城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第46話 人食いロボット掃除機 後編

 明日見は、電波の行きかう中にいた。

 

(やっぱり! 大型と小型は、別荘に設置されてるwifiで通信し合ってる。大型も小型もカメラが内蔵されてて、視覚情報をやり取りしてたんだ。そして、大型もいわゆる子機にすぎない。親機に当たるものは別にある!)

 

 別荘の中で飛び交うwifiの電波をたどりながら、明日見はその先にある一つ一つを確認していった。

 その中の一つに、明日見は潜り込んだ。

 

(これは、webカメラ?)

 

 そこに映し出されているものを見て、明日見は顔色を変えた。

 別荘の狭い一室だった。寝台にくくりつけられて、苦悶の表情で叫んでいる人物が、城之内亜貴恵であることを、明日見は知っていた。

 亜貴恵の両腕と両足は、四方に伸ばされていた。その全てが、金属製のローラーに挟み込まれており、ローラーからはみ出した所から先端は、金属板で押さえ込まれている。そこから煙が上がっていて、高熱で焼かれているのが分かった。

 亜貴恵の枕元には、〈スィート・メモリーズ〉の懐中時計が置かれていた。そのことで、明日見は目の前で行われていることの全容が理解できた。

 

(これは、〈消滅する時間〉を利用した拷問! 〈消滅する時間〉が発動すると、スタンド使いの関わらない事象は、一時間後には元に戻り、記憶も抹消される。この拷問装置は純粋な機械仕掛けで、亜貴恵はスタンド使いじゃないから、両方とも元に戻される。命に別条のない拷問を、一時間かけて執り行い、また巻き戻す。それを何度も何度も繰り返しているんだ……!)

 

 これを行っている張本人であろう未麗の、残忍かつ執拗な性質を垣間見て、底知れぬドス黒い悪意に明日見は身震いした。

 

(さすがに装置を止めたいけど、私が関われば、亜貴恵の身体の損傷は元に戻らなくなる。それに、今は〈クリーンアップ・マスター〉を倒さないと……!)

 

 またwifiに戻った明日見は、さらに目的となる親機を探していった。

 そして、一つの画面を幾つも分割してるモニターを見つけた。

 覗き込んだ先に見えたのは、横合いからモニターを凝視している、メイド姿の太った初老の女だった。

 

(見つかっちゃ仕方ないか)

 

 明日見は、モニターから飛び出し、現実の世界に出た。

 綺麗に掃除された部屋の壁際に置かれた、人間大の箱型の機械。幾つも区切られたモニターには、玄関ホールを映し出したもの、外側の戦闘を映し出しているもの、それぞれ複数あった。機械にはモニターの他にスイッチがあり、底面近くには大きな、横長の長方形のカバーがついている。機械の上面には、先ほどの大型掃除機がちょうど収まる大きさの枠が用意されていた。これが、スタンドの親機に違いなかった。

 

「笠間明日見、やっぱりアンタが来たのかい。ま、他の奴らじゃ、下の掃除機は突破できやしないだろうけどねえ」

「そういうあなたは、お掃除ババアのトミコさんですか? 兄から聞いてます」

「まぁ! 口の利き方を知らない娘だねえ。親の顔が見たいもんだ。どうせなら、アッチに出てきてくれりゃ手間がなかったんだけどねぇ」

 

 トミコが顎をしゃくって見せたのは、親機の前に置かれている、小さい机に置かれたノートパソコンだった。画面には、トミコが見ていたらしい海外ドラマが流れていた。

 

「一つ聞きますけど、どうしてそのパソコン、大きなアクリルケースに、しかも机ごと入れられてるんですか?」

「そりゃね。アンタがそこから出てくれば、ケースに閉じ込めることができるだろ? インターネットにつながってる端末は、今はそれしかないからね」

 

 トミコは、ケースの小さな穴から伸びている、床のコンセントを乱雑に引き抜いた。パソコンの電源が瞬時に切れると、今度は手元のリモコンのスイッチを入れた。

 親機の前面のカバーが開き、吸気音が響き始めた。すると、ケースがズズッと動き出したかと思うと、カバーが開いた所へと一気に吸い込まれた。

 バキバキッ! と破壊音がして、アクリルケースも中のパソコンも、砕かれつつ吸い込まれていく。

 

「なるほど。兄の言う通り、罠があったということですか。別荘まで一気にネットで飛べば、私もそうなってたわけですね」

「スマートに事を進める、これが熟れたいい女の手法だよ。覚えておくんだね?」

「そうですか。もっと教えていただけますか? 『熟れたいい女』と、『ムダに歳だけ重ねたブタクソババア』の違いを」

 

 トミコのこめかみに、血管が浮き上がった。

 

「小便臭い小娘が、利いた風な口をきくじゃないのさ……?」

「あら、少しは褒めたつもりですよ? ブタって、綺麗好きだって言いますものね。お掃除得意なんでしょ?」

 

 トミコは、苛立ちを隠せない手つきで、リモコンを操作した。

 親機の側面にあった二つのスリットから、二台の小型掃除機が飛び出してきた。

 

「ハナから〈害虫退治モード〉にしとくよ。それから、リモコン奪おうとしてもムダだよ。アタシのスタンドの一部なんだから」

「ご親切に教えていただいて!」

 

 明日見は〈パラディンズ・シャイン〉を出した。宙を浮いて襲ってくる掃除機を、槍で叩き、払いのける。しかし、掃除機は槍を当てられた時は揺らぐものの、すぐに方向転換して、明日見に迫る。

 

「若い娘のダンスは、珍妙だねぇ! アタシが昔踊ってたヤツを教えてやろうか!? ほれ、こぉんな感じだよ。……何だよ、チャンと見なきゃダメじゃないかね?」

 

 トミコは、腰を捻りながら、手を波のように揺らしたり、ヒラヒラ舞わしたりして、余裕を見せている。

 明日見は隙を見て、本体のトミコに攻撃を仕掛けることを狙ってみるが、二台の同時攻撃に晒され、思うに任せず、部屋の隅に徐々に追い詰められていく。

 明日見は、すぐ側にあった扉のドアノブを掴み、回した。しかし、扉は開かない。

 

「鍵くらいしてるに決まってるだろ? 今更、部屋の外に逃げてもムダさ。建物のどこでもwifiは通じるから、掃除機は追ってくるよ!」

 

 掃除機が、部屋の角を形成する二枚の壁に沿うように、飛びかかってきた。

 槍が、扉のない方から来る掃除機を、横殴りで弾いた。そのままの勢いで、もう一台も弾く。空いたスペースから、明日見は抜け出して、その先にある壁へと走った。

 

「足掻くねぇ! 部屋に逃げ場なんかありゃしないよ!」

「部屋の中、ならね」

 

 明日見が駆け寄ったのは、外が見える窓だった。窓の鍵をスタンドで開け、素早く窓を開いた。

 

(外は、ビッシリ生えた竹林だ。人一人も、まともに通れやしない。ますます逃げ場がなくなるってのに、バカな小娘だよ!)

 

 明日見は、窓の外に身を投げ出した。

 バキバキッ! と、乾いた音を立てて、スタンドで押しのけた竹が折れる。

 その時、トミコは違和感を覚えた。

 

(え? 地面から生えてる竹が、そんな簡単に折れるわけが)

 

 明日見の身体が、下から伸びる、折れた竹の隙間をすり抜けるように落ちる。その頭上を、二台の掃除機が追って飛び出した。勢い余って、掃除機は次から次へと、竹をへし折りながら、竹林の先まで進みつつ落ちていった。

 〈パラディンズ・シャイン〉の手が、窓枠を掴んだ。落下の止まった明日見は、スタンドの力を借りて、窓へとよじ登る。

 部屋の中へと顔を出してきた明日見を見て、トミコはリモコンを操作した。

 もう一台、掃除機が親機のスリットから飛び出してきた。

 飛びかかる掃除機を、〈パラディンズ・シャイン〉の槍が、上から串刺しにした。そのまま、床まで貫いて動きを完全に止める。

 

「槍はもう使えなくなったねえ! 外に飛び出した掃除機も、すぐに戻る。そしたら、アンタはもうどうしようもなくなるよ!」

「戻ってくれば、ね」

 

 え? という顔のトミコ。

 

「バカだねぇ。窓の外も、多少の距離ならwifiは通じるんだよ。通信不能にゃならないさ」

「それにしては、なかなか戻ってこないみたいだけど?」

 

 その時、トミコの傍らにある親機から、音声が流れた。

 

『警告シマス。だすとぼっくすノ容量ガ90ぱーせんとヲ超エマシタ。本機ノ作動ヲ停止シテ、だすとぼっくすヲ空ニシテクダサイ』

「何だって!? まだ余裕はあるはずだよ!」

 

 顔色を変えるトミコに、明日見は手にしたものを見せた。

 

「これ。外に生えてる、竹の破片」

「生えてるだって!? だって、カラカラに枯れてるじゃないのさ!」

「外の超密集した竹林は、修子さんが〈イングリッシュ・ガーデン〉で作り上げたものでしょ? そして修子さんは、〈肉の芽〉を除去されて正気に戻り、庭のスタンドを全て解除した。もちろん竹林のも、ね」

「な……!」

「元々、スタンド能力で無理やり作った竹林だものね。能力が解除されると、急速に枯れてしまうって、修子さんは言ってた。つもり、外の竹は、もう全て枯れて脆くなっている。そんな中に、あの二台の掃除機は突っ込んだのよ?」

「あ……!」

「あの掃除機は、吸い込んだゴミや埃を、親機のダストボックスに転移させる仕組みなんでしょう? 中のシステムに入り込んで、そのことは確認済み。今頃あの二台は、折れまくる竹を削りまくって、ここまで戻ろうとしてるだろうけど。削ったものを吸い込んで、ドンドン転移させてくるものだから、ダストボックスの中身は急増する。満杯になったら、どうなるのかしらね?」

 

 トミコの目が、ガッと大きく見開かれていた。苦しそうに、腹を押さえている。

 

「あら、食べ過ぎなの? スタンドをいったん解除する? だけど、そうなると私が串刺しにするのは、掃除機じゃなくてあなたになるけどね。あなたを守るスタンドが活動停止になってるわけだから」

「うぐぐ……!」

 

 トミコの顔色が、赤から青に変わっていく。

 親機から、またも音声が発せられた。

 

「だすとぼっくすノ容量ガ、100ぱーせんとヲ超エマシタ。作動不能ニツキ、子機モ含メテ、全テノ機能ヲ強制停止シマス……」

「う、ぐえぇぇぇぇッ!!」

 

 トミコは、大きく開けた口から、大量の嘔吐物を吐き出した。

 そのまま、自身の吐いたものが広がる床に、倒れこんで気絶した。

 明日見は、顔を逸らしながら言った。

 

「あ~あ、せっかく綺麗な床だったのに……。これ、一体誰が掃除するんだろ?」

 

 

 

 

 

 その頃遥音は、癒しの歌で文明の腕を回復させながらも、内心で焦っていた。

 笠間の腹を削ろうとする掃除機の猛攻を、スタンドの布でガードし続けて、歯を食いしばって耐える文明。

 

(まだかよ明日見! このままだと、文明の腕が完全に削られちまう!)

 

 曲の合間に息つぎを入れ、額の汗を彼女が拭った時。

 

「……え?」

 

 文明が、声を漏らした。

 掃除機は、動きを止めていた。そして、ボロボロと崩れ落ちていく。

 

「ど……どうも、明日見ちゃんが、敵の本体を倒したみたいだね!?」

 

 息を切らしながら、航希も近寄ってきた。それまでずっと、掃除機の攻撃を休みなく凌ぎ続けていたのだ。

 文明は、地面にへたりこんだ。その右腕から、鮮血が流れ続けている。

 

「服を脱がします!」

 

 愛理が、文明のブレザーを脱がせると、シャツを脱がせていった。腕を抜く時、文明が苦痛の声をあげる。

 

「ぐう……!」

「我慢してください。薬を使います。消毒の効果もあるとのことです」

 

 差し出された腕に、修子から渡されていた、強化した薬草を用いた薬を塗りこんでいった。文明は、歯を軋らせて痛みを堪える。

 

「できました。ユリさん、お願いします」

 

 すぐさま、〈エロティクス〉が腕の傷に被せられた。その間も、遥音は癒しの歌を続けている。

 そしてすぐに、文明の呻きが止まった。

 

「……痛みが引いてきた」

「え!? 早すぎるんだけど!」

 

 ユリが驚いて、スタンドが被せられている傷口を見ると、すでに血が止まっているだけでなく、皮膚の再生が始まりかけていた。

 

「薬草の効果は、かなりのもののようですね。遥音さんとユリさんの能力も合わせていますから、相乗効果で驚異的な回復になっているのでしょう」

「そう、みたいだね」

 

 すでに、普通の表情に戻ってきている文明に、笠間が近づいた。

 

「……お前に助けられたな。礼を言う」

「明日見くんは、一人で戦いに行った。愛理くんも見てる。そんな時に、あなたをムザムザと死なせるわけにはいかないよ」

「……ひとまず、昨日のママゴト云々は取り消しておくよ」

 

 笠間は、一つ息をついた。

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