城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第50話 地下室での激闘 その1

 神原と操、その二人が潜り込んでいったという地下室。

 その入口となる扉を前に、笠間は他の面々と共にいた。人二人が並んでいけるほどの、幅広の階段。意外と深いその真下は左に折れ、その先は内側から光で照らされていた。

 

「いよいよだな……」

 

 囁くような笠間の言葉に、全員に緊張が走る。

 

「俺たちは行ってくる。明日見はここで待機。遥音は玄関口で見張りだ」

「分かった。みんな……みんなが、ここに上がってくるのを待ってるからね」

 

 明日見にそれぞれ目線で応えながらも、降りていく者たちは隊列を組み、階段を降りていった。航希と京次が先頭。文明と笠間が2番手。最後尾は、愛理とユリ。

 一段、また一段。足音を極力させないように、ゆっくりと6人は降りていく。スピードのないユリを除き、全員が既にスタンドを出して準備していた。

 愛理は仲間の後ろ姿を見ながら、ふと思った。

 

(ついに、ここまで来てしまった。みんなのおかげでここまで来れたけど、あたしは大して何もできてない。結局、あたしは一人だけでは何もできない。あたしが言い出したことに、一緒に付き合ってくれたみんな。この中の、誰も死なせたくない。今からすぐに始まるだろうこの戦いで、あたしは何ができるだろう……)

 

 あと一歩。先頭の航希が進めば、明かりのあるところから完全に見える。そこで、いったん航希は止まった。他の者も、合図もないのに足を止める。

 一呼吸の後。

 航希は、勢いよく踏み出しだ。階段を蹴って曲がり、跳んだ。京次も、笠間も、文明も段を駆け降りていった。愛理とユリも続き、曲がり際の、明かりが見えるギリギリまで進む。

 曲がった先は、階段はほんの5段ほど。一気に跳び下り、航希は明かりの方へと向き直った。

 

「来たわね。ようこそ、来訪者さんたち」

 

 声の主は、明かりの灯された地下室の、一番奥にいた。

 大きな地下室だった。横幅は5メートル、奥行きは10メートルは優にあろうか。

 部屋には、ほぼ何もなかった。あるのは奥に置かれた、横に2台並べられたオフィス机だけ。その机の向こう側、その中央に立っていた、30歳ほどのスーツ姿の女性。冷ややかな笑みを浮かべているのが、城之内未麗だと航希は直感した。

 未麗の隣に付き従うように右側に立つ、神原の姿。こちらも、静かな表情だ。

 

(操も、キャビネットも見えない! キャビネットは、あの机の下に潜り込ませることもできそうだ。となると、操はキャビネットの中か?)

 

 そう考えたのは、本当に一瞬だけだった。そして、こうした状況も、作戦会議で想定済だった。

 〈サイレント・ゲイル〉を足元に出すと、高速で床を滑った。狙いは、神原のいない方の、机の左側の端。

 その手前で高速移動を停止、机を回り込もうとした時。

 机の隅の死角で隠れていたスタンドが、躍り出た。それを頭で感じる前に、航希はスタンドを消し、咄嗟に後ろに下がっていた。

 鼻先を、スタンドの剣先が掠めていた。

 

「操!」

 

 〈ファントム・ペイン〉の隣に現れた、おそらくは机の向こう側で座り込んでいたであろう、無表情な彼女の姿を航希は見た。

 剣士のスタンドが再び構え直した時には、京次も笠間も地下室の床に降り立ち、踏み込んでいこうとしていた。文明は、階段の手すりから頭だけ出し、〈ガーブ・オブ・ロード〉の両手を突き出させている。

 突然、未麗が叫んだ。

 

「演ぜよ、我が〈譜面〉を!」

 

 未麗の傍らに、人型のスタンドが現れた。音楽のヘ音記号のような髪型で、渦巻の中心が右目となっており、左目は髪で隠れて見えない。右手には、羽ペンが握られていた。

 羽ペンが、虚空に何かを書き込んだその瞬間。

 航希の頭に、〈虫の知らせ〉とでも言うようなものが、一瞬で駆け巡った。いや、京次にも、笠間にも、文明にも。壁から隠れて、様子を覗き込んでいた愛理もが、それを垣間見た。

 そして、未麗のスタンドの腹部の、透明なケースの中に収められた、柱時計のような振り子が揺れ始めた。

 

(体が動かん! スタンドも動かせん!)

 

 笠間は、床を蹴った姿勢のまま、完全に固まっていた。それは、京次も文明も、愛理も同じだった。

 動けるものは、航希だけだった。いや、体が勝手に動き出していた。

 

(オレは、笠間さんに回し蹴りを入れることになる! 分かっていても止められない!)

 

 航希の足が翻り、笠間の側頭部を鋭く蹴りつけていた。動かなかったはずの笠間の体が蹴り飛ばされて、停止している京次の進む先を遮るように転がった。それでも、笠間の体は自分の意志で全く動かせない。

 航希自身は、蹴りを入れた後で、未麗にまっすぐ向き直って止まってしまった。

 未麗の右手が、スッと上がった。

 その手には、拳銃が握られていた。銃口が向いている先は、航希の心臓。その間も、振り子は2回、3回と揺れ続けている。

 

(ウッソだろ!? 避けられないどころか、身動きできないってのに!)

 

「お行儀の悪い子ねえ。よそのお家に来たら、まずはご挨拶って、親御さんから学ばなかったの? もっとも、今から学んだって遅いけれども。あなたたち頑張りすぎて、予想より大勢来ちゃったから、一人くらい整理しておきましょうね」

 

 未麗は、眉一つ動かさずに、引き金を引こうとした。

 が、その指が一瞬止まる。

 

(この子……布が胴に巻かれている!)

 

 後ろにいる文明の〈ガーブ・オブ・ロード〉の布が伸ばされ、航希と京次に巻き付けられているのを、未麗は気づいた。京次からの〈波紋〉を、スタンドを銅線代わりにして、航希の体に流し込んでいたのだ。航希の体にも負担はかかるが、常に〈波紋〉を体に帯びている状態とすることができた。

 

(服部が柳生操に触れれば、彼女に張り付いている〈肉の芽〉が剥がれる。そういうわけね)

 

 そこまで考えて、未麗はハッと気づいた。振り子は、5回目の往復を終えようとしていた。

 

(時間がない! 心臓は、巻きつけられたスタンドに守られてる。頭に変更よ)

 

 銃口を上げると、引き金を引いた。

 航希は頭部を大きくのけ反らせ、血を迸らせながら床に倒れた。被っていた帽子が、床に舞い落ちる。

 だが、貫通はしなかったのか、銃弾は航希の背後の壁に当たって、小さな穴を開けた。

 

(外したか!?)

 

 未麗は、一瞬そう思った。

 だが、壁には鮮血が飛び散っていた。ピクリとも動かない航希の頭を見て、未麗は舌打ちした。

 

(頭にも、布を巻いていたか。頭皮くらいは削ったみたいだけど。衝撃で気絶したようね。まあいいわ。その方が後々都合がいい。それにしても、能力発動時は私もスタンドを動かせないのが不便だわ)

 

 振り子の揺れが、6回目を終えようとした時、未麗は言った。

 

「私が選んだ人間は、6秒間の来るべき運命を先に知ることとなる。それは、私によって紡がれた運命であって、逆らうこともできなければ、他の者が邪魔することもできない。『素晴らしい思い出』を、先に知ることができるというわけ。それが私の〈スィート・メモリーズ〉の能力」

 

 言い終わらないうちに、神原の傍らに〈ノスフェラトゥ〉が現れた。笠間も京次も、動けるようにはなったが、既に遅かった。

 

「〈エナジー・ドレイン〉!」

 

 〈ノスフェラトゥ〉の爪が伸び、笠間に突き刺さった。みるみる笠間の精力が抜かれていき、顔色が悪くなっていく。逆に神原は、凶悪な笑みとなっていき、スタンドも一際マッチョな姿の〈ノスフェラトゥ・メティシエ〉に変貌した。

 

「クッソ! 行くぜ先生!」

「少しは楽しめるのか? 小僧。クク……」

 

 京次を見据える神原の口元から、吸血鬼の牙が覗いた。

 〈ブロンズ・マーベリック〉を着込んだ京次が、力なく呻く笠間を跨ぎ、〈ノスフェラトゥ・メティシエ〉と向かい合った。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」

 

 両者のラッシュが、交錯し始めた。

 笠間は、もはやスタンドを出すこともできず、巻き添えを食わないように、萎えた体で這いつくばって下がるのがやっと。

 この事態に青ざめている愛理の肩を、ユリが揺さぶってきた。

 

「どうしちゃったのよアンタ! なんか固まってるし。どうなってんの? 銃声も聞こえたし」

「え?」

 

 愛理は、ふと尋ねていた。

 

「ユリさん。今、動けなくならなかったんですか?」

「はあ? 別に」

「あの、何も見なかったんですか?」

「あぁ……だって怖いじゃない! 部屋の中なんて見れないって! 私が攻撃されたらどうすんのよ。イザとなったら、アンタを守れって言われてんのに!」

 

 愛理は、強烈な違和感を感じた。

 

(ユリさんは、未麗さんの〈譜面〉を見ていない! 部屋の中を見なかったのは、ユリさんだけ。ということは、未麗さんからも、ユリさんは見えてない。もしかしたら、未麗さんが〈譜面〉で操ったり動きを止められるのは、未麗さんが認識している人間だけなのでは……?)

 

 さらに、愛理は推論を重ねた。

 

(私が見た〈譜面〉は、航希さんの行動だけだった。未麗さんは最初、心臓を撃ち抜くつもりだったのに、寸前で頭に変更していた。つまり、〈スィート・メモリーズ〉は行動を指定できるだけで、その結果までは決められない。未麗さんの言うような、運命を定められるものでは決してない!)

 

 一方で文明は、床に仰向けに倒れこみ、頭から血を流している航希を見て、顔色を変えた。

 

「よ……よくもーッ!!」

 

 〈ガーブ・オブ・ロード〉の左腕の布の、航希へと伸びていた途中の部分が、長く伸びて(たわ)んだ。中ほどで二つ折りとなり、その折り目が未麗へと躍りかかった。

 未麗は、予想しないこの攻撃を避けきれなかった。布が銃に絡みつくと、それを奪い取ろうとする。

 

「は、放しなさい!」

 

 銃ごと手を引っ張られて、未麗の体は机に乗り上げ、その上を滑って反対側に落ちてしまった。うつ伏せで呻く未麗の手からついに銃が離れ、文明の手元に放り出された。

 

(しまった! 銃をアテにしていて、武器は他に何も用意していない! 操を前に出して攻撃させ……それはダメ! 〈波紋〉が流れてる布に操が触れれば、〈肉の芽〉が剥がれ……ッ!)

 

 文明の布は、今度は操に伸びていく。

 

「柳生操! スタンドで防御しなさい! それなら〈波紋〉は効かない!」

 

 未麗が指示すると、〈ファントム・ペイン〉が前に出て、布に刀で斬りつけた。

 が、布はふわりと空中で揺らぎ、斬撃の鋭さを殺してしまう。天井近くまで大きく迂回し、操に迫ろうとする。

 

(くそッ! だけど、インターバルの時間は稼げた。もう一度発動するまで!)

 

「演ぜよ、我が〈譜面〉を!」

 

 未麗が立ち上がりつつ叫ぶと、その場の全員が一斉に停止した。布ももう動かない。

 

(こ……今度は僕の番なのか!? だけど、抗えない!)

 

 文明の体は本人の意志とは無関係に、銃を手にして立ち上がった。未麗の元へと、歩み寄ってくる。

 

「それでいいのよ……。どう、怖ろしいでしょうね? だけど、所詮あなたたちは、私の書いた〈譜面〉に従うだけの演奏者にすぎないのよ。それをよこしなさい! ご褒美に、死をあげる」

 

 操を押しのけて、文明へと寄っていった未麗は、銃を取り上げた。

 そして、立ちすくむ文明の額へと、至近距離から銃口を向ける。

 

(くそッ、動けない……ここまでなのか!?)

 

 文明は、込み上げる無念さの中、自分の命を奪おうとしている銃を見ているしかなかった。

 

「それじゃ、さようなら。手癖の悪いボウヤ!」

 

 引き金を引こうとしたその時だった。

 拳銃を持った右手が、突然半透明の塊に包まれたのだ。

 

「なッ!? 何よコレ!!」

 

 思わず、右手を振って振り落そうとしたが、全然効き目がない。

 

「無理だって」

 

 階段から姿を表したのは、ユリだった。

 

「私の〈エロティクス〉は、そんなんじゃ剥がれないから! 愛理から言われてたのよ。自分が動かなくなったら、みんなも動けなくなってるから、地下室を眺めてみろってさ!」

「な……何なのよアンタ!? どっから湧いて出たのよぉーッ!」

「人をボウフラみたいに言っちゃって。だけど、オバサンじゃ篭絡は無理だし、どうしたら……あ! この手があった」

 

 〈エロティクス〉が、蠢いた。

 その圧力で、引き金にかけられた右手の人差し指が、グッと曲げられた。

 鈍い発砲音が、響いた。

 が、発射された弾丸は〈エロティクス〉の中で止まってしまう。

 

「え? あれ? 銃口塞いで撃てば、暴発するんじゃなかったっけ?」

「な……何とんでもないこと言ってんのアンタ!」

「じゃ、もう一回」

「やめなさいよッ! ちょ、やめ……!」

 

 未麗の指が、何度も引き金を引いた。だが、弾丸は出るものの、全て〈エロティクス〉の中で止まるだけ。

 やがて、弾切れになったのか、音すらしなくなった。

 

「おかしいわねー」

「おかしいわねー、じゃないッ! いい加減放しなさいよ!」

「ハイハイ。それじゃ私、また待機してるから。後はみんなにお任せってことで」

 

 スタンドを消して、さっさと階段へと戻っていくユリ。

 呆然とする未麗の手元には、弾丸を撃ち尽くして、使い物にならない銃が残されているだけとなった。

 〈スィート・メモリーズ〉の振り子が、6回目の往復を終えた。

 

 

 

 

 

 その頃、別荘の一室では。

 

(さてと……。もう別荘に送り込む人間もいないみたいだし、ひとまず俺の役目は終わりだな。後は、頃合いを見て脱出するだけなんだけど)

 

 若いパーカー姿の男が、カバンの中身を改めていた。

 その中には、男の私物と一緒に、途中で折れた〈矢〉が入っていた。これを使って、未麗はスタンド使いを学園内に生み出していたのだ。

 

(聖也様の御為にも、この〈矢〉は忘れないようにしないとな。いつも富士急ってのもアレだし、どうせ行くなら、久しぶりにナガシマかな? 〈ドドドン・パッ〉の新コースのアイデアも考えたいし。スタンド使いを増やすにも、人が大勢いる遊園地はピッタリでしょ!)

 

 旅行気分でウキウキしながら、男がカバンのジッパーを閉めようとした時。

 メキャッ! と、鍵のかかっているはずのドアノブから、嫌な音がした。

 

「何だぁ……?」

 

 妙な胸騒ぎがして、男は扉へと歩み寄った。

 そして、ロックを回してみたが、何の手ごたえもなく、スカスカの感触だ。

 男は、ドアノブを掴んで、引き開けてみた。

 

「う!?」

 

 扉の反対側には、ドアノブはなくなっていた。

 代わりにあったのは、甲羅のようなもので覆われている、大柄な人間と同等の大きさの腕。その関節部分から、小さな足が幾つも生えており、それが小刻みに動きながら、扉に張り付いていた。

 

「う、うわぁーッ!!」

 

 悲鳴を上げながら、腕から飛び退いて、部屋の奥へと逃げ出す男。

 それが、男の最期の声となった。

 

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