満身創痍・・・。
その言葉にどんな意味を持っていたのかは分からない。
俺には彼女の気持ちなんて理解できなかった。
だってそうだろ?
加害者に被害者の気持ちなんて分かるわけがない。
分からないからこそ罪に手を出す。
彼女を想っている俺だったが、もうどうしようもないくらい差があった。
故に俺は自分を殺そうと思った。
どうしたって俺たちには溝があるのだからーーー
二人で街を歩く。
年頃の男女でいえばデートと呼ぶのだが、何も感じない。
感じてはいけないと思った。
街中には多くの店が並んでおり、三軒目は昨日入ったななどという思考を無理矢理殺した。
彼女が嬉しそうに笑う。
何も感じない。
服装が昨日のままだと気づき、服屋に入ることにする。
幸い金は多く持っており、一年くらいは困らない金額だ。
お洒落にふるまってるつもりなのか、海外ブランドがあるのかよく分からない店に入る。
彼女の着物姿に店員は一瞬見とれていたが、ホテルの受付のようにすぐに業務に戻った。
センスのかけらも無い内装に辟易としつつ早々に彼女用の服を買ってもらう。
顔を俯かせながら彼女はぼそりと呟く。
毎度のことのように羞恥の赤に顔を染めながら。
「ヒガンが、その、選んでいただけませんか?」
どういう魂胆なのだろうと考え込む。
そして、考えることがくだらないと思い素直に承諾する。
俺は彼女を護る道具でいい。
余計な思考なんて必要ない。
一通り店内を見て回り、彼女に見合うものを探した。
あまり目立たないように地味目なものを。
それでも、表面上は真摯に選ぶふりをした。
少しだけ可愛さを求めたレースの白のインナー。
全体的に花が装飾されており、薄いレースの模様は触れば壊れてしまいそうな彼女のようだった。
白みが強い灰色のチュニックで割と地味目にすることを忘れない。
配色を合わせるため暗めのスカートを選んで出来上がり。
靴などは彼女に選んでもらうことにして、試着室に押し込む。
出てきた彼女の印象はまるで人形だった。
着物とはまた違った彼女。
触れば壊れそうだった彼女が、触れば消えていきそうに感じれた。
俺に触れられるのを拒むかのように。
知らぬ間に表面上に出ていた感情を再び押し込めて、会計へと向かう。
何も感じる必要はない。
着物は彼女の自宅に送ってもらうことにして住所を記入させる。
興味もなく、先に店を出て待った。
出てきた彼女はご満足されたらしく、笑顔で話しかけてくる。
可愛いとか、そんな感情感じる権利はない故に、心がずきりとした。
「次はヒガン、ですね?」
鼻息を少しだけ荒くして、彼女が得意げに言う。
もしかしなくても選ぶつもりなのだろう。
黙って微笑み首を縦に振った。
この心に芽生える黒い感情は何なのだろう。
街中を一人で駆け抜ける彼女。
無理をしているような彼女の表情が痛々しい。
俺に気を使っているのだろうか。
そんな彼女を見るのも、彼女をそうさせている事実も苦痛だった。
どうすればいいのだろうか。
ここで笑顔を向けたって彼女は喜ばない。
苦痛に歪めば嬉々とするのか。
知らず知らず、精神が摩耗していく。
たった数時間の逢瀬が地獄に感じる。
あと何日こうすれば、と思った。
彼女の表情が刻一刻と歪んでいった。
ただただ、気が気でない状態で、時の経過を祈った。
二日目に入った時にはすでに二人に会話はなく、一日中映画を見て時間を潰した。
連日の見張りと、彼女との付き合いは堪えようがないほど苦しかった。
四日目の夕方、彼女がふと呟いた。
すでに映画を見尽くして、帰ろうかとしていた時だった。
気を使っているのがばればれなほど彼女の顔は苦しそうだった。
無理に作った笑顔が気持ち悪い。
ーーーやめろ、話しかけるな
悩ましげに服を握るその手が気持ち悪い。
ーーー君はどれだけ俺を苦しめる
ひくついているその口元が気持ち悪い。
ーーー感情はとうに消したはずなのに
無理にでもそうやって気を使う考えが気持ち悪い。
ーーー流れてくるこの気持ちはなんだ
「あの女の人をどうにかしても、また一緒に遊んでくれますか?」
もう我慢の限界だった。
足は拒んでも止まらなかった。
どんな顔をしていたのかは分からない。
ただ顔を背けた瞬間、頬を伝う水滴があったのは分かった。
走って、走って、走り続ける。
何から逃げたかったのかも分からないまま。
俺よりも彼女を思ったが、体は許さなかった。
逃げて、逃げ続ければ、罪から逃れられると思った。
そうして、あの女に出会った。
艶めかしく笑ったあいつは俺のことを"先生"と呼んだ。
ーーー覚えのない呼び名を何故か、懐かしく思えた