城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第47話 フレミングとの拳闘

 トミコの詰めていた部屋の扉、そのドアノブが、内側から槍で壊された。

 中から出てきた明日見は、そこが2階であり、吹き抜けとなっている玄関ホールを柵越しに見下ろすことができる廊下の、ちょうど真ん中に当たるところであることを知った。

 

(外はどうなってるだろう? 誰も犠牲者が出てなければいいけど)

 

 廊下は、左右共に突き当りが下り階段となっており、カーブを描きながら玄関ホールに降りられるようになっている。明日見は、左側の階段へと向かった。

 階段を前に、一歩足を降ろそうとした時。

 スッ、と、階段に近い扉が静かに開いた。

 中から躍り出た人影は、ほとんど足音も立てずに数歩駆けた。

 スタンドが、人影の前に現れた。その手の刀が、振り上げられる。

 明日見は背後から、左肩からの袈裟斬りを受けた。

 胴体が斜めに両断され、上半分が階段に滑り落ちていく。

 

「……」

 

 操は無表情のまま、〈ファントム・ペイン〉を消すことなく、上半身を半分失った明日見を追い越して、階段を駆け降りていった。

 その一番下には、すでに待っている者がいた。

 

「仕留めたかね?」

「はい。先生」

「では行こうか。彼らは手ごわい。経験豊富な笠間もいる。奇襲を仕掛け、迅速にケリをつけよう」

 

 神原は、操を連れて、玄関へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 京次は、フレミングの蹴りを胴に食らって、柵に叩きつけられた。

 穴の開いた掌が、京次に向けられる。横に転がった京次のいた場所に、弾丸が撃ち込まれた。 

 

「チッ!」

 

 ダッシュしてきたフレミングの回し蹴りを避ける。流れた足が蹴りつけた金属製の柵が、大きくひん曲がった。

 ワイヤー付きの肩パットが空中に浮き上がり、尖った先端が追い撃ちをかける。京次はなおも転がるように逃げていき、一瞬遅れてその跡を、肩パットが刺さって地面を抉る。フレミングも、京次を追って動く。

 京次は、〈ダンス・マカブヘアー〉を伸ばし、肩パットを弾いた。追撃が一瞬止まった隙に起き上がり、フレミングに向き直る。

 離れたところから、仲間たちの声が聞こえるのを京次は耳にした。いつの間にか、戦っているうちに、京次とフレミングは大きく移動していた。

 

(この男、出会うたび、戦うたびに強くなってくる! それも、飛躍的に)

 

 フレミングは、間合いを詰めながらも、それを痛感していた。

 

(以前のこやつなら、先ほどの攻撃で成す術もなかっただろう。あの髪のようなものがスタンドに備わったことで、攻防ともに手数が増えた)

 

 両者は、何度か目になる、打撃の応戦を開始した。

 京次の拳を、蹴りを、時に受け、時に掠めながらも、フレミングはさらに思った。

 

(それだけではない! 一撃一撃の威力が、段違いに強くなっている。外骨格を砕く〈振動〉だけではないな。受けるたびに、痺れる感覚がある。あの老人から仕込まれているに違いない)

 

 間合いが詰まった瞬間、フレミングは大きな顎を開き、京次の首筋を狙って噛みつきにいった。それを京次は、素早く後ろに下がって避ける。フレミングの足が大きく上がり、硬質化して尖った踵が、京次の頭上目掛けて叩きつけられていった。これも、京次はかろうじて避ける。

 回り込んでいった京次のローキックを、上げた足で受けるフレイング。

 

(俺も格闘技の動画を見たり、実際に組み手とやらをやり、技術を学んだ。だが、これほど大幅な力量の伸びはさすがにない。俺と戦えるようになるために、それだけの修練を積んできたということか)

 

 が、フレミングはさらに思った。

 

(違う! それならば、もっと悲壮なものが漂うはずだろう。ならばなぜ、この男は笑っているのだ!?)

 

 フレミングの看破した通りであった。京次は我知らず、ずっと笑っていた。人間の本能である、闘争という本能を解放できる喜びに満ち溢れていた。

 

(俺との戦いは、こやつにとっては遊びの一環なのか? 楽しんでいるのか? 実のところ、俺も少しは理解できる。だが……。これ以上、楽しんでばかりもいられない)

 

 フレミングは、いったん間合いを取って、大きく息を吸った。

 そして一気に突っかける。そこから、怒涛の連打が始まった。両方の拳、蹴り、文字通り息つく暇もない連打の嵐。人間にはまず真似のできない、無呼吸連打だ。

 それを京次は、ガードを固め、〈ダンス・マカブヘアー〉も使って食い止め、ひたすら耐える。打撃の圧力に押され、ジリジリと京次の体が後退していく。

 だが、猛攻の前に、少しずつガードが崩れ始めた。

 京次の右の腕がやや下がり、横面に隙が生じた。

 

(そこだ!)

 

 フレミングの左ストレートが、京次の頬に叩き込まれた。奥歯が砕ける感触を、京次は感じた。

 が。

 想像したよりも浅い感触に、フレミングは一瞬戸惑った。

 京次の手が、突き出されたフレミングの腕を取った。

 

(今の一撃。ソイツを待ってたんだ!!)

 

 京次は、拳が当たる直前に、後ろにあえてのけ反っていた。完全に倒れこまないように、〈ダンス・マカブヘアー〉が地面に突き立ち、身体を支えていた。

 京次の右足が、宙に浮いた。その足が、フレミングの首に絡みついてロックする。

 師匠である、泉蓮斎の言葉が、京次の頭に掠めた。

 

『この技は、虎が上下の牙を嚙合わせるのを思い浮かべるんじゃ。ワシは足が短いから無理……余計なお世話じゃ、ゲロッパ!』

 

 上の〈牙〉が首に回り、跳ね上げられた左足の膝が、下の〈牙〉となってフレミングの顎に激しく叩き込まれた。外骨格はおろか、顎の骨まで砕ける感触が、確かにあった。

 

(これが! 〈虎王〉だッ!!)

 

 まだ、技には続きがあった。そのままの勢いでフレミングの肩に乗っかり、先に取っていた腕を抱え込む。体重をかけて、フレミングの身体をうつ伏せに倒し、ピンと伸ばされている腕を。背中の方へと高く反り上げた。完璧に肩の関節が極められていた。どちらの肩パットも、京次の足で押さえ込まれて動かせない。

 

「うぬッ……! だが、まだだ!」

 

 かつてない痛みに見舞われながら、フレミングにはなおも抵抗の手段が残されていた。

 両方の肩パットに相手を触れさせていれば流し込める、1千ボルトの電気。京次もこれを身に受ければ、耐えきれずに離れる他ないはずだった。

 だが。

 電気を発生させても、京次は全く身じろぎすらせず、肩を極め続けている。

 

「悪ぃが無駄だぜ」

 

 京次が、そう口にした。

 

「おめぇが電気を使えることを知ってりゃ、この技を使うにあたって対策くらいする。〈ダンス・マカブヘアー〉の先端は、地面に突き刺さってる。〈波紋〉同様、電気もスタンドを通しやすい。スタンドを用いたアース、ってことだ!」

「ぐぬう……ッ!」

 

 京次は、肩をへし折るべく、さらに力を込めた。

 その時であった。

 

「ぬ、おぉぉぉーッ!!」

 

 ビキビキッ! 嫌な音が、フレミングの肩から聞こえた。

 急に手ごたえがなくなり、京次の体はフレミングの上から転げ落ちた。

 

「な!?」

 

 京次は、その手に残ったものを見て、愕然とした。

 それは、肩から完全にちぎり取られた、フレミングの腕であった。

 片腕を失ったフレミングは、ゆらりと立ち上がった。

 

「……俺は、その気になれば、腕だろうが足だろうが、自分で切り離すことができるのだ。時間さえ経てば、切り離した部分は再生する。貴様をはじめ、全員を倒した後でな!」

「そうかい。だが、ソイツを待ってはやらねえぜ?」

「当たり前だ。こちらも悠長なことは言っていられん。その腕は、ハンデとしてくれてやる!」

 

 フレミングは、間合いを詰めて、一気に仕掛けてきた。左の拳や蹴り、それに肩パットまで用いての連続攻撃。

 京次はそれを受けながら、

 

(なんでさっきのラッシュで、肩パットを使わなかったのか分かるぜ。ワイヤーを通じて操作してる分だけ、手足と比べてどうしても遅い。複雑な動きが可能な分、使う本人も複雑な操作判断が必要になる。素早い連打を、手足とのコンビネーションで繰り出すには、本来不向きなんだろ?)

 

 京次の拳のラッシュをかいくぐり、フレミングの右フックが京次の脇腹を狙った。〈ダンス・マカブヘアー〉が、それをガードする。

 

「これはどうだッ!」

 

 両方の肩パットが空中に舞い上がり、両方同時に、それぞれ斜め上から振り降ろされた。狙いは、京次の首元、頸動脈。

 

「〈波紋肘支疾走(リーバッフオーバードライブ)〉!!」

 

 京次の両肘が、斜めに差し上げられた。肩パットの先端が食い止められ、肘の先端から強烈な〈波紋〉が流し込まれた。フレミングが、肩パットから電流を放つより速く。

 今までにない痺れが、ワイヤーを通してフレミングを襲う。一瞬、ワイヤーの動きが完全に止まった。

 京次は、その隙を見逃さなかった。口から、雄たけびが走る。

 

「うぉぉぉぉーッ!! 〈山吹色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)〉!!」

 

 〈波紋〉を最大限に込め、〈振動〉も送り込んだ、激烈な拳のラッシュがフレミングの全身を襲った。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!」

 

 その速さは、片腕を失い、肩パットの動きを止められたフレミングが受けきれるものではなかった。外骨格が砕かれ、中身が弾ける。フレミングの強靭な肉体が、破壊され尽くしていく。

 

「邪魔ァーッッ!!」

 

 強烈なストレートが、フレミングの眉間に叩き込まれた。

 ついにたまらず、フレミングの身体は圧力に吹き飛ばされ、地面に投げ出された。その全身からはなおも、〈波紋〉の影響による、溶ける音がしていた。

 

「どうやら……俺の負けのようだな。もう、戦えそうにない。行くがいい。それが勝者の権利だ……」

「……あんまり悔しそうじゃねえな。思う存分暴れられたって感じだぜ?」

「フ……そうかもしれんな。楽しかったぞ。京次とやら」

 

 フレミングは、目を閉じた。

 それを確認して去っていく京次。それを耳で追いながら、フレミングは消えゆく意識の中で思った。

 

(先へ行くことは認めてやる。だが俺も、このままでは終われん。亜貴恵様を、お助けせねばならんのだ……!)

 

 地面に転がされている、フレミングの左腕。

 ピクリとも動かなくなった全身に取って代わるように、それが少しずつ蠢き始めていた。

 

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