城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第41話 立向島探検記〈3〉 後編

「う~ん、もうちょっとかな? 行くぞーパオの助!」

 

 沙羅が、象の背中の上で、ピッと小屋を指さした。

 象が頭をやや屈めて、再度突進をしようとした時。

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 沙羅は、扉が開かれるのを見て止めた。

 中から出てきたのは、航希である。

 

「やっと降参かー。ウチの力、思い知ったか!」

「っていうかさ、押しくら饅頭ばっかじゃ、そろそろ飽きたんじゃない? 別の遊びしようか」

「? 遊びって何」

「そうだな~、鬼ゴッコなんてどう?オレが鬼さんやるから、沙羅ちゃん捕まえてみなよ」

「鬼ゴッコ……馬鹿にするなー! もう幼稚園は出たんやからー!」

「それじゃ逃げろ逃げろー」

 

 ニコニコ笑いながら、航希は島の奥へと向かって走り出した。沙羅が象に命じて、自分の後を追わせるのを確認すると、〈サイレント・ゲイル〉での移動に切り替える。

 この時、沙羅は気づかなかった。小屋の裏側に〈クリスタル・チャイルド〉で穴を開けて、他の三人はすでに脱出していたことを。

 航希は、あえて〈サイレント・ゲイル〉のスピードを落として、象が追ってこれるようにしていた。

 道は、途中でいったん分かれ道となった。航希は、右に入っていく。

 

「やった! そっちは行き止まりやで~。追い詰めた~」

 

 小さな声で、沙羅はそう口にした。

 その道をしばらく進むと、航希は小さな広場に出た。岩や大木に囲まれ、〈サイレント・ゲイル〉に乗ったままではそこを超えられない。入ってきた所以外、出られる道はない。

 

「捕まえたで~!」

 

 広場の入口に、象が押しかけてきた。

 

「あれ~? まいったな~。だけどまだ、捕まってないもんね」

 

 そう言いつつも、航希は口ほど余裕があるわけでもなかった。

 

(聞いてはいたけど、やっぱり狭い。だけど、ここで時間稼がないとダメだしな。かと言って、オレがここで叩きのめされると、この先のプランが台無しになる)

 

「蹴散らせパオの助~!」

 

 元気よい沙羅の掛け声と共に、象が巨体を揺らしながら、航希に突進してきた。

 航希は、ステップを踏んで横に大きく逸れる。駆け抜けた象は、広場の隅にある大岩に激突した。ガツッ! と激しい音がして、岩の小さな出っ張りが砕けて、破片が飛び散った。

 象が、足を踏み変えながら、航希に向き直ってくる。大岩にぶつかったところは、少しだけ削れていた。

 そのパワーと頑丈さを目の当たりにして、攻撃をまともに食らえばただでは済まないことを、航希は悟らずにはいられなかった。

 

「お鼻いけー!」

 

 長い鼻が滑らかな動きで持ち上げられ、棍棒のように叩きつけられた。右上から斜めに、それを躱されると、すかさず左上に鼻を巻き上げて、また斜めに打ち込んでくる。動きそのものはややスローではあるが、そのリーチの長さと、武器自体の太さは、間近で見ると充分脅威だった。

 航希は、象の真正面を避けるべく、横へ横へと回り込むようにした。そのフットワークに、今度は巨体が災いして、なかなか正面に航希を捉えきれない。

 

「臨兵闘者、皆陣列在前ッ!!」

 

 間合いを詰めて、後ろ足にトンファーの連打を叩き込んだ。ダメージを与えるのが目的ではなく、ただの挑発のつもりだ。ひとしきり打ち込んで、すぐに下がる。案の定、少しは削れたが、象の動きにはほとんど変わりがない。

 

「やったな~! だったらこうだッ!」

 

 象が、今までとは逆に体を回してきた。予想と違う動きに、航希がギョッとした瞬間、細長い尻尾がムチのように飛んできた。どうにかトンファーで直撃は避けたが、想像以上の強い打撃に、思わず数歩下がってしまう。

 

(別に口に出さなくても、操作できるのかよ! とにかく、真後ろも安全じゃないぞこりゃ!)

 

 航希は間合いを保ったまま、象の真横に移動した。

 その時、象の鼻が、広場の隅を塞いでいた大木、そこから伸びていた枝を横殴りでヘシ折った。一握りもある太さの大きな枝が、航希に向かって飛んだ。枝から分かれて伸びている、さらに細く伸びた枝が、トンファーのガードをくぐって航希の肩口に直撃した。鈍い痛みを堪える航希。

 さらに、幾つも枝分かれした大きな枝は、飛んできたそのままの勢いで、航希を正面から押さえ込んできた。航希は広がっている枝を払いのけようとするが、腰の左辺りに大きめの枝が一本引っかかっている。

 

「く……!」

「もろたッ!」

 

 象が向き直ってくると、突撃してきた。枝もろとも、航希を叩き潰そうとしているのは明白だった。

 

(そうはいくかよッ! 一か八か!)

 

 航希は、トンファーを消すと、足元にボードを出現させた。

 高速モードで左横に移動しようとするのと同時に、邪魔になっている枝を、体重をかけて両腕で一気に押し込んだ。甲高い音と共に枝が折れ、前のめりになった航希の体が横移動する。枝の折れた所の先端が、航希の右の太ももを抉った。丈夫な生地のズボンは破けはしなかったものの、小さくはない痛みを感じ、航希は呻いた。

 脱出した後の枝に、象が突っ込んだ。バキバキッ! と音がして、決して細くもない枝が折られ、踏み潰されていく。もし先ほど、邪魔な枝を折れなかったら、自分がそうなっていたことは容易に想像できた。

 

(ここまでみたいだな。後は、三人がうまくやってくれてれば)

 

 航希は、広場の入口に移動した。そこで動きを止めて、象の背に乗った沙羅に向き直る。

 

「ざーんねん! そう簡単に捕まらないもんねー! そんじゃバイバーイ」

「あっ待てー! まだ逃げるのかー!」

 

 元来た道を、〈サイレント・ゲイル〉で引き返していく。象が追ってくるのを見ながら、そっと航希は痛む肩を押さえた。

 

(足もダメージをもらっちゃってるし。ちょっと甘く見すぎたな。こうなると、遥音が同行してないのはやっぱり痛い。島のどこかで合流できればいいんだけど)

 

 そこからは、象の追跡に合わせてスピードを調整しながら進んで行く。あまり引き離してしまうと、沙羅が別のもっと速い動物にスタンドを組み替えてくる可能性があった。そうなると、手筈が完全に水の泡になってしまう。

 熊と戦った広場も抜け、森を進んで行く。やがて、海が見える所まで来た。

 

「あれ~どっち行こうかな? こっち行こうっと!」

 

 分かれ道でワザと迷ったふりをして、港へと向かう道を進んだことを強調してみせる。象も、そこで航希の逃げる方向に曲がってきた。

 少し進むと、先ほどあった、廃墟となった民家の前。

 そこで、航希は〈サイレント・ゲイル〉を止めた。

 

「えっ!? 港のところで行き止まり!? ここから先に行けないの!?」

「もう逃げ場はないぞー! オニ捕まえたー!」

 

 喜色満面で、沙羅が象を走らせている。

 航希は左右をキョロキョロして見せると、道を走って逃げ出した。

 が。

 道の途中に、来た時にはなかったロープが、横切るように落ちていた。航希は、それをわざと足で引っかけてつんのめり、海側の草むらに倒れる。もう崖のすぐ側であり、下には海が見える。

 沙羅は勝利を確信し、笑みを浮かべて距離を詰めた。

 航希は這いずりながらも、足に絡んでいだロープをどうにか外して見せた。

 だが、すでに象はもうあと数歩というところまで、迫っていた。

 

「踏んづけちゃる!」

 

 象が、座り込んだ姿勢の航希に、片足を振り上げて襲い掛かろうとした。

 

(ここで動く! 愛理ちゃん、サポートよろしく!)

 

 航希は、真後ろに一回転した。体が、崖から飛び出して、下へと落ちる。

 その手にしたロープは、すぐ近くにあった大木に結び付けられていた。航希は、手にしたままのロープに体を預け、振り子のように、落ちた場所から横にずれてぶら下がった。

 航希が落ちたとほぼ同時に、笠間が崖から顔を覗かせた。位置は、航希が落ちた所から見て、大木の反対側。崖の下に立てかけられた脚立で、ギリギリ道から見えない高さまで登り、待ち構えていたのだ。

 

(さすが笠間さん。あたしが調整しなくても、問題ない絶妙なタイミング……!)

 

 港に立つ愛理は、〈スィート・アンサンブル〉を出した状態で、その様子を見守っていた。

 

「よし届くぜ!」

 

 〈クリスタル・チャイルド〉が、象が踏ん張っている方の前足を、一撃で両断した。ガクン、と象の巨体が傾き、踏み込んでいった足で懸命に支えようとする。

 が。

 思い切り踏み込んだ場所の地面が、大きく崩れた。土が跳ね飛び、草と共に崖下に落ちる。象の足が、崖下へと滑った。

 あらかじめ、その場所は笠間が崩していた。崖を支える石垣の、その部分の石は砕かれ、取り除かれていた。代わりに草をふんわりと詰めておき、上から目立たないように土をかぶせていた。踏み込ませる場所が航希にも分かるように、ロープの先でさりげなく目印としてあった。

 航希が沙羅を引き付けていたのは、これらの工作を笠間たちが行うための、時間稼ぎだった。

 

(象の動きは封じた! 姿勢も低くなったし、ここからなら〈クリスタル・チャイルド〉であの子を確保できる!)

 

 だが、笠間の思うように運んだのは、ここまでだった。

 象の体が、完全にバランスを失い、崖からズリ落ちていく。沙羅は、何も固定されていない状態で象に乗っていたため、傾く背中から転げ落ちた。そのまま、崖下へと墜落していく。

 笠間は、〈クリスタル・チャイルド〉の手を思い切り伸ばした。しかし届かない。

 

(ダメだ! この下は岩だらけ……!)

 

 笠間が蒼白となった、その時。

 シュルシュル……!

 ルアーがついた糸が、崖の上から繰り出された。

 瞬時に、沙羅の体に糸が巻き付き、空中に浮いた状態で、落下を食い止めた。

 象がついに崖から落下して、水際の岩に叩きつけられた。体が大きく砕け、バラバラになる。

 沙羅は、崖の上を見上げて、大きく声を上げた。

 

「慎志ー!」

「お兄ちゃんって呼ばんかい。呼び捨てにすんなって、いつも言うてるやろ」

 

 まだ遥音にやられた麻痺が残っているらしく、多少フラフラしながらも、慎志は笑って見せた。

 崖の上では、〈フィッシャーマンズ・ワーフ〉が、竿を立てようとしながらリールを巻き上げようとしていた。

 

「お父はん! この外道が重いわー! 引き上げるの手伝って!」

「おう任せとけ!」

 

 〈ミッシング・ゲイト〉も竿を立てるのに協力し、沙羅がジリジリと引き上げられていく。

 

「ウチは外道じゃない! ちゃんとした本命!」

「いやそうは思いたくないな~」

 

 沙羅と慎志がそんな会話をしているうちに、〈ミッシング・ゲイト〉が沙羅を崖の上まで引っ張り上げた。

 

「……あった!」

 

 沙羅の体をまさぐっていたスタンドが、膝上に張り付いていた〈肉の芽〉を引き剥がした。掌に乗せると、もう片方の手を強く叩きつける。外殻が壊され、日の光に当たった中身が、溶けて消えていった。

 

「どうやら、その子も正気に戻せそうだねえ」

「まあ、良かったんじゃない? そんで、他は全員無事なわけ?」

 

 慎志たちが出てきた廃墟から、さらに出てきた二人を見て、航希は目を大きく見開いた。

 

「遥音! それから、えと、ユリちゃんまで来てたんだ?」

「まあね。いろいろあって、藤松さんに匿われてたの。とりあえずは、アンタたちとご一緒するからよろしく」

 

 ユリは悪びれずに微笑み、遥音はそれを目の当たりにして、仕方なさそうに苦笑している。そんな二人を、笠間はもの言いたげにジッと見ていた。

 

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