立向島での戦いから月日が立ち、翌年の春を迎えた。
ジョーカーズの面々は、揃って2年生に進級していた。
桜の花弁の舞い散る中、文明は校門で立ち番をしていた。腕には〈風紀〉の腕章がある。
校門をくぐる新入生の一人に目をやると、文明は声をかけた。
「あ、そこの君。ブレスレットは校則で禁止されている。外してくれ」
「あぁ? エッラそーに口出してんじゃねーよ。俺はなぁ」
絡みだした不良の腕を、通りがかった別の不良が引っ張った。
「バカやめろって! ……あ、スイマセン! コイツ、まだ分かってないヤツで。言い聞かせておきますんで!」
「そうかい? 仲間同士で注意し合うのはいいことだ」
不服そうな仲間を引っ張って、その不良は文明から離れていった。
「何だよ! 風紀とかにゴマするのかよ」
「やめろって! ありゃ、裏番って評判の、天宮センパイだぞ」
「え!? 裏番!?」
「声がデカいって!」
聞かれなかったかと、文明をチラ見する不良。
「お前も知ってるだろ? このガッコ最強って呼ばれてる武原京次センパイ」
「あ、ああ。スンゲー体のあの人だろ? 空手もメッチャ強いっていう」
「あの武原センパイが、一目置いてるほど強いんだってよ。あの人」
「ウッソだろー!? だって、あんな眼鏡のガリガリが」
「いや。喧嘩はガタイじゃねーって、武原センパイも言ってるみたいだし。見てみろよ、目力がハンパねーだろ?」
「言われてみれば確かに……あ!」
噂にしていた京次が、校門にやってくるのを、不良たちは見た。固唾を飲んで、文明の側まで来るのを見つめている。
「おはよう。京次くん、襟足伸びてない? 新入生も入ってきてるのに、示しつかないよ」
いきなりそう切り出した文明に、ビビりまくる不良たち。
一方の京次は襟足をさすりながら、
「分かっちゃいるんだけどよ。あれ以来、油断するとすーぐ伸びちまうんだよ」
「もうアレだよ。サラリーマンが髭剃りする感覚で、毎日するしかないんじゃない?」
「それしかねぇか。お、二人とも来たか」
京次が振り向いた先から、航希と操が近づいてきていた。
「もう、逃げないの!」
「だって。さすがに校門で腕つなぐとかは、ちょっと」
「何がちょっとだよ。ボクは全然問題なし! あ、文明くんの立番かぁ」
無理やり航希の腕を捕まえた操が、声をかけてきた。
「愛理くんて、もう来てる? 貸すことにしてた本、持ってきてるんだけど」
「彼女なら、会場で挨拶のリハーサルしてるはずだよ。生徒会長だし」
「あ、そうだよね。なら、また教室で声かけるよ。じゃあね」
手を振ると、操は航希を引っ張るように去っていった。
それを見送る不良たちは、
「クッソ~! 何だよあのリア充どもは。うらやまけしからん! しかも結構カワイかったし」
「何言ってんだよ。天宮センパイの彼女なんて、学園一の美少女って知られてんだぞ」
「え、確か笠間明日見ちゃん……」
「そーゆーことは耳が早いよな。だけど、ちゃん付けはやめとけやめとけ! 彼氏がヤバすぎる」
「そ、そうだよな……」
文明が自分たちを見たような気がしたので、コソコソと先に進む不良たちであった。
間庭家にて。
「お父さん。もうこんな時間よ~。出なくっていいの~?」
「そうなんだ。来賓の方を、私がお迎えにいくことになっている。急がないと」
内容と裏腹に、ノンビリした口調の妻に、間庭数馬は返答した。
「今日から、お父さんが理事長だものね~。ガンバってきてね~」
「分かっているよ。愛理だって、生徒会長の初仕事だからな。私もシャキッとしないと」
「そうよね。愛理ちゃんだって、ガンバってるんだものね。じゃ、いってらっしゃ~い」
夫を送り出すと、数馬の妻はニコニコ笑いながら、リビングに戻った。
「あらら~? スミリンちゃん、また新聞読んでるの~? 社会勉強してるのね~。私なんかより、よっぽどキチンと読んでるのよね~」
黒猫のスミリンは、飼い主の呑気な声を意に介する様子もなく、床に置かれた新聞をじっと見下ろしていた。
その背後には、最近になって、愛理の見立てで購入した、ネコ足のキャビネットが置かれていた。
立向島にて。
「お? アンタも来てたのか」
手桶とシキビを抱えてきた笠間は、墓掃除をしていた藤松を見つけた。
「ワイは毎週来てるで。あんなお人たちでも、死ねば仏様やさかいに」
「ま、俺の場合は、他にも拝まなきゃならない人間が何人もいたりするんでな。そんなことしても今更、極楽に往けるなんて思っちゃいないが」
墓には、亜貴恵たち三人とフレミングの名前が刻まれていた。その隣には、炭三の墓もある。
「そう思うんなら、しっかり阿弥陀様を拝んとき。ところで、今年の夏は、みんなで来るんか?」
「みんな、そのつもりだよ。別荘の改装も進んでるようだしな」
「間庭理事長のおかげやわ。ワイら家族も、この島でペンションやって自活できそうやし。慎志のヤツ、船舶免許取りよったしな。みんなを乗せて釣りを楽しんでもらうから」
「ああ。みんな、楽しみにしてるよ。この島は、俺たち全員にとって、思い出の場所になってる……」
笠間は、過ぎ去りし日の激闘を、思い出していた。
「もっと、思い出作ったらええ。いっそ、アンタらの結婚式もこの島でやりぃな。ワイが牧師やったるで?」
「アンタ、バリバリの仏教徒だろうが! 第一だな~、まだ愛理は高校生だぞ。気が早いだろ!」
「はて? 誰も、愛理はんのこととは言うてないのにな~。気が早いのは、どちらやろか?」
「あのな、ホントもう黙っててくれよ!」
笠間は、シキビの枝で、藤松の胸板にバサリと突っ込みを入れた。
放課後、部室にて。
「スイマせ~ん……」
扉がガラガラと開けられ、一人の新入生が入ってきた。
「あの、入部希望なんですが」
「ふむ。軽音楽部かね?」
中にいた神原が、そう問うた。
「悪いが、軽音楽部はこの春から、音楽研究部に衣替えした。バンドを組んでいた二人が、揃ってなかなか部室に来られなくなったのでね」
「そうなのよ」
明日見が補足した。
「片方は、シンガーとしてメジャーデビューが決まりそうだし、もう片方は、そのー……モデルの仕事が増えてくるって話なのよ」
グラビアアイドルとして、とはさすがに言いにくいので、明日見もお茶を濁した。平竹の紹介でユリが入った事務所だったが、その平竹とは単なる知り合い程度の関係だったらしく、却って普通のタレント候補生として扱われているという話だった。
「あの、そうじゃないんです。その……ジョーカーズの噂、聞きまして」
「出せるかね?」
「はい?」
「この場で出せるかね? と尋ねているのだよ」
「は、はい」
新入生は、自分の傍らに、スタンドを出して見せた。
「なるほど。では、君で3人目だな」
言われてみると、椅子に座っている新入生らしき姿が、すでに2人いる。
「入部したいというなら、君には守ってもらわねばならない規則がある。聞きたまえ」
神原は、咳払いをして、朗々と述べ始めた。
「第一条。スタンドを悪用するべからず。第二条。自他を問わず、スタンドを誇示したり、スタンド使いであることを吹聴するべからず。第三条。スタンドによる部員同士での私闘を禁ず。第四条。スタンドに関する事象が発生した場合には、部内で速やかに情報を共有し、部全体での解決を目指すべし」
ここで神原は、いったん言葉を区切って、そして続けた。
「第五条。何事においても、〈黄金の精神〉をもって行動するべし。以上、誓えるかね?」
じっと聞いていた新入生は、やがて頷いた。
「分かりました。誓います」
「よろしい。入部を認めよう。よろしいな、笠間くん?」
「はい。……今日からあなたも、私たちの仲間ね。私たちは」
明日見は、ニッコリと笑って言った。
「城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!」
~~~完~~~