20--、4月18日
もう何度目の彼女の誕生日だろうか。
毎年のように送るプレゼントの選別にも疲れ、手紙でおめでとうとだけ書いた。
体はとうに自由を聞かず、作品に命じて研究を行っている。
頭が最近ぼやけ始める。
何かを忘れているようだ。
別に大事なことではなさそうなので放っておく。
しかし、日記にはそこそこ記しておこうと思う。
今日、彼女が出来上がった。
彼女は私の最高傑作だろう。
初めての起源操作によって出来た作品だ。
彼女の起源は「生」にした。
ベースには"紫蘭"を用いた。
彼女の顔に、声、全てが彼女を彷彿とさせる。
しかし、老いぼれの傍に置いておいても仕様がなかったので、そうそうに妖怪のもとに向かわせた。
名を与えては情が移りそうだったので、私は彼女に話しかけさえしなかった。
紫蘭の面影がある彼女は、わが子のようだったが苦汁を飲んだ。
子と思うからこそ、自由にさせたかった。
20--、5月27日
音信不通になった97体目を捜索させたところ、彼女と定住しているらしい。
まぁいい、所詮老い先短い命だ、好きにさせてやろう。
遠い彼の地で見た少女は着物を着ていた。
私の好みではあるが、似たようなものを彼女にも送ってやろうか。
気に入ってくれればよいのだが。
20--、7月19日
彼女は元気にしているらしい。
与えた着物は、大事な時に使わせる、と来た。
そうか、という文を送った。
20--、8月26日
そういえば彼はあと数週の命だろう、と思って文を送ったのだが、これでいいと帰ってきた。
それならいいのだが、彼が死んでしまえば彼女を見守るものがいない。
不安だ。
20--、10月11日
彼が死んだらしい。
音信不通になっていたから、訪ねさせると一月前だったらしい。
彼女がとても悲しそうだったという。
この老いぼれの体をここまで疎ましく思ったことはない。
しかし、私にできることは無くなった。
橋渡し役がいなくなった今、怖がらせるだけだろう。
彼女の無事を祈った。
20--、1月7日
ふと思うことがあった。
彼女の不死性についてだ。
死ねないということは、この先一生彼女は誰かの死に触れなければいけないということだ。
誰かが死んでも、彼女は死ぬことができない。
いつまでも。
なんとかしなければと思った。
子供の死を望む親がここにいた。
20--、2月1日
駄目だ。
どう探しても答えが見つからない。
どうにかして彼女の不死性だけを取り除く術を探すが、殺し方しか見つからなかった。
いや、きっとあるはずだ。
私はあきらめない。
なんだか最近は頭が痛い。
日記を読まなければ思い出せない。
もうすぐ私の時間は無くなるのか。
20--、10月15日
100体目の製作に取り掛かる。
前段階として全ての戦闘系ホムンクルスを逃がした。
100体目は起源を「死」にする予定だが、如何せん器に入っていたら、完全な不死の彼女を殺すことは出来ない。
器を取り除けば彼女に触れることができない。
精霊学を学んでいたら、霊体であっても何かをすることができたであろうが、専門が違うため端から考えていない。
わが故郷の地の、両儀の家の一人娘は「直視の魔眼」を発現させているらしい。
それに倣ってこいつには魔眼を通して彼女の点を見てもらう。
故に、多くの死に触れさせる必要があり、それも純度の高い。
虐殺ではだめだ。
死闘でないと、本物の死を理解することは出来ない。
故に彼らにはこいつの生贄になってもらう。
全てが私の作品であったが、彼女には何も譲れなかった。
もうすぐこの頭痛からも解放される。
20--、12月25日
今日はクリスマスだったな。
去年は"紫蘭"と、いや一昨年だったか。
よく分からない。
あいつの作成ばかりしていて頭が痛くなる。
そういえば家の作品がほとんどいなくなっていたのだがどうしたのだろうか。
かえって好都合だったので良かったが。
最近、"紫蘭"に手紙が出せていない。
心配しているだろう。
だがこれを完成させられたらだせるだろう。
いつものことだ、我慢しなさい。
20--、4月17日
完成した。
厳密には、あと1日の調整があるが。
未だ眼は付けていない。
恐らく眼をつければこいつは暴走するだろう。
不純物を混ぜないよう、私で栓をする。
明日、私は死ぬだろう。
半年以上ため込んだ"紫蘭"への手紙も出せずじまいだ。
介護に充てていた作品は彼の一部にした。
容量が足りていなかったから。
故に最後の一押しを私がしなければならない。
私の死をもって、こいつを戒める。
遺書のようになっているな。
遺書であることに変わりはないのだが。
あぁ、"紫蘭"。
最後に君に会えなかったことが心残りだ。
いつか来るだろうと思っていたが、おそらく止められたろうからよかったのかもしれない。
だが、おそらくいつかはここに来るだろう。
私の亡骸を見て君は絶望するだろう。
君をそんな気持ちにさせると想像するだけで私の鼓動は止まりそうだ。
それでもやめはしない。
これはけじめでもあるから。
私が身勝手に作り出した彼女はきっと苦しんでいるだろう。
だから、私が終わらせなければいけない。
君の顔をした彼女を放ってはおけなかった。
だから、"紫蘭"、どうかお願いだ。
きっと君はこの日記を読むだろう。
だから、もし君が私を変わらず思ってくれていたら、そのときは彼の手助けをしてやってほしい。
彼が途中で挫けても必ず彼女を殺すように。
私たちの子供を殺してくれるように。
それだけが私の願いだ。
信じている。
ーーー最後に、「君に変わらぬ愛を、"紫蘭"」