふっふ、ふっふ、ふっふ、ふっふ、ふ~ん。……そろそろかなぁ?」
動画から目を放して、海から通じる方へと伸びる道を、少女は眺めた。
「あ~早く来ないかな~。沙羅、もう待ちくたびれたんやけどー。クマちゃんたちも暇やて言うてるわきっとー」
大あくびをしながら、もう一度下を眺めていると。
三人が、森からでてくるのが見えた。先頭の航希が、トンファーを両手にぶら下げている。
「あんなモン持ってたって、怖くないもんねー。この真下まで来たら、クマちゃん総攻撃行くで~待っときや~」
待っているのは沙羅本人なのだが、そのあたりの言葉の選び方は別に気にしていないらしい。
彼女がジリジリしていると、ようやく三人が、沙羅の真下近くまで来た。
「よし行け! クマ吉、クマ蔵、クマ五郎!」
沙羅が、画面に映し出された『ターゲットを攻撃しますか?』の問いに対し、『はい』のタッチボタンを押した。
今出てきた森、これから向かう森、そして道の脇の茂みから、むしろゆったりと四つ足で現れ出た熊三匹を確認して、三人の足は止まった。
「バラバラの方向から一斉に出てくるんだ。しかも三匹も、さ。スタンドでございます、ってプレートつけてるようなもんだな……!」
「一人一体、ですね」
「愛理は攻撃を避けるのに専念しろ。すぐに俺が始末する」
三匹の熊が、唸り声をあげた。ほぼ体の大きさが大差ない三人に、それぞれ襲い掛かっていく。
間合いを詰めながら、後ろ足で立ち上がろうとした熊に対して、笠間の鎌が横に斬りつけた。怖ろしく太い首が、一撃で真っ二つとなり、歯を剥き出しにした頭部が地面に落ちた。
だが、断面からは血の一滴すら噴き出してこない。それどころか、なおも前足を振り上げて、爪で切り裂こうとしてきた。
「やっぱり、首落としただけじゃ、倒れてくれねえか……!」
爪を鎌で払いのけながら、笠間は渋い顔になった。断面は、胴の色と全く同じで、中身の造りの雑さが露わになっている。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!!」
航希の振るうトンファーの目まぐるしい連打が熊を襲う。当たった部分は細かく欠けていくが、一撃で大きく砕くには至らず、出足を止めるのがやっとである。
(まいったねこりゃ!)
仕方なく、航希は敵の武器である、手の爪や歯を重点的に狙うことにした。しかし、手は当然よく動く上に、爪を欠いてもパワーはやはり凄まじい。腕を振り回してくる時の迫力に、航希は冷や汗をかかされていた。
そして愛理は。
熊に詰め寄られて、前足の斬撃を受けそうになる。
が、〈スィート・アンサンブル〉の能力で、敵の攻撃が当たるタイミングをずらし、ことごとくかわしていた。
(よく見ていると、攻撃も幾つかのパターンだけしかない。動きの軌跡も全く同じ……!)
笠間が、ようやく目の前の熊の足を両断して動きを完全に封じた。急いで愛理の方に向き直ると、全く危なげなく、むしろ熊を翻弄しているかのようなその動きに、目を見張った。
(おいおい! どうやら彼女を、過小評価してたみたいだな俺は)
内心で苦笑しながら駆け寄り、愛理を襲う熊の頭部を、削ぎ落すように立ち割った。一撃で、片腕までも切り落としている。
「あーもう! クマ五郎とクマ蔵がかわいそー! ちゃんと倒されて!」
崖の上からの幼い声に、笠間はそちらを見上げた。
「お前がこいつらのスタンド使いか! いきなり襲われて、かわいそうなのはこっちだ!」
「そーやって言い返すのナシ! クマ吉、がんばれー!」
沙羅の声に応えるように、両腕を振り回して航希に迫る。しかし航希も、この頃には敵の攻撃パターンの少なさに気が付いてきていた。間合いを見切り、余裕をもって回避した。
だが、足元のすぐ後ろにあった、木の根に踵が引っ掛かった。姿勢が崩れ、その場に尻もちをついてしまった。
その機を逃さず、熊が前足を振り上げて、のしかかっていく。航希は、片手でトンファーを構えるのが精一杯だった。
突然。
航希の頭上に、人型のスタンドが出現した。
固めた拳が、熊の頭部に激しくラッシュを叩き込んだ。航希への攻撃を一時中断し、たまらず後退する熊。
三人が進んできていた森から、中年の男が飛び出してきていた。肩で激しく息をしている。
警戒して身構える笠間を余所に、男は崖の上に叫び出した。
「やめなさい沙羅! スタンドをそういう風に使ったらアカン!」
「えー!? 何でお父はんが邪魔すんのー!? もう少しやったのにー!」
「そんなことしたら、相手が死んでしまうやろ! 殺しなさいって言われてるんか!?」
「えーと、忘れたー」
「忘れたらアカンやろ……」
困り果てたように肩を落としたが、男は何とか言葉を続けた。
「とにかく、スタンド消しなさい!」
「アカーン。こいつら全員やっつけて、聖也様に褒めてもらうの!」
「スタンド消したら、お父はんが褒めてあげます! いー子いー子も、ハグもしてあげます!」
「お父はんはダメー! いー子いー子もハグも禁止! もーアッチ行って!」
熊三匹が、バラバラになったパーツも含めて、まるで空気に溶け込むように、徐々にその姿を掻き消していった。
男はそれを見て、血相を変えて笠間に呼びかけた。
「別の動物に組み替えるつもりや! 早く逃げんとまた攻撃される!」
「アンタ、確かこの島の管理人の藤松だな。何でアンタを信じないと」
「そんなこと言うてる暇はない! 後で説明するから早く!」
男のスタンドが、半ば呆気に取られていた愛理の腕を引いた。彼女を引きずるように、スタンドを引き連れて、男が出てきた森へと全速力で駆け出す。男を追いかけて、笠間も走り出した。
航希は〈サイレント・ゲイル〉をスケートボードの形に切り替えると、滑走を始めた。やや抑えめの加速で、あっという間に藤松に追いつく。
「ちょっとオジサン、どこまで行く気なわけ!?」
「その先に小屋がある! 中に入って扉を閉めれば、ひとまず沙羅も入ってはこれん!」
「だけどアンタだろ!? 未麗の家の扉を、この島に通じるようにしたのって」
「ワイは、奴らに操られてやっただけや! あの子も同じや!」
「操られて……?」
「小屋はすぐそこや!」
藤松が指し示した先には、木で作られた小さな小屋。
その扉に駆け寄り、藤松が扉を引き開けた。
「入るな!!」
笠間が、大声で制止した。
足を止めて、キッと睨む藤松。
「これが罠でないという保証がない。勢いに任せれば、俺たちが入ると思ったか?」
「それやったら、ワイの心の中を〈検索〉してみたらええやろ! 今ここで!」
藤松の台詞というより、気迫に押されて、笠間も一瞬口を噤んだ。
「笠間よ。お前の能力は、ワイも知ってる。嘘ついても見破られるのは、百も承知や」
「……〈フェイス・オープン〉!」
〈インディゴ・チャイルド〉を出した笠間は、顔が真っ白になった藤松に、キーワードを投げかけて〈検索〉した。
顔に表示された内容を読むと笠間は、藤松を元に戻した。
「どうやら、ここまでアンタが言ったことに嘘はないらしいな」
「分かったら入ってくれ! 追いついてくる!」
藤松に急かされ、笠間たち三人も小屋に飛び込んだ。藤松は、扉に白紙の札を張ってから閉めた。
「……ふ~! これでワイ以外の誰も、外側からこの扉は開けることはでけん」
「落ち着いたところで、話の続きを聞こうか。アンタらは操られてる、そう言ってたが」
藤松は黙ったまま、ゴソゴソとスマホを取り出すと、画面を見せた。
それを見た途端、笠間の顔色が変わった。
「〈肉の芽〉……!?」
「これは、息子の慎志のうなじに張り付いてたヤツや。俺は左手の甲やった。まず間違いなく、沙羅にも体のどっかにつけられてる」
「だが、〈肉の芽〉なら頭頂部に、針で刺さっているはずだ」
「そうや。原種なら針があるけど、コイツにはない。その代わり、張り付く面の縁に、小さい爪が6本ついとって、それで肌に食いつくんや。それと、蜘蛛みたいな背中から、短い管が出てるやろ? 原種にはこんなモンはない」
「……つまり、アンタはこれを、〈肉の芽〉の変種だと言うんだな?」
「ワイは間違いないと踏んでる。これが取り付いた人間は、宿主に強い忠誠心を持って、命令に従うようになるんや。〈肉の芽〉の特徴と、それは同じはずやろ?」
そこに、おずおずと愛理が口を挟んできた。
「あの……。そもそも〈肉の芽〉とは何ですか?」
「……かつて英国に、呪いの石仮面を用いて、吸血鬼になった男がいた」
「吸血鬼……? あの! 神原先生のお父様が、そうだったと。今まで、信じられなかったというか、実感が湧かずにいましたけど」
「そうだ。神原の父親が、己の細胞を用いて作り出した代物だ。もっとも、その吸血鬼自体は、とうに滅びてるがな」
その時、小屋の外から、大きな声が聞こえてきた。
「こらー! ここにおるんやろー! ワン小太郎がここにいるって言うてるでー! おとなしく出てこーい!」
扉の下の方で、ゴンゴン小さな音がするのを聞きながら藤松は、
「沙羅が扉蹴っとるな。大方、犬を作って匂いを追わせたんやろ」
「ってことは、いろんな動物を作れるわけか」
「そうや。あの子の〈アニマル・フレンズ・フォレスト〉の能力や」
それを聞いて、笠間の表情に緊張が走った。
「それって……何つーかヤバくねーか?」
「ああ。実体はナノマシンのスタンドが、ぎょうさん集まって組み合わさった代物や。タブレットに動物の動画をダウンロードしたら、その動物の姿を作れる。ダメージ与えてバラバラにしたっても、また組み直されるだけや」
「いや、そーいうことだけじゃなくってだな~……」
頭を抱える笠間に、何かに気づいたらしく航希が言った。
「そういえばあの子、サザエボンとか書かれた、イラスト入りのTシャツ着てたよ」
「古着屋で買うたんや。あの子のお気に入りやねん」
「今は、そんなことはどーでもいいんだよ。その、何とかいうスタンドの能力だ」
先を促されて、藤松は続けた。
「パワーやスピード、重量はもちろん、五感も本物の動物と同等にできるんや。数も、人間サイズなら3体まで作れる。動きは、あの子が大まかな指示を出せば、動画を参考にしてセミオートで行動しよる」
「道理で、複雑な動作になるとワンパターンの」
ドンッ!!
今までにはなかった大きな音と共に、小屋そのものが大きく揺れた。
すぐにまた、同じような音と振動がする。
「マズイ! 多分、象とかサイを作りおったんや。こんな古い小屋、長くはもたんぞ!」
愛理がその時、口を開いた。
「その〈肉の芽〉を引き剥がせば、沙羅ちゃんは操作されなくなるんですね?」
「そうや。頼む、沙羅を元に戻してくれ! ワイの能力では、あの子の戦闘力にとても太刀打ちできんのや。ワイの望みは、家族全員で平和に暮らしていくことだけや。それが叶うようなら……アンタらの帰り道も確保するし、できるだけの支援もするから!」
「分かりました。……笠間さん、〈クリスタル・チャイルド〉で、あたしたちの誰かと、沙羅ちゃんを入れ替えできませんか? それならリスクは少ないかと」
しかし、笠間は首を横に振った。
「俺の〈置換〉は、体積が違いすぎると入れ替えは無理だ。あの子はまだ体が小さすぎるし、ここにいる誰も、釣り合う体格の人間がいない」
「そうですか。では、こういうのはどうでしょう?」