型月設定のお伽噺   作:linda

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こんにちわ


展、その十

「あ・・・」

 

彼が去っていく。

 

何も言えなかった。

だって、何がいけなかったのかが分からなかった。

何か悪いとしたら私の全てだから。

どんな言葉を投げかけても、どんな笑顔を向けても日に日に彼の表情は死んでいった。

 

 

「・・・っ・・・っっ!」

 

嗚咽が漏れる。

顔を両手で包み、街中でしゃがみ込む。

 

隙間からは涙が出てきて、こんな時に泣くことしかできないのかと笑いが出てくる。

 

彼に選んでもらった服がとても重い。

 

彼の好意が重い。

 

彼の笑顔が重い。

 

彼の声が重い。

 

どうしようもなく作られたものだと分かっているから。

あなたが感情(それ)を殺した理由が分からないから。

 

想いが喉に引っかかって窒息しそうになる。

 

私が他に悩むべきことがあるのに。

 

 

「ーーー、-----」

 

後ろから声がかかる。

肩に手を置かれる。

 

慌てて顔を上げる。

 

ヒガンかと思ってしまうそんな自分がどうしようもなく醜い。

 

茶髪の男。

耳にピアスをつけており、あきらかにちゃらちゃらしている。

周囲に男が2人ほどいて、にやつきながらこちらを見ている。

 

ヒガンではなかったことにも少なからず安心している自分が恐ろしい。

 

声が耳から抜けていく。

なにを言っているのかさっぱり分からない。

聞こえない、聞きたくない。

あの人以外の色なんて私に着けないで。

 

触れられた肩が、痛い。

焼けて爛れたようだ。

肩から全身へと広がる。

 

 

「っ、やめてください!」

 

明らかな拒絶の意志を持って腕を払う。

払った腕も痛い、声を上げてしまうほどに。

 

しかし、彼らには好評だったようでさらに笑みを強くする。

全員で私を囲もうとする。

 

思考している暇はなかった。

一人を突き倒して立ち上がり、走る。

 

 

「ーーー、----!!!」

 

怒声が聞こえる。

きっと追いかけてくるのだろう、それでも後ろを気にしている暇はなかった。

 

私には戦闘能力が皆無だったので、捕まったら終わりだ。

 

走る、ただそれだけしかできなかった。

鼓動はすでに限界を超えていて、足なんて今にも折れてしまいそうで。

 

ただただ、ヒガンを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街中を抜けて、森に入る。

そこしか逃げるところが浮かばなかった。

 

それでも彼はいるのだと、居てくれるのだと。

ここまで来て、彼を思う自分は滑稽だな、と思えた。

 

 

木が晴れる。

そこには誰もいない。

どうしようもなく一人だった。

 

怒声は止まない。

きっと彼らは私が力尽きるまで追ってくるのだろう。

 

もう、いいか。

そう思って、倒れこむ。

 

どうせもう逃げられない。

ヒガンはきっと来ない。

 

 

彼らが下卑た声をあげる。

とりあえず、右頬を殴られた。

何も感じなかった。

 

後ろから手を掴まれた。

もう一人は傍観している。

馬乗りされて、服を掴まれる。

 

 

「あっ!」

 

服が破ける。

ヒガンが買ってくれた大事な。

 

肌が露出する。

 

ごめんなさい、ヒガン

 

私は傷物になってしまうけれど、あなたを本気で想っています。

 

もう会えないかもしれないけれど。

 

覚悟を決める。

これはどうしようもないことだ。

抵抗のしようがない。

 

これは私が犯した罪だ。

 

それでも、あなたを----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え・・・?」

 

首が飛ぶ。

さっきまで私に触れていた男が。

 

左から見下ろしていた長い髪の男が。

 

私の手を押さえていた男が。

 

頭がずれていく。

ずしゃり、と音を立てて血が噴き出す。

顔にかかって、服に染みついて、地面にとんで綺麗な花を作る。

 

目前には私の顔。

 

 

 

 

 

「あ、え、、が」

 

染みついた血が喉にもこびりついたように声が出せない。

空気だけが通り抜ける。

 

そんな私を見下ろして"私"は愉快気に声を出す。

"私"の足元からは影が広がり、彼らを咀嚼していた。

 

 

「気分はどうです、化け物」

 

視界に血がこびりついている。

だから、目前の私がよく見えないで済む。

 

何でもないかのように、今目の前で命が散った。

それでも彼女の目はまるで彼のように蒼く、私を糾弾した。

 

ーーー彼を騙した罪は

 

ーーー彼を傷つけた罪は

 

ーーー彼を戒めた罪は

 

必ずお前を裁く。

 

視界の赤みが広がる。

見えなくなる。

何もかも、消えてなくなる。

 

それでも許さないように"私"は続ける。

 

 

 

「人の心を踏みにじった感想はどう、99体目(売女)

 

分かっている、そんなことは。

どうしようもないくらい。

 

隠し通せるとは思っていなかった。

それでもいつか、いつか伝えようと思っていた。

 

彼の好意に甘えて私は人の殻をかぶった。

 

ーーー私が好きになった人は、私を殺しに来た人でした

 

 

「人の顔で、あの人を、彼を謀ったッ!!」

 

私が醜いことは知っていた。

生き汚く、一生死ねない。

 

「今まで、隠して彼の隣にいた気持ちはどうだったッッ!?」

 

それでも、神様、これはあんまりではないですか。

私には恋する権利もないのですか。

 

「人にでもなったつもりだったのかッ!」

 

狂ったような彼女はそれでも人で。

顔は、声は一緒のはずなのに、私の色はどうしようもなく醜かった。

 

 

「お前に、誰かを、愛する権利なんて無いッッッ!」

 

 

どうしようもない現実に私は何も言えなかった。

これ以上醜くなりたくなかった。

 

 

 

 

「チャンスをやる」

 

怒り冷めやらぬまま、彼女は何かを思いついたように言葉を紡ぐ。

嫌なニュースを見たかのように不機嫌だ。

私にはそれが処刑台のようだった。

 

「今日、日付が変わったら、ここに来い。

 一人でだ、そうしたら彼は助けてやる」

 

「今の私はお前に手は出せない。

 だから、明日、必ずここに。

 そうしたら、殺してやるよ」

 

もう初めの口調ではなく別人のようだった。

執念にまみれた眼には、生を感じた。

 

私は何も言えず、そうして彼女は去っていった。

 

 

広がる緑だったはずの場所は、一面に赤色の命の塊。

中心には人になれなかった化け物。

 

 

ホムンクルスは"死"を思って

 

 

 

 

「う、ぅ、あ・・・・」

 

小さな嗚咽を上げた。




ばらしちゃいました。
大体の方は予想できていたと思いますが^^;
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