城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第43話 門前の攻防戦 後編

(来るか狼野郎!)

 

 笠間は、上着に仕込んでいたボールを2個取り出した。1個はスタンドで、もう1個は自分の手でフレミングの顔目掛けて投げつけた。

 フレミングは、片方は避けたが、もう1個は左の掌で受け止めた。

 

「む!?」

 

 粘る手応えに、フレミングは掌をチラッと見た。ボールが弾けてトリモチが飛び出し、掌に開いている、弾丸の発射口を塞いでいた。

 

(片手の弾丸は封じたか。お次はこれだ!)

 

 今度は取り出したグラップル銃を、フレミングに向けて撃った。銃といっても、手のひらサイズの角型の道具で、中央のボタンを押すと発射される仕組みだ。

 細いケブラー製のコードが、フレミングの両足に絡みついた。さすがに瞬時には切れずに、フレミングがよろめく。

 その隙を狙って、大鎌が上段から、フレミングのうなじを狙って打ち込まれた。

 だが、フレミングの肩パッドが浮き上がると、大鎌の切っ先を弾く。二撃、三撃と追撃するが、いずれもその身体には届かなかった。

 しかし、四撃目。

 

「〈スィート・アンサンブル〉!」

 

 愛理の能力が、肩パッドのガードのタイミングをずらした。大鎌の切っ先が、フレミングの首筋に突き刺さろうとする。

 が、フレミングはギリギリでそれをかわした。大きく開いた口が、ガチッ! と大鎌の刃に噛みつき、その動きを止めた。

 ジロリ、とフレミングが笠間を睨む。その手が、足のコードを引きちぎろうとしていた。

 笠間は足元の平竹の髪を引っ掴むと、グイと引き起こした。

 

「〈フェイス・オープン〉! キーワードは『フレミング、命令者』! 表示後は音読!」

 

 真っ白になった平竹の顔に、文章が浮かび上がった。平竹の声で、その内容が読まれていく。

 

『命令者は、亜貴恵に見せかけた未麗である。本物の亜貴恵は、別荘に監禁してある。フレミングには、命令時には常にガラス越しに対面させていた。ガラスには榮倉の〈フィッシュ・ダイヴ〉のスタンドで、未麗の姿が亜貴恵に見えるように、映像を出していた。匂いでバレるといけないので、自分の〈エアー・サプライ〉で亜貴恵の匂いを作って嗅がせていた。たまにしか会わせないので、それで充分だった』

 

 フレミングは、じっとそれを聞きながらも、大鎌は口から離さなかった。

 文章が終わるや、航希がトンファーを手に、フレミングに躍りかかった。

 口の大鎌を放すと、一歩後退するフレミング。すかさず踏み込む航希。

 

「ノバッ!」

 

 トンファーの打撃を腕でガードすると、鋭い掌底が航希の脇腹に叩き込まれた。たまらず、花壇の中まで吹っ飛ばされる航希の身体。

 

「う、ぐ……」

 

 脇腹の激痛に呻く航希に、手負いとみたクズの蔓が迫る。

 

「痛がってる場合じゃねーよッ!」

 

 遥音は危険を覚悟で踏み込み、コードを航希に絡めて、無理やり引き寄せた。すんでのところで、蔓から逃れる航希。すぐさま、ユリが〈エロティクス〉を脇腹に張り付けて治癒を始めた。

 

「おいフレミングよ。聞いただろ? お前、未麗に騙されてるぞ」

「知っていたのか、笠間」

「薄々な。お前の本当の飼い主は、あの別荘の中だ。行かなくていいのか?」

「もちろん行く。ただし、貴様らを全滅させてからな!」

 

 心理的な揺さぶりもそこまで効かないか、と笠間は内心舌打ちした。

 その時、噴水の裏側から、女性の声がした。

 

「なるべく殺したらアカンって言われてるやん! 聖也様のご命令よ」

「知ったことか。俺の主人は亜貴恵様だ」

 

 ブチブチッ! と、フレミングは力任せにコードを引きちぎった。

 笠間とフレミングは、互いに間合いを詰めていった。

 

「修子!」

 

 入口近くにいた藤松が、噴水へと叫んだ。

 

「コッチに戻って来い! 慎志も沙羅も、ワイのところにおる!」

「自分でこちらに来たらええやん? 偉っそうに来いとか。今からでも聖也様にお詫びしてきぃな」

 

 修子は、冷ややかに応じるだけ。

 

「それはお断りや。一家全員で、奴隷になるつもりはあらへんからな!」

 

 藤松は、駆けだした。

 先ほど、航希が出てきた温室へと。

 

「タネツケバナ! 旦那の足を止めて」

 

 修子の指示に、サヤが方向を変える。

 先行した〈ミッシング・ゲイト〉が、温室の扉を閉めた。すかさず札を扉に張り付ける。藤松本人も、扉にあと数歩までのところに迫る。

 扉を開けさせまいと、種が飛んだ。すぐ目の前で弾丸のような種が掠め、藤松は踵を返して駆け戻っていく。そのすぐ後ろを、追い立てるように種が打ち込まれた。ギリギリで逃げ切り、遥音たちの所まで戻ってきた。追い撃ちする種は、〈エロティクス〉が、航希の治療をしながら食い止める。

 遥音が、側に来た藤松を睨んだ。

 

「何やってンだよ! ヤバいからって、逃げるつもりか!?」

「……第一段階は、成功や」

 

 小声で、冷静に述べる藤松に、え? という顔の遥音。

 

「一発でええ。隙を見て、狼男にさっきのヤツ撃てるか? 笠間を巻き込まんように」

「タイミングと角度が難しいけど、やれないことはないよ。どうする気?」

「一か八かや。失敗しても、ワイのことは助けんでええから」

 

 じっと、噴水を見据える藤松。その手前では、笠間が出し直した〈クリスタル・チャイルド〉とフレミングが、間合いを図りながらも小刻みに攻撃を仕掛けている。

 

「タイミングは、あたしが計ります。最適な角度も指定できます」

 

 愛理も援護するつもりになった。

 藤松が、後方にいる面々の、一番前ににじり出た。愛理は、笠間とフレミングの動きを見ながら、チャンスを待ち構える。

 

「……遥音さん。合図をしたら、そこから前に1歩、右斜めに2歩出て、仕掛けてください。種が来るでしょうから、すぐに下がってください。ユリさんにガードしてもらいます」

 

 全員が、半信半疑ながらも小さく頷いた。

 〈クリスタル・チャイルド〉の鎌が、フレミングに斬りつけた。それを、左にステップして回避するフレミング。

 

「今ですッ!」

 

 愛理が声をかけ、遥音が動いた。指定通りの位置で、方向は自分で定める。

 

「〈ブラスト・ヴォイス〉ッ!!」

 

 衝撃波が、フレミングを襲った。一瞬、その動きが止まる。

 それと同時に、藤松がダッシュした。中央の噴水へと伸びる通路を。フレミングは対応しきれない。

 

「私を捕まえる気!?」

 

 修子は、噴水の周りに沿って動き、それを盾に藤松に捕まらないようにした。

 が、藤松はそれに目もくれずに、噴水の脇を駆け抜けていく。

 

「どういうこと!?」

「こういうことや!」

 

 藤松は、別荘の玄関の扉に駆け寄り、それを背にした。

 

「この中に、聖也がおるんやろ!? 元凶を断てば、お前も元に戻る!」

「なっ……!」

 

 絶句する修子。

 フレミングは玄関をチラリと見たが、大鎌の攻撃を無視もできずに、駆けつけることもできない。

 

「聖也様はやらせへんよ! 私が、お守りするんやから!」

 

 修子は、自ら玄関に駆け出した。クズの蔓も、玄関前までは届かない。種も撃っている間に、藤松に中に入られてしまう。他に手立てがなかった。

 自分の腰へと、タックルのようにぶつかってくる妻を、藤松は抱き止めた。

 

(狙い通りや!)

 

 〈ミッシング・ゲイト〉が、玄関の扉に札を張り付けた。先ほど、温室の扉に張られたのと同じ柄。

 玄関の扉が、ガラス製の温室の扉と同一のものに変化した。それをスタンドが引き開ける。中に見えるのは、温室から見た遥音たちの姿。

 藤松は、修子を抱き抱えたまま強引に後退し、扉の中に入り込んだ。スタンドが、扉を閉める。

 温室から、後ろ向きに藤松が出てきた。修子もまだ、腰に捕まっている。

 

「そういうことかよ、オッサン! 後は、ここまで引きずってくりゃ」

 

 遥音が感嘆した。

 修子が、藤松を捕まえた格好のまま、叫んだ。

 

「ゴーヤはこの人を捕まえて! 私が止めとくさかい」

 

 蔓が、藤松の首に巻き付いた。首が締まり、苦し気に動きを止めざるを得ない藤松。

 それを見た遥音は怒鳴った。

 

「何やってンだよ! アンタの旦那だろ!?」

「タネツケバナ、撃ちなさい! 私に当たってもかまへんから!」

 

 サヤが二人に向けられ、種が撃ちだされた。

 〈ミッシング・ゲイト〉が、修子に当たりそうになった種を、拳で弾き飛ばした。種が藤松の肩に食い込み、肉を破った。血が噴き出し、藤松は呻くが、修子を捕まえた手は離さない。

 

「もう治療いいや! オレが行くッ!」

 

 航希が、〈エロティクス〉を払い落とさんばかりの勢いで、立ち上がった。まだ脇腹の痛みはあるが、藤松の必死な姿に、見てはいられなかった。

 藤松目掛けて、駆け寄る航希。種が、航希と藤松夫婦に集中して撃ちだされた。

 

「臨兵闘者、皆陣列在前ッ!!」

 

 二人をガードするように回り込み、航希のトンファーの連打が、命中しそうな種をことごとく弾き返した。

 続いて、藤松を拘束する蔓を上下から挟み込むように、両手のトンファーを高速で振るった。バツッ! と音がして、蔓が千切れた。

 

「すまん!」

「オッサン、奥さんを引っ張れ! オレも手伝う!」

 

 二人がかりの男の力には敵わず、修子は抵抗空しく、遥音たちの元に引きずられてきた。航希が修子の腕を藤松から引き剥がし、遥音がコードで修子の身体を拘束する。

 

「よしッ! 後は〈肉の芽〉を」

「笠間さんッ!」

 

 藤松の言葉を掻き消すように、愛理が悲痛な声を上げた。

 〈クリスタル・チャイルド〉の大鎌の柄が、フレミングについに掴まれていた。空いている腕も捉えられ、フレミングの大きく開かれた口から剥き出しになった牙が、喉笛に噛みつこうとしていた。

 口が閉じられ、首筋を大きく噛み破った。かに見えた。

 が、フレミングが動きを止めた。口を閉じたまま、唸っている。

 

「冗ッ談じゃないわよ……! 笠間さんがやられたら、次は私たちじゃない」

 

 ユリの〈エロティクス〉が、〈クリスタル・チャイルド〉の首元をガードしていた。大きな牙は、〈エロティクス〉に齧り付いている形となっていた。

 フレミングの目が、ジロッとユリたちの方を見た。顔を引きつらせるユリ。

 が、フレミングの視線は、すぐに別の方向に動いた。どこか遠くを睨んでいる目付き。

 次に異変に気づいたのは、航希であった。

 

 

「これは……もしかして!」

 

 航希が目をやった先は、柵の外側に沿った、ずっと先であった。フレミングですら、動きを止めて同じ方向を眺めている。

 やがて、違和感の正体が近づいてきた。

 

「ジェットコースター……!? 何でまた」

 

 遥音が呟く。

 そうしているうちに、線路を柵に沿わせて作りながら、〈ドドドン・パッ〉が門へと滑り込んでいった。

 

『ゴ乗車、マコトニ有難ウゴザイマシタ。マタノオ越シヲ、オ待チシテオリマス』

 

 ピノキオもどきのアナウンスと共に、ジェットコースターから、三人の男女が降り立った。

 

「どうやら、まだ私たちの出番はあるみたいね」

「みんな無事か!? ……でもないみたいだな」

「やっぱりおめぇか、フレミング! 久しぶりだな。俺のこと、覚えてるか?」

 

 明日見、文明、そして京次が、入口から庭に入り込んできた。

 フレミングは、〈クリスタル・チャイルド〉を突き放し、そして後方に大きく飛び退いた。途中で口から吐き出された〈エロティクス〉は、射程距離から外れて消滅した。

 

「忘れてはいないが、今は忙しい。俺は亜貴恵様をお守りしなければならんのでな」

「そうかよ。俺はそこを通りてぇんだ。戦う理由にならねぇか?」

「当然、なるな」

 

 両者の視線が、交錯した。

 

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