型月設定のお伽噺   作:linda

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起、その二

ーー1度目はまだぼやけているのかと思った。

そういう知識はあったからそうなんだと思った。

 

 

ーー2度目は嘘だと思った。

知識に間違いがあるはずない。

自分がいる空間が黒いんだと。

 

 

ーー3度目にはすでに意味はなく、彼は素直に認めた。

自分は一生このままだと。

なにも色に変化はおこることはないと。

自分が求めたものは一生手に入らないと。

 

 

 

 

絶望しかけたそのとき、視界に変化が起こる。

凝らさなければわからないような微妙な変化。

だが、一度認識すれば彼にはそれが当たり前になった。

 

 

微かだが「黒色」に濃淡がある。

それも1か所ではなく視界全体にある。

下を向いて自分の体を見る。

それはものの形の輪郭を表していた。

 

 

人としてあるべきの皮膚の薄橙。

やや赤みがある手の色。

 

そんなものは存在しなかったが、自分の体が認識できたことで彼は大いに喜んだ。

 

 

”よかった。

僕の体には色がないが、形はあった。”

 

 

声帯から音が出る。

笑い声が響き渡る。

液体に触れていると感じられる。

頭を刺激するような臭いがする。

 

 

”ああ、僕は生きているーー”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間

ーーーーーキンッッ!

 

 

「ガ、ぁッッ!?」

 

 

痛い。

頭が痛い。

これが痛いということなのか分からないが、知識から痛いと彼は肯定する。

こらえようがない痛み、、痛い、痛い、痛い。

頭というより、存在そのものが痛みを訴える。

脳みそをすりつぶされていくような。

 

その場に立っていられずうずくまる。

体がどこかにあたった。

痛い。

でもそんなものに構っていられない。

 

眼をきつく閉じて床に爪を立てる。

ホルマリンですべって何度も指がから回る。

耐える。

耐える。

ただひたすらに。

 

 

「あ、、ぐぅっっ、ああああ!?」

 

 

限界なんてとうに超えていて、閉じた瞳から涙がこぼれる。

 

痛い。

痛い。

痛いよ、どうして?

僕が喜んだから?

生きているって感じたから?

 

助けて、だれかーーーー

 

 

 

「   

     ーーー

            」

 

 

ふと、頭上から声がかかる。

痛みで声が聞こえない。

だが、何かを言われた。

力を振り絞って応答する。

 

 

「あぁっ!?」

 

 

次は耳元でささやいてくる。

 

 

 

「痛いか、と言っている」

 

 

 

聞こえた。

今度は聞こえた。

 

夢中で頷く。

何度も。

頷きすぎで擦れて頬が痛いが構わない。

この痛みから助けてくれるなら、何でもいい。

すがれるものになら、今なら何でもすがれる気がした。

 

 

「そうか、痛いか。やはり人格を作ったのには無理があったか・・・。

  だが想定通りだ。修正などせんよ。いいか、その眼を人前では絶対に開くな?

    いいか、忘れるな。お前がするべきことは一つ。

         決して、決して、忘れるな。

             私が求める最高の存在になれ」

 

 

そう言って「誰か」は頭に触れる。

 

 

「ぐっっ!」

 

 

新たな痛みが生じる。

頭に直接、何かを流し込まれた。

データのようなもの。

情報。

何かを戒めるような感じがした。

 

痛い。

でも大丈夫だ。

このくらいなら耐えられる。

 

 

「眼を開けろ」

 

 

わけが分からないまま眼を開ける。

何でもいいから早くこの痛みから解放されたかった。

 

人の輪郭が見える。

「誰か」をもっとつかもうと眼を凝らす。

すると、いままで見ていた黒色が、黒い線や点が集まっているように見えた。

頭の知識で、アニメなどで出てくるデータの集合体のようだと思った。

 

 

「そうだ、それでいい。

     そこで私に見える点を衝け。

          そしてこの感覚を覚えておけ」

 

 

迷わず、手を突き出して点を衝く。

手で衝いても普通はおきないことが起きた。

 

 

ーーーずぷり

 

 

手が沈む。

肉を触っているという感覚ではない。

もっと別の、自分に似た何かのようなーーー

 

 

「よし、、それで、だい、いち、段階だ、」

 

 

明らかに先ほどとは違う、呻くような「誰か」の声がする。

 

視界に入っていた「誰か」の輪郭がぶれ始める。

しだいに色が薄くなる。

濃淡でしか判断できない自分の視界から「誰か」が消えていく。

 

 

 

「忘れるな、、その、かん、かくを・・。

       それ、が、モノを、殺す、、という、ことだ」

 

 

 

気づかぬうちに痛みがひいている。

 

 

そんなことも気づかずに彼は今の行為に何かを感じていた。

どこか、自分が求めるものと正反対のような。

それでも脳がそれを正しいと認識した。

自分というより何かの意志が尊重されたように感じた。

 

 

ーーー殺す

初めて彼が「死」を体験した瞬間だった。

 

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