己の高額カードを懸け、物書きは気まぐれに遊戯王小説の執筆に挑み、私怨と欲望のままにアドバンス次元へと加速する──次回、「小説、エタる」デュエルスタンバイ!!

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アドバンス次元はどこ……ここ?

「つーわけでね、このボクが遊戯王の二次創作小説を書こうと思ってんのよ」

「……はぁ」

 

 俺は嘆息した。

 目の前にいるこいつは腐れ縁なのだが、色んな作品の二次創作をハシゴしている。

 ……まあコイツ、大抵1万字に行く前にエタるんだけども。

 

「それにしても、一体何でまた遊戯王の小説なんか……ハッキリ言って面倒よ? 特にデュエルシーンなんて書くのが面倒だ、読者に指摘されてようやくミスが分かるくらい複雑だしな」

「覚悟の上だよ。もしエタったらボクの持ってる《うらら》全部質に入れて良いよ?」

「言ったな?」

「ふっ、今回のボクはそれほどまで自信があるってことだよ」

 

 所謂、ルールは一見複雑だが複雑だぜ! ってやつである。

 まあ別にこれは遊戯王に限った事ではなく、カードゲーム全般に言えることなんだけども。

 

「絶対面白いと思うんだよ。今までにない斬新な設定だからさ」

「ほーう、そこまで言うなら一応話を聞こうか。興味がないわけじゃねえからな」

「物語の舞台はアドバンス次元って言うんだけど」

「斬新って言葉の意味知ってる?」

 

 それはもう言い逃れが出来ないくらいオリジナリティの欠片も無い設定であった。

 何ならアニメの二番煎じどころか五番煎じであった。

 

「で、物語はモテないカードオタクが、アドバンス召喚しかないアドバンス次元に異世界転生するところから始まるんだけど」

「斬新って何だったんだよ俺の期待を返せ!! 何が悲しくて何回見たか分からない現世発異世界行トラックを冒頭で見せられなきゃいけないんだ!?」

「何言ってんのさ、そこは《ユニオン・キャリアー》だよ」

「トラックを何に置き換えても異世界転生は異世界転生だろうが!!」

「そのまま主人公を魔法・罠ゾーンから墓地へ落とすんだよ」

「上手くねーんだよ!! 落とすのに、もうひと手間必要だろうが!!」

 

 いや面白い小説は面白いんだけどね異世界転生。

 だけど、斬新と聞いた後でどっかで聞いたような単語がポンポン出ても来れば憤慨もするだろう。

 こいつは一体何年小説書いてるんだ? 行き詰まり過ぎて、とうとうトチ狂ったのか?

 

「で、何でアドバンス召喚をチョイスしたのよ」

「アドバンス召喚って遊戯王初期からある基本中の基本の召喚だからね……遊戯王ガチ勢のボクが言うんだ間違いない」

「オマエ本当に遊戯王ガチ勢か? 生贄(アドバンス)召喚よりも先に存在していた融合召喚と儀式召喚の存在を忘れてらっしゃる?」

「これだから原作厨は……融合や儀式が産まれたのはアドバンス先生のおかげじゃないか、忘れたのか?」

 

 だ、ダメだこいつ……手遅れだ……。

 下手したら俺まで偽りの歴史に飲まれてしまう。

 

「良いから話の中身を教えろ。どうせ設定ばっかり考えて肝心の話が出来ていないんだろう。お前はいっつもそうだ、最初の1万字でたっぷりと世界観の解説をして満足する、そしてエタる」

「いやいや、考えてるに決まってるじゃない。これまでの小説全部がそうだっただけで、今回もそうとは限らないでしょ」

「どう考えても濃厚なんだよ。それで? ストーリーは?」

「アドバンス次元に異世界転生した主人公が、シンクロ・エクシーズ・融合・リンク、それぞれの召喚方法を極めた別世界の侵略を受けて、それにアドバンス召喚だけで対抗するって感じだよ」

 

 本当に、どっかで見たような話だな……しかし、それはそれで面白そうだ。

 侵略者を相手に、お世話になった異世界の力と現世の知識を生かして立ち向かう。王道だな。

 

「シンクロエクシーズリンク相手にメインデッキのモンスターだけでどれだけやれるか楽しみだな。で、主人公の切札は何にするわけなんだ? やっぱド定番の《ブラック・マジ》──」

 

 

 

《真帝王領域》

「は?」

 

 

 

 こいつ今何て言った?

 主人公の切札って聞いてフィールド魔法を答える奴を初めて聞いたんだが?

 

「だから《真帝王領域》だよ《真帝王領域》、《真帝王領域》も知らないとかエアプなん? 遊戯王原作から読み直して来い」

「遊戯王原作やアニメには帝のミの字もねぇよ!! テメェの頭からリリースしてやろうか!?」

 

※《真帝王領域》…アドバンス召喚したモンスターが居ると、相手はEXからモンスターが出せなくなる。地獄。

 

 要は相手がEXを使って来るなら、EXを根本的に封じてしまおうと言うのだ。

 いやさ確かに強いよ《真帝王領域》。でも、小説的にそれが面白いかっていうと話は別だろうが。

 

「オイこら申し開きを聞こうか」

「いやさ、アドバンス召喚しか使えないのにEXデッキを使う相手に勝つ方法なんて一つでしょ《真帝王領域》。先攻で貼れば、どんな大物でも喰える所にアドバンス召喚の可能性を感じるよね」

「むしろオメーは自分でアドバンスの可能性潰してる事に気付かねーのか、やってることは結局タダの先攻制圧だし、何ならサイクロン一つで破綻するだろうが」

「分かってる、分かってるよ。だから《テラ・フォーミング》と《メタバース》も3枚積むんだよ」

「お前の小説の主人公、EXデッキに親でも殺されたのか? しかも両方制限だぞ?」

「異世界小説にリアルの制限改訂持ち出すなんてナンセンスだよ。此処はボクがルールだ」

 

 くっ……こいつにしては珍しく正論を……。

 

「しかし何故そこまでアドバンスに拘るんだ?」

「これは関係ないんだけど、この間の大会、1回戦で電脳堺に殺された。あいつら許さん、シンクロ召喚は融合・エクシーズ・リンクと一緒に滅亡しろ」

「お前カードゲーム向いてないよ」

 

 ダメだこいつ、完全にヘイト創作に足を突っ込んでやがる。

 この間から遊戯王にジャブジャブ金を注いでいた矢先にコレだ。調子に乗っていたところを、よっぽど手酷くやられたのだろう──現代遊戯王の洗礼・ソリティアによって。

 絶対にこいつとは対戦したくないな……俺も電脳堺使ってるのに、絶対先攻で《真帝王領域》貼ってくるじゃないか。この様子だと、多分デッキにフィールド魔法サーチフル投入してんぞ。

 ……最早こいつの私怨には突っ込むまい、時間の無駄だ。それよりも、この小説の欠陥について指摘せねば……。

 

「よし、お前のやりたいことは分かった。だけど主人公が毎回帝と《真帝王領域》じゃあ飽きるだろ? デュエルシーンを書く度に先攻《真帝王領域》を貼られて悲しそうな対戦相手の顔でも描写するのか?」

「そうだが? 何なら《スキルドレイン》も一緒に貼るが? 相手はそのまま何も出来ずに沈黙するし、したとしても即刻《神宣》だが?」

「小説書くのやめようか? 面白くなさしか伝わってこないが?」

「面白いに決まってるじゃない、異世界転生した主人公が持ち前のスキルで賢く無双するなんて……ついでにハーレムと現地妻作ってウッハウハなんて……

 

 モノは言いようだな……そこだけ抜き出すと普通に面白そうな小説に見える。

 問題は中身がただの公開処刑と汚い欲望の発露ってことだ。

 

「でもマンネリ対策は用意しているんだ。飽きは読者を離す最大の要因だ」

「ほう? なら……聞かせて貰うおうか」

「主人公以外のデュエル回を増やす」

「主人公が悲しそうな顔してそっち見てんぞ!!」

 

 お前も何が問題か分かり切ってんじゃねえか! 

 そりゃそうだよね、何が悲しくって身動きできない相手いたぶるだけの対戦を何でわざわざ小説で書くのって話だよね!

 主人公のやってる事、相手を自分の得意な土俵に引きずり込んでるだけなんだよ! しかも毎回同じ手段なんだろ!?

 

「ああもしかしてカードの中身が変わり映えしない問題?」

「それを言ってるんだよ!!」

「ははは、それならそう言ってくれれば良いのに~、昔っから口ベタなんだから~」

 

 うぜぇ……。

 

「まあでも切札交代は王道だよね、積極的に取り入れたい。フレイムウィングマンからネオス、スターダストからシューティングスター、ファイアウォールからダークフルード……例を挙げればきりがないよね」

「おお! お前でもそこに行き着いたのか……」

 

 

 

「だから《真帝王領域》の次の切札は《虚無魔人(ヴァニティー・デビル)》にしようかなって」

「さっきと何が変わったんだよ!!」

 

 

 

虚無魔人(ヴァニティー・デビル)…立ってるだけで誰も特殊召喚出来なくなる。やったぜ。

 

 

 

「オメーそれ、方向性は何一つ変わってねえじゃねえか!!」

「何でさ!! ちゃんとモンスターだぞ!! これで読者も文句はないだろ!!」

「ついでにEXじゃない儀式も巻き添え喰らって泣いてんぞ!!」

「リリクラドラグーンって控えめに言ってもクソだったよね」

 

※リリクラドラグーン…コンマイ語で軽犯罪の意を表す。主犯格のリリーサーとドラグーンは投獄済み。

 

「やっぱり私怨じゃねえか!!」

「べ、別に……リリーサーのことが憎らしいわけじゃ、ないんだからねっ!」

「そんなツンデレは要らん!!」

「じゃあ《虚無の支配者》で手を打つか……」

「悪化してんだよな!!」

 

 ……まあいい。例えデュエルシーンがただの一方的なリンチだったとしても、奇跡的にこいつが面白い対戦カードを書けないこともないだろう。

 問題は小説の中身だ。デュエルシーンの面白さはこの手の小説の一面的なものでしかない。

 バトル漫画が面白いのはバトルを通した人間関係や主人公の成長、そしてドラマだ。結局、重要なのはイベントなのだ。

 

「小説の見せ場とかは用意してんのか?」

「ああ、小説には重要だよね。主人公が涙して成長する重大なイベントを既に考えているんだよね。もう今からボクも涙が止まらないよ」

「情緒不安定か?」

 

 言った彼は腕を組み──瞳から零れた涙を拭った。

 

 

 

 

 

「主人公の為に馳せ参じた《轟雷帝ザボルグ》が自分から溶鉱炉に飛び込むシーン……かな」

「それ結局デュエルシーンじゃねえかああああーッ!!」

 

 

 

 拝啓。いつも自害お疲れ様です《ザボルグ》さん。

 たまには他のモンスターをリリースしてやろうかな……。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──後日。

 

 

 

「……すいませーん、《灰流うらら》と《増殖するG》と《ニビル》、ぞれぞれ9枚ずつ、買い取りお願いしまーす……」

「はーい」

 

 

 ……やっぱり今回もダメだったようである。


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