ラスバレではヒュージを刈りまくっている今日この頃
────────天上ノ庭大浴場。
叶多と夢結の決闘騒動の後、梨璃一行は湯浴みに来ていた。
梨璃と楓と二水は三人で横並びになり、それぞれが自身の身体や髪を丁寧に洗っていた。
「何処か気になるところはありませんか? 何処であろうとお流しいたしますよ。ふふふ…………」
「ずっと気になってましたけど、楓さんが梨璃さんを見る目何か邪です」
欲望を駄々漏れにしている楓に、二水はジトッとした視線を向けつつツッ込む。
「まさか! こんな純粋な眼差しの私が!?」
「手が滑りましたわ~なんて言って、変なところ触ろうとしてませんか?」
「くっ…………余計なことを。梨璃さんには変なところなどございません! 何処でもオッケーです!!」
「そうだよ二水ちゃん。女の子同士だし」
「えっ! よろしいんですの!?」
我が意を得たりと言うかのように、楓はその瞳を爛々と輝かせていた。
「やっぱり心配です」
「梨璃さんのお役には…………あまり立てていませんけれど、これくらいは友人間では当然の行いですわ!」
「友をなんだと思っとるんじゃお主は」
「ミリアムさん!?」
「よいか梨璃。世の中には色んな奴がおる。どんな性癖も認められて然るべきなのは言うまでもないが、己が欲望を駄々漏れにするのは戒しむべきことじゃ。そこのちびっこが宣ったのはそういうことじゃな」
「ええっ! ちびっこにちびっこって言われた~!!」
一通り言うべきことは言ったのか、ミリアムは叶多の方を珍しいものでも見たかのように目を丸くしていた。
「叶多様がどうかしました?」
「いや、ちと驚いてな。ワシの知っとる叶多様は、大浴場においては女子を山盛りの料理を平らげるように食らっとったからな。それが今では…………」
「叶多様! 右腕がよく洗えていませんよ!」
「叶多! 私の背中もやって!」
「はいはい! ただいま~!!」
件の叶多と言えば紅巴と結梨の身体をくまなく洗ったり、使ったシャンプーやリンス等を元の場所に戻すなど給仕の真似事をさせられていた。
紅巴はともかく、結梨をよく知る梨璃は彼女が分かりやすく怒りを出していることに驚いている様子だった。
多少不満があったとしても頬をぷっくりと膨らませるだけで、誰かに怒っているところなど見たことがなかったからだ。
梨璃にさえ明かさなかった憧れの人が叶多であったことに、幾ばくかの動揺こそあったが納得もしているのが本心だ。
叶多の話をしている時の結梨の表情はとても楽しそうで、梨璃たち家族に向けられるそれとは違うものだと分かっていた。
それ故に、下手すれば死にかねなかった賭けに打ってでた叶多が許せないのだろう。
ヒュージから命を救われ、ぎりぎりまで気にかけてくれた────────そんな叶多に惹かれていたのだから。
姉としての寂しさを覚えつつ、結梨の憧れの人が判明したことの嬉しさを噛みしめていたところでミリアムが話題を変えていた。
「ところで梨璃。お主夢結様にシュッツエンゲルを申し込むと聞いていたのじゃが?」
決闘騒動の終結後、ある程度冷静さを取り戻した夢結に梨璃はシュッツエンゲルの契りを結んでほしいと迫った。
夢結の反応は「…………少し、考えさせて」と可もなく不可もなくといった風だったが、叶多によって自室へと強制送還されてしまい返事を聞けずじまいなのである。
一部始終を聞き終えたミリアムは、やれやれと肩を竦めながら叶多のもとへと歩を進めた。
二人の全身を洗い終えた叶多は疲れはてたのか、ぐで~っと床で伸びていた。
「叶多様、ちょっとよいか?」
「…………ッ! まだ、洗い足りないの!? …………な、なんだミリアムちゃんか。驚かせないでよ」
「なんだとはなんじゃ。ほれ、梨璃が不安がっておるからアフターケアぐらいしてきてはどうじゃ?」
ミリアムは後方の梨璃を指差し、叶多に早く行くように促す。
「紅巴。結梨。…………その……えっと……」
「…………」
叶多は許可を求めるため、どうにか言葉を発しようとするがどう言えばよいのかわからずにいる。
二人は内心ではもうとっくに許しているつもりだ。
いつも叶多に振り回されている紅巴も、叶多に憧れてリリィを志した結梨も
…………ならば、もう少しぐらいはワガママを言ってもいいだろうと紅巴は意地の悪い笑みを浮かべて振り返る。
「…………では、耳元で大好きと囁いてください。それで許してあげます」
「…………分かったわ」
紅巴の肩に手を乗せ、耳元で
「紅巴…………好き、大好きよ」
「叶多様!?」
さすがにそこまで要求するつもりはなかったと、叶多を止めようとしたのだが賽は投げられ最早手遅れだと悟る。
耳を甘噛みされ、舌先で愛撫され続ける紅巴の身体には痺れるような快感が襲ってきた。
人前ということありなんとか矯声こそ抑えているものの、それが抑えられなくなるのも時間の問題だろう。
「だ…………だめぇ……」
「ふふっ。何が駄目なのかしら? これは、あなたが望んだことよ。…………本当に可愛い、私の紅巴。…………本当に大好きよ」
嗜虐的な表情で紅巴を弄んでいた叶多は一旦口を離し、最後に純粋な好意を口にする。
叶多が身を離すと同時に、紅巴はコテンと倒れ込む。
「…………きゅう」
過剰なスキンシップにより紅巴の意識は限界を迎え、眼を回してしまっていた。
ミリアムは結梨にはまだ早いと、結梨の視界を塞いでいた。
「…………まったく、ちっとも変わっとらんのう叶多様は」
「だって、あんなこと言われたら意地悪したくなっちゃうもの。それにあれはかなり軽い方よ。私が本気だったら、もっと敏感なところをあの手この手で苛めていたわ」
ミリアムは溜め息をつき、結梨の拘束を解いた。
視界の自由を得た結梨が視界に納めたものは、どこまでも広がる慈愛に彩られた叶多の顔。
何をしてほしいのかを無言で問う叶多に、結梨は僅かに後退する。
結梨は息を呑み、覚悟を決め胸のうちを吐露した。
「私、私ね…………。叶多みたいなリリィになりたいなって思ったの。叶多が頑張って守ってきた百合ヶ丘女学院で、私も皆を守りたいって。だから…………私を鍛えてほしいの!!」
「…………!!」
決して憧れだけではない、結梨自身の誰かを守りたいという強い意思。
そしてリリィとして立派に大成した結梨を、叶多は見てみたいと思った。
何をお願いされようともともと断るつもりなどなかったが、実に好ましい願いをされたことに頬を緩める叶多。
「…………いいよ」
結梨の頭を愛おしげに撫で、了承を告げる。
「やったぁ!! ありがとう叶多!!」
大袈裟にぴょんぴょんと跳ね回る結梨に、叶多は恥ずかしそうに頬を掻く。
さらに梨璃のアフターケアを遂行するため、叶多は歩を進める。
歩み寄ってくる叶多の道を塞ぐように、楓が待ち構えていた。
しかし、梨璃に対する煩悩で思考をいっぱいにしている楓に叶多を止められるはずもなく、すり抜けるようにして避けられる。
二水は一連のやり取りをガン見していたせいもあって、鼻血を吹き出して倒れていた。
首を傾げて不思議そうに叶多を見つめる梨璃に、叶多は安心させるように梨璃の手を取った。
「あなたはきっと大丈夫よ。夢結だってそう。きっとあなたたちは素敵な姉妹になれる。あの子の親友の私が言うんだから、間違いないわ!」
『親友』という根拠にもならない肩書きを背に、自信満々に断言する叶多を見ていると何故か大丈夫だと思えてくる梨璃。
梨璃たち姉妹を救ってくれたリリィの一人で、甲州撤退戦の後も何かと面倒を見てくれた敬愛する先輩なのだから。
「必ず、叶多様の期待に応えて見せます! 夢結様の助けになれるように、頑張っていきますから!!」
周囲に響き渡る梨璃の宣誓に、紅巴を抱えながら叶多はウィンクで返し大浴場を出ていくのであった。
アニメで言うところの二話終了です。
今回は最初から最後までお風呂回でしたね。