城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第1章 ジョーカーズ始動!
第1話 鎖につながれし、若き獅子たち


「とにかく、ブン殴ってみてーんだよ」

 

 武原京次(たけはらきょうじ)は、凶悪な笑みを浮かべていた。

 軽く握られたその手が、赤い岩石の手袋を付けたようになっている。

 

「君の〈スタンド〉……か。その力は何のためにある? なぜ戦いたいんだ?」

 

 眼鏡の奥から注がれる、天宮文明(あまみやふみあき)の視線は、鋭く探るようであった。

 そう尋ねられた京次は、むしろ、きょとんとした表情を浮かべた。

 

「戦うことに、イチイチ理由なんざ必要か? ソイツは、人間の本能ってヤツに根差した代物だろ」

「僕は、人間の理性を信じてる。本能を理性で制御するのが、人としての理想のはずだ。そもそも、君は誰でも殴るのか?」

「フン! こいつを使うのはなぁ、そうだなー……」

 

 少し考えて、京次は続けた。

 

「聞く耳ってモンがねぇヤツか、さもなきゃ、殴る価値があるヤツだな」

「殴る価値?」

「強いヤツがいたら、俺の拳とどっちが強いか、確かめてみたくなるんだよ。……っていうか、確かめてみてぇなぁぁ……おめぇが強いのは、もう分かってるんだよ」

 

 京次の、自分を見つめる瞳の中に、ゆらり、と殺気が漂うのを、文明は感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 時間を遡って、その日の朝のこと。

 〈城南学園 高等部〉と、門に書かれた校門。

 その前に、文明はいた。

 〈風紀〉と書かれた腕章をつけた彼は、門を潜る学生たちを一人一人、見逃さないよう眺めている。

 

「あー! ちょっと待って! 綾瀬先輩」

 

 文明の呼びかけに、綾瀬は面倒くさそうに振り返った。

 

「両手にしているブレスレット。……そう、その、鎖でできてるやつです。ブレスレットは校則で禁止されてます。すぐに外してください」

「るせーな風紀委員。授業の前には外すよ」

「先生に見つからなければいいという話じゃないです。校内に入ったら、校則が適応されます」

 

 ギロッ。

 強面の綾瀬が、文明に顔を近づけて睨みつけてきた。

 

「あのな。このくれーは、やってるヤツは割といんだよ。見つけたら、イチイチそうやってアヤつけて回るのかよ、おめーは?」

「気づけば、例外なく注意させてもらいます。僕の役目ですから」

 

 全く視線も逸らさず、身じろぎもしない文明に、綾瀬の苛立ちが目に見えて強くなる。

 

「綾瀬せんぱーい」

 

 背後からかけられた、むしろ面倒くさそうな声に、綾瀬は身をビクッと震わせた。

 

「なっ……なんだよ、武原!?」

「ブレスレットくれぇ、外してやりゃいいでしょうが? そいつが、言い出したら本当にしつっこいのは、アンタも知ってるでしょ?」

「ぐ……」

 

 巨躯の京次に寄り添っていた、小柄な学生が、口を挟んできた。

 

「天宮くんは、殴る蹴るしたって引きませんよー。殴った方が悪者にされるだけ。次に何かあったら、綾瀬先輩って停学になりかねないんでしょ?」

「うるせぇ、服部! 武原の腰巾着は黙ってろ!」

「うわ、こえーこえー」

 

 大げさな動きで、京介の後ろに隠れる服部航希(はっとりこうき)

 

「とにかく、ブレスレットを」

「分かったよくそ!」

 

 文明に促されて、顔をしかめてブレスレットを外す綾瀬。その際、嫌そうにチラッと京次を見た眼に、微かに脅えがあるのを文明は見て取っていた。

 

「これでいいんだろ!? ちっ」

 

 荒い足取りで去っていく綾瀬から、文明は視線を京次に移した。

 

「武原くん。口添えしてくれてありがとう。ただ、君も髪が少し伸びてきてる。校則では、襟にかからないようにとなってるから」

「分かってる。次の休みに、床屋に行くつもりなんだよ」

「ぜひそうしてくれ。君は言えば分かってくれるから助かる」

「うるせぇ風紀委員がいるからな」

 

 悠然と、文明の横を通り過ぎていく京次。

 すぐ後についていく航希が、ニカッと文明に笑いかけた。

 

「じゃねー、ブンちゃん!」

 

 馴れ馴れしく手をあげる航希に、文明は苦笑いで答えた。

 

 

 

 

 

「おはようございます。天宮くん」

 

 教室に戻ろうとしていた彼に、髪を束ねた、理知的な印象の少女が、わずかに微笑んで声をかけてきた。

 

「あぁ……間庭くん。おはよう」

「立ち番お疲れ様でした。何もありませんでした?」

「幾人か注意はしたけど、特に問題はなかったよ」

「それは何よりですね」

 

 彼女は向きを変えて、廊下を進み始める。同じクラスなので、何となく彼女に付き従うように、文明も足を進める。

 

「あ、今日って何日だっけ?」

「25日です。模試の結果が返ってくる日ですから」

「あぁ……そうだった……」

 

 ずーん、と、項垂れる文明。

 

「どうしましたか?」

「英語で大失敗……。 委員会で忙しい、とか言い訳にならないしね」

 

 特に君の前では、という台詞は、文明は飲み込んだ。

 間庭愛理(まにわあいり)。この城南学園の校長の娘だが、それだけで名前が校内で知れ渡っているわけではない。

 前回の模試では、校内どころか全国一位。生徒会でも、一年生が唯一就くこととなっている書記であり、来年は生徒会長になるのはほぼ確実という才媛である。

 

「一年生の結果なんて、ただの通過点ですよ。これから伸びる人も、当然いるわけですし。別に気にしすぎなくてもいいかと。……あ、それと一つ申し上げることが」

 

 彼女が、文明に視線を向けた。

 

「委員会でも議題に上るでしょうけど、昨日の夕方、喧嘩騒ぎがあったそうですよ。三年の不良同士で殴り合い。どっちもしばらく入院ですって」

「その話は聞いたよ。 そういえば今朝も、その人たちと同じグループの先輩が、ブレスレットつけてきてたから注意したよ」

「荒れた様子でしたか?」

「いや。 注意したら外してくれたし、おかしな雰囲気はなかったと思う」

「それなら問題ないですね。不良の人たちのイザコザが広がるのは好ましくありませんし。天宮くんも、不穏なことを見聞きしたら、生徒指導の先生と、委員会に報告お願いします」

「分かった」

 

 二人は、一年三組の自分たちの教室へと入っていった。

 

 

 

 

 

「……想像以上だった……」

 

 いささか呆然としつつ、文明は廊下を歩いていた。

 放課後の、部活へと急ぐ学生たちが、文明を追い抜いていく。

 

「数学まで、やらかしてたなんて……絶対、来月は小遣いが減らされる……」

 

 現実から目を逸らすように、文明は窓の外へと目をやった。

 すると。

 校舎裏手の、少し離れたところに、人影が見えた。

 京次が、すぐ後ろを歩く綾瀬へと、肩口から睨みを利かせつつ先を歩いている。

 

「確か、あの先は体育館裏……まさか。ベタすぎるだろ!」

 

 嫌な予感を覚え、慌てて文明は駆け出した。

 反対側にある、下駄箱へと。

 

「よりによって、遠回りを!」

 

 文句を言いつつ靴を履き替えると、一目散に駆け出していく。

 息を切らせつつ、体育館裏へと回り込んだ。

 地面にへたりこんで脅えた表情の綾瀬と、それを傲然と見下ろしている京次が見えた。

 

「綾瀬さんよぉ。あんまりスッとぼけてるようなら、俺にも考えが……」

「武原くん!!」

 

 文明の声に、二人がぎょっとして目を向けてきた。

 

「何やってるんだ! 君は喧嘩はするけど、弱いものイジメはしないヤツだって思ってたのに!」

「うるせぇ! とっとと消えろ!」

「そうはいかないよ! 放っては」

「逃げろっつってんだよ!! おめぇ、殺されるぞ!!」

「殺すって。誰が……!」

 

 そう言いかけた時。

 綾瀬の顔に、狡猾な笑みが浮かんだのを、文明は確かに見た。

 

「バカが! 〈チェイン・ザ・デスティニー〉!!」

 

 瞬時に、綾瀬のすぐ横に、異形の人型の〈何か〉が出現した。

 その両腕は、手首のところが枷となっており、短い鎖でつながれている。

 両腕が、文明と京次に向けられた。

 次の瞬間、手首から先が消滅し、手枷の両端が二人に飛んでいく。

 

「!」

 

 文明と京次、それぞれの左手に、手枷がかけられた。

 1メートルほどの鎖が、二人をつないでいる。

 

「へはっへはっへはっ! いーい眺めだな!」

 

 綾瀬が嘲笑う。

 

「念のため、〈スィート・メモリーズ〉も使っとくか! あらよっと」

 

 ポケットから綾瀬が出してきたのは、小さな懐中時計。

 その上部にあるスイッチを、綾瀬が押した。

 

(……!? 何だこの感覚は。何かが起こっている)

 

「〈消滅する時間〉ってヤツか! 事が終わったら、逃げ出す気だな」

「あったりめーだろ? 万が一にも、俺が捕まる可能性は消しときたいからな」

 

 ニヤニヤ笑いながら、綾瀬は続けた。

 

「おい風紀委員。さっき、誰がおめーを殺すか? とか聞こうとしてたよなぁ? 教えてやるよ。おめーを殺すのはな、そこの武原だ」

「なっ……」

 

 思わず京次を見ると、嫌そうに舌打ちしてきた。

 

「だから、逃げろって言ったんだ。おめぇは今、何が起こってるのか分かってねぇだろうが。俺たちはたった今、この綾瀬にハメられたんだよ!」

「そういうこと。俺の〈チェイン・ザ・デスティニー〉は、お前らのどっちかか、もしくは両方が戦闘不能になるまで外れねえぜ?」

「!? それじゃ、昨日の喧嘩騒ぎって」

「コイツの差し金だ! 例の二人のパシリやんのが、嫌になったんだろうぜ」

「黙れよ武原! てめーはコイツを殴り殺して、年少でお勤めしてくりゃいいんだよ!」

 

 くくっ、と、くぐもった笑い声をあげる綾瀬に、文明は叫んだ。

 

「何言ってるんですか!? そもそも武原くんと戦う気なんてない! 恨みがあるわけでもないのに」

「分かってねえなあ……お前ら二人、鎖で縛られてずっと一緒なんだぜ? 風呂もクソも寝るのも一緒。そんなこと続けてたら、ストレスたまるぜぇ? 遠からず揉めることになるさ」

「……」

「マヌケな風紀委員の登場で助かったぜ。気に入らねえ一年坊主二人で、心行くまで殺し合いをなさってくれや!」

「……つまり」

 

 腹の底から絞り出すような文明の声に、綾瀬の表情が一瞬止まった。

 

「あなたは、〈能力〉を悪用しようとしている。そういうことですね?」

「な、なんだぁ!?」

「それは! 決して許されることではないッ!! 〈ガーブ・オブ・ロード〉!!」

 

 文明の横に、人型の〈能力〉が出現した。白銀の鎧のような姿をしており、その手は包帯のようなものでグルグル巻きにされている。

 一瞬、呆気にとられる京次と綾瀬。

 先に立ち直ったのは、京次であった。

 

「ふ……ふはははは! おっどろいたぜ! 根性座った野郎だと思ってたが、まさか〈スタンド〉を使えるとはな! おめぇも、〈矢〉で射抜かれたクチか!?」

「……何のことだ? 分からない」

「急激に面白くなってきやがったぜ! 〈スタンド〉のないヤツを殴り殺すのは嫌だったが、そっちも同じ条件なら話は別だ!」

 

 京次は、爛々と光る眼で、文明を見た。

 

「これが俺の〈スタンド〉! 〈ブロンズ・マーベリック〉!!」

 

 京次の全身が、変化した。

 いや、全身に、赤銅色の外骨格がまとわりついたのだ。顔の部分だけは、マスクが縦に割れたように開き、素顔が露出していた。

 

「特撮ヒーローとかの、怪人……?」

「まぁ、ヒーローよりかは、そっち寄りなのは認めるぜ。この格好はな、〈スタンド〉を俺自身の拳で殴れるように、ってのがコンセプトだ」

「殴る相手を、間違えてないか? 本当の敵は、あちらだ!」

 

 〈ガーブ・オブ・ロード〉の両腕が、綾瀬目掛けて振り出された。

 その手から、包帯のような細長い布が高速で伸びていく。

 

「無駄だって」

 

 綾瀬がほくそ笑む。

 布が途中で方向を変え、〈ブロンズ・マーベリック〉をまとった京次の体に巻きついていく。

 

「へははは! 〈チェイン・ザ・デスティニー〉でつながれた二人はな、攻撃衝動が相手に向けられちまうんだよ! 俺を攻撃しようとすると、実際のターゲットは武原になる。武原、お前も風紀委員しか攻撃できねえぜ!」

「どうもそうみてぇだな。間合いをてめぇに詰めようとしても、天宮に足が向かいやがる」

 

 凶暴な笑みを浮かべながら、進み寄る京次。

 その足元に、〈ガーブ・オブ・ロード〉がまとわりつく。

 

「近づけさせねぇってことか。だが甘いぜ!」

 

 京次の手が、文明に伸びた。

 文明は、何もない空間を〈ブロンズ・マーベリック〉が〈掴んだ〉のを、感じ取った。

 

「せいやっ!」

 

 〈掴んだ〉ところを手掛かりにして、京次が宙を飛んだ。

 その岩石のような拳が、文明の顔面を捉えた。

 たまらずのけ反り、後ろに転がる文明。眼鏡が吹き飛び、遠くに転がる。

 が、腰を落とした体勢で、京次に向き直る。

 ボタ、ボタ、と流れ出る鼻血。しかし、その目は、猛禽のように京次を睨んでいた。

 

「ふふ……ふはははははは!!」

 

 大音声で笑い出す京次。ぎょっとする綾瀬。

 

「いい! いいよおめぇは! 強い弱いは、顔面ブン殴ってやると分かるんだなぁ! どんなスゲェ体してようが、デカい口叩こうが、弱いヤツはそれだけでビビる! ……さあ、やろうぜ。続きを」

 

 再び両手を空中に伸ばし、空間を掴むと空中に伸び上がる。

 そして、器用に体勢を変えて、頭を文明に向けると、今度は両足で、何もない空間を蹴った。

 まるでロケットのように、頭突きが文明を襲う。

 

「同じ手は食わない!」

 

 文明が、後ろから引っ張られるように、急激に後退した。頭突きを空振りし、地上を転がる京次。

 〈ガーブ・オブ・ロード〉を、少し離れた背後の大岩に回して、引っ張ったのだ。そのまま、大岩の背後に隠れる文明。

 

「邪魔ァッ!!」

 

 いきなり、大岩が砕け散った。瓦礫が横殴りに吹き飛ばされる。

 砕けた岩の向こうから、京次がニヤリと笑っていた。

 

「……!」

 

 文明が息を飲んだ。

 

「へはははは! 今度はお前の頭がそうなる番だぜ! せいぜい、優等生の脳ミソ散らばして見せてくれや!」

 

 綾瀬が愉快そうに眺めている。

 

「……そうはいかない!」

 

 文明は、〈ガーブ・オブ・ロード〉を京次の足から離した。同時に、他の木に布を飛ばして自分を引っ張る。鎖につながれている京次を引きずりながらも後退する。

 

「この俺を、引き倒そうってか! なら、足を離したのは間違いだぜ!」

 

 京次も素早く踏み込み、文明との間合いを縮めにかかる。

 文明は、布を空に飛ばした。狙うは、校内と外を隔てる柵、そのすぐ傍にある電柱の天辺近く。

 全力を込めて、文明は自分を空中に引っ張り上げた。京次も、腕の鎖を引っ張られて宙に浮く。

 

「俺は、空中を〈足場〉にできる! 空中戦もお手の物だぜ!」

 

 空中を蹴って、京次がさらに高く飛び上がった。文明の頭上より高く。

 そこから、眼下の文明目掛けて、踏みつけるように蹴りを放った。

 しかし、文明が急激なスピードで落下し、蹴りが空振り。

 布が、地面近くの木にすでに伸びていた。綾瀬が呑気に身を預けていた木へ。

 

「え、え!?」

 

 綾瀬は、自分の方へと落ちてくる二人にうろたえ、慌てて飛び下がる。

 が、着地した二人が、さらに綾瀬に飛んだ。地面に伸びていた布に足を取られ、綾瀬がよろめく。

 何とか転倒しなかった綾瀬が気づいた時。

 綾瀬は、文明と京次、二人の間に入り込んでいた。

 

「このポジションを、取りたかった……」

 

 文明が呟く。

 

「あなたを、僕も武原くんも、直接に攻撃はできない。ただ、一つだけ例外がある」

「え……?」

「あなたが、僕と武原くんの間に入り込んで、戦いの障害物になっている場合だ。さっきの大岩のようにね。僕は、あなたを避ける形で布を回り込ませて、武原くんを捉えることができる」

 

 〈ガーブ・オブ・ロード〉の両腕が伸びて、京次の足腰にまとわりついた。ただし、その布が綾瀬の両側を遮るようになっており、綾瀬は動きが取れない。

 狼狽える綾瀬に、京次が凶悪な笑みを見せていた。

 

「だけど俺は、アンタっていう障害物を排除しない限り、天宮を攻撃できねぇんだ。早い話、アンタは戦いの邪魔なんだよ」

「え、あ、ああ……」

「邪魔ァッ!!」

 

 強烈な右フックが、綾瀬の横面を襲った。

 が。

 〈チェイン・ザ・デスティニー〉が本来の腕に戻され、鎖が右フックを何とか食い止めていた。

 

「……バーカ」

 

 ドスッ!!

 猛烈な左のボディブローが、綾瀬に食い込んだ。

 顔色を変え、今にも吐き戻しそうな綾瀬。

 

「パンチをガードするために、本能的に、鎖を俺たちから外して戻しちまっただろ。まったくよ、もし天宮なら、顔面潰されても鎖は離さなかっただろうぜ。……とにかくこれで俺たちは、アンタを直接攻撃できるってわけだ」

「うぐぅ……」

 

 脅えた眼の綾瀬を、ギロッ、と京次が睨みつけた。

 

「ムカつくんだよ。自分で殴りもしねぇで他人にやらせるとかよ。大体な、俺と天宮の戦いに、てめぇごときが介入してんじゃねぇよ。戦いが汚れるんだよ!」

「ひぃっ!」

 

 〈ブロンズ・マーベリック〉に包まれた、京次の拳が上がった。

 

「チェ、〈チェイン・ザ……〉」

「そうはいかない!」

 

 手枷つきの鎖が飛ばされた直後、布がまとわりつき、空中高くでグルグル回し始めた。

 

「また僕と武原くんをつながせることはさせない。 あなたの鎖は完全に捉えた」

「邪魔ッ!」

 

 右アッパーが、綾瀬の顎を完璧に捉えた。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ッ!」

 

 激しいラッシュが、綾瀬と、ついでに腕のない〈チェイン・ザ・デスティニー〉を連打する。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ァッ!! 邪魔なんだよてめーはッ!!」

 

 潰れかけのサンドバッグ状になった綾瀬が、柵に激しく叩きつけられた。

 文明は、転がっていた眼鏡を拾うと、再びかけ直した。鼻血は止まってはいたが、触らなくても鼻の骨が折れているのは分かっていた。

 

「……し、死んでない、よね?」

「さすがにそこまではできねぇよ。ま、スタンドは再起不能ってとこだ」

「スタンド? さっきから何度も言ってるけど、それって〈能力〉のことか?」

「分かってねぇのかよ! おめぇのガーブ何とかってのと同じだ。ま、それについちゃ、おいおいということでな」

 

 京次は、〈ブロンズ・マーベリック〉を引っこめないままで、文明に向き直った。

 

「……さーてと。邪魔者もいなくなったし、続きやるか!」

「え!? 僕と!? まだやるの!? ……えーと……なんでそんなに喧嘩がしたいんだ?」

「え? そりゃおめぇ……」

 

 ほんの少し考えると、京次は答えた。

 

「 とにかく、ブン殴ってみてぇんだよ」

 

 

 


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