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入学式を終えた夜、事前に配送されていた荷物の荷ほどきを始めていた。
叶多達の部屋は寮の空き部屋、かつ百合ヶ丘の一年生と同じ新館なため紅巴にとっても距離の近い同年齢のリリィがいることはいい刺激になるだろうと思っての判断だ。
荷ほどきの最中も、紅巴は昼間の理事長室での一件を思い出していた。
(やっぱり叶多様は『あのこと』を気にしていたんですね…………。口では平気だと言っていても、叶多様はいつも本音を隠してしまっている。何か、何かわたしに出来ることはないのでしょうか?)
「…………はちゃん」
(でもわたしはそんな話上手ではありませんし、どう切り出せば…………)
「紅巴ちゃん?」
「え…………ひゃあ!!」
思考に没頭していた紅巴は何度目かの声がけでようやく気づき、顔を上げるとキスするかどうかというぎりぎりの距離に叶多が顔を近づけていた。
雑多な感情が一度に押し寄せ、悲鳴に近い声をあげながら尻餅をついてしまう。
「ちょ、ちょっと紅巴ちゃん大丈夫!?」
驚かす意図はなかった叶多は動揺し、紅巴の傍らに駆け寄り顔を覗き込む。
しかし、それはむしろ逆効果だ。
信仰者にとっての神のように、叶多に心酔している紅巴が唐突に距離を詰めた結果…………
「ぷしゅ~~」
「紅巴ちゃ~~~~~~~~ん!!」
真っ赤な顔から蒸気が出るほどに、羞恥と嬉しさの暴力が紅巴を襲って意識を刈り取っていった。
「…………ここは?」
「おっ、起きたねぇ。このまま紅巴ちゃんの寝顔を見ているのもよかったんだけど、さすがに悪い気がしてさ~」
目を覚ました紅巴は、自分の後頭部に柔らかな何かが敷かれていることに気づいた。
クッションほどの柔らかさではないにしても、なんだかいつまでも頭を乗せていたくなる心地よさ。
さらに、極めつけは愛しの叶多の美しい顔が眼前にあること。
彼女の月光に照らされた銀髪が、自分たち以外を隔てるカーテンのように幻想的であった。
(そうでした…………わたしは叶多様のお美しいお顔が目の前にあることに驚いて…………ということは、これは夢なのでしょうか?)
まだ意識がぼんやりとしている紅巴は、これが現実だと認識できなかったのか、ぼーっと叶多を見つめていた。
そして何を思ったか、紅巴は叶多の顔を手で包み込むように触れ、自分の唇を叶多の唇に強く押し当てた。
「────!? ちょ、紅巴ちゃ…………!!」
「はぁ…………叶多様ぁ…………!! お慕いしております……ずっと、ずっと土岐は叶多様のものです…………!!」
一度は離れた唇が肉薄してくる刹那、叶多はこの先の展開に予想がついていた。
(これ、私が昔に使ってたキスの流れだ! 確か、この先は…………!!)
叶多がまだ亜羅椰とともに女の子を食べまくっていた頃、まずは強めのキスで相手を麻痺させ、その後は舌を入れてゆっくりと貪るのが叶多のやり方だった。
同様の手法をとってくることには驚かされたが、叶多は冷静に対処する。
拘束に使われている紅巴の両腕を無理矢理引き剥がし、自由になった頭を紅巴の額にゴツンとぶつける。
「うきゅぅ…………」
強烈な頭突きにより、再び意識を昏倒させられた紅巴。
最後まで紅巴が叶多に膝枕されていることに気づかずにいたこと、それを起きたら教えてやろうと叶多は悪魔的な発想を抱いていた。
数分後には痛みが引いたのか、「すぅ…………すぅ…………」と穏やかな寝息をたて始めた。
そんな紅巴をベッドまで運び、愛おしげに頭を撫でた。
「私のこと気にかけていてくれたんだよね。なのに私は昔のことを今でも引きずり続けてる…………でも、紅巴ちゃんが側にいてくれるから私は頑張れるんだよ」
紅巴の額に軽くキスをし、部屋の電気を消してから自分もベッドに入る。
自分が実感しているよりも疲れていたのか、すぐに眠気が襲ってきた。
気持ちのよい眠気に抗わず、叶多は紅巴のことを思いながら眠りについた。
◆◆◆◆
────────これは、叶多が初めて紅巴と出会った頃の話。
御台場女学校中等部の校舎の屋上に淡い緑髪の少女が、息を切らせながら階段を駆けていた。
土岐紅巴。
中等部の紅巴は御台場女学校でリリィの素質がなかったがために、アーセナルの勉強をしていた。
「はぁ…………はぁ………」
おとなしい彼女が何故息を切らせてまで屋上に急いでいるのか、その理由は全くの偶然だった。
屋上の端に立ち、今にも
「あ、あの…………!!」
「………….?」
蹴り破るほどの勢いで扉を開け放ち、精一杯声を絞り出す紅巴。
そこでようやく紅巴の存在を知覚した、そう言わんばかりに空虚な瞳で紅巴を見据える。
今叶多。
百合ヶ丘女学院から転校してきた実力派リリィで、ほとんどのガーデンに知れ渡っているほどの有名人。
同学年には今叶星という双子の姉がいるのだが、印象はまるで正反対。
その瞳には生気が宿っておらず、何もかもがどうでもいいと言葉に出さずとも充分に物語っていた。
「…………」
すぐに紅巴に対する興味も失せたのか、再度地上に目を向ける叶多。
「だ、駄目…………ッ!!」
風が吹けばバランスを崩して落ちてしまう、そう思った紅巴は叶多の腰に抱きついてそのままバックステップ。
多少の抵抗はされると思っていたので必要以上に力を込めてしまい、おもいっきりぶつけた背中に痛みが走る。
そんな痛みも無視して、紅巴は叶多を強引に起き上がらせると手を引いて屋上から飛び出した。
「…………!?」
叶多も訳がわからず、困惑の色がその瞳には宿っていた。
されるがままになっていると、連れてこられたのは紅巴の部屋。
大人しく座り込んでいた叶多に、紅巴はあるものを差し出した。
「???」
なんの変哲もない真っ白いサイン色紙を眼前に出され、叶多は困惑を更に深めた。
さすがに理由を問わねばならない、そう考えた叶多はようやく口を開いた。
「…………どういうこと? えっと、サインが欲しい……の…………?」
叶多の問いに「ブンブン!!」と、首をヘッドバンギングの如く振る紅巴。
まあ、それぐらいなら構わないだろう。
名前を聞いて、それを色紙に書き始める。
さらさらと手慣れた様子で書かれていく叶多のサインを、紅巴は満面の笑みで嬉しそうに眺めていた。
「…………はい」
「ありがとうございます!! あの、できれば握手もお願いいたします!!」
「…………」
無言で手を出した叶多の手を紅巴は「ガシッ!!」と掴むかのように、握りしめた。
「実はわたし、叶多様の大ファンなんです!! 本当はすぐに会いに行きたかったのですが、なかなか決心がつかなくて…………」
紅巴の表情や声音からも嘘は一切感じられず、本当にそう思っているのだと分かる。
その純粋な好意に何故か罪悪感のようなものが沸き上がってきた叶多は紅巴の部屋を出ようとするが、強く握った叶多の手を紅巴は離すことはなかった。
「…………もしかして、また自殺しようとしていませんか?」
本当ならこの話題を出すつもりはなかったのだろうことは、紅巴の辛そうな表情からも明白だ。
自分の大ファンを名乗る紅巴にそんな顔をさせてしまったことに申し訳なさを覚え、ゆっくりと腰を下ろす叶多。
誤解させたままではいられないと、叶多は自分の過去も含めて例の行動の真意を話した。
「…………死ぬときの気持ちが知りたかった、ですか?」
「…………うん。私は親友の大事な人を守れなかった。だから、
今度こそ紅巴の部屋から出ようとしていた叶多の前に、紅巴は回り込むと叶多の頬に全力で平手打ちをしていた。
紅巴の瞳からは涙がポロポロと溢れており、彼女の手もぷるぷると震えていた。
「死んだ人の気持ちが分からない? 二度とあんなことはしない? そんなことは当たり前です!! あなたが本当に考えるべきなのは、あなたのお陰で生き延びた人のためにこれから何が出来るかではないのですか!? 誰かの気持ちをだしにして、逃げているだけの
「…………ッ!!」
紅巴の言に、自分の行いが実に愚かだったのかを今頃になって理解した。
自殺するつもりなど欠片もなかった。
だが、もしも…………
それを紅巴は、本気で悲しんでくれている。
叶星が知ったら?
百合ヶ丘の皆が知ったら?
それを考えただけで、胸がズキズキと痛む。
それを初対面の少女に教えられたことへの不甲斐なさと、手遅れになる前に自分を暗い闇の中から引き上げてくれたことへの喜び。
「ごめ…………」
また謝ろうとしていた叶多は口を慌てて閉じ、泣き笑いになりながら叶多が今、本当に言葉にすべきことを言う。
「…………ありがとう紅巴ちゃん」
「…………どう……いたしまして」
紅巴ちゃんが怒ったらどんな感じかなと、私なりの解釈で書いてみました!
ようやく一話が終わりました!
ラスバレも書きたいですけど、いつになるやら…………