城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第42話 門前の攻防戦 前編

 笠間たちは、小屋の一つに身を潜めていた。藤松があらかじめ用意していた場所で、比較的別荘に近いところにある。

 航希が床に座り込んで、印を結んでいた。〈サイレント・ゲイル〉ミニマムモードを別荘まで送り込んで、偵察をしていたのだ。他の面々は、それを車座になって取り囲んでいる。その中には、先ほどまで笠間に小言や嫌味をブチ込まれていた、遥音とユリの姿もあった。

 航希が目を開けるやいなや、笠間は問いかけた。

 

「どうだった?」

「別荘の柵越しに、グルリと見てきたよ。危険だから、柵の中までは入らなかったけど」

「というと、見るからに危険だったってことか」

「そりゃね。だって、人の身長の何倍もある馬鹿デカイ植物が、ウネウネ蠢いてるんだもんな。なっがいツルしたゴーヤとか、巨大な種入りのサヤとか、明らかに侵入者を殺しにかかってるみたいな」

 

 それを聞いて、藤松は頭を抱えた。

 

「ワイのカミさんの、修子のスタンドや……。〈イングリッシュ・ガーデン〉は、植物と一緒に植えて育てると、その植物を強化できるねん。夕方に植えたら、翌朝日の出には発芽。昼までには大きく育ちよる。普段は一日に2、3体やけど、調子が良かったら10体とか一度に育てることができる。強化した分、寿命も短くて、3日ももてばええくらいやけど」

「戦闘能力は?」

「強化の仕方にもよるけど、殺傷能力高めにもできる。普段は、薬草の効果を上げるとか、美味い実をたくさんつけるとか、そういう使い方なんやけど。実のところ、修子のスタンドが一番、ウチの家族の中では強力や。それからな」

 

 藤松は、笠間たち5人を見回した。

 

「本体の修子を倒せば、とか考えるやろうけど。〈イングリッシュ・ガーデン〉は遠隔自動操縦型のスタンドや。植物に取り付いた一体一体のスタンドに自我があって、自分の判断で動く。修子が側におれば、アイツの命令は一応聞きよるけど」

「言いたいことは分かった。アンタの奥さんを倒しても、そいつらは勝手に行動するから、あんまり意味がないって言いたいんだろう?」

「そうやねん。さらに言うけど、カミさんに手を出したら、もうワイはあんたらに協力せぇへんで。慎志と沙羅にとっても、大事な母親や。何と言うても、アイツも〈肉の芽〉に操られてるだけやし」

「……心に留めておく」

 

 笠間の返答に、藤松は頷いて、

 

「別荘には、ワイもついていく。修子を正気に戻すんは、ワイが何とかやってみる」

「……うまくいく成算があるのか? 危険なのは分かってるだろう」

「正直、手立てが思いついとるわけやない。せやけど、ワイがやらんかったら、アイツの亭主として立つ瀬がないわいな。隙を狙って仕掛けるまでや」

「アンタを庇ってる余裕は、俺たちにもないと思ってくれ。こっちも必死なんだ」

「分かっとる。こちらも、修子のことで手一杯や。アイツを回収したら、ワイは撤収する。後始末は任せるで」

 

 そう言いつつも、藤松は先ほど、慎志に耳打ちしておいた言葉を思い返していた。

 

(ワイと修子が日没までに戻らんかったら、ゲートを用意してあるから、沙羅を連れてこの島を脱出せいと伝えてある。頼んだで、慎志。最後に沙羅を守ってやれるんは、お前しかおらんのや……)

 

 

 

 

 

 一行は、小屋を出て進行を始めた。

 道は、やや広くなっていたため、2人ずつ横並びで隊列を組んだ。航希と笠間が先頭、ユリと愛理、遥音と藤松の順で進んで行く。

 笠間が、航希に尋ねた。

 

「この先で、二股に道が別れてるんだな? 神原たちが無事なら、そこに来るはずだそうだが」

「うん。確かに、他の道と合流してた。その先までは行ってないけど」

「まずはそれでいい。そこまで無事に着いたら、予定通り神原たちの方へ向かう。上手く合流できれば、全員で連れ立って別荘に行けるからな。それで、ここから別荘までは、何もなかったんだな?」

「オレが通った時には、待ち伏せも仕掛けもなさそうだった。ここから別荘までは、そんなに離れてない」

「単に見逃されただけかもしれん。ミニマムモードは小さすぎるしな。全員、警戒は怠るなよ」

 

 言われるまでもなく、敵の本拠地が近づいているという緊張感が、全員を満たしていた。

 が、それでも結果としては、足りなかった。

 異変に気付いたのは、鋭敏な五感を持つ、航希だけだった。

 耳が、微かに捉えた違和感。

 

「みんな、来るぞ! 左からだッ!!」

 

 航希が身構えようとした時には、すでにそれは、森の中ではありえない猛烈な速度で迫っていた。

 

(ジェットコースター!?)

 

 そう認識した時には、航希は本能的に身を翻し、地面に転がっていた。

 遊園地で見かけるようなジェットコースターが、進行方向に線路を作りながら、森の木がまるで幻であるかのようにすり抜けて、轟音と共に突っ込んできた。間一髪で航希はどうにか避けていた。

 航希が慌てて身を起こすと、ジェットコースターはそのまま、森を走り去っていく。改めて見ると、その車体が走り抜ける周囲だけが、まるでトンネルのように空洞となっていた。走り去った後には、線路も残っておらず、空洞も消滅して木々が元に戻り、去っていく車体が見えなくなっていく。

 ハッと気づいた航希は、周囲を見回して、他の者たちの姿を探した。

 

(誰もいない……!? あの様子だと、オレ以外全員跳ね飛ばされてるはず。だ、だけど……考えたくはないけど、跳ねられたならそこらに転がってるはずの身体が、誰の分もない。どうなってるんだ?)

 

 航希はどうするべきか少し考えたが、すぐにスケートボードを出して、山道を疾走し始めた。

 

(ジェットコースターの後を追いたいところだけど、道から外れればボードでの移動はさすがに無理だ。とにかく、先に進んでみよう。希望的観測だけど、もしオレの勘が間違っていなかったら……)

 

 

 

 

 

 航希の直感は、当たっていた。

 笠間たち5人は、ジェットコースターに跳ねられたと思った瞬間に、いつの間にか座席に座らされていた。横に2人掛けの座席に、先ほどの隊列通りの配置。ガッチリと安全バーらしきもので体が固定されていて、身動きが取れない。

 木々の間を高速で抜けていく車体の中で、半ば呆然と、5人は振動に揺らされていた。

 

『本日ハ、〈ドドドン・パッ〉ニヨウコソ! すりる満点、えきさいてぃんぐ・ましーんヲ、ドーゾオ楽シミクダサイ』

 

 最後尾の座席で、木彫りの簡素なピノキオ人形を思わせる、スタンドらしき代物が、角型のマイク片手に喋るのが聞こえてきた。

 

「楽しめるわけねーだろッ! フザけンな! 止めろよコラ!!」

「え~! 私、ジェットコースター超大好きなんだけど~!」

 

 遥音とユリの大声が、轟音に紛れてかろうじて聞こえる。

 

『乗客ノ皆様ノ安全確保ノタメ、途中停止ハデキマセン。停車スルマデ、れっつ・えんじょい!』

「エンジョイできねーつーンだよッ! どこで停車する……え?」

 

 〈ドドドン・パッ〉の車体が、急にゆっくりとなってきた。だが、周囲は多少森が開けてはいるものの、何もない。

 車体が、じわ、じわと坂道をあがるように、高度を上げて行く。しかも、どんどん傾斜がきつくなっていく。

 

「おいまさか……」

 

 笠間は、嫌な予感がした。

 坂を登り切ったかのように、車体が水平になっていった。怖ろしくゆっくりと進む。

 車体の先端が、徐々に下を向き始めた。

 そして、全員の視界が、完全に下に向けられた。車体は斜め下というより、真下に近い方向まで傾いており、そこで完全に動きが止まった。その先には線路がないため、下が丸見えだ。

 

「笠間さん……。この高さで下に叩きつけられたら、あたしたち……」

「これはジェットコースターだ。乗客の安全がどうとか、さっき言っていた」

 

 愛理の怯えた声に、笠間は返答したが、

 

(叩きつけられるどころか、単純に落とされただけでも、充分死ねる高さだ! スタンドをここで解除されたら一巻の終わりだ。この中に、対処できそうなヤツはいない。やられた、のか……?)

 

 笠間が、半ば絶望しかけた時。

 ジェットコースターが、急角度かつ高速で見えない坂を下り始めた。

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

 愛理の悲鳴、ユリの歓喜の声が響き渡る。

 地面スレスレで坂を下り切った車体は、水平に車体を戻して、なおも進む。右に左に揺さぶられ、時に縦ループを繰り返し、乗客を飽きさせまいという動きを惜しまない。

 縦ループの時、笠間は眼下のやや離れたところにある、別荘の全景を垣間見た。洋館の前にはかなり広い庭があり、裏手から少し離れたところは崖となっており、海が広がっている。別荘から見れば、絶好のオーシャンビューであるはずだった。

 

(服部の言うとおり、化け物植物がウヨウヨだ。人らしきものも1人……いや2人いる。別荘の裏側は、建物の際までびっしりと竹林になってるな。ありえない密度で、人が横にすり抜けるのも難しいと言ってたが。間違いなく〈イングリッシュ・ガーデン〉の仕業だ。裏からの侵入はさせないということか)

 

 水平になった車体の速度が、下がりつつあった。その先には、別荘の庭に通じる正門が見えていた。

 正門に近づいていく途中で笠間は、何度も感じたことのある感覚に、唐突に襲われた。

 

(これは……〈消滅する時間〉だ! だが、なぜだ? 俺たちは全員スタンド使いだし、未麗の護衛どもも、間違いなくそうだろう。スタンド使いでない人間の時間だけが、1時間消滅する能力を、このタイミングで使う理由がどこにある? 敵味方、どちらにも意味がないはずなのに……)

 

 他の面々も、緩やかに進んで行くジェットコースターの中で、同じことを不思議がっていた。

 そして、ジェットコースターは、正門の前で完全に停止した。

 安全バーが上がり、身体の自由を取り戻した笠間たちに、ピノキオもどきのアナウンスが入った。

 

『ゴ乗車、マコトニ有難ウゴザイマシタ。マタノ……』

「みんな飛び降りろ!! 息止めてだ! 〈エアー・サプライ〉の格好の的だッ!!」

 

 笠間の叫びに、ハッと我に返った一同は、大慌てで〈ドドドン・パッ〉から飛び降りた。車体は、再び走り去っていき、すぐに消え失せた。

 その様子を、正門から少し離れたところにある、透明なガラス板に囲まれた温室の中で、舌打ちしていたのは平竹だった。

 

「シット! 笠間までいるとは! 裏切ったか」

 

 平竹の作戦では、予期せず〈ドドドン・パッ〉に乗せられて、解放されても訳が分からず呆然としている者たちを、自分の能力で一人一人無力化するはずだったのだ。降りた者たちが先への侵入を試みても、護衛代わりの〈イングリッシュ・ガーデン〉の集団で足止めできる。庭から逃げた者がいても、〈ドドドン・パッ〉の軌道上に入れば、また正門に戻される。

 平竹の能力を知っている笠間がいて、先読みされることさえなければ、充分に有効な作戦のはずだった。

 

「そう仕向けたのは、アンタの所業だろう? ここからの不意打ちも見破られるし」

「シャラップ! まだここを見破られたわけではない」

 

 傍らで〈フィッシュ・ダイヴ〉を出していたのは、元は城南学園の教師だった、榮倉だった。それに言い返しつつも、平竹は内心でさらに舌打ちしていた。

 

(あの〈ドドドン・パッ〉が、もっとフレキシビリティなスタンドならば。あれはピュアにジェットコースターをエンジョイする遠隔自動操縦型のスタンドで、一度コースを設定するとチェンジできないし、客が乗っていると解除できない。攻撃力もナッシングだし、せいぜい人間のトランスポートにしか使えない。まあ、おかげでモースト・インポータント・ミッションはイージー・クリアできたが……)

 

「おい笠間がこっちに来るぞ!」

 

 言われるまでもなく、温室目掛けて駆けてくる笠間の姿は見えていた。

 が、近くに植わっているタネツケバナのサヤが弾け、種が幾つも、笠間の行く先の土に叩きつけられた。忌々しそうに、後退する笠間。他の4人も、巨大植物の蔓や種飛ばしを警戒して、あまり動けない。

 

「完全にこの隠れ場所を見切ってるじゃないか! そりゃ、アンタが隠れて入口辺りを狙うなら、ここしかないからな! 僕が目隠ししてる意味ないぞ」

「大きな声を出すな! ヤツも確証があるとは」

 

 言い終わる前に、背後でガラスの割れる音が聞こえてきた。

 ギョっとして振り返ると、温室のガラス板を割ったところから、トンファーを手にした航希が入ろうとしていた。

 

「横からだと丸見えだよ? 柵の側にしつらえた温室だし」

「榮倉、私を守りなさい! レッツ・ゴー!」

「勝手なことばっかり言うなよ、平竹さん!」

 

 その名前に、航希の顔色がザッと変わった。

 

「……平竹だって? その名前、聞いてるぞ。操を拉致ったってのはお前か」

「服部! 久しぶりだが、お前が僕に勝てるとでも」

「アンタは引っ込んでろよッ!!」

 

 航希のトンファーは、榮倉の〈フィッシュ・ダイヴ〉のガラスの剣をあっさり叩き折った。

 一方で笠間は、正門前で適当に身動きしながら、中央にある噴水から、こちらに歩み寄ってくる狼男のフレミングを見据えて、〈インディゴ・チャルド〉の大鎌を構えていた。

 

(ここで出してくるか。別荘の中だと踏んでたが。となると、別の切り札が中にあるということか?)

 

「アタシがやるよッ! 〈ブラスト・ヴォイス〉ッ!!」

 

 笠間の背後から顔を覗かせた遥音が、フレミングに音撃を叩き込んだ。

 一瞬、フレミングは身を震わせたが、何事もなかったように、また足を進ませていく。

 

「こんなヤワい攻撃で、俺が止められると思うのか? ナメられたものだ」

「やっぱり効かないか。狼野郎!」

 

 遥音が顔をしかめる。

 温室の扉が急に開かれ、中から平竹と、ボコボコにされた榮倉が、転がるように飛びだしてきた。

 それを見かけたユリは、

 

(榮倉のヤツじゃん! 平竹についてたんだ。私を恨んでるだろうし、見つからなくってラッキ~)

 

 温室の中からさらに、航希がトンファーを手に出てくる。

 

「毒ガスでも何でも出して来いよ。オレのトンファーは、5秒の間に10発は軽くブチ込めるからな……!」

 

 いつになく、殺気にあふれる航希の声。

 航希と笠間に挟まれる位置で、〈エアー・サプライ〉は出したもののオロオロしている平竹と、そもそも戦闘不能に陥っている榮倉。

 側に生えていたゴーヤの蔓が伸びてきて、二人を捉えようとしてきた。

 平竹は慌てて、榮倉の体をゴーヤへと押し付ける。榮倉の足に蔓が巻き付き、空中高く引き上げていった。

 航希にも蔓が伸びてきたが、そちらにロクに目もくれずに、トンファーだけが鋭く回転。短い音と共に蔓の先端が千切れ飛び、それから蔓は航希には伸びようとしなかった。タネツケバナの種も飛ぶが、やはりトンファーに弾かれる。

 平竹は、スタスタ迫ってくる航希に、顔を引きつらせた。

 

「チャンスやるよ。お互い、せーの、で打ち合おうか」

 

 座った眼で見据える航希に、慌ててスタンドを向かわせる。

 

「〈エ〉……」

「せぇのッ!」

 

 早口の合図と共に、トンファーの突きが、スタンドの顔面に食い込んだ。先に動いたはずの〈エアー・サプライ〉の拳は、全く間に合わなかった。のけぞって倒れそうになる平竹。

 

「臨兵闘者、皆陣列在前! 臨兵闘者! 皆陣列在前ッ!!」

 

 目にも止まらぬトンファーの連打が、身構えきれない〈エアー・サプライ〉の全身をメッタ打ちにした。

 叩き伏せられた平竹の身体が、笠間の足元まで転がってきた。

 笠間はそれをチラリと見下ろし、大鎌の柄を、平竹の鳩尾に叩き込んだ。蛙が潰れるような声を立てて、平竹は卒倒した。

 

「こんな雑魚にもう構うな! ヤツの方が」

 

 笠間が言い終わる前に、フレミングが至近距離からダッシュを仕掛けてきた。

 

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