城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

53 / 63
第48話 昨日の友は今日の敵

 フレミングとの戦いを終え、仲間たちの元へと歩み寄りながら、京次は違和感を感じた。

 

(アッチも戦闘は終わってるのか。なんだか、全員疲れ切ってるっつーか、沈み込んでやがる。誰かやられたか!?)

 

 近づくにつれて、自分の嫌な予感が当たっていたことを、京次は悟った。

 航希が、いつになく沈痛な表情で出迎えた。

 

「あのフレミングを倒したんだね、京ヤン。やっぱりスゴイよ。それに引き換え、オレたちはこんな有様だよ……」

 

 航希が視線を向けた先には、明日見と遥音がいた。たたし、明日見は斜に両断された上半身を自ら抱きかかえ、遥音は鼻から下を包帯でグルグル巻きにしている。

 

「お前ら、体は大丈夫なのか!? って、そんなわけねーよな」

「見た目はこんなだけど、中身はつながってる状態みたい。私も遥音さんも、痛みすらないよ」

 

 明日見の台詞に、遥音も頷いた。

 

「遥音は、もしかして声が出せねーのか?」

「口を両断されてるから。少なくとも声を使った能力は全てダメよ。私もこんなだから、スタンドは問題なく使えはするけど、本体の私は移動すら難しくて。上半身って結構重たいのよ」

「おめぇは後方待機が関の山だな。そもそも、何があった?」

「それが……」

 

 明日見に促されて、航希が語り始めた。

 

 

 

 

 

「先生!?」

 

 玄関から出てきた神原を見て、文明は目を見開いた。

 静かな微笑みを湛えつつ、ポケットに手を入れて神原は足を進める。服こそ傷み、汚れている形跡はあるが、普段と変わらない足取りだ。

 

「よくぞここまで来た。君たちの実力には、敬意を表する」

「怪我は、大丈夫なんですか?」

「私のスタンドは、自分の怪我を癒せるのでね」

 

 笠間が、神原を睨みながら問いかけた。

 

「柳生操はどうした?」

「……中にいる」

「動くな神原!」

 

 笠間が〈クリスタル・チャイルド〉を出した。

 

「柳生操が無事なら、連れてくるはず! 動けないなら、それを真っ先に言うはずだ!」

「さすがに貴様は誤魔化しきれんか!」

 

 〈刃の螺旋〉が、神原に突き出された。

 だが、神原はそれを巧みに避け、さらに距離を詰める。向かう先には愛理がいる。

 

(そうはいくか!)

 

 〈クリスタル・チャイルド〉が、愛理と笠間を入れ替えた。

 が、笠間が眼前に現れた時には既に、神原は方向転換をしていた。大鎌で迎撃しようとしていた笠間は、一瞬虚を突かれて動きが止まる。文明が布を飛ばしたが、それも〈ノスフェラトゥ〉のマントで防がれる。

 神原は、遥音に接近した。マイクを構えた遥音の手首を、出現した〈ノスフェラトゥ〉が掴んだ。

 

「獲った!」

 

 神原が叫ぶや、玄関の開いた所から出てきたのは、操だった。

 その手に握られていたのは、人間の手首だった。

 神原は、ポケットから左の袖を引き抜いて、操の方へと差し出した。袖からは、手首から先がない。袖をポケットに入れていたのは、それを隠すためだった。

 

「〈ファントム・ペイン〉! 手首の方へと戻して」

「操!?」

 

 航希が驚く暇もなく。

 神原の体が急速に、操の手にする手首の方へと、引き寄せられた。〈ノスフェラトゥ〉も、それが捕まえている遥音も連れて。

 神原の手首が、その全身と結合する。同時に、〈ファントム・ペイン〉が踏み込んだ。

 遥音の顔面が、口元のところで刀で両断された。

 

「目的は達した! 退こう」

 

 神原は遥音の手首を放すと、操を促して玄関の中へと消えていった。

 

「操!」

 

 航希が〈サイレント・ゲイル〉で追いかけようとする。

 

「服部、深追いするな! 罠があるかもしれん! 単独行動は禁じたはずだぞ!」

「……くッ!」

 

 笠間に止められた航希は、無念そうに玄関の中を覗き込む。

 その時ようやく航希は、階段からやっと這い降りてきた、明日見の上半身を見つけた。

 

 

 

 

 

「つまりアレか? 操と神原先生は、敵に回ったってことか」

「ああ」

 

 京次の問いかけに、笠間が苦々しく答えた。

 

「間違いなく、〈肉の芽〉に操られている。操り手は、城之内聖也だ」

「聖也? ……どっかで聞いたような気がするな」

「未麗の弟さ。生まれてこの方、意識がないままだと聞かされていたが……。吸血鬼は、自分の細胞を〈肉の芽〉にして、それを植え付けることで、人を操る。もっとも、聖也の〈肉の芽〉は変種で、人の皮膚に食いつくことで、相手を支配下におくようだがな」

「すると、その聖也が吸血鬼だっていうわけか? なら、俺の出番だな」

 

 京次は、指の骨を鳴らした。

 

「俺の〈波紋法〉は、元々は吸血鬼を倒すために、武術として発展した。イイやつをブチこんでやれば、退治できるだろ。〈肉の芽〉にしたって、皮膚に食いついてるだけなら、〈波紋〉を流し込めば破壊できるだろ」

「だろうな。というか、〈肉の芽〉の張り付いてるところさえ分かれば、人の手で引き剥がせるみたいだがな。だが問題は……あの二人相手に、そう上手くいくかどうかだ。二人ともスタンド使いで、しかも攻撃力が高い。神原の〈ノスフェラトゥ・メティシエ〉は、特に脅威だ」

「知ってるぜ。俺は、目の当たりにしてるからな」

「何で口元がニヤついてるのか。俺には分からんが……まあいいか」

 

 そこに、愛理が口を挟んできた。

 

「あの、笠間さん。さっきの二人の様子からすると、あたしに最初向かってきたのはフェイントで、狙いは最初から遥音さんだったように思えるのですが。どういうことなんでしょうか?」

「それを、俺も言おうと思っていた。おそらく、まずは中・遠距離攻撃のスタンド使いを削るのが狙いだったんだろう。明日見もそうだが、特に須藤遥音の〈ブラスト・ヴォイス〉は瞬時に、多数を一斉攻撃することが可能だからな。狭い屋内となれば、遥音は特に脅威だ」

「遥音さんの能力までご存じなんですか。よく情報をお持ちですね」

 

 傍らで、ユリが知らん顔をしている。

 

「もう一つ疑問があります。なぜ操さんと先生は、お二人を殺さなかったんでしょうか? 明日見さんは不意打ちで攻撃してますし、遥音さんに対しては、あえて手間をかけて能力だけを封じたとしか思えませんが」

「それも言おうと思っていた。まず間違いなく、最終的には俺たち全員を〈肉の芽〉で操って奴隷にするつもりなんだ。可能ならば、な。だから今まで、俺たちをなるべく殺さないようにしてきたんだ」

 

 ざわ、とその場の全員の心が戦慄いた。

 

「〈ファントム・ペイン〉で斬られても、操さえいればまた元通りにすることができるわけだからな。他の全員を無力化してから、この二人も〈肉の芽〉を張り付けた上で元通りにしてミッション完了、だ。逆に言うと、こちらとしてはもう、絶対に操は殺さず奪回するしかない。でないと……」

 

 笠間は、変わり果てた姿の妹と遥音に視線を向けた。

 

「明日見。例の二人は、建物のどこに行ったか分かるか?」

「玄関ホールから、横に廊下が伸びてたでしょう? 私が襲われた階段の反対側、その突き当りに扉があるの。あの二人は、そこから入って、扉は開けっ放しにしてた。航希くんに中を覗いてもらったんだけど……」

「下に降りる階段があったよ。途中で折れ曲がってて、その先は地下室にでもなってる感じだよ。奥から明るく照らされてたから。深追いするなって言うから、すぐに引き返したけど」

「地下室か……なるほどな」

 

 笠間は、目を細めた。

 

「神原は〈ノスフェラトゥ・メティシエ〉をそこで使ってくるつもりだな。使えば、効果時間中は神原自身は吸血鬼に変貌するから、日光の下では戦えない。〈肉の芽〉にしても、剥がした部分は殻でガードされてるからともかく、本来は日光に弱いはずだ」

「……あっ!!」

 

 突然声をあげた明日見に、全員がギョッっとした。

 

「もしかして……そういうこと!?」

「どういうことだ、明日見?」

「分かった気がする。どうして〈スィート・ホーム〉が必要だったのか。聖也本人は……多分その中にいる!」

「え……!?」

「そうよ。〈スィート・ホーム〉は別世界でしかも屋内だから、日光は当たらない。〈波紋〉で攻撃しようにも、出会いがしらというわけにはいかない。まず中に入る必要があるものね」

「待て。思い当たる節がある」

 

 笠間も、記憶を辿り始めた。

 

「修子さんに取り付いてた〈肉の芽〉には管があった。他の家族のもそうだった。俺が見た管はどれも、その先端の形が不揃いに尖ってた。まるで……切り落としたみたいにな」

「え、それって」

「柳生操の〈ファントム・ペイン〉だ。あの管が、内部的にはその先でさらに伸びてたとしたら? どこにつながってると思う? 俺が思うに……聖也本人だ」

 

 〈肉の芽〉を伸ばす聖也の姿を想像しかけて、明日見は言葉を失った。

 さらに笠間は続けて、

 

「おそらく、この〈肉の芽〉は触手みたいに伸ばして、対象に接触して食いつかせることで、支配下に置くんだろう。だが触手の長さに限界があるから、せっかく支配下に置いても、自分から離れさせて活動させることができない。未麗が探していたのは、そこんところのネックを解消させられるスタンド使いだったんだ……そう考えると、聖也自身はキャビネットに居ながら、支配下に置いたスタンド使いを操れることになる」

 

 そこに、ユリが口を挟んできた。

 

「小難しい話してるところにアレだけどさー。要するに、あのキャビネットん中にソイツがいるんでしょ? だったら、キャビネット壊しちゃえばイイんじゃない?」

 

 それを聞くなり、遥音は乱暴に、ユリの襟首を片手で掴んだ。

 ユリは面喰いながら、

 

「ちょ……ちょっと! そんな怖い顔しなくってもいいじゃない!」

「遥音くんの気持ちは分かる。ユリくんは、知らないだけなんだから、放してあげてくれ」

 

 文明に窘められて、遥音は忌々しそうに、ユリから手を放した。

 

「君は〈スィート・ホーム〉に入ったことがないから知らないことだけど。あの中には……炭三がいるんだ」

「え? 炭三?」

「幽霊になってる黒猫だよ。元々は、愛理くんのひいお爺さんの飼い猫だったんだ。彼自身は、長年の友人だって言ってたけど。炭三は、友達の子孫である愛理くんの危機を予期して、彼女を救うために、死んでからもずっとこの世にとどまり続けたんだ。〈スィート・ホーム〉は、炭三のスタンドなんだ」

「そ……それを先に言いなよ! 私、猫は嫌いじゃないし」

「僕たちがあの中に入ってたのは、スタンドの話を他の人に聞かれたくないためでもあったけど。単純に、あそこでみんなと集まっているのが……楽しかったんだ。炭三と一緒に」

 

 ジョーカーズの面々は、一様に頷いた。

 

「炭三は、僕たちに居場所を与えてくれた。彼もまた、僕たちの仲間なんだよ。キャビネットを壊すっていうことは、炭三がこの世からいなくなるっていうことなんだよ。分かってくれ」

「分かった、分かったわよ! もうこの話はしないから」

 

 笠間は、そんな彼らを、やや眉をしかめて、頭を掻きながら、

 

「まったくよ~……。お前ら、これ以上難易度を上げてくれるなよな~」

「兄さん! 私たちの気持ちを汲んでくれるのよね?」

「まぁ、キャビネットを壊すのは、俺も最後の手段だと思ってた。何しろ、〈スィート・ホーム〉の中の状態が分からないからな。下手に壊すと、却って状況が悪化しかねない。できうる限り避ける」

「できうる限り……?」

「お前たちが、その炭三を大切に思ってることは分かった。だが、未麗や聖也を野放しにすれば、どれだけ大勢の人間が人生を狂わされるか分からないんだぞ。それを考えれば、いよいよとなったら俺は決断する。そこまで追い詰められる前に……分かってるな、みんな?」

 

 全員が頷く様子を眺めつつ、笠間は小さく笑った。

 

「イイ面構えしてるよ、お前ら……。さて、敵の本拠に乗り込むための、最後の作戦会議といくか」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。