型月設定のお伽噺   作:linda

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日曜なんで早めに。
その七の続きというかぶった切っただけです。


承、その八

「ヒガン、彼岸花とかの?

 なるほど、死を扱う僕には最もだね」

 

彼岸。

あの世などの別名、だったか・・・?

死というイメージに近い。

彼岸花は葬式などで添えられる花。

 

ははっ、ぴったりじゃないか・・・。

 

期待なんてしなきゃよかった。

やっぱり誰からみたってーーー

 

 

 

「ち、ちがうんです!

 彼岸花なんてまだ早すぎるというか・・・」

 

 

僕の思考をかき消すように彼女が慌てて声を上げる。

それでもその顔から僕を気遣うようなものはうかがえない。

彼女は別の理由で慌てていたようだ。

 

 

「そ、それでですね、ヒガンというのは江戸彼岸という花からとったんです!」

 

「江戸、彼岸・・・?」

 

聞かない名前にそのまま返してしまう。

単調な、面白みも全くない返しだった。

 

心が高揚しているのが分かる。

それなら、君は僕にどんな意味を込めて、その名をつけたの?

知りたい。

 

 

「江戸彼岸というのは私の名前のもと、染井吉野の原種のひとつなんです。

 江戸彼岸と大島桜という二つの品種から染井吉野は生まれました。

 花言葉は《心の平安》。

 苦しそうなあなたに安らぎがあるようにと、思ったの、ですが・・・」

 

「あの、駄目でしたか・・・?」

 

僕が呆然としていたことに気付いたのか彼女が不安そうな声をあげる。

知らず知らずのうちに固まっていたようだ。

 

ただ、嬉しくて。

本当に嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。

うまく言葉じゃいい表せない。

こんな感情知らなかったから。

 

 

「全然、駄目なんかじゃない・・・。

 ごめん、ただ、嬉しかったから・・・・・」

 

知らないうちにまた涙が流れてしまう。

あったかい。

幸せすぎて、なんだかもうすぐ僕は死んでしまうんじゃないかって思った。

 

 

 

 

「もう、あなたは泣き虫ですね、"ヒガン"」

 

 

 

彼女が嬉しそうに笑う。

それもまた嬉しかった。

 

 

「そうだね、僕は"ヨシノ"の前じゃ泣き虫だ・・・」

 

こんな僕でも彼女を、ヨシノを笑わせられて。

 

あぁ、ヨシノといると感情が揺さぶられる。

それでもこの世で唯一の安息の場所に思えた。

 

 

泣きじゃくりながら彼女を見る。

 

 

どこにでもある普通の町の森の奥。

あたり一面木々で真っ暗で、森を進んだ先に見えたのは、別に大したことのない普通の場所。

 

夢で見たような血はなく、幻想的な風景は一切なく、いるのは男と女一人ずつ。

 

遠くからの信号。

丸く、日本では兎が餅つきをしているという伝承があるこの星の衛星。

 

彼から発される光によって彼女の顔をもう一度認識する。

 

二人見つめあい、視線が動かない。

照れくさかったが、やはりというように口が自然に動く。

 

視線は彼女以外を捉えずーーー

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーあぁ、今夜はこんなにも月が綺麗だ

 

 

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