笑ってやってください。
ーーーぐちゃっ
音がした。
自分の内側から。
知ってるようで、知らない音。
体の奥底から聞こえたそれは、痛みとなって全体へと波紋する。
「あ」
駄目だ。
これは、まずい。
あのときの、痛みだ。
前と違い、じわじわと広がる。
それでも冷汗が止まらない。
眼の戒めが解け、自然と開く。
見える。
形が。
おびただしいほどの少女の線が。
「黒色」が。
手が自然と動こうとする。
目前の少女に向かって。
ーーー殺したい
「や、、めろ・・・」
衝動を抑え込む。
彼女を、人を殺したくない、そう彼は思った。
「誰か」のときとは違う。
これが自分の最後の砦だと思ったから。
しかし
ーーーミシッ
亀裂が入る音がする。
何なのかはわからない。
からだなのか、頭か、心か。
砦に入った亀裂は広がりだす。
止められない、衝動を。
それでこの痛みがやむって知ってしまったから。
黒く、黒く、自分が染められていく。
彼の視界のように。
自分が殺されていく。
あの子を殺すことしか考えられなくなる。
その衝動に身を任せられたならどんなに楽だろうか。
一人を殺すだけで痛みがやむのなら。
そうしろ、と声がする。
疲れたろ、と同情される。
苦しいだろうと、囁かれる。
これは誰の声?
僕?
「誰か」?
それとも、
許さないって?
自分だけまともぶるなって?
そうだね。
君たちの犠牲はきちんと償う。
僕が自分のために殺した。
絶対に忘れない。
ーーーーーだから、もう少しだけ僕に苦しませてくれ
「ッッッッ!!!!!」
痛みを堪え、衝動を堪え、彼女に向けた手の圧力に堪える。
痛い。
痛い、痛い、痛い。
脳が焼き切れる。
いや、脳じゃなくて魂が。
それでも歯を食いしばる。
足を出す。
どこか、人のいないところへ。
夢中で足を動かす。
商店街、住宅街を抜けて、森へと入っていく。
土地勘なんてないが、とにかく人がいないところを目指してひたすら走った。
「は、、あっ、、、ぐ」
痛い、辛い、止まってしまいそう。
足がもつれ転ぶ。
意識の何割かを持っていかれた。
それでも急がないと。
意識が飛んでしまう前にーーー。
林が晴れた。
体にあたっていた枝や葉っぱが無くなった。
どこか広いところに出たのだろう。
満足に地形を把握できないまま地面に倒れこむ。
痛い。
石か何かで切ったみたいだ。
血が流れる。
こんなにも、痛くて、苦しくて、消えてしまいそうなのに。
どうして、僕は嬉しいのだろうか。
「は、はは」
どうして僕は笑ってるんだろう。
泣きたいのに、これから僕は消えるのに。
全てを堪え、眼を開ける。
左手を使って目を拭う。
いつのまにか泣いていたようだ。
右手を上げて、眼で自分を見る。
変わらない。
あの時と。
人と変わらない、真黒だ。
最後まで僕に色は見えなかった、それでも僕の人生にも意味があったはずだ。
この眼も。
一度も見えなかった顔も。
体も。
そしてこの心にも。
誰かにそういってもらうことは出来なかったけど、それでも。
右手を振り下ろす。
未練しかないこの世界、また次の機会にでもーーーーー
「待って!!」
突然の声。
先ほどの少女だった。
「あ」
予想だにしていなかった出来事に僕の意識は吸い取られて、手綱を離してしまう。
せき止めていた衝動に飲み込まれ、一瞬にして自分が無くなっていった。
消える間際、僕が見たのは、バラバラになって別れる彼女の「線」だった
感想とかがほしい年頃|ω・`)チラ