城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第40話 立向島探検記〈3〉 前編

 ニャア、ニャア……。

 海鳥の鳴き声と共に、笠間と愛理、航希の三人は、簡素な港に立っていた。キャビン付きの小さな漁船が、一隻だけ止まっている。

 

「結局、この船にも何もなかったよね……。いるのはカモメだけか」

「あれ、カモメじゃありません。ニャアニャア鳴くのは、ウミネコです」

「そうなんだ。やっぱり愛理ちゃんは物知りだよな」

「あ……ごめんなさい。他意はないんです。つい口から出てしまって」

「いや、こっちこそ当てつけのつもりじゃなかったんだよ。ゴメンね」

 

 笠間はその会話を聞きながら、やや遠い目をしていた。

 

「二人とも。波止場の雰囲気を味わうのは、また今度にしてくれるかな? どうやら、あの扉から進む方向は、逆が正解だったらしい」

「そうみたいですね。戻るしかないですね」

 

 愛理は三人で連れ立って歩きながら、港の周囲を見渡した。コンクリートで固められているのは、漁船が3隻も入れば一杯になる程度の、小さな港の部分だけ。そこからは石段で崖の上まで登るしか、行く道はない。5メートルほどの高さの崖の、海に面する側は、びっしりと石垣となっていて、城の堀を連想させる。

 崖の上に登ると、舗装されてもいない土の道が伸びている。海側は草むらとなっていて、合間を開けて木が生えている。島の奥側は、深そうな森が広がっていた。

 笠間は頭をバリバリ掻きながら、

 

「……ったく、俺はいっつもこうなんだよな~。丁半バクチに向いてないんだよ。2択で選ぶことになると、大抵裏目に出るんだ。昔っからそのパターンなんだよ」

「人間は〈成功体験〉より、〈失敗体験〉の方が、印象に残りやすいそうですよ。今回がたまたまそうであったからといって、笠間さんが悪運ということではないと思います」

「そう言ってくれるのか。優しいな」

 

 航希はふと、状況が許しさえすれば、自分はさりげなく消えるべきなんだろうな、と思ったりしたものだった。それほど孤島での道程は、自然に囲まれたのどかさに包まれていた。

 

「それに、うまくいかなかった体験が、逆に糧になることって、ありませんでしたか?」

「……かもしれないな。おかげで俺は、運否天賦を信じないようにと心がけるようになった。2択になる前に可能な限り準備して成功率を高め、できることなら2択になる前に、決着がつくことを望むようになった」

「〈武〉という文字は、〈戈を止める〉と書きます。戦いを止めるのが究極の武であるという、その解釈自体はあくまで俗説ではありますが、真理の一面を示しているのではありませんか?」

「だが、時には大バクチを打たなきゃならない時がある。だから俺たちは、こんな所にいるんだろう?」

「……そうです。この大バクチは、あたしが望んだものです。だから、最後までやり遂げます」

「それを良しとした、俺自身のバクチでもある。必ず、勝とう」

 

 オレにとってもそうだ。航希は、口には出さないがそう思った。彼にとっては、操を無事に取り戻すことが、このバクチの、欠くべからざる勝利条件だった。

 三人は、数軒並んだ、一軒家の廃墟の前を通り過ぎた。その中には、先ほど自分たちが通り抜けた扉もあった。その上に張られた札は、白紙となったままであった。

 さらにしばらく進むと、道は途中で枝分かれし、海沿いに伸びる道と、島の中央に向かう森へと伸びる道に分かれていた。

 

「俺は実のところ、この島の全容を知ってるわけじゃない」

 

 笠間は、道の分岐点の前で、いったん立ち止まってそう言った。

 

「というより、未麗の執務室以外はほとんど知らないんだ。ただ、おそらくは未麗がいるであろう別荘は、島の中央にあるのは間違いない。ここは、森へと向かおうと思う。他の連中が島に来ているなら、同じ方向に向かうだろうしな」

「だよね。みんなと合流できればベストだし。スマホが圏外だから、連絡取れないけど」

「別荘とその周辺は、衛星通信が可能になってるから、スマホも普通に使える。未麗たちだって、ネットが使えないんじゃ不便で仕方ないからな」

「……って、ちょっと待って」

 

 航希は、気が付いたことがあった。

 

「別荘なら、ネット使えるんだよね? ってことは、明日見ちゃんの能力なら、別荘に直接テレポートできるんじゃないの?」

「それは明日見にも言われたよ。固く禁止したけどな」

「え!? 何でだよ」

「〈パラディンズ・シャイン〉は、テレポートする先の状況が全く分からないんだ。いや、行先の端末に入っている情報は事前に分かる。だが、端末が具体的にどこの場所にあって、周囲に誰がいて何があるかは、テレポートしてみないと分からない。今回の状況でテレポートを試みるのは、お前が敵中に無闇に突入しようとしたのと大差ない」

 

 バツが悪そうな顔をして、航希は頭を掻いた。

 

「第一、敵が明日見の能力を知らないとは限らない。知られていれば、テレポートを予期して、罠を仕掛けるくらい当然だ。誰だってそーする、俺もそーする」

「……だよねー。別荘に近づくまで、スマホは用なしか」

 

 航希は、スマホをウェストポーチに突っ込んだ。

 三人は、森へと伸びる道に、踏み込んでいった。一列になって、航希、愛理、笠間の順。一番戦闘力に劣る愛理を、前後でガードする隊列だ。

 道そのものは、草こそなくて先まで見渡せるが、石や木の根っこがゴロゴロしていて、デコボコだらけであった。

 

「服部。こんな道でも、お前のスタンドは高速移動できるのか?」

「それは大丈夫。地面を少し浮いて走るからね。草木まみれのところだと、うまくいかないけど。道なりに進むならイケる」

「了解だ。何ができるか、こっちも理解してないと、イザという時の判断に影響するからな」

 

 それから、三人はしばらく道を進んで行った。香しい木の匂いが、周囲に漂っている。木漏れ日が時折射して、風景にアクセントをつけている。

 

「……ストップ!」

 

 航希が立ち止まった。

 何事か、と言いたげな二人に、航希は一本の木を指さして見せた。

 それを、愛理もまじまじと見やった。

 

「……縦に3本並んだ傷跡。それがたくさんつけられてますね」

「熊のマーキング。オレが伊賀の里で見せられたのと似てるよ」

「やはりそうですか」

「だけど、それにしては、妙だなと思うんだ」

「……と言いますと?」

 

 愛理の質問に、航希は木を見つめたまま答えた。

 

「オレは、地面にも気を配ってきた。ここまで、熊の糞らしきものは見当たらなかったんだ。マーキングするような場所なら、糞くらいあって当然だ。もちろん、もっと奥とか、他の場所にある可能性はあるけど」

「そうですね。確かに、見ませんでした」

「あと、木の上に〈熊棚〉っていうのを作ることがある。熊は木に登って、実のついた枝を足でヘシ折って、実を食べる。食べ終わった枝は、寝るためのベッドの材料として、木の上の一か所に集めるんだ。そんなものがあったかな?」

「少なくとも、私の視界に入る限りではありませんでした」

 

 写真記憶の持ち主である愛理の口から出ると、それは確定的な意味を持っていた。

 

「二人とも。考えてみろ。そもそもこんな孤島に、熊なんかいると思うか?」

 

 笠間の言葉に、二人はハッとした。

 

「ここは、昔は小さいながらも集落があった島だ。もし熊なんか出没したら、猟友会かなんか呼んで、駆除させるに決まってる。集落に誰も住まなくなってから、余所から移ってきたとも思えない。熊が、海を泳いでワザワザこんな島にやってくるわけないだろう?」

「そりゃそうか……するとこれは?」

「スタンドの仕業、っていう可能性が大だ」

 

 

 

 

 

 笠間の推測は、当たっていた。

 崖の下を見下ろせば、およそ5メートル下に、森と森をつなぐ山道がある。その周辺は、あまり木も生えておらず、日差しで照らされていた。

 その崖の上に、まだ小学生低学年とおぼしき少女がいた。肩までの髪を二筋編み込んでいる。

 少女が手にしているのは、タブレットの形をしたスタンドだった。モニターには、動物が歩いている動画が流れており、鼻歌混じりに少女はそれを鑑賞している。

 

「ふふ~ん。ふふ~ん。ふふっふ、ふっふ、ふっふ、ふっふ、ふ~ん。……そろそろかなぁ?」

 

 動画から目を放して、海から通じる方へと伸びる道を、少女は眺めた。

 

「あ~早く来ないかな~。沙羅、もう待ちくたびれたんやけどー。クマちゃんたちも暇やて言うてるわきっとー」

 

 大あくびをしながら、もう一度下を眺めていると。

 三人が、森からでてくるのが見えた。先頭の航希が、トンファーを両手にぶら下げている。

 

「あんなモン持ってたって、怖くないもんねー。この真下まで来たら、クマちゃん総攻撃行くで~待っときや~」

 

 待っているのは沙羅本人なのだが、そのあたりの言葉の選び方は別に気にしていないらしい。

 彼女がジリジリしていると、ようやく三人が、沙羅の真下近くまで来た。

 

「よし行け! クマ吉、クマ蔵、クマ五郎!」

 

 沙羅が、画面に映し出された『ターゲットを攻撃しますか?』の問いに対し、『はい』のタッチボタンを押した。

 

 

 

 

 

 今出てきた森、これから向かう森、そして道の脇の茂みから、むしろゆったりと四つ足で現れ出た熊三匹を確認して、三人の足は止まった。

 

「バラバラの方向から一斉に出てくるんだ。しかも三匹も、さ。スタンドでございます、ってプレートつけてるようなもんだな……!」

「一人一体、ですね」

「愛理は攻撃を避けるのに専念しろ。すぐに俺が始末する」

 

 三匹の熊が、唸り声をあげた。ほぼ体の大きさが大差ない三人に、それぞれ襲い掛かっていく。

 間合いを詰めながら、後ろ足で立ち上がろうとした熊に対して、笠間の鎌が横に斬りつけた。怖ろしく太い首が、一撃で真っ二つとなり、歯を剥き出しにした頭部が地面に落ちた。

 だが、断面からは血の一滴すら噴き出してこない。それどころか、なおも前足を振り上げて、爪で切り裂こうとしてきた。

 

「やっぱり、首落としただけじゃ、倒れてくれねえか……!」

 

 爪を鎌で払いのけながら、笠間は渋い顔になった。断面は、胴の色と全く同じで、中身の造りの雑さが露わになっている。

 

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!!」

 

 航希の振るうトンファーの目まぐるしい連打が熊を襲う。当たった部分は細かく欠けていくが、一撃で大きく砕くには至らず、出足を止めるのがやっとである。

 

(まいったねこりゃ!)

 

 仕方なく、航希は敵の武器である、手の爪や歯を重点的に狙うことにした。しかし、手は当然よく動く上に、爪を欠いてもパワーはやはり凄まじい。腕を振り回してくる時の迫力に、航希は冷や汗をかかされていた。

 そして愛理は。

 熊に詰め寄られて、前足の斬撃を受けそうになる。

 が、〈スィート・アンサンブル〉の能力で、敵の攻撃が当たるタイミングをずらし、ことごとくかわしていた。

 

(よく見ていると、攻撃も幾つかのパターンだけしかない。動きの軌跡も全く同じ……!) 

 

 笠間が、ようやく目の前の熊の足を両断して動きを完全に封じた。急いで愛理の方に向き直ると、全く危なげなく、むしろ熊を翻弄しているかのようなその動きに、目を見張った。

 

(おいおい! どうやら彼女を、過小評価してたみたいだな俺は)

 

 内心で苦笑しながら駆け寄り、愛理を襲う熊の頭部を、削ぎ落すように立ち割った。一撃で、片腕までも切り落としている。

 

「あーもう! クマ五郎とクマ蔵がかわいそー! ちゃんと倒されて!」

 

 崖の上からの幼い声に、笠間はそちらを見上げた。

 

「お前がこいつらのスタンド使いか! いきなり襲われて、かわいそうなのはこっちだ!」

「そーやって言い返すのナシ! クマ吉、がんばれー!」

 

 沙羅の声に応えるように、両腕を振り回して航希に迫る。しかし航希も、この頃には敵の攻撃パターンの少なさに気が付いてきていた。間合いを見切り、余裕をもって回避した。

 だが、足元のすぐ後ろにあった、木の根に踵が引っ掛かった。姿勢が崩れ、その場に尻もちをついてしまった。

 その機を逃さず、熊が前足を振り上げて、のしかかっていく。航希は、片手でトンファーを構えるのが精一杯だった。

 突然。

 航希の頭上に、人型のスタンドが出現した。

 固めた拳が、熊の頭部に激しくラッシュを叩き込んだ。航希への攻撃を一時中断し、たまらず後退する熊。

 三人が進んできていた森から、中年の男が飛び出してきていた。肩で激しく息をしている。

 警戒して身構える笠間を余所に、男は崖の上に叫び出した。

 

「やめなさい沙羅! スタンドをそういう風に使ったらアカン!」

「えー!? 何でお父はんが邪魔すんのー!? もう少しやったのにー!」

「そんなことしたら、相手が死んでしまうやろ! 殺しなさいって言われてるんか!?」

「えーと、忘れたー」

「忘れたらアカンやろ……」

 

 困り果てたように肩を落としたが、男は何とか言葉を続けた。

 

「とにかく、スタンド消しなさい!」

「アカーン。こいつら全員やっつけて、聖也様に褒めてもらうの!」

「スタンド消したら、お父はんが褒めてあげます! いー子いー子も、ハグもしてあげます!」

「お父はんはダメー! いー子いー子もハグも禁止! もーアッチ行って!」

 

 熊三匹が、バラバラになったパーツも含めて、まるで空気に溶け込むように、徐々にその姿を掻き消していった。

 男はそれを見て、血相を変えて笠間に呼びかけた。

 

「別の動物に組み替えるつもりや! 早く逃げんとまた攻撃される!」

「アンタ、確かこの島の管理人の藤松だな。何でアンタを信じないと」

「そんなこと言うてる暇はない! 後で説明するから早く!」

 

 男のスタンドが、半ば呆気に取られていた愛理の腕を引いた。彼女を引きずるように、スタンドを引き連れて、男が出てきた森へと全速力で駆け出す。男を追いかけて、笠間も走り出した。

 航希は〈サイレント・ゲイル〉をスケートボードの形に切り替えると、滑走を始めた。やや抑えめの加速で、あっという間に藤松に追いつく。

 

「ちょっとオジサン、どこまで行く気なわけ!?」

「その先に小屋がある! 中に入って扉を閉めれば、ひとまず沙羅も入ってはこれん!」

「だけどアンタだろ!? 未麗の家の扉を、この島に通じるようにしたのって」

「ワイは、奴らに操られてやっただけや! あの子も同じや!」

「操られて……?」

「小屋はすぐそこや!」

 

 藤松が指し示した先には、木で作られた小さな小屋。

 その扉に駆け寄り、藤松が扉を引き開けた。

 

「入るな!!」

 

 笠間が、大声で制止した。

 足を止めて、キッと睨む藤松。

 

「これが罠でないという保証がない。勢いに任せれば、俺たちが入ると思ったか?」

「それやったら、ワイの心の中を〈検索〉してみたらええやろ! 今ここで!」

 

 藤松の台詞というより、気迫に押されて、笠間も一瞬口を噤んだ。

 

「笠間よ。お前の能力は、ワイも知ってる。嘘ついても見破られるのは、百も承知や」

「……〈フェイス・オープン〉!」

 

 〈インディゴ・チャイルド〉を出した笠間は、顔が真っ白になった藤松に、キーワードを投げかけて〈検索〉した。

 顔に表示された内容を読むと笠間は、藤松を元に戻した。

 

「どうやら、ここまでアンタが言ったことに嘘はないらしいな」

「分かったら入ってくれ! 追いついてくる!」

 

 藤松に急かされ、笠間たち三人も小屋に飛び込んだ。藤松は、扉に白紙の札を張ってから閉めた。

 

「……ふ~! これでワイ以外の誰も、外側からこの扉は開けることはでけん」

「落ち着いたところで、話の続きを聞こうか。アンタらは操られてる、そう言ってたが」

 

 藤松は黙ったまま、ゴソゴソとスマホを取り出すと、画面を見せた。

 それを見た途端、笠間の顔色が変わった。

 

「〈肉の芽〉……!?」

「これは、息子の慎志のうなじに張り付いてたヤツや。俺は左手の甲やった。まず間違いなく、沙羅にも体のどっかにつけられてる」

「だが、〈肉の芽〉なら頭頂部に、針で刺さっているはずだ」

「そうや。原種なら針があるけど、コイツにはない。その代わり、張り付く面の縁に、小さい爪が6本ついとって、それで肌に食いつくんや。それと、蜘蛛みたいな背中から、短い管が出てるやろ? 原種にはこんなモンはない」

「……つまり、アンタはこれを、〈肉の芽〉の変種だと言うんだな?」

「ワイは間違いないと踏んでる。これが取り付いた人間は、宿主に強い忠誠心を持って、命令に従うようになるんや。〈肉の芽〉の特徴と、それは同じはずやろ?」

 

 そこに、おずおずと愛理が口を挟んできた。

 

「あの……。そもそも〈肉の芽〉とは何ですか?」

「……かつて英国に、呪いの石仮面を用いて、吸血鬼になった男がいた」

「吸血鬼……? あの! 神原先生のお父様が、そうだったと。今まで、信じられなかったというか、実感が湧かずにいましたけど」

「そうだ。神原の父親が、己の細胞を用いて作り出した代物だ。もっとも、その吸血鬼自体は、とうに滅びてるがな」

 

 その時、小屋の外から、大きな声が聞こえてきた。

 

「こらー! ここにおるんやろー! ワン小太郎がここにいるって言うてるでー! おとなしく出てこーい!」

 

 扉の下の方で、ゴンゴン小さな音がするのを聞きながら藤松は、

 

「沙羅が扉蹴っとるな。大方、犬を作って匂いを追わせたんやろ」

「ってことは、いろんな動物を作れるわけか」

「そうや。あの子の〈アニマル・フレンズ・フォレスト〉の能力や」

 

 それを聞いて、笠間の表情に緊張が走った。

 

「それって……何つーかヤバくねーか?」

「ああ。実体はナノマシンのスタンドが、ぎょうさん集まって組み合わさった代物や。タブレットに動物の動画をダウンロードしたら、その動物の姿を作れる。ダメージ与えてバラバラにしたっても、また組み直されるだけや」

「いや、そーいうことだけじゃなくってだな~……」

 

 頭を抱える笠間に、何かに気づいたらしく航希が言った。

 

「そういえばあの子、サザエボンとか書かれた、イラスト入りのTシャツ着てたよ」

「古着屋で買うたんや。あの子のお気に入りやねん」

「今は、そんなことはどーでもいいんだよ。その、何とかいうスタンドの能力だ」

 

 先を促されて、藤松は続けた。 

 

「パワーやスピード、重量はもちろん、五感も本物の動物と同等にできるんや。数も、人間サイズなら3体まで作れる。動きは、あの子が大まかな指示を出せば、動画を参考にしてセミオートで行動しよる」

「道理で、複雑な動作になるとワンパターンの」

 

 ドンッ!!

 今までにはなかった大きな音と共に、小屋そのものが大きく揺れた。

 すぐにまた、同じような音と振動がする。

 

「マズイ! 多分、象とかサイを作りおったんや。こんな古い小屋、長くはもたんぞ!」

 

 愛理がその時、口を開いた。

 

「その〈肉の芽〉を引き剥がせば、沙羅ちゃんは操作されなくなるんですね?」

「そうや。頼む、沙羅を元に戻してくれ! ワイの能力では、あの子の戦闘力にとても太刀打ちできんのや。ワイの望みは、家族全員で平和に暮らしていくことだけや。それが叶うようなら……アンタらの帰り道も確保するし、できるだけの支援もするから!」

「分かりました。……笠間さん、〈クリスタル・チャイルド〉で、あたしたちの誰かと、沙羅ちゃんを入れ替えできませんか? それならリスクは少ないかと」

 

 しかし、笠間は首を横に振った。

 

「俺の〈置換〉は、体積が違いすぎると入れ替えは無理だ。あの子はまだ体が小さすぎるし、ここにいる誰も、釣り合う体格の人間がいない」

「そうですか。では、こういうのはどうでしょう?」

 

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