城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第44話 庭掃除は丁寧に

 ジェットコースターが、再び門の前に横づけされるのを、別荘の陰から見ていた者がいた。

 藤松によって、この島に強制的に送られた、用務員の室井であった。始末する役の慎志が気づかなかったのをいいことに、どうにか逃れて未麗に取り入っていたのだ。

 

(三人降りてきよる。藤松の女房も連れていかれたし、形勢が悪いではないか! このまま笠間たちにいいようにやられては、せっかく神原をここまで送り込んだのに、手柄が帳消しになってしまうじゃあないか。聖也様は、スタンド使いの死人を出すのはお気に召さんようじゃが、こうなったら仕方ないわい)

 

 室井は、すぐ後ろにあった物置の扉に手をかけた。そこにも札が張られている。まだ操られていた頃に、藤松の〈ミッシング・ゲイト〉が張ったものだった。

 扉を開けると、強いヤニ臭さが漂ってきた。

 

「兄さんたち、頼んだぞ! 出てきてくれ」

 

 室井の方を見ていた、明らかに日本人ではない男たちが、次々と立ち上がった。手には、それぞれ銃やマシンガンを持っている。

 

『どうやら出番のようだな。要するに、外の黄色ザルどもを皆殺しにすりゃイイんだよな?』

『指図するのも、黄色ザルのジジイってのが気にいらねぇがな。大体、あのヒラタケとかいう野郎はどうした? アイツ、カタコトの英語で分かりにくくって、聞いててイライラしたんだよな』

『あのジジイも、カタコト野郎もドサクサに紛れてブッ殺しちまうか? なぁ、ブラッキーよぉ』

『それはやめろ。まだ前金として、半額しか受け取ってねえんだからな』

 

 仲間たちを制止したのは、ギャングのチームリーダーである、顔面を斜めに二つに割るかのような縫い目のある、でっぷり肥えた中年男であった。

 

『サルどもを屠殺するだけの、簡単なお仕事だが、キッチリやれよ。金が入ったら、ソイツを活用して、クソッタレなボスを叩き出す。この俺、〈ジッパー・フェイス〉のブラッキー様が新たなボスに成り上がるのさ。麻薬の縄張りゲットだぜ』

 

 ブラッキーは、仲間たちを見回した。

 

『アパッチ! ランチャー! ヴィスタ! フード! 手抜かりするなよ。あ、新入りのマカロニ頭、お前は留守番だ』

『ぼ、僕はジェフリー・J・ジェンキンスって名前が』

『るせーよ。いいから茶でも入れて待ってろ』

 

 ズカズカと出ていくブラッキーたちを見送りながら、ジェフリーは内心歯噛みしていた。

 

(くそ~。アイツら馬鹿にしやがって! 特製のお茶でも入れといてやろうか? だけどバレたら絶対殺されるだろうしな~……)

 

 ブラッキーたちは扉を出ると、まずその異様な光景に足が止まった。

 

『何だこのバカデカイ植物は!? コッチに伸びてこようとしてねーか!?』

『アッチに、狼男みたいなバケモノまでいるぞ。これって映画の撮影か何かか?』

『だったら、俺たちにお呼びがかかるかよ。おかしな代物にはあんまり近づくな。ここから銃で皆殺しにしてやりゃオシマイさ』

 

 ブラッキーたち五人は、それぞれ手にした銃を構えだした。

 庭の入口の辺りで、眼鏡をかけた少年が自分たちの方に向き直ったのを見たヴィスタは、

 

『何だアイツ? もしかして俺らとやるつもりか、バカが』

『ア、アレは』

『どうしたんだよ、ブラッキー?』

『聞いてないぞ! 向こうにもスタンド使いがいるなんて!』

『? 何のことだソレ』

 

 次の瞬間。

 眼鏡の少年から、突風が噴き出した。巨大植物が、一斉に揺れだす。

 そして。

 揺れていた植物が、一瞬でバラバラに切り刻まれた。少年から、一直線にある全てが。

 

『な!?』

 

 一番端のアパッチは、植物の切り裂かれた直線の先にある、金属製の柵までもが千切れて曲がり、ポッカリ穴が開いているのを見て、戦慄した。

 

『てめーら撃て!! あの眼鏡ザルだ。必ず仕留めろ!』

 

 ブラッキーは、恐怖にかられながらも指示を飛ばした。

 だが。

 植物がなくなった直線を、体格の大きな、別の少年が走ってくるのが見えた。そのすぐ後ろには、狼男も追いかけるように向かってくる。

 

「草刈りの後は、ゴミ掃除といくかぁ! まずはハンデとして、スタンドなしで相手してやるぜ!」

『標的変更、まずはアイツだ! 撃て撃て撃て!!』

 

 ランチャーが、マシンガンを乱射した。他の面々も、それぞれ銃を撃ち始める。

 が、すでに京次は横に跳んでいた。弾丸の何発かは、背後のフレミングに命中する。が、ほぼ全身を覆う外骨格に弾かれて、有効なダメージを与えられない。慄くギャングたち。

 京次は〈足場〉すら作らず、柵の上まで跳躍すると、そこを蹴って方向転換した。

 一番端のアパッチが真っ先に、頭部をサッカーボールのように蹴り飛ばされて、吹き飛ばされるように倒れこんだ。

 残りのギャングたちは、慌てて下がり、京次を取り囲もうとする。しかし、そこまでが精一杯だった。

 同士討ちを怖れて撃つのを躊躇しているうちに、京次の電撃的な拳が、蹴りが、舞うような動きで次々とギャングたちを打ちのめしていく。しかも、一人一撃で、誰もが倒れこんで動けなくなる。フレミングに至っては、腕組みをしてつまらなさそうに眺めているだけだ。

 

『何だこりゃ……』

 

 ブラッキーは、後ずさりした。ついに、残ったのは自分一人だけ。

 

「どうした? そのモデルガン撃たねーのか」

『ば、バカにしてるんじゃねえ! 俺様の、無敵の能力見せてやる!』

 

 ブラッキーは、手にある拳銃を構えて撃った。京次は、発射される前に横に跳んでいた。

 

(拳銃はフェイントだぜ! くらえ、俺の〈ジッパー・フェイス〉を!!)

 

 京次を目で追うブラッキーの頭部が、縫い目のところで分かれて、上だけが半回転した。露出した断面からニョキッと、拳銃を構えた手が生えてきた。

 グシャァッ!!

 痛烈な拳の一撃が、ブラッキーの口元に叩き込まれた。歯が何本もまとめて飛び散っていく。肝心の銃弾は、殴られた反動で頭部が傾ぎ、全く関係ないところへと飛んでいった。

 

(こ……このままじゃ、聖也様に申し訳が立たん! 第一、未麗のことじゃから、役立たずと見れば、ハナをかんだ後のティッシュみたいに、ワシをポイ捨てするのが目に見えとる! 今しかない)

 

 室井は、〈ザ・ラスト・リーフ〉で、辺り一面に飛び散っている木の葉を操った。京次の足元に、木の葉がまとわりついていく。

 

「どうじゃ、歩けまい! お前はすぐに身動きできんようなる! そこの狼男、チャンス到来じゃぞ!」

 

 勝ち誇った室井に返されたのは、京次とフレミング、両方からの白け切った視線であった。

 

「え? あの……ワシの言ったこと聞こえた?」

「……ツッこむ気力も起きねーよ」

 

 〈ダンス・マカブヘアー〉が、京次の頭部から鋭く伸び、室井の顔面を直撃した。鼻が完全に陥没して、血みどろになりながら悶絶する室井。

 

「んなもんで、ドツキ漫才にさせてもらったぜ」

「おい。貴様」

 

 フレミングが苛立ちを隠そうともせず歩み寄り、鼻血まみれの室井を引き起こした。

 

「誰がそんな下らないことを頼んだ? そうでもしないと、俺では勝てないとでも言いたいのか? この俺を侮辱するつもりか?」

「い……いひゃ……」

「さっさと、そのショボくれた能力を解除しろ。俺の戦いにケチがつく」

「はひ……」

 

 京次の足元に張り付いていた木の葉が、一斉に剥がれ落ちた。

 

「では、とっとと消えろ。目障りだ」

 

 フレミングは、まるで野球のボールでも投げるかのように、室井の襟首をつかんだまま投げ飛ばした。物置の横に生えた木に叩きつけられ、室井は気を失った。

 

「取り込み中、悪いんやけどな」

 

 呑気な様子で、フレミングに声をかけてきたのは、藤松だった。肩の傷には、航希が持ち込んでいた止血帯が巻かれている。その後ろに隠れるように、修子もついてきていた。

 

「これからゴミ捨てしたいんやけど。そこの物置に、一通り放り込むだけやから。アンタらの邪魔はせぇへんから。ええかな?」

 

 藤松は、親指で室井を、視線でギャングたちを示しながらそう言った。

 

「ま、俺はいいけどな。片付けの手間が省けるしな。どうだよフレミング?」

「好きにすればいい」

 

 フレミングは玄関を見やると、掌をそちらに向けて、ほぼ音もなく弾丸を放った。

 

「どうやら、嫌でも場所を変えないといけないようだからな」

 

 言い終わらないうちに、フレミングは玄関へと駆け出した。京次もそれを追いかける。

 藤松は、おもむろに物置の扉を開けると、中に入り込んだ。

 

「邪魔するで」

『な、何だお前! ここをどこだと』

 

 ブラッキーの椅子から立ち上がりかけるジェフリーを、〈ミッシング・ゲイト〉の拳一発で黙らせた藤松は、室井やギャングたちの身体を、スタンドに運ばせて次々と放り込んでいった。

 

「よっしゃ。修子、運んできてくれたか?」

「うん。物置の前でええよね?」

 

 〈イングリッシュ・ガーデン〉で操られたゴーヤの蔓が、気絶したままの榮倉と平竹を捕まえて、運んできていた。

 藤松は、まず榮倉の身体を受け取って、扉に放り込んだ。

 次は、平竹の番となった時。

 

「……ん? な、何だ!? なぜ私がハングアップされているのだ!?」

「あ、平竹はん気がつきなはったか。お早うさんです」

「藤松!! 何の真似だこれは!?」

「ああ、ゴミ捨てやっとるんですわ。平竹はんが最後ですねん」

「な……!? 私をゴミ扱いするのか!」

「ええ。それが何か?」

「き、貴様……笠間サイドにダブルクロスしたな!?」

「ええ。それが何か?」

 

 あまりにも平然とした藤松の様子に、もはや唖然としていた平竹だったが、

 

「キディング・ミー……! 島の門番ごときが、私にそんな口を聞いて、タダで済むとでも」

「ああ、修子。平竹はんを放したってくれるか? そこんところに降ろしてや」

「え? ああ、うん」

 

 怪訝そうな顔をしながら、言われる通りに平竹を降ろし、蔓をほどいて自由にした。

 平竹は、先の航希の攻撃ですでにボロボロになっている自分の姿を確認しながら、

 

「アウチ……! 全く、最初から下手に出ていればいいものを」

「うんうん。この位置が、拳を叩き込むのにちょうどええんや」

「え?」

 

 キョトンとした平竹に、

 

「ゴチャゴチャやかましいんじゃボケが!! 往にさらせッ!!」

 

 〈ミッシング・ゲイト〉渾身の拳が、その顔面に炸裂した。

 吹っ飛ばされた平竹は、扉にブチ当たって、そのまま中へと転がり込んでいった。

 ズカズカと扉に近づくと、藤松は〈ミッシング・ゲイト〉に、扉を閉めさせて札を剥がさせた。

 

「行先は『この国ではないゴミ捨て場』や。そんなに横文字が好きやったら、一生行っとけ」

 

 手をパンパンと払っている夫に修子は、

 

「ねえ。ホンマにええの?」

「カマへんカマへん。どうせアイツら全員、二度と日本には戻れんわいな。第一、あの平竹は元からイケ好かん野郎やったしな」

「そんなことやなくって。あの子たち、助けてあげなくってええのん?」

「自分の家族を守るんが、ワイの務めや。それ以上は、ワイの手に余る。それにお前、イロイロ渡してやっとったやろ?」

「ホンマは、あの子たちの敵をフォローするつもりで用意してたやつよ。一家全員で迷惑かけて、私ホンマに申し訳なくて」

「人のことばっかり心配しとる場合やない。ワイらも別の意味で、これから大変や」

 

 藤松は、ため息をついて肩を落とした。

 

「残念やけど、もうこの島にはおられへんやろうな。ワイも本土に戻って職探しや。子供たちや、お前を飢えさせるわけにはいかん」

「そやね。この島は気に入ってたけど……」

 

 修子は、庭をグルリと見回した。

 

「私も、庭の〈イングリッシュ・ガーデン〉全部解除するわ。そしたら、家に帰りましょ。肩……痛むやろ?」

「ま、カミさんがええ薬草用意してくれたら、すぐ治るやろ」

 

 ニカッと、藤松は妻に笑って見せた。

 

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