アサルトリリィ instrument   作:レイラレイラ

7 / 8
感想や評価を頂けると伸びる作者です。

バレンタインの特別編やろうかなとも思ったんですけど、本編優先でいきます。


六話

「はぁ~。いい景色~」

 

「足湯なんてあるんだぁ」

 

 両足をつけ、じんわりと伝わってくる暖かさが心地よい。

 

 梨璃は足湯の存在を知らなかったらしく、感心の声をあげる。

 

 講義は明日からなので、こうして足湯を利用しているのだ。

 

「良いのかな? 朝からこんな」

 

 梨璃は知らなかったのか、若干不安げな声をあげる。

 

 その不安を取り除くように、叶多はのんびりとした声音で答える。

 

「大丈夫だよ~。講義は明日からだからね~」

 

「そうなんですか?」

 

「高松理事長の方針だそうです。学院はヒュージ迎撃の最前線であるのと引き換えに、リリィにとってのアジールでもあるべきだって」

 

「あら? 確かあなたは留学生の…………。よくご存じですわね」

 

「きょ、恐縮です……ッ!」

 

 百合ヶ丘女学院が大好きな紅巴にとってはこの程度造作もないのだが、あの楓に誉められることに顔を赤らめていた。

 

「アジール?」

 

「戦役ってことだね~」

 

「その通りですわ。何人にも支配されることなく、脅かされることのない常世」

 

「まぁ、いい大人が私達のような小娘に頼っていることへの贖罪というところでしょう」

 

「…………」

 

 楓の一言に叶多は一瞬苦い顔をするが、気づかれぬようにさっとのんびり顔に戻す。

 

 それを叶多をじっと見つめていた結梨だけが見逃さずにいたのだが、叶多からはそれを隠したそうな匂いがしたので何も言わないことにした。

 

「でも、不思議ですね。同じクラスでも、私と梨璃さんみたいなド素人から、ヌーベルさんのように実績のあるリリィまで経歴も技量もバラバラです」

 

「オホホホ! よく調べているわね! 私のこと楓って呼んでくださって宜しくてよ?」

 

「わぁ! 本当ですか!? 凄いです! グランギニョル総帥のご令嬢とお近づきになれるなんて!」

 

「なんてことございませんわ~!」

 

「ギ…………ギニョギニョって何ですか?」

 

「まさかご存じないとか!?」

 

「一度説明したじゃないですか!」

 

「CHARMの理解度を上げるために資料渡したのに、覚えてなかったの!?」

 

 一度に三人に詰め寄られ、梨璃は申し訳なさそうに萎縮する。

 

 叶多に至っては、梨璃の知識向上のためにグランギニョルに限らず数多のCHARM開発に関わっているメーカーの資料などを送っていた。

 

「グランギニョル。フランスに本拠を置くCHARM開発のトップメーカーのひとつで、そのメーカーを束ねる総帥のご令嬢が楓…………だよね?」

 

「「「「え!?」」」」

 

 この場において最も意外な人物、結梨が懇切丁寧に説明する姿に楓と二水、梨璃と紅巴は大層驚いていた。

 

「…………凄いよ結梨ちゃん! 私が教えたこと、全部覚えてるね! いや~お姉ちゃんがダメダメだったのに、結梨ちゃんは覚えてて偉いぞぉ~」

 

「うっ!」

 

 さりげなく吐かれた叶多の毒にダメージを受け、胸を押さえる梨璃。

 

 叶多に頭を撫でられ、頬を紅潮させる結梨。

 

 その反応に紅巴は「むぅ~!」と頬を膨らませ、梨璃は慈愛に満ちた表情でそれを見つめていた。

 

「…………そ、そう! トップでしてよ! お父様の作るCHARMは世界一ですわ! 梨璃さん、仰ってくだされば何時でも梨璃さんにはキレッキレにチューニングしたカスタムメイドの最高級CHARMをご用意して差し上げますから、お楽しみに! …………ついでに妹さんも」

 

「はぁ…………」

 

「梨璃さんに嫌われたくないから、取って付けましたね…………」

 

「ですね…………」

 

「やかましいですわ!」

 

 楓の言動にジトッとしたような目線を送る二水と紅巴に、楓は吠えるように返す。

 

「…………」

 

「結梨ちゃん?」

 

 結梨はそんな彼女達の会話には混ざらず、あちこちに首を回していた。

 

 梨璃もそんな結梨の行動が気になり訪ねるのだが、結梨は不安げに周囲を見渡している。

 

「…………叶多、何処?」

 

 忽然と姿を消してしまった叶多を心配してか、目尻に涙が浮かび始める結梨の頭を紅巴が優しく撫でた。

 

「紅巴?」

 

「心配しなくても大丈夫です。叶多様は少し大事な用事を済ませにいっただけですから。 ですから、一緒に待ちましょう?」

 

「…………うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────百合ヶ丘女学院の訓練場にて。

 

 まだ日も高い訓練場に、無表情のまま歩を進める人物がいた。

 

 白井夢結。

 

 百合ヶ丘を代表するリリィの一人。

 

 圧倒的な戦闘力を持ち、戦果を挙げてきた実力派リリィ。

 

 そんな大物と言える夢結がこんな時間に訓練場に出向いたのは訳があり、その原因は夢結の持つ一枚の紙切れにあった。

 

 紙切れには短くこう綴られていた。

 

 

『訓練場にて貴様を待つ』

 

 

 差出人は不明。

 

 だが、夢結にはたった一人だけ心当たりがあった。

 

「お~。来てくれたんだね~、さすが夢結ちゃん真面目だね~」

 

 

()親友の今叶多。

 

 

 

「自分勝手な行動は相変わらずね、叶多。それと、その喋り方も辞めてくれるかしら? 違和感がありすぎて気持ち悪いわ」

 

「そっちこそ、歯に衣着せぬ物言いは変わらないんだね~…………」

 

 僅かに顔を俯かせた叶多だったが、その直後に雰囲気は一変していた。

 

 梨璃や紅巴に見せていたのんびりとした雰囲気の叶多はすでに消え、何処か妖艶でありながら強い意志を宿しているような()()()今叶多がそこにはいた。

 

「二年ぶりね、夢結。あなたの仏頂面がそのままで安心しているわ。…………また、会えたわね」

 

「大きなお世話よ。…………私は、あなたになんて会いたくなかった」

 

「夢結…………」

 

 夢結の直接的な拒絶に、叶多は悲しげな顔をする。

 

「…………」

 

「…………はぁ。用件がないのなら、私は行くわ。それと…………」

 

 何も言えずにいる叶多に対し、夢結は溜め息を一つ。

 

 数秒間をおき、夢結はこれ以上ない残酷な言葉を告げる。 

 

 

 

 

もう私には関わらないで

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 そのたった一言で叶多の心は深く抉られ、ズキンと胸が痛みを訴える。

 

 どんなに自分がウザく絡んでも、多少のお小言を貰うだけでここまで言われたことはなかった。

 

 大切なお姉様の死がここまで夢結を変えたのか、そう考えると罪悪感に押し潰されそうになる。

 

 もしも自分が間に合っていれば、もしもあの場に戻っていれば、そんなタラレバを何度想像したか。

 

 だがそんなタラレバをいくら並べようとも、過去を変えることは不可能だ。

 

 今の自分がすべきこと、それを教えてくれた愛しい女の子の顔を浮かべれば自然と笑顔になれる。

 

()()…………私、頑張るね)

 

 ここにはいない少女に向けて、短く宣誓する。

 

『ファイトです。叶多様!』

 

 口に出したわけでもなく、本人に直接言ったわけでもないのに何処かで紅巴がそう言った気がした。

 

 本当に気のせいかもしれないが、それが叶多の心を前へと進ませた。

 

 今、自分がすべきなのは…………

 

 

「夢結!!」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

仲直り(ケンカ)しよう」

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 ギターケースを思わせる物の中から、叶多は自身のCHARMを勢いよく取り出す。

 

 

 

 グングニル・インテグラル。

 

 正式名称をAC-00SSグングニル・インテグラル。

 

 グングニルの派生機。

 

 AC-13SS グングニル・カービンをさらに改造したものでグングニルの変形機構を極限まで簡素化されてはいるものの、マギをフェイズトランセンデンスの効率的な変換ができるようになっているため癖が強いが、しかしながら強力なCHARM。

 

 また基本構造が単純簡素化されているため、個人仕様や改造機が作りやすく使用者が思い思いに調整・改造などを施しやすいというグングニル・カービンであった頃の面影は一切ない。

 

 現在は叶多以外に使用できるものはおらず、他のリリィなら起動すら不可能だろう。

 

 基本形状はグングニルとそう変わりないように見えるが、一つ一つのパーツがギガント級から剥ぎ取ったもので頑丈さは折り紙つき。

 

 

 

 流れるように持ち上げられたグングニル・インテグラルは動きを止めることなく、一切の音がないまま振り下ろされた。

 

「くっ!」

 

 かろうじて反応した夢結は、CHARMにマギを込め()()()()()

 

 普通であればわざわざ受け流すような真似はせず、そのまま弾くなり受け止めるなりすればいい。

 

 しかし、叶多と夢結ではCHARMの強度に天と地の差がある。

 

 おそらく五回か六回ほどまともに打ち合えば、夢結のCHARMは大破してしまうだろう。

 

 

「いきなり何をするの!?」

 

「だから、仲直り(ケンカ)よ。河川敷で殴り合う不良よろしく、ぶつかり合えば分かり合えるかなって」

 

 困惑のまま疑問をぶつけた夢結だが、叶多はそれをさらりと返す。

 

 唐突な不意打ちに、意味不明な極論。

 

 叶多の行動に徐々に苛立ちを募らせていく夢結の髪が白くなりつつあるのを、叶多は見逃すことなく畳み掛けていく。

 

 絶え間なく行われる攻撃に、ただ夢結は回避し続けるしかなかった。

 

 …………否、それしかできなかったのである。

 

()()()()()()()()()()()()()()である叶多の攻撃をなんとか避け、距離を離す。

 

 ────────が

 

「『フェイズトランセンデンス』!!」

 

「!!」

 

 

 フェイズトランセンデンス。

 

 数秒間魔力が無限大となり、マギを大きく消費する連続行動が可能になるレアスキル。

 

 マギによる身体活性や防御効果も大幅に上昇するので、発動中はほぼ無敵となる。

 

 だが、当然の如くデメリットもある。

 

 非常に有用で攻撃の要と成り得るが、反面、効果終了後の反動が大きいということ。

 

 枯渇(ディプリーション)という状態に陥り、数分間魔力残存量が大幅に下がり、その後更に数分間は再使用が出来なくなる。

 

 叶多においては使用可能な時間が尋常ではなく、その時間は最高で三時間に至るのだ。

 

 その結果、十、二十メートル離そうがあっという間に距離を詰められ、また離れようとすることの繰り返し。

 

 無限にも等しいマギを込めた重く、鋭い斬撃が夢結を幾度も襲い続ける。

 

「はぁ…………はぁ…………」

 

「ほらほら! 逃げてばかりじゃ勝てないよ? 私にも、()()()()!!」

 

 舞うような連撃をいなし続け、約五分。

 

 避けるのも最早限界となりかけ、叶多のCHARMが眼前へと迫る。

 

「…………ウアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 濃密な()()()()を前に、夢結の髪は真っ白に染まった。

 

 それを見た叶多は、内心でほくそ笑んでいた。

 

 

(そう。それでいいのよ、夢結)

 

 

 逃げに徹していた夢結が一転、一気に前傾姿勢に切り替えた夢結は叶多へと肉薄した。

 

 そして、叶多もまた夢結のCHARMを壊すつもりで自身のCHARMを振り下ろす。

 

 

 

 …………だが、そこに思わぬ乱入者が二人、叶多と夢結の間に割り込んできた。

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 夢結の攻撃を梨璃が、叶多の攻撃を結梨が受け止めていた。

 

「二人とも、どうしてここに!?」

 

「夢結様! 叶多様! 何故お二人が戦っているんですか!!」

 

「ごめんなさい、叶多様! バレちゃいました!!」

 

 訓練場の入り口に紅巴が息を切らせながらやってきて、叶多に謝罪する。

 

 紅巴を叱るつもりなど毛頭ないが、最悪のタイミングであることには変わりない。

 

 かろうじて叶多と拮抗している結梨は、必死に叶多のCHARMを弾き返そうとする。

 

「ケンカは駄目だよ、叶多! 友達とケンカなんて悲しいのは私にも分かる! それに()()()()叶多にそんなことしてほしくないよぉ!!」

 

「え?」

 

 涙ながらに放たれる結梨の本音に、呆気にとられる叶多。

 

「ああっ!!」

 

 その隙を気取ったのか、夢結は梨璃をCHARMごと弾き、結梨ごと叶多を刺し貫かんとする。

 

「ウ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!」

 

「…………ありがとね、結梨ちゃん」

 

 叶多は結梨のCHARMを受け流し、結梨をうつ伏せになるように転倒させた。

 

 そして何を思ったか、C()H()A()R()M()()()()()()()

 

「叶多────────ッ!!」

 

 

 丸腰となった無防備な叶多の胸元を、夢結のCHARMが貫いて────────

 

 

 

 

「どう…………して……」

 

 貫かれる筈だった叶多の一歩手前で夢結が踏みとどまり、叶多は無傷であった。

 

 ルナティックトランサーが解除され、もとの綺麗な黒髪に戻っていく。

 

 震える声で問う夢結に、慈愛に満ちた表情で答えた。

 

「だって、優しいあなたが私を殺せるわけがないって信じていたもの。美鈴様を殺していないように。あなたはずっと自分を攻め続けた、自分が美鈴様を殺したと思い込んで…………」

 

「違う、違う違う違う!! 美鈴お姉様は私が…………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、なんで()()()()()?」

 

「!!」

 

 

 叶多の問いに夢結は力が抜けたように座り込み、微笑みを携え叶多はそっと抱きしめる。

 

「あなたは、美鈴様を殺してなんかいないわ。こうして私が生きているのがなりよりの証拠。そう…………思わない?」

 

「…………本当に、私は殺していないの?」

 

「ええ。だから、もう我慢しなくてもいいの。…………もう、自分を許して、いいんだよ?」

 

 その一言で、夢結が抑え込んでいたものが崩壊した。

 

「うぅ…………うあああああああああッ!!」

 

 夢結の自分に対する悪感情の全てが涙となって滝のように流れ、叶多の制服へと染み込んでいく。

 

 叶多もまた、数滴の涙を溢していた。

 

 久方ぶりに流した暖かい涙に、最後のピースがはまったときのような心地よさを覚えながら。

 

(これでやり残し…………もとい、仲直り(ケンカ)はおしまい…………かな)

 

 

 

 だが、叶多はまだ気づいていない。

 

 紅巴と結梨に盛大に睨み付けられていることなど…………

 

 

 

 




正直、今までで一番の長文で書きました。

ご都合主義感がスゴいですけど、そこはご愛敬ということで。
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