型月設定のお伽噺   作:linda

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展、その十三

喉が鳴った。

乾いて、乾いて、焼ける様だ。

 

誰かを殺し(愛し)たい。

彼女が駄目でも他の人間で補ってしまいたい。

 

―――目の前にいるコイツでいい。

コイツが良い。

憎い、彼女をあんな風にした、―――あれ、誰がしたんだったか。

 

俺ではなかったか、そもそも彼女とは―――、あぁあの子か。

やっぱりこいつのせいか。

 

あああああああ、狂いたいくらい頭が痛い痛い痛い痛い。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

目前の女の細腕を引き千切りたい。

手の関節の一つ一つを、苦痛にゆがむその顔を感じながら切り落としたい。

皮を削ぎ、爪を剥がし、血を垂らせ。

裂ける肉を進み、骨を砕き、その感触をナイフに俺自身に刻みたい。

 

渇いたのどに全身から溢れ出る血でこの喉を潤したい。

泣き叫ぶ女に跨り、その身体を抑え乳房を咥え、顔を羞恥に染めさせたい。

己にも許された生殖機能を使って性欲を晴らしたい。

 

美しい、美しい、美しい。

噛みたい、挿したい、刺したい、射したい、飲みたい、忘れたい。

 

ここまで我慢したんだ、もういいだろう。

コイツを殺すためにここまで苦しんだ。

 

殺したい(愛してる)、君をどうしようもなく解体したい(抱き締めたい)

君にもう一度触れられるその日を―――

 

 

 

 

「どうしたんですか、そんなに興奮なさって」

そう言われて我に返って女を見た。

 

「やはり待っていて正解でしたね、会いたかったわ先生」

時刻は12時を回った頃。

錆びついた時計が無音のままにベンチの傍で立っている。

 

感情の無い、さっきのヨシノのような目。

死んだというより、死に近付いている。

どうして生きているのか分からない魂をしている。

 

女を初めて理解して(見て)そういうような儚さを感じた。

そういったところに少しだけ同情してしまった。

 

「少し、話をしましょう先生」

だから、彼女のそんな頼みに無意識のうちに頷いていた。

 

 

 

 

 

返事は期待しないというように彼女は喋り出した。

 

「貴方を初めて見た時、思わず恋をしてしまった。だって貴方はどうしようもなく先生に似ていたから。先生を殺したのは貴方だと知って、私は地獄を見てきた。貴方を殺すために、世界を呪い、自分を殺してきた。先生の計画を知って貴方への復讐心を抑え、ただただ彼女の殺害を手助けできるよう己を磨いた」

 

「私の魔術はね、触れた対象の魂に干渉して一つだけ、その魂が持っている能力・・感情・記憶、そういったものを抜き取ることが出来るの。抜き取った力は不完全ながらも私自身が使うことが出来る」

 

そう言うと、彼女は眼球を蒼色に染める。

ベンチに座っていた彼女は、金属で作成されたてすりをなんの魔術の発動も無く殺した。

少しだけ顔を苦痛に歪めた彼女は、そのまま続きを語り出す。

 

「貴方の目は特別性らしくてね、理論上私の能力じゃ理解出来るはずない直死の死という情報すらも、この程度の代償で済んでいる。通常の魔眼だと人間しか殺せないと思っていたのに予想外だわ。容量が大きすぎてパンクしてしまいそうよ」

 

笑う彼女は消えてしまいそうだった。

使った眼からは赤い命の灯が流れ出している。

 

意味を失くそうとしている眼を元の色に切り替える。

 

「私はその魂の所有者を殺すことで、自分の魂と同化させ力を奪い取るの。初めてこれを使った時は地獄だったわ。地獄としか言い表せないくらいの苦痛。一瞬のうちに3桁は死んだ方がましだと考えたわ。大きい一瞬の苦痛の後も絶えず痛みは続いている。それが一つ、また一つと増える度私は自分を放棄したわ。そうして先生を思い出して殺意を繰り返して、私はまた私に戻る」

 

「初めは小さな魔術師を、そうして自分の魔術師としての容量を高めていって少しずつ上の奴らから力を奪っていった。過程において協会や教会から討伐体が来たけど、魔術って便利ね、膨大にある手数から切っていけば負けることなんて、見つかることなんてなかったわ。少しずつ己を高めながら時を待った。高位の魔術師を殺し、魔獣・幻獣を殺し、死徒を殺し、4桁ほどの生命を殺して日本に飛んだ」

 

立ち上がり、慈しむように俺を見てくる。

魅了されそうだったその視線は、今は十代の少女のようだった。

 

今なら分かる、君は、(こいつ)に恋をしていた。

きっとそれを壊したのは俺たちで、許されないのは俺たち。

 

「そして、あなたを初めて見た」

 

重ねて、残滓に縋って、残った理性で夢を見た。

 

もういい、何も言わなくて。

 

必死で俺の望みを果たそうとしたんだろう。

死んだ心に火を灯して認めたくない現実を受け入れて、彼女はここに居る。

 

自分を敵役にして、本分を見失った俺に気付かせた。

 

彼女は放っておいても恐らくあと数時間で死んでしまうだろう。

それでも彼女は私が殺さなくてはならない。

 

立ち上がりナイフを抜いたところで彼女は微笑み、告げてくる。

 

 

 

 

「すみません、私はここにいないんです」

え、と音を吐く前に彼女の身体は透けていく。

乾いていた肌には数瞬のうちに冷や汗が垂れている。

 

「ヨシノさん、と一緒にいます。

話している間は手を出さないようにしていたので安心して下さい」

どうして考えなかった。

手の内を知らない状態で、彼女が何をしてくるのか考えなかった。

 

「早く行ってあげてください。本来の私はとうに狂っているでしょう。きっと私が消えたらすぐに彼女を殺してしまう」

 

「ごめんなさい」

その罪の意識に溢れた表情のせいで、糾弾することも出来なくなった。

 

彼ならどうしただろうか。

残った残滓は応えてはくれない。

彼女と彼女、二人を殺してくれと懇願するのみ。

 

「聞いてくれてありがとうございました先生、・・・いやヒガン」

 

消えた彼女を数秒見つめて、我に帰った。

 

行かなくては、君を殺しに。

何度も何度も、溶けて消える。

 

もう走るだけの余力が無い。

それでもこの衝動を許すな。

 

自分を見失わずに、必ず殺してみせる。

 

急げ。急げ。

早く、早く、早く。

 

君を求めて、どこまでも()は歩き続けよう。

 

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