型月設定のお伽噺   作:linda

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展、その十五

世界が暗い。

今は線なんて見えてないのに靄がかかったように暗く灰色だ。

心地良いと感じてしまう自分と、危険な状態だと告げる自分。

 

とうに限界は超えている。

これから目指す場所には、二人が愛し(殺し)たい存在がそれぞれいる。

この痛みに飲まれてしまったら、どちらを優先するんだろうか。

 

身体は万全のはずなのに軋む音が耳障りだ。

自分が壊れていくという感覚に気が狂っていく。

 

あぁ、また名前を忘れた。

 

誰だったか、そうだヒガンだ。

俺はヒガン、いや100体目、江戸彼岸、死の起源。

どれがどれだか分からない。

今なら「あ」という文字でも、別の物に見えてしまいそうだ。

 

少しずつ、少しずつ確認して、自分を思い出して歩く。

 

俺はホムンクルス。

魔術師によってつくられた僕は、死の起源と殺害技術を与えられた。

使命は、99体目である、彼女を殺すこと。

 

まただ、彼女とは誰だったか。

顔も体も、音も匂いも、分からないのに、名前だけは何とか掴んだ。

 

シラン(ヨシノ)

初めて好きになった女性。

()に生きる意味を教えてくれた。

最愛、最上、至上。

 

しかし、顔が思い出せない。

最愛の顔を忘れるとはなんとも恰好がつかない。

 

面影だけなら何となくは分かる。

目の前で、絡み合ってる二人にそっくりだ、と思った所で思考は戻った。

 

 

 

 

なんとも拍子抜けな登場に、二人よりも自分が面食らった。

 

「やぁ、二人とも」

 

面食らって驚愕に包まれた顔は酷似していた。

死んだ目で告げた。

同じような瞳が6つ。

 

中身は同じ、見ているものは互いに違う。

互いに覚悟はしていた、だから始まりは一瞬だった。

 

「ヒガ――――」

 

踏み出す一歩に、ヨシノの音は掻き消された。

待っていろ、後で殺してやる。

 

それよりも今はシラン、君と愛し(殺し)合いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

想いのままに踏み出すことが出来る、今はそれだけが嬉しくてたまらない。

あぁ、頭が軽い。

 

名も、使命も、記憶も、分からなくなってしまった。

涎を垂らして地を這うように森へと彼女を引きずり込む。

 

ナイフ一本で捌く俺とは別に、彼女は持ち得る4桁の手数を使ってくる。

 

飛来する刀剣の類を、受け流しつつ入り込もうとすると、死角から不可視の攻撃が飛んでくる。

直感に頼り、跳躍して躱すと、前方から迫るは以前の獣達。

視界を埋め尽くすほどの生物の出現に喉が鳴る。

 

手短な三体を一振りで絶命させ着地をすると、圧倒的な質量で飲みこんでくる。

絶えず続く刀剣の射出。

器用に縫い躱しながら前に進む。

去り際に生き物の首を切り落としながら、降りかかる血に恍惚する。

 

足りない。

 

減っていく命は、補給を重ね地面を突き破って別の命が現れる。

流れるように溢れる木の牢獄。

辺りの木と、新たに作り上げたそれとで、更に質量が増す。

唸り尖る枝は、触れただけで呪う呪詛入り。

木の葉は周囲に漂い、幻覚、爆破、変化など様々。

 

獣、刀剣、不可視、木々。

隙間は無くなり、躱す位置は消え去った。

しかし、これでも殺人鬼。

物理現象によって負ける甘さは無い。

 

獣を解体したのち、皮を裂き周囲に投げ捨て、葉を視界から除外する。

溢れる彼らの血に強化を施し、一瞬の壁を作り迫る、枝と刀剣を防ぐ。

不可視は直感でどうにかなる。

 

この程度造作もない。

一息に抜け出す、二手、三手とその場しのぎに繰り出す防衛は足を止めることすらしてやらない。

地面を弾けさせ、突きだすは銀の刀身。

何者にも止められない、不可避の一撃。

 

 

 

彼女が常人であればそれは紛れもなく絶命の危機であっただろう。

しかし、彼女は己を捨てた魔術師。

当たり前のように策はある。

 

瞬きの瞬間、ナイフは金属音と共に受け流された。

身体が泳ぎ払われた足のせいで、半回転し地面に無防備に投げ出される。

 

理解する前に、転がりつつ起き上がり迫る、木々を躱す。

先ほどまでの猛攻が再び始まるが、瞬間感じた雰囲気から察する。

 

吸血鬼の身体能力。

速いというより疾い。

風のように駆ける。

先ほどの物量にシランの体術。

御しきれずまともに右の掌底をまともに受ける。

 

「  」

失った酸素を求める呼吸を無理矢理止め、腕ごと絡めとり投げようとするがさすが吸血鬼、気付かぬうちに宙を舞う。

 

空中で無理矢理姿勢を直し、どうにか受け身を取りつつ転がると、突然攻撃がやんだ。

死んだ表情のシランには精気が戻り、初対面の時のように高笑いを始める。

 

「どう、ですか、先生。こここ、これが私のせ、成果です」

余裕に満ちていながらも肉体は痙攣を始めており、顔の半分は麻痺している。

肉体は生きていながらも、溢れそうで継ぎ接ぎな魂の重さで潰れてしまいそうだ。

 

「わ、わ俺は、頑張り、ったんです、ほ、褒めてくだ、ろ」

大きすぎる魂は崩壊をはじめ、主人格の手綱を他が争い始める。

 

「もう、せんせ、お前なんて、簡単にころ、愛することが、できます」

 

「だから、もうい、もう一度、愛、地獄に、してるって言っ、て下さい」

彼女はもう、本来の面影はなく、悪魔のような声で私に告げてくる。

 

私は君を美しいままでいさせることが出来なかった。

君をここまで追い込んでしまったのは紛れもなく私だ。

 

悪魔は私、今でも君は女神に見えるよ。

だけど、俺には化け物に見える。

 

このまま私が君を殺さなければ君は化け物のまま死んでしまう。

醜い顔のまま遺体が残ってしまう。

 

殺したいよ。

君の全てを、ぶちまけた臓物すら抱いて眠りたい。

君の全てはもれなく私の物だ。

 

あげることが出来なかった私の全てを君に捧げよう。

さぁ、おやすみの時間だ。

 

 

 

 

 

「愛しているよ、シラン。世界で唯一の私の箱庭」

 

狂ったシランの背後に歩み寄り、流れるように首を切り落とした。

見えていたとしても絶対に避けることが出来ない一撃。

早いのではなく、流れる。

知っていてもそれが攻撃だと気付くことは恐らくないだろう。

 

呆れる程あっさりと落ちていくその首を見つめながら、最後の一言を口にした。

涙を流す彼女の顔に、そっと口付けをして開いた眼を閉じさせた。

 

瞬間消えていく彼を感じた。

残った残滓は霧のように霞んで虚空へと。

 

 

 

旅立つ二人に別れを告げ、己の問題に向き合おうとして、元の場所に踵を返したその時。

後ろに気配を感じた。

 

赤い涙を流す首を抱えて、首無しは笑っていた。

無言で首を戻すと、元通りのシランの出来上がりだった。

 

元に戻った首は、同調し、笑い初め、俺を結界で囲んだ。

指向する時間を与える間もなく、結界は収縮し、内側から爆発した。

 

吹き飛ぶ足に呪詛入りの枝が刺さり、磔にされる。

流れ込む毒は下半身を腐らせていった。

 

崩壊する下半身を無感動に見つめると、目前には溢れかえる刀剣の一つを構えたシラン。

ニタニタと彼女は嬉しそうに腕を振り上げる。

 

だから、俺自身も、身に降りかかる罪を受け入れようとした。

救いなんて端から信じていないと思っていた。

 

 

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