型月設定のお伽噺   作:linda

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展、その八

ーーー夢を見ていた。

昨日会ったばかりの男の人と街に出かけ、一日を満喫する。

少しロマンチックに夜空を見上げながら、互いを見つめる。

 

一目ぼれだと思った。

こんなに心が焦ってるのは。

 

簪を渡された。

桜の簪。

嬉しくて少し涙が出た。

 

そうしたら急に、あの人が来た。

 

私と同じ顔の女の人。

声も、口調も。

 

気持ち悪いというより怖かった。

怖くて、挫けそうで、そんな時彼が護ってくれた。

 

明確な殺意を向けられ、大きな獣が大勢こちらにくる。

でも彼は強くて、耳元でそっと囁いてくれる。

 

大丈夫だから

 

一気に迷いは吹き飛んで、彼の背中を見つめていた。

 

 

何かの死に触れたのはあの人が初めてだった。

私に名前をくれた人。

私に居場所をくれた人。

私に生き方をくれた人。

 

どうしてあなたは死んでしまったのに、私は生きているの。

 

苦しいです。

死に触れ続ける彼を見るのも苦しい。

 

死ねない自分を感じるのも苦しい。

 

だから君に惹かれたの。

ヒガン。

 

 

 

 

彼が一瞬止まる。

左に何かいる。

 

ーーー私・・・?

 

違う、その人はーーー

 

 

「ヒガンっ!」

 

慌てて呟くが遅い。

女の人は笑い声をあげ、彼に囁く。

 

 

「ーーー、-----」

 

何を言っているのか分からない。

聞こえない。

 

彼女は告げると元の場所に戻り、こちらを見ている。

 

彼に何をしたの?

あなたはどうして私を狙うの?

 

怖い。

怖い、怖い怖い。

 

思考は束の間。

何かを叫んだ彼が取り出したのは、漆黒の刀身。

 

手を引かれ、気づいた時には宙を舞っていた。

 

 

瞬きをしていたら、私は既に彼に抱えられ、住宅街。

さらに駆ける。

家が、灯が、木が、川が、人が。

流れていく、時間が私たちだけ止まったように。

 

恐ろしいという感情は彼の首に埋めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー目が覚めた。

呆気なく冷めた夢に昨日のことは本当は違うのではないかと思ったが、手の重みで理解し赤面した。

 

窓からは光が差し込む。

紛れもないこの惑星において朝と呼べるものであった。

 

全てを悟った時にはもう遅く、私はこの人と一夜を共にしたのだと気づいた。

昨日の自分は大胆だったのではないかと、落ち込む。

 

傍らの想い人は静かに寝ている。

 

気づかないかな、と思いつつ重ねた手に空いた手をのせる。

とても幸せな気持ちになってしまい、にやついた頬を感じて、気持ち悪いと思ってしまう。

 

誤魔化すために頭を左右に振って、彼を起こすことにする。

 

 

「ヒガン、起きてください」

 

空いた手で肩を揺する。

普通はこの後はあと十分とか、漫画じゃよくあるが簡単に彼は目を覚ました。

 

「・・・・あぁ、おはようヨシノ」

 

瞼を少しだけこすりながら彼は微笑みを向ける。

その仕草に胸が締め付けられる。

 

手をつないだまま話しかける。

温かさに真っ赤になる顔をそむけながら。

 

「そ、それで、本日はどうするんです?」

 

赤くなりすぎていないかどきどきしながら、彼の顔色を窺う。

少しだけ思考を行った彼は、こう言った。

 

「とりあえず、あの女から逃げなければいけない。

 昼は街中で人ごみに紛れよう。

 夜はいくつかホテルを梯子にすれば居場所はつかまれないだろう」

 

「固まるのは危険だ」

 

 

え、それって・・・。

つまり日中はデートで、夜はーーー

 

ぼっ、と音がした。

どこから、と思ったが私の顔からだった。

 

「な、な、ななななななな、」

 

え、どういうこと?

なんで、ずっと一緒ってこと?

夜も一緒ってことは、あんなことやこんなことが・・・

 

 

「大丈夫だ、俺が必ず君を守る」

 

私の顔を見たのか、彼がそんなことを言ってくる。

落ち着けるように、微笑みをつけて。

 

 

「そういうことではーーー」

 

言おうとして口をつぐんだ。

どうせ貴方は分かってくれないでしょう。

 

だから、別の言葉にしておく。

はぁ、とため息をつくのも忘れずに。

 

 

「・・・分かりました、これからよろしくお願いします」

 

不服そうに口をとがらせる私を、彼は少し見ていたがやがて満面の笑みを浮かべる。

居場所を貰えた子供のように嬉しそうだった。

 

「うん、よろしく」

 

 

 

 

 

少しだけ意地悪しようと思って、再び手を重ねる。

今度は照れたりしない。

 

彼が不思議そうに首を傾げる。

だから私は満面の笑顔で言うのだ。

 

戒めるように。

彼をどこにも行かせたくなかったから。

 

本当はどう思っていたのか分からない。

でもその時の私はこんな冗談で彼を傷つけてしまったことに気付いていなかった。

 

狡くて、汚い私。

そんなことには気づかずに私はこの幸せを噛みしめていた。

 

絶望的な状況と、いつか来る終わりを見ないふりしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を殺した責任、ちゃんととってもらいます」

 

 

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