この作品はいつか書き直そうと思ってます。
それまでどうかおつきあいください。
―――頭が痛い。
どうしようもなく、どこまでも広がっていく。
何かが混ざっていく感覚。
それが何か分かっていて俺は受け入れた。
彼女を求めて、足を進める。
どこにいたって見つけられると、身体なのか心なのかが訴える。
彼女をもう一度見て、触れて自分が何者なのかが分かる。
彼女が誰なのかが分かる。
そして見つけた彼女はどこか安ら下だった。
「あぁ、ヒガン、おかえりなさい」
空の瞳に血の海。
生きていた死体に瀕死の肉体。
散らばる首に美しい顔。
狂ったともいえる空間で彼女は笑っていた。
死んでいる表情を隠そうとしているその様は、さらに狂気さを感じさせる。
ただ、無言で抱きしめても、そっと返すだけ。
それに涙が出そうになって、一度だけ止められなかった。
「ごめんね」
細く口から出たそれは彼女には届かなかったようだ。
ーーー君は知っていたんだね
まんまと誰かに踊らされていて、初めからこの出会いは仕組まれていた。
彼女への想いも、彼女の想いも全て誰かのせい。
誰かがそうなるように操った。
あの女も踊らされた。
全て、俺たちは図られた。
そしてその元凶が、俺に混ざりかけている意識が告げる。
彼女を殺せ、と。
戒めを超えて、俺はそのためだけに生きてきたのだと思い知る。
どうしようもなく抗えなくなる感情に身体を切り刻まれる。
痛いし、苦しい。
痛みは苦しい。
何故自分が此処に居るのか分からなくさせる。
抗うことで発生する痛み。
このまま進んで行けたらどれだけ楽だろう。
彼女の笑顔を奪い、この想いを告げず、己に嘘をつくのはどれだけ楽だろうか。
この数日のうちに、数えきれないほど行った自問自答。
まっさらな地面に少しずつ積み上げていった考えは、重なる度に脆くなっていった。
砂を重ね、石を埋め込み、泥を固めて、水を注いだ。
それでも嫌だと何かが告げた。
三十分前の自分がいたし、昨日の自分もいた。
知らない誰かもいたし、知ってる誰かもいた。
見えてきたものからは目をそらし、見えないものを信じる。
これが、過去の自分に誇れるだろうか。
人でなくても、少しでも人のように。
彼らに成れなくても、彼ら以上に彼らに憧れた。
君と一緒に人になりたい。
それだけが今の俺の全てだ。
戻ったホテルのベッドの上に彼女を無理矢理寝かせ、大丈夫だと告げた。
傍に居てと縋る彼女を、なだめて後ろ手でドアを閉じた。
ゆっくりと歩幅を刻む。
在る居た感触を忘れるな。
自分が分からなくなっても、自分が
彼女と歩いた道を胸に刻んだ。
街の郊外から歩いて一時間ほどで、街に着く。
奴が何処に居るか分からないが、勘が告げた場所に向かう。
きっとあいつは今も公園に居るはずだ。
住宅街から少し離れたところに小さな図書館があった。
知りたかったことがあったので無理矢理進路を変えた。
勝手に動くガラスを見ながら入ると、閉館時刻らしく、初老の女性以外に人はいなかった。
入ってきた俺をみると、美しく微笑み歓迎してくれた。
会釈しながら植物の棚を探す。
二つ目くらいの棚に、分厚く重そうなものが一冊。
手に取り眺める。
インクの匂いが美しい。
一枚、二枚とめくって目当ての物を探すには時間がかかると思い索引を開く。
サ行から指定ページに飛ぶと美しい紫色が目に入った。
何故だか知らず零れてきた涙に一瞬驚きながら、再び眺める。
目ぼしのものが見つかり安堵し、少しページをめくって棚に戻した。
棚は歴史を感じさせ、自分の小ささを感じさせた。
女性に感謝を告げ、そこを出る。
歩き始めた途中で、自分の名前を忘れたが脇の桜でなんとか思い出せた。
失った目的も、響く金槌のような音の原因も。
心残りは無い。
このまま死んでしまっても未練は少ししかない。
生きていると実感できるうちに。
―――さぁ、いこう。
自分自身に決着をつけに。