スクールアイドルアニメで見たような二人が、銀河の深宙域を駆けまわります!【とりあえず完結!】 作:ひいちゃ
「えーい、なんで攻め込まん! 我が長官府も力を貸しているのだぞ!」
セイレーナ族の里、その王宮にある宰相執務室では、宰相が一人のひげ面の男に詰め寄られていた。
彼はゴクア・クチョー・カン。シーウォーターⅢに住む二つの種族、マーメイ族とセイレーナ族との関係を調停し、まとめる役を持つ長官である。
本来長官となれば、両種族を仲良くさせ、幸せにするために動くものだが、彼は自分の私利私欲のために、両種族の関係を弄ぶ悪人であった。
その長官に、宰相はしどろもどろになりながら返す。
「それが……マーメイ族は堅く守りを固めておりまして……。おまけに先の戦いで、兵士たちの戦意が……」
その答えに、長官ゴクアは怒りに満ちた表情を浮かべて言い放った。
「えーい、使えん奴め! マーメイ族を戦争で負かして、お前たちの支配下におければ、お前も願ったりかなったりだろうが! 観ておれ。わしがこの事態を打開してやるわ!」
「ち、長官様、何を!?」
怒りと秘策を胸にしながら鬼の形相をした長官は、あわてふためく宰相の言葉に耳を貸さず、宰相の部屋を出て行った。
(あのマーメイ族の姫を暗殺してやる。そうすれば、マーメイ族も姫を失った怒りで我を忘れ、守りを捨てて攻めてくるだろう。そうなれば事はなったも同然。マーメイ族はセイレーナ族に支配され、その宰相の裏で、わしがこのシーウォーターⅢを完全支配してやるのだ! もしそれがダメでもあの奥の手もある……)
* * * * *
その日、私はマーメイ族の王宮内を巡回していました。
セイレーナ族が攻めてきてから一週間。それからセイレーナ族が攻めてくることはありませんでした。ですが、向こうの宰相も、その背後にいるであろう長官とやらも、マーメイ族を攻撃するのを諦めてはいないはず。何かアクションを起こしてくるだろうと考えていたのです。
おそらく次は、チカさんか王様の暗殺を狙ってくるはず。カナンさんにはチカさんの護衛をお願いし(もちろん王様の警護もしっかりするよう助言しておきました)、私はこうして王宮内の巡回をすることにしたのです。
そしてそれから一週間。彼らがアクションを起こしてくることはありませんでした。もしかして諦めたのでしょうか?
そう油断していたのがいけなかったのかもしれません。
バタッ。
「!?」
どこかから誰かが倒れる物音がしました。まさか!? 私は大急ぎで、音がしたほうに駆け出しました。
そしてそこで倒れていたのは……。
「セーラさん!?」
そう、チカさんのメイド、セーラさんでした。そのメイド服には少しも争った跡はありません。ということは、侵入者は彼女に気づかれずに昏倒させたということ。相手はかなりの手練れのようですわね。
……と、そんなことを考えている場合ではありません。私は大急ぎで、彼女のそばに駆け寄りました。
よかった、息はあるようですわ。
「セーラさん、セーラさん!」
そう名前を呼びながらゆすると、少しして彼女は目を開けてくれました。
「あ……ダイヤ様……」
「一体どうしたんですの?」
「それがかすかな足音がしたと思ったら突然当身を受けて……はっ! いけません、チカさんが!」
セーラさんがチカさんの危機に気づいて起き上がりますが、すぐにうずくまります。
「……ぐっ!」
「これは……当身であばらをやられたようですわね。無理をしてはいけませんわ」
「ダイヤ様……しかし……」
「大丈夫。チカ姫は、この身にかけても守ってみせますわ。ですから、セーラさんはここで休んでいてください」
「ありがとうございます……。チカさんのことをお願いします……」
「もちろんですわ」
そうこたえると、私はレーザーソードの刃を出して立ち上がりました。
* * * * *
間一髪でした。
小さいながらも複雑な迷宮を必死で走っていると、ちょうどチカさんの部屋で、刺客がカナンさんとチカさんを襲っているところに出くわしたのです。
そしてちょうどその時、刺客の鞭がカナンさんの手からレーザーガンを弾き飛ばしました。
「ヒャーハハハァ! これで終わりだぜぇ!」
「チカ……!」
「カナンちゃん!」
そう下卑た笑いをあげ、鞭を振り上げる刺客。チカを抱きしめてかばうカナンさん。
そこで私は、刺客の注意を引き付けるように、声をあげました。
「お待ちなさい、そうはさせませんわ!」
「むぅ!?」
「ダイヤ!」
こちらに向きなおった暗殺者が、また笑みを浮かべます。狂ったような笑み。こちらには不快さしか感じませんわ。
「邪魔するなら、お前のほうから血祭りにあげてやるぜぇ! ヒャハァ!!」
そしてこちらに鞭を振り下ろします。私が飛びずさったところで、そこの床に命中! 石畳が砕けました。これは……かなりの威力のようですわね。喰らったらひとたまりもありませんわ。本当に間に合ってよかったです。
「ヒャハハァ! どうしたどうしたぁ! ヒャーハハハァ! お前なんざ、ゴクア長官様の一番の部下、鞭使いのルブラが肉片にしてやるぜぇ!」
そう狂気に満ちた笑いを浮かべながら、ルブラとかいう刺客は鞭を振るってきます。それにしても、自分の名前ばかりか雇い主の名前まで口にしちゃうなんて、これで本当に長官の一番の部下の暗殺者なのですか? こんなんじゃ暗殺者失格ですわよ。長官の人材の底が見えましたわね。
とはいえ、さすがに鞭使いと名乗るだけあって、その鞭の扱いはかなりのもののようです。鋭く激しい攻撃が私を襲います。確かに実力では第一の部下というのもうなずけます。
ですが……まだまだですわね。確かにその攻撃は鋭く激しいのですが、やはり粗削りで、洗練された私の戦いにはあと一歩及びません。ブラックウォーターの娘をなめてもらっては困りますわ。
私は集中力を研ぎ澄ませ、一気にルブラに突っ込みました。その集中力で、彼の鞭の動きを見切り、よけていきます。そして!
「こ、このアマァ……!」
「誰がアマですか失礼な。これで終わりですわよ!」
「ひぃ!」
焦りと恐怖にひきつったルブラの顔面に膝蹴りを叩きこみます。それで決着はつきました。
倒れこんで気絶した暗殺者を見下ろす私に、カナンさんとチカさんが声をかけてきます。
「ありがとうダイヤ。助かったよ」
「助けていただいてありがとうございます!」
「いえ。無事に間に合ってよかったですわ」
さて、この男から色々聞きださないといけませんわね。
* * * * *
王宮の会議室。そこの椅子の一つに縛り付けられたルブラを、私とカナンさん、ヨハネさんとハナマルさん、そしてカナタさんが囲んでいました。
そこで男の顔を見たカナタさんが口を開きました。何か気がついたことがあったのでしょうか?
「おや~? この人は~? もしかしたら、人工衛星を落とした男じゃないかな~? ね、ヨシコちゃん?」
「あ……そういえば、確かに……」
「え、そうなのですか!?」
これは初耳でしたわ! 私がそう聞くと、ヨハネさんは携帯端末を私に見せてきました。
「うん。カナタに言われて、件の人工衛星に取り付いて作業していたこいつの拡大映像を録画しておいたの、はい」
そこに映し出されていた人影。細かい表情などは良く見えませんが、確かにその特徴はこのルブラに酷似していきました。これは間違いなさそうですわね。
私は鋭く、ルブラをにらみつけて口を開きました。
「だそうですが、どうなのですか、ルブラさん?」
「知らん、しゃべらん、口を割らんぜ! 俺は長官の第一の部下だからな。ヒャハハハァ!!」
……よく言いますわね。さっきはノリノリで、自分の雇い主の名前を口にしていたくせに。
まぁ、本人が口を割らないなら仕方ありません。私は、背後のカナタさんに向きなおってお願いしました。
「カナタさん、ヨハネさんとハナマルさんを連れて、この部屋を出てくれませんか? ちょっと二人の精神安定によろしくないことをしますので」
私がそう言うと、カナタさんはウィンクしてこたえてくれました。どうやら彼女も、ヨハネさんを追いかける中で、なかなかな修羅場をくぐってきた様子。すぐにわかってくれたようです。
そしてその一方で、ルブラが息をのむ気配がしました。
「うん、わかったよ~。頑張ってね~」
そしてカナタさんが部屋を出て行ったのを見届けると、カナンさんと一緒にルブラに視線を向けました。
「さて、それじゃはじめましょうか」
ブラックウォーターの裏の技の髄、心行くまで味わっていただきませんとね☆
* * * * *
セイレーナ族の里。その王宮の一室で、長官ゴクアは苦虫をかみつぶしたという言葉では生ぬるい表情の顔を真っ赤にしていた。その視線の先には、3Dビジョンテレビモニターがあった。
まだまだ文明が未熟なマーメイ族とセイレーナ族の両種族だが、まったくの未開というとそうではない。酒場や飲食店など、人が多く集まる場や、公共の場には3Dビジョンテレビモニターが配置され、それぞれの里の特定のポイントには、その送受信施設や放送局が存在していた。
長官府が、その文化を発展させるように援助として提供していたものである。
今、そのモニターに表示されているのは、臨時ニュース。先の人工衛星落下は、長官とセイレーナ族宰相の息のかかった者による犯行ということ。彼らの狙いは、両種族を戦いあわせ、マーメイ族を倒したうえで、彼らはをセイレーナ族、しいては長官と宰相が支配するため。というニュースが、実行犯である暗殺者の証言とともに流れていた。
それを聞いて、当然セイレーナ族の民は怒り心頭。各地で暴動が巻き起こり、この王宮にも人々が押し寄せてきている。長官府の兵たちがそれを阻止しているが、このままでは突破されるのも時間の問題だろう。
「おのれ、役立たずどもめ……! かくなるうえは……!」
そして長官は立ち上がり、部屋を出た。セイレーナ族の王の間に向かって。
* * * * *
そのころ私は、人魚の姿になったカナンさんの先導で、海に潜り、セイレーナ族の里に向かっていました。
あのルブラとかいう男から聞き出した事実……全ては長官とセイレーナ族の宰相の私利私欲からの自作自演によるもの……を、深宙域随一のニュースネットワーク・『深宙域ニュースネットワーク(DSNN)』に提供して、ニュースとして流してもらった私たちは、そのニュースが流れたことで生じるセイレーナ族の混乱に乗じて、彼らの里に潜入し、長官と宰相を逮捕する作戦に出たのです。
それにしても……。潜水用ウェットスーツに身を包んだ私は、その前を行くカナンさんの泳ぎに思わずうっとりしてしまいます。さすが水中に適応した人魚族であるマーメイ族。とても板についていますわ。
そう思いながら海の中を往くと、ほどなくして、ドームが見えてきました。あれがセイレーナ族の里です。彼らはあのような透明のドームの中に、街を作って住んでいるのです。
エアロックにつくと、電子ロックをクラッキングして、ドーム内へ続く扉を開けます。さて、いよいよ潜入ですわ!……と思っていたのですが、肩透かしをくらいました。気張って潜入する必要はなかったのです。
流したニュースの影響が強すぎたのか、セイレーナ族の里では混乱どころか革命が起こり、王宮に乱入した人々により、宰相が縛り上げられていたのでした。
「わしは……ただのあの長官に命じられて、彼の言うとおり動いていただけだったんだ。許してくれぇ……」
宰相はそう許しを請うていましたが、それでも、セイレーナの人たちの視線は厳しいままでした。まぁ、私利私欲のまま、長官の手下になっていた自業自得ですわね、ご愁傷様です。
でもこれで、後は長官だけ……と思っていましたが、事態はそれでは収まらなかったのです。
私たちの元に、簡素なメイド服をまとった少女がやってきて、ぱたりと倒れたのです。
それに気づいたカナンさんが真っ先に駆け寄ります。
「ヨー!」
「あ……カナンちゃん……よかった……」
ヨー? ヨーさんといえば、チカさんが言っていた、彼女の幼馴染で、もう一人の幼馴染であるセイレーナ族のリコ姫の侍女の方ではありませんか!?
彼女がただならぬ様子でこちらに来たってことは、リコ姫の身に何かが!?
「どうしたんだい、ヨー!?」
「お願い……リコちゃんを助けて……。リコちゃんが……長官の奴に連れ去られちゃったんだ……」
なんですって!?
さぁ、いよいよ大詰めです!
次回の更新は、11/13の予定です。お楽しみに!