城南学園スタンド部、その名もジョーカーズ!   作:デスフロイ

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第3話 バンドは揉め事が多いもの

「センセ、この際一つほんっとに! 言っときたいコトがあンのよ」

「む、何かね? 天宮くんを我が〈スタンド探偵団〉に加入させるのが不満かね? 先ほどの一件の後始末を君にさせる羽目になったのは、あくまで成り行きでやむを得ないことと思うが」

 

 眉根をほんのわずかに寄せて、神原は遥音を見つめた。

 

「それは分かってるし、ンなことはいいんだよ。それより!」

 

 我慢の限界、と言わんばかりに遥音は叫んだ。

 

「いい加減、その〈スタンド探偵団〉とかいう、クッソダサいネーミングやめて!!」

「え? そこかね君の関心は? しかしだな、これは江戸川乱歩の時代より始まる、伝統的な……」

「そんなこと知るか! なんつーか、モチベーションがダタ下がンのよ!」

「困ったね須藤くんにも。君たちも、何とか彼女に言ってやってくれたまえ」

「いやあの、僕からも先生に言いたいことが」

「え? 私にかね? それは心外だが何かね」

 

 文明は、この先の説得に早くも徒労感を覚えつつ続けた。

 

「さすがに、グループの呼称に〈スタンド〉とか入れるのはマズいんじゃないかと。人前で口に出せませんよ。スタンドって何? とか聞かれたら説明できませんし」

「むぅ……言われてみればそうだな。そうすると、〈何々探偵団〉にするかが問題だが」

「だーかーら! その〈探偵団〉もやめてってば!」

 

 もはや、地団駄踏みそうな遥音。

 

「いっそさー。もう〈スタンド部〉ってことにしちゃおうよ。他の人には軽音楽部ってことにして」

 

 航希が、助け船を出しに行った。

 

「〈スタンド部・何とか〉にしたらどうかな?そんで、〈何とか〉の部分だけ普段は口にするとか」

「なるほど。しかし、問題は〈何とか〉の部分を、どうするかだね」

「んー……」

 

 少し考えた航希が、

 

「遥音! こないだ解散したとかいう、遥音のいたバンドって、何て言ったっけ?」

「ん? 〈ジョーカーズ〉、だけど」

「それもらおうよ! 〈城南学園スタンド部・ジョーカーズ〉」

「アタシのいたバンドの名前に、ダサい前振りをくっつけンな!」

「……いや、待ちたまえ」

 

 異様に真剣な面持ちになって、神原が制止した。

 

「私のルーツである英国。そこを発祥とした、邪悪と戦うスタンド使いの一族が存在するという。彼らは黄金の精神を持ち、代々その名前の略称から、〈ジョジョ〉、と呼称されるそうだ」

「〈ジョジョ〉……」

 

 不思議と、その場の誰もが、その名に畏敬の感情を抱いていた。

 

「これも天の啓示。〈城南学園スタンド部・ジョーカーズ〉は、略して〈ジョジョ〉と呼べる。彼ら一族にあやかり、これを我らのグループの呼称としようではないか」

 

 中空を仰ぎ、右手を天に捧げている神原に、遥音と文明が、ついに諦めた表情を浮かべた。

 

「……ま、いいよ。このセンセ、完全に自分の中で決定しちまってるし」

「ジョーカーズ、ならまだ人前で呼べるしね。バンドの名前だって言ってしまえるし……」

 

 

 

 

 

 彼らがそれぞれ下校。その途中で、遥音は喫茶店に入っていた。

 

「ンで、どんな話なのリーダー? あ、もう解散したンだから、タクヤって呼ばないといけないか?」

「嫌味な言い方やめてくれよ。俺だって、好きで〈ジョーカーズ〉解散したわけじゃないんだから、さ」

 

 ベース入りのケースを横に置いて、タクヤは困った顔を見せた。

 

「ユリが、そこまでボーカルやりたいってンなら、ひとまず一曲やらせてみりゃよかったンだよ」

「遥音とは格が違うだろ、明らかに! 正直言えよ。お前、ユリに負けるって思ってないだろ?」

「やりもしないで、負けるって思うほど、アタシは腰が引けてるつもりはない!」

「そーゆーこと言ってるんじゃないんだけどなー……」

 

 タクヤは頭を抱えていたが、やがて顔を起こした。

 

「まあ、それはもういいじゃねーか。済んだ事だ」

「……」

「嫌そうな顔すんなよ。なあ、もう一度やり直さねーか? お前と、俺で」

「アタシたち二人で? ……他のメンバーはどうすンの?」

「それなんだけどさ! 柴崎先輩が、メンバー紹介してくれるって言うんだよ。ギターも、キーボードも、もっといい腕のやつを連れてきてやるって!」

「……また、柴崎先輩かよ」

 

 うんざり顔を、遥音は隠さなかった。

 

「この際だから言っとくよ。アタシは、あの柴崎先輩は虫が好かないンだ」

「え……?」

 

 目を丸くして、二の句が継げない様子のタクヤ。

 

「な……何で?」

「いっつも上からモノ言うしさ。何かと強引で。あの人、アタシらを下僕と勘違いしてねーか?」

「俺は、頼りがいのある人だと思ってる! 今までも、何かと世話になってるし……」

「アンタ的にはそうなンだろーねー。どっちにしろ、アンタってちょっと薄情すぎないか? もう一度、メンバーのみんなと、ハラ割って話し合うべきだと、アタシは思ってるよ。あの先輩に頼むのは、それからでも遅くないだろ?」

「いや、遥音、あの……」

「今日のところは、これ以上話しても仕方ないっぽいね。これで帰らせてもらうよ」

 

 遥音は、自分の飲み物の分の小銭を置いて、席を立った。

 タクヤは、それをただ見送るだけだった。

 

 

 

 

 

『んで? 結局、遥音を説き伏せられなかったってわけか』

「い、いや先輩! まだ、これからっていう話で……」

 

 自室の中で、汗を拭いながら、スマホに弁解するタクヤ。

 

『チッ! お前、リーダーとして押しが弱すぎんだよ。お前が頼りないから、遥音もついていかねえんだよ。いいか? 俺とお前の新バンドに、遥音は絶対不可欠だ。あいつの才能はケタ違いだからな』

「分かってます……」

『だから、絶対に遥音は説き伏せろ。どんな手段を使っても、だ。メジャーデビューしたけりゃ、ここが正念場だってことを忘れるな。いいな。期待してるぜ』

 

 通話が切れるとタクヤは、目の前にあるPCの画面を見つめた。

 動画投稿サービスの画面。そこには、タクヤたち〈ジョーカーズ〉の演奏する映像も映し出されている。

 

「どんな方法を使っても、か」

 

 ぽつり、とタクヤは呟いた。

 

「やっぱり、コータのヤツに一仕事してもらうしかねーな。俺のスタンド〈コール・オブ・デューティ〉でな。そうと決まれば、『仕込み』を始めるか」

 

 薄ら笑いを浮かべながら、タクヤはPCの前のキーボードを叩き始めた。

 メッセージ性のある動画を、配信するために。

 

 

 

 

 

 翌日。

 珍しく誰もいない軽音楽部の部室に、二人の人影が入ってきた。

 

「なーんだ! 待ち合わせ時間早めてきたクセに、タクヤもいないじゃない!」

 

 先に入ったユリがむくれて見せた。ウェーブロングを栗毛に染めた、派手な印象の美少女だ。

 その背後についてきたコータは、返答せずに黙っている。

 

「そういや最近、ここに遥音の取り巻きが巣くってるって噂だけどさ。ここっていつからあの娘個人の部屋になってるわけ? ムカつくんだけど。この際、タクヤにビシッとケジメ……!?」

 

 突然、コータがユリに飛びかかってきた。

 そのまま押し倒すと、体をまさぐろうとする。

 

「ちょ、ちょっと! 何やってるのよいきなり!」

 

 瞳孔の開いたままの目でユリを見下ろしながら、コータはユリの制服のボタンに手をかけようとする。

 が。

 その手が、ぴたりと止まった。

 

「……そんなに、私が欲しいわけ? だったら、乱暴はやめてほしいのよ、ね」

 

 ユリの目が、異様に輝いていた。

 コータの袖口から、うねうねと、透明なゼリー状の何かが潜り込みつつある。

 

「いーい気分にさせてあげるよ? 私の〈エロティクス〉でね」

「あ…う…」

 

 コータの口から、切なそうな声が漏れた。

 だが、それも一瞬。

 コータの体が、ビクリと動いた。

 そして、再び荒々しくユリをまさぐろうとする。

 

「な、何で!? どうして!? そんなバカな! 私の……」

 

 取り乱しかけたユリが、言葉を止めた。

 コータの首に、何かのコードが回され、背後から引っ張られだしたのだ。

 

「おい、コータ!! アンタ、何ふざけてンだ!」

「うっ…ぐっ…!」

「アタシたちの部室で、おかしなコトやらかしてンじゃねーよっ!!」

 

 遥音に勢いよく引っ張られ、コータはユリから引き剥がされた。そのまま、壁まで投げ飛ばされる。

 ユリは〈エロティクス〉を消すと、乱れかけた襟元をかき寄せた。

 

「大丈夫かい、ユリ!?」

「う、うん」

「コータ、アンタ何てことを……えっ、スタンド!?」

 

 遥音の台詞に、ユリは息を飲んだ。

 

(スタンド? 何それ? ……え、あれは!?)

 

 遥音がまじまじと見つめていたのは、コータの耳に入っていたイヤホンだった。先ほどまでは、長髪に隠れてよく見えなかったが、胸ポケットにコードが入り込んでいる。

 もぞもぞっ、と、イヤホンが動き出そうとしたが、遥音の持つマイクのコードが絡みつく。

 厳しい表情だった遥音が、ハッと気づいたように、ユリの方を見た。

 

「アッ、アタシ、ちょっとこのバカ野郎に水でもブッかけてくるよ! 他のメンバーには、後で来るって言っといて!」

「わ……分かった」

 

 コータを引きずるように出ていく遥音。彼女が去っていった戸口を、ユリは呆然と眺めていた。

 

(今のって、私と同じような能力!? 〈エロティクス〉が効かなかったってことは、コータは操られてたってこと? っていうか、遥音ももしかして、能力持ち!? あのイヤホンを見て、遥音は明らかに驚いてた。え、そうすると、イヤホンは別の人間の能力? ……もっと、大勢の能力者がいるっていうことなの!?)

 

 頭の中で、思考がグルグル回り続けるだけであった。

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 バー〈スキップビート〉。

 柴崎は、テーブルに足を乗せたまま、カラになったグラスを軽く振った。

 

「すいやせん、持ってきます。それとも、マスター起こしますかい?」

「いいよ別に。適当にボトル選んで開けろ。後で清算すりゃいい」

「分かりやした。だけど、マスターが居眠りなんて、珍しいですよね?」

 

 愛想笑いの取り巻きには返事せず、向かいに座っているタクヤに顎をしゃくった。

 

「それで? 首尾はどうなんだ」

「はい。ケリがつくようにしておきました。〈ジョーカーズ〉は解散に一直線です。遥音も、他に行き場がなけりゃ、俺や先輩についていくしかないでしょ」

「ついてこさせるんだよ! ま、イザとなりゃ、スペシャルに物を言わせりゃいいわけだがな……」

 

 取り巻きたちの下卑た笑い声を、柴崎が手を振っていなした。

 その時、カウンターの奥で、誰かが立ち上がった。

 

「はーん? ずいぶんユカイなお話してるじゃないのさ」

「!? 遥音!」

 

 タクヤが驚いたが、柴崎はやや首を傾げただけ。

 

「意表をついたご登場だな? どういう風の吹き回しだ」

「ちょっとね、返してやるモンがあったんで。受け取りな、タクヤ!」

 

 テーブルに投げ出されたものを見て、タクヤは血の気が引いた。

 柴崎はそれを眺めていたが、

 

「……何だこりゃ? この携帯プレーヤーがどうしたって?」

「その様子だと、アンタはこれが何なのか知らないようだね? タクヤの単独犯ってワケか」

「あぁ? 遥音、誰にアンタとか」

「タクヤ」

 

 柴崎を無視して、遥音は語りかけた。

 

「イヤホンはなくなっちまったよ。それが、どういうことが分かるね?」

「……」

「この中に入ってた動画は、アンタが作ってサイトにアップロードしたヤツだけだった。アタシたちメンバーにも、新曲のデモ動画とか言って、ダウンロードして聴くよう指示してたよね?」

「……」

 

 タクヤの顔から、汗が次々と滴ってくる。

 

「アタシもダウンロードしようとしたけど、できなかった。今考えると、〈スターリィ・ヴォイス〉をつないでたから、おかしな『仕込み』がしてある動画を弾いてたンだ」

 

(遥音に効かなかったのは、それでか! ウイルスソフトに引っかかったか……今までそんなことなかったのに……)

 

「遥音! いじめるのも、その辺にしといてやれ」

 

 柴崎が、やや声を荒げて言った。

 

「このバカが何をしたのか知らんが、コイツもお前と上を目指したいって気持ちは本当だ。そこんとこは汲んでやれ」

「コイツと一緒に? 絶対にお断りだね。もちろんアンタともだよ、柴崎!」

「な……!」

 

 取り巻きたちが、血相を変えて立ち上がった。

 

「タクヤのクソッタレは、『仕込み』つきの音楽で、人を操ってた。ヘドが出るよ。だけど柴崎、アンタは音楽すら使わず、人を操ろうとするよね?」

「!?」

「このバーの匂い。ズバリ、大麻だろ? 他にも、いろいろクスリ使ってるのは知ってるンだよ」

 

 取り巻きたちが、一斉にカウンターに取り付き、遥音に飛びかかろうとした。

 遥音の手に、〈スターリィ・ヴォイス〉が現れた。

 

「〈ブラスト・ヴォイス〉ッ!!」

 

 その瞬間。

 衝撃波が、取り巻きたちだけでなく、柴崎やタクヤにも襲い掛かった。全身が強烈な痺れを起こす。食らった全員が、床に崩れ落ちた。

 テーブル上のグラスは、少し揺れただけで、すぐに静止した。何一つ、壊れていない。

 信じられない、という目を、柴崎は遥音に向けた。

 

「あ……う……」

「安心しな。一時間もありゃ、元に戻る」

 

 そして、〈スターリィ・ヴォイス〉のコードがタクヤの首に巻き付き、遥音の眼前まで引き寄せた。

 

「聞けよ。クズ野郎。言って聞かせることが、三つある」

「う……」

「一つ。アンタとは、今日限りで縁切りだ。そこのクソ先輩ともな」

「……」

「二つ。動画投稿は、もう二度とするな。あのチンケなスタンドは、『仕込んだ』動画をダウンロードしないと、携帯プレーヤーに送れないんだろ? アレを今度悪用したら、再起不能にしてやる」

「あう……」

「三つ! 〈ジョーカーズ〉は、アタシが引き継ぐ。今後はもちろん、かつて〈ジョーカーズ〉にアンタがいたことも、全て忘れろ。〈ジョーカーズ〉の名が汚れるからな!」

「な……何、言って……。たった、一人で……〈ジョーカーズ〉って……」

 

 どさり、とタクヤが床に投げ出された。

 

「一人じゃないんだよ。〈ジョーカーズ〉は」

「あ、あいつら……? 無理だろ……」

「そうじゃないんだな。ま、アンタは知らなくてもいいこった」

 

 遥音はタクヤから目を離すと、スマホを取り出した。

 善良な一般市民として、大麻吸引および薬物服用、ついでに未成年飲酒の通報をするために。

 

 

 

 

 

 やがて、店から出てきた遥音。その姿を見ていた人影があった。

 

(タクヤはまだ店の中かぁ……。ガラの悪そうな人たちと一緒だったけど、どんな話になったんだろ?)

 

 ユリは、店の近くのコンビニ前で、ダベっているフリをしながら考えていた。

 あれからどうにも気になって、つい遥音の後をこっそり追ってきていたのだ。

 

(あーあ、私、何やってんだろ。こういう時、私の〈エロティクス〉って、中を伺う能力なんてないから、来たって何にもならないのになー。荒事とかも、大して向いてないし)

 

 ユリは、手にした紙コップのコーヒーを啜った。

 

(ってゆーか……そうよね。結局、あの遥音が絡んでるからよ)

 

 紙コップを傾け、一気にコーヒーを飲み干してしまう。

 

(遥音……。大体あの娘は、元々気に入らなかったのよね。何さ、ちょっと歌が上手いからって。タクヤも他の奴らも、遥音を持ち上げて私を無視して。スポットライトを浴びるのは、私の方が絶対ふさわしいんだから!)

 

 くしゃっ、と、空になった紙コップが握り潰された。

 

「須藤遥音に、一泡吹かせてやりたい」

 

 突然物陰から聞こえてきた男の声に、ユリは全身が一瞬凍り付いたように感じ、固まった。

 

「顔に、そう書いてある……」

 

 冷笑を含んだ声に戦慄を覚えつつ、ユリはその場から立ち去ることができなかった。

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